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17話 浮気現場
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「密通ってなに?」
「……浮気のことだ」
さすがに何度も怒られるのは嫌だった少女は、悪霊が夫人と話している間ずっと静かにしていたが、話が終わった途端、悪霊にいろいろと質問をしてきた。あれはなに、これはなに?と、まるで小さい子がいろんなことに興味を持ち始めて、親がその質問に困惑するかのようなことがずっと起きている。一つ一つ答えているが、さすがに疲れてきた悪霊は返事するのが面倒になっていた。
「それ以上、質問するな」
もううんざりだと言わんばかりの獣が唸るような低い声を出し、話しかけてくるのを止めさせた。でも、とまだ渋る少女に、集中させろと言い放ち、黒い影を追うことを再開する。
目の前を歩く黒い影が時々立ち止まり、後ろを見ている。今は影だけだが、実際に同じことをしていたとなると相当怪しい動きだっただろう。
今見えているものは追いかけている影だけだが、誰かに呼び止められたかのか、肩を跳ね上がらせている。声は聞こえずとも、動作からして声をかけた人物と話しているのだろう。後半になるにつれ、影の動きが荒々しくなっていく。その話しかけてきた人物から離れるように腕を大きく振りかぶり、走ってその場を後にした。
「近道なのは屋根の上か」
歩く速度を速めながら見失わないように道行く町人の間をすり抜け、影を追う。人にぶつかることは無いが、どうしても進行の邪魔になると判断したしょうは、屋根の上に飛び乗り、追いかけた。その身軽さに町歩く町民たちは目をかっぴらいて驚き、足を止めた。
(顔まで分かればいいんだがな)
「さすがのしょうでもそれは難しいんだね」
(昔はターゲットの顔を見て……)
走りから歩きへと変わった影を見ながら内側にいる少女と会話していると、途中で悪霊の動きが止まる。先程の言葉が、まるで昔からこんな追跡をしてきたかのような発言が自然と頭の中に浮かんだのだ。しばらくその場にとどまったが気のせいだと頭を横に振り、再開する。本当かどうかのことの確認のために時間を潰し、影を見失ってしまっては元も子もない。
(どうやら影を追う俺を追跡しているやつがいるようだ。気に留めていなかったが、少ししつこいな)
「どうするの?」
(当然、撒く)
しょうが影を追いけている中、誰かがしょうを追いかけてくる。一人で何もない空間に話しかけている姿を見て、怪しんだのだろう。婦人から離れた直後からついてきている。気配駄々洩れの追跡者に気づかないふりをしたまま、同じ路地裏に入り、一気に屋根の上に飛んで姿を眩ませた。死角となる場所に隠れたと同時に、悪霊を追っていた何者かが路地裏に勢いよく入り込んでくる。
「あれ? さっきまでここを通ってたのに」
見た目、内側にいる少女も同じくらいの年に見える女の子が下で、首を傾げて周りをキョロキョロと見ている。その姿を見たあと、悪霊はその場を後にした。
いまだ影は路地裏を歩いている。相変わらず後ろを見たりと、挙動不審に周りを見ていた。
しばらくすると、長屋がある一つの戸の前で影が止まった。あの夫人の家を出た時と同じように何度も確認し、その中に入っていく。いざ突撃しようと悪霊が近づくと、先程追跡をかわした女の子が近づいてきた。
「お兄さん、そこでなにしようとしてるの?」
ニコニコと笑いながら近づいてくる相手のほうを向き、やれやれと肩を竦めた。
「ここにいるであろう密通野郎に用があってな」
「え、密通?!」
悪霊が怪しい人物だと思ってついてきたら、浮気現場に向かっていたとは露程にも思っていなかったのだろう。大きな声で驚いていた。中からコソコソと話す声が悪霊の耳に届く。おそらく目の前の女の子の声で中にいる者がどうしようかと相談している所だった。
一度出た影は消えず、何度でも追いかけることは出来るが、もう一度同じことを繰り返したくない悪霊は強硬手段に出た。隣で女の子が何か言っているのを無視して戸を開けると、中肉中背の男が走って押し通ろうとしているところだった。戸の前にいる声が少年と少女と判断しての行動だろう。助走距離がもう少し長ければ押し通れたのだろうが、どっしりと構えた悪霊に当たった男は、ばねのように跳ね返され、戸とは反対側の壁に当たった。
「逃げたかったのだろうが、残念だったな」
遠慮なく入っていき、しりもちをついている男を担ぎ、喚いている浮気相手の女を無視して夫人のところへ向かう。
「は、離せってんだ!」
「自力で逃げてもいいぞ? 出来るものならなぁ」
その言葉を聞いた男は、俵担ぎされている腕の中で暴れ始めたが、悪霊の腕は岩のように固く、微動だにしなかった。驚きを隠せない男は、腕の中で暴れては静かになりを繰り返している。
「ほらほら、俺から逃げるんだろ? 抵抗してみろよ」
先程から進展のない様子を煽る悪霊。その顔はとても楽しそうに口角を歪ませている。その顔を見たものはいなかったのが幸いだ。
路地裏から大通りに出ると、町行く人たちが驚いて悪霊の方を二度見していた。少年が中肉中背の男を担いで、表情を変えることもなく歩いていることが信じられないのだろう。ここで身長を変えて驚かせてもいいが、後ろをついてきている女の子が騒いで五月蠅くなるのは安易に想像できたのでやめた。
