憑かれ少女と悪霊は神隠しで異世界日本にきてしまったようです

yasaca

文字の大きさ
9 / 27

9話 痴話喧嘩?

しおりを挟む
 悪霊が先頭を歩き、環が後ろをついていっている。
 目的の場所に淡々と進んで向かう悪霊に、環から話しかけることも悪霊から話すこともない。
 そんな静かな時間が刻々と過ぎていく。
 
 それから時間が進み、あの少年と出会った裏路地に足を踏み入れた瞬間、悪霊目掛けて何かが落ちてくる。
 それは明確な敵意だった。
 しょうが体を横にずらすと、その凶刃は地面を穿つほどの衝撃で着地し、それを手にする相手も目だけをこちらに向けて睨んでくる。

「避けんな!」
「何者だ、てめぇ」

 余裕そうな動きで落下物を避けた悪霊は、目を吊り上げ睨む。地面を少しだけ抉るその衝撃で体の主導権が自分にあったから良いものの、桃では当然避ける事は出来なかっただろう。
 しょうは目を吊り上げ、襲撃者を睨んだ。

 音を立てて着地したのは男だ。環と悪霊がいる場所は家と家の間。暗闇とまではいかないが、薄暗い場所にいる。男がいる背の方に太陽があり、顔は逆光で見えなかった。

はじめ!」

 環が叱るように言った言葉は、顔が見えない男の名前だろう。短刀を悪霊に突きつけている。向けられた悪霊は、ひっそりと口角を上げて笑っていた。叱られて環の方を見ている男と環は気づいていない。

「姐さん! こいつは危険です! 今すぐ離れてください!」
「何言ってるの! 今道案内をしてくれていただけだよ!」

 悪霊を前後で挟みながら口喧嘩をしている。その声は案外大きく、町行く者たちが驚いた目で路地裏の様子を伺っていた。
 悪霊のしょうが憑りついているとはいっても、それで少女の身長が変わるわけではない。宿主の体は男と環の間にすっぽりとハマるくらいの大きさだ。

 最初は面白そうに頭上で繰り広げられる口喧嘩を見ていたが、両方から聞こえる声の大きさで耳が痛くなってきたのか、離れて壁に寄りかかりながら聞いていた。

「おい、いつまで痴話喧嘩をしているつもりだ?」

 終わりそうにない喧嘩を、悪霊は疲れた顔をしながら静止をかけた。その悪霊の突っ込みに、二人が同時に言い返す。
 迫力ある言い方にしょうは恐れず、片方の手を袴のポケットに突っ込み、表通りを指差した。
 そこには人だかりが出来ている。

「あんなに集まるまで喧嘩しといてか?」

 人だかりを見た二人はそれぞれの反応をした。一は舌打ちしながら近くにあった空箱を蹴り、環は集まった人たちに、「ただの口喧嘩ですので、ご安心ください」と言いながら頭を下げている。
 危ないことにはならずに済んだと安心したのか、町人たちはそれぞれ行こうとしていた方向へと離れていった。

「てめぇのせいだからな!」
「俺が何したというんだ?」

 悪霊は、ただ環を目的の場所に連れてきただけである。そこに喧嘩を吹っかけたのは一だった。
 その口の利き方にまた環が叱り、それに若い男が反論する。同じことを繰り返しそうな雰囲気に呆れた悪霊は、その場から離れ、目的である子供を探した。
 
「まぁ、ずっとここには居ないわな」

 しょうは踵を返すと、表通りに戻る。

「となると……こっちか」

 土地勘も無い筈なのに、しょうは迷わず人混みの中を進んでいく。まるで女の霊の記憶を見てその道を辿っているかのように。

「待ちやがれ!」

 後ろからものすごい勢いで近づいてくる一をしょうは無視し、周りを見渡しながら探す。
 一を避けるように早足で歩いていると、女の霊が憑りついていた時のような恐怖感は薄れ、年相応の元気な雰囲気をまとった子供を見つけた。その方へ向かおうと足を向けると、追い付いた男が前を塞ぐ。

「しつこい男だな……」
「お前! 悪霊喰ってたろ!」

 その一言で周りがざわつき始めた。
 この町に霊がいることに町人達が驚いていたが、それよりも視線の中心にいる少女が霊を食べたという話に、驚きを隠せないでいる。
 しょうは、謂れの無い言い掛かりを付けられていると言わんばかりに、不快そうに眉を潜めて「意味がわからない」と首を横に振った。

「悪霊同士はな奪い合いすんのが世の常なんだよ」
「そうなのか? 初めて知ったのだが」

 こちらを非難する言葉がいつの間にかただの悪口に変わってきており、はじめからこれ以上の情報は引き出せないと悟ったしょう。悪霊と少女がここについてまだ三日目。ここの常識などは全くと言っていいほど知らない悪霊は、会話の中で学んでいこうとしていた。それに、目の前の人物は口が軽そうに見える。この男からバレないように情報を聞き出していけば、ある程度のことは分かるのではないか、と。
 
 喚く一を見ないように、少し離れた場所でおろおろしていた少年は。

「おねぇちゃん……?」

と心配そうに声をかけた。

「よう。今ちょっと性格が変わっちゃいるが、同じ人物であることに変わりはねぇから」

 子供ながらも、目の前でしゃがんだ少女の雰囲気が会った時とは変わっているを感じたのか、体を縮こませながら悪霊の顔を恐る恐る見ている。
 警戒されたままだと会話も出来ないと考えた悪霊は、安心させようと少しだけ強く頭を撫でた。
 それに警戒をすこしだけ解き、ここに何故いるのかを聞いてくる。

 その後ろでいつまでも喚き散らしているはじめを環が羽交い締めにしてた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...