ハチミツ色の日々

無月弟

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行ってらっしゃいご主人様

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 セミがミンミン鳴く夏が来て、しとしと雪が降る冬が過ぎて。ボクは変わらず、主人様と仲良く暮らしいてる。

 だけどご主人様、高校生になってから、悩むことが多くなった気がする。そういえば前に、大人になると悩みが増えるんだって、ご主人様言ってたっけ。
 人間って、大変なんだなあ。

 ボクじゃなにもできないけど、せめてそばにだけはいてあげたい。
 けど、いつまでも一緒にいられるわけじゃないってことも、ちゃんと知っている。

 ご主人様は高校を卒業したら、遠くの学校に通うんだって。そのためには、この家を出て行かなくちゃいけない。
 今までみたいに、ご主人様と暮らせなくなっちゃうんだ。

「ハチミツと一緒にいられるのも、後少しかあ……」

 寂しそうな目をしながら、背中を撫でてくるご主人様。
 ボクも会えなくなるのは寂しいけど、ご主人様が決めた事なんだから、行かないでなんてワガママは言わないぞ。
 その代わりご主人様が行っちゃうその日まで、いっぱいいっぱい遊ぼうね。


 それからご主人様は前にも増して、ボクと一緒にいてくれるようになった。きっと今のうちに、少しでも多く遊ぼうとしてくれたんだと思う。
 実はこの頃になると、ボクは少し歩いただけでも疲れるようになってて、前ほどお散歩も出来なくなっていたんだけど、それでもご主人様と一緒にいられる時間は楽しかった。

 いつもの公園に連れて行ってもらった時は、いつかの男の子がいて、一緒に遊んだよ。
 男の子は中学生になっていたけど、変わらずにボクを可愛がってくれる。

「ハチミツったらご機嫌だね。尻尾ふってる」

 ボクは男の子とご主人様、二人とたくさん遊んだよ。ご主人様がもうすぐ遠くに行っちゃうのは寂しいけど、今はとっても楽しいや。


 やがて春が来て、ご主人様が家から出て行く日がやって来た。

「行ってくるねハチミツ。良い子にしてるんだよ」

 そう言ったご主人様は、心なしか不安そう。今までとは違う場所で、しかも一人で暮らすらしいから、当り前だよね。
 だけどご主人様、元気を出して。

「くすぐったいよ。ガンバレって言いたいんだね。時々は帰ってくるから、その時はまた一緒に散歩に行こうね」

 うん。ご主人様が返ってきた時は、ボクいっぱい遊ぶ。

 そうしてご主人様は、住み慣れた家を出て行っちゃった。
 やっぱり会えなくなるのは寂しいけれど、ボクは笑顔で見送ったよ。

 行ってらっしゃい、ご主人様。お勉強頑張ってね。遠くに行っても、元気でね。
 ボクは何があっても、ご主人様の味方だからね。
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