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27話 得た身体
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「さて、大物でしめといこう」
残りは大蛇のみとなった。逃げられなかったものは喰われ、逃げおおせたものは今頃震えている頃だろう。そして、この場に残るのは目の前にいる敵を喰らおうとするもののみとなった。
「逃げなくてよかったのか?」
飲みこんだあやかしの心臓を影から取り出し、口にしている。目の前にいる大蛇はしょうを睨んでいた。だが、その額から頬に賭けて汗が一粒流れている。
「蛇でも汗かくんだな」
「我はただの蛇ではない! 牛巻の大蛇である!」
「だからなんだ? 餌であることに変わりはない」
変なところで感心し、大蛇が言葉を荒げて言うことにどうでもいいといわんばかりの目線を向け、次の心臓を食べている。一つ食べれば影が荒ぶり、食べ終えれば静まりを繰り返していた。
「かかってこないのか? それとも自分の事を餌だと思っているのか? それなら結構。そこから動かないなら尚更いい」
その場にしゃがみ、影の中に手を突っ込んで何かを探している。しょうが視線をずらす瞬間を狙っていた大蛇が口を大きく開け、一気に近づいて飲み込もうとしていた。
「なんだ、抵抗する気はあったのか」
影の中に両手を入れ、何処からかくすねてきたのか、あるいは元より持っていたのか、大太刀と呼ばれる刀を振り上げるように一気に取り出した。
何かを察した大蛇はすんで避けたものの頬を少し掠り、血を流している。
「妖刀、あるいは滅するための刀が必要かと思ったが、案外いけるな」
持ち直し、刃を下に向けて手に馴染ませるように大太刀を何度も振るい、地面には振った跡が出来ていた。ただ、大きすぎたのか、そのまま手放すと刀は影の中に落ちていき、しょうは周りを見渡した。
「あれは両手で振るうにしても面倒だな。確か環が、これのことを討なんとか刀とか言ってた気がするな。これなら斬れるだろうか」
先程鬼に潰された者たちの刀をしょうが一本拾い上げ、振っている。その間に大蛇は襲うことも無く、ただただその場に突っ立っていた。
「俺を襲え。試し斬りにはちょうどいいだろう」
持ち方を何度も変えては振り、いくばくかしたのち、自分にあった感覚を見つけたのか、いまだ固まっているであろう大蛇へと向き直った。が、すでに大蛇はその場におらず、ただしょうが独り言を言っていただけだった。
「つまらんな。まぁいい。顔は覚えたし、消えることのない傷もつけた。あとから喰えばいいだけだ」
刀を放り投げ、寺院に向かっていった。入る前はあれほど眉間に皺を寄せ、嫌っていた寺院に抵抗もなく入って行く。お腹を満たせたことで抵抗できるようになっていたのだ。そんなしょうの様子を見た環は慌てて、彼の後をついていく。
しょうの行く先は、宿主の桃の場所。その途中で何度か討猟師たちに会うが、全員無視していた。
「おい、楽しんでたか?」
「あ、しょう! おかえり。楽しんでたってどういうこと?」
クマのぬいぐるみを桃が思いっきり抱きしめているせいか、顔が中心に集められてしわになっている。少女には聞こえていないが、そこから苦しそうな声がしょうの耳に届いていた。
「そいつはもう必要ないだろ。返せ」
「やだ。この子気に入ったんだもん」
「ならせめて顔を持つな」
戻ってきたら面白いことになっているのだろうなと予想していたしょうは、思いのほか冷静な様子の桃に思わず舌打ちをしそうになっていた。
顔から体に持ち替えた桃を見ながら少女の中に戻ろうとしたが出来ず、首を傾げていた。
「しょう、どうしたの?」
「お前の中に戻れん」
「え、なんで?」
「知らん」
初めてのことで戸惑う二人。そこに追いかけていた環が戻ってきた。そして、しょうを見て驚いていた。
「しょう君、いつの間に人になったの?」
「は……?」
「え?」
環の言葉に桃としょうの二人から間抜けな声が漏れ出た。既に死んでいるはずのしょうが人になることなどありえることでは無い。
「あ、違う。内側は悪霊のままだけど、人の形を取り戻してる感じになってる」
「意味がわからん。死んでいるなら身体はないだろう」
「でもあるよ」
元々影のように揺らめくだけの存在だったが、人の姿に近くなったことで環が近づいてしょうの肩や腕、胸板らしきところをぺたぺたと触っている。
「もしかして、死ぬ前はそんな身体してたのかもね」
「知らん。というより覚えていない」
本当にこの身体だったのかしょうには不明だが、何故かしっくりとくる感覚があった。霊体でいる時よりも動きやすいが、同時に身体を持ったことで重さがのしかかってくる。
「身体は持たない方が楽だな」
「なんで?」