「……浮気のことだ」
さすがに何度も怒られるのは嫌だった少女は、悪霊が夫人と話している間ずっと静かにしていたが、話が終わった途端、悪霊にいろいろと質問をしてきた。あれはなに、これはなに?と、まるで小さい子がいろんなことに興味を持ち始めて、親がその質問に困惑するかのようなことがずっと起きている。一つ一つ答えているが、さすがに疲れてきた悪霊は返事するのが面倒になっていた。
「それ以上、質問するな」
もううんざりだと言わんばかりの獣が唸るような低い声を出し、話しかけてくるのを止めさせた。でも、とまだ渋る少女に、集中させろと言い放ち、黒い影を追うことを再開する。
目の前を歩く黒い影が時々立ち止まり、後ろを見ている。今は影だけだが、実際に同じことをしていたとなると相当怪しい動きだっただろう。
今見えているものは追いかけている影だけだが、誰かに呼び止められたかのか、肩を跳ね上がらせている。声は聞こえずとも、動作からして声をかけた人物と話しているのだろう。後半になるにつれ、影の動きが荒々しくなっていく。その話しかけてきた人物から離れるように腕を大きく振りかぶり、走ってその場を後にした。
「近道なのは屋根の上か」
歩く速度を速めながら見失わないように道行く町人の間をすり抜け、影を追う。人にぶつかることは無いが、どうしても進行の邪魔になると判断したしょうは、屋根の上に飛び乗り、追いかけた。その身軽さに町歩く町民たちは目をかっぴらいて驚き、足を止めた。
(顔まで分かればいいんだがな)
「さすがのしょうでもそれは難しいんだね」
(昔はターゲットの顔を見て……)
走りから歩きへと変わった影を見ながら内側にいる少女と会話していると、途中で悪霊の動きが止まる。先程の言葉が、まるで昔からこんな追跡をしてきたかのような発言が自然と頭の中に浮かんだのだ。しばらくその場にとどまったが気のせいだと頭を横に振り、再開する。本当かどうかのことの確認のために時間を潰し、影を見失ってしまっては元も子もない。
(どうやら影を追う俺を追跡しているやつがいるようだ。気に留めていなかったが、少ししつこいな)
「どうするの?」
(当然、撒く)
しょうが影を追いけている中、誰かがしょうを追いかけてくる。一人で何もない空間に話しかけている姿を見て、怪しんだのだろう。婦人から離れた直後からついてきている。気配駄々洩れの追跡者に気づかないふりをしたまま、同じ路地裏に入り、一気に屋根の上に飛んで姿を眩ませた。死角となる場所に隠れたと同時に、悪霊を追っていた何者かが路地裏に勢いよく入り込んでくる。
「あれ? さっきまでここを通ってたのに」
見た目、内側にいる少女も同じくらいの年に見える女の子が下で、首を傾げて周りをキョロキョロと見ている。その姿を見たあと、悪霊はその場を後にした。
いまだ影は路地裏を歩いている。相変わらず後ろを見たりと、挙動不審に周りを見ていた。
しばらくすると、長屋がある一つの戸の前で影が止まった。あの夫人の家を出た時と同じように何度も確認し、その中に入っていく。いざ突撃しようと悪霊が近づくと、先程追跡をかわした女の子が近づいてきた。
「お兄さん、そこでなにしようとしてるの?」
ニコニコと笑いながら近づいてくる相手のほうを向き、やれやれと肩を竦めた。
「ここにいるであろう密通野郎に用があってな」
「え、密通?!」
悪霊が怪しい人物だと思ってついてきたら、浮気現場に向かっていたとは露程にも思っていなかったのだろう。大きな声で驚いていた。中からコソコソと話す声が悪霊の耳に届く。おそらく目の前の女の子の声で中にいる者がどうしようかと相談している所だった。
一度出た影は消えず、何度でも追いかけることは出来るが、もう一度同じことを繰り返したくない悪霊は強硬手段に出た。隣で女の子が何か言っているのを無視して戸を開けると、中肉中背の男が走って押し通ろうとしているところだった。戸の前にいる声が少年と少女と判断しての行動だろう。助走距離がもう少し長ければ押し通れたのだろうが、どっしりと構えた悪霊に当たった男は、ばねのように跳ね返され、戸とは反対側の壁に当たった。
「逃げたかったのだろうが、残念だったな」
遠慮なく入っていき、しりもちをついている男を担ぎ、喚いている浮気相手の女を無視して夫人のところへ向かう。
「は、離せってんだ!」
「自力で逃げてもいいぞ? 出来るものならなぁ」
その言葉を聞いた男は、俵担ぎされている腕の中で暴れ始めたが、悪霊の腕は岩のように固く、微動だにしなかった。驚きを隠せない男は、腕の中で暴れては静かになりを繰り返している。
「ほらほら、俺から逃げるんだろ? 抵抗してみろよ」
先程から進展のない様子を煽る悪霊。その顔はとても楽しそうに口角を歪ませている。その顔を見たものはいなかったのが幸いだ。
路地裏から大通りに出ると、町行く人たちが驚いて悪霊の方を二度見していた。少年が中肉中背の男を担いで、表情を変えることもなく歩いていることが信じられないのだろう。ここで身長を変えて驚かせてもいいが、後ろをついてきている女の子が騒いで五月蠅くなるのは安易に想像できたのでやめた。
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