「しっくりくるのだが、重い」
「重いってどういうこと?」
「知らん。なんでも俺に聞くな」
残りは大蛇のみとなった。逃げられなかったものは喰われ、逃げおおせたものは今頃震えている頃だろう。そして、この場に残るのは目の前にいる敵を喰らおうとするもののみとなった。
「逃げなくてよかったのか?」
飲みこんだあやかしの心臓を影から取り出し、口にしている。目の前にいる大蛇はしょうを睨んでいた。だが、その額から頬に賭けて汗が一粒流れている。
「蛇でも汗かくんだな」
「我はただの蛇ではない! 牛巻の大蛇である!」
「だからなんだ? 餌であることに変わりはない」
変なところで感心し、大蛇が言葉を荒げて言うことにどうでもいいといわんばかりの目線を向け、次の心臓を食べている。一つ食べれば影が荒ぶり、食べ終えれば静まりを繰り返していた。
「かかってこないのか? それとも自分の事を餌だと思っているのか? それなら結構。そこから動かないなら尚更いい」
その場にしゃがみ、影の中に手を突っ込んで何かを探している。しょうが視線をずらす瞬間を狙っていた大蛇が口を大きく開け、一気に近づいて飲み込もうとしていた。
「なんだ、抵抗する気はあったのか」
影の中に両手を入れ、何処からかくすねてきたのか、あるいは元より持っていたのか、大太刀と呼ばれる刀を振り上げるように一気に取り出した。
何かを察した大蛇はすんで避けたものの頬を少し掠り、血を流している。
「妖刀、あるいは滅するための刀が必要かと思ったが、案外いけるな」
持ち直し、刃を下に向けて手に馴染ませるように大太刀を何度も振るい、地面には振った跡が出来ていた。ただ、大きすぎたのか、そのまま手放すと刀は影の中に落ちていき、しょうは周りを見渡した。
「あれは両手で振るうにしても面倒だな。確か環が、これのことを討なんとか刀とか言ってた気がするな。これなら斬れるだろうか」
先程鬼に潰された者たちの刀をしょうが一本拾い上げ、振っている。その間に大蛇は襲うことも無く、ただただその場に突っ立っていた。
「俺を襲え。試し斬りにはちょうどいいだろう」
持ち方を何度も変えては振り、いくばくかしたのち、自分にあった感覚を見つけたのか、いまだ固まっているであろう大蛇へと向き直った。が、すでに大蛇はその場におらず、ただしょうが独り言を言っていただけだった。
「つまらんな。まぁいい。顔は覚えたし、消えることのない傷もつけた。あとから喰えばいいだけだ」
刀を放り投げ、寺院に向かっていった。入る前はあれほど眉間に皺を寄せ、嫌っていた寺院に抵抗もなく入って行く。お腹を満たせたことで抵抗できるようになっていたのだ。そんなしょうの様子を見た環は慌てて、彼の後をついていく。
しょうの行く先は、宿主の桃の場所。その途中で何度か討猟師たちに会うが、全員無視していた。
「おい、楽しんでたか?」
「あ、しょう! おかえり。楽しんでたってどういうこと?」
クマのぬいぐるみを桃が思いっきり抱きしめているせいか、顔が中心に集められてしわになっている。少女には聞こえていないが、そこから苦しそうな声がしょうの耳に届いていた。
「そいつはもう必要ないだろ。返せ」
「やだ。この子気に入ったんだもん」
「ならせめて顔を持つな」
戻ってきたら面白いことになっているのだろうなと予想していたしょうは、思いのほか冷静な様子の桃に思わず舌打ちをしそうになっていた。
顔から体に持ち替えた桃を見ながら少女の中に戻ろうとしたが出来ず、首を傾げていた。
「しょう、どうしたの?」
「お前の中に戻れん」
「え、なんで?」
「知らん」
初めてのことで戸惑う二人。そこに追いかけていた環が戻ってきた。そして、しょうを見て驚いていた。
「しょう君、いつの間に人になったの?」
「は……?」
「え?」
環の言葉に桃としょうの二人から間抜けな声が漏れ出た。既に死んでいるはずのしょうが人になることなどありえることでは無い。
「あ、違う。内側は悪霊のままだけど、人の形を取り戻してる感じになってる」
「意味がわからん。死んでいるなら身体はないだろう」
「でもあるよ」
元々影のように揺らめくだけの存在だったが、人の姿に近くなったことで環が近づいてしょうの肩や腕、胸板らしきところをぺたぺたと触っている。
「もしかして、死ぬ前はそんな身体してたのかもね」
「知らん。というより覚えていない」
本当にこの身体だったのかしょうには不明だが、何故かしっくりとくる感覚があった。霊体でいる時よりも動きやすいが、同時に身体を持ったことで重さがのしかかってくる。
「身体は持たない方が楽だな」
「なんで?」
「しっくりくるのだが、重い」
「重いってどういうこと?」
「知らん。なんでも俺に聞くな」
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