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第1章 旅

冒険記録11. 空腹を満たすために

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 持っているのならば奪ってしまおうかと考えるが、この世界のお金の使い方も分からないし、無理矢理奪うと、また女神からお叱りという名の制裁が来るので諦めるヨシュアだった。

「いま、ないのなら、もってきて、くれないか? さすがに、はらがへりすぎて……たおれそうだ」

 地面に倒れそうなほどフラフラな状態のヨシュアを心配したアルヴァーノが自身の足を曲げてしゃがみ、自分の背に凭れさせ、ヨシュアを乗せた。

「だったら尚更です! 早く行きましょう!」
「だから、わたしは……」

 少しずつ小さくなっていく彼の言葉に焦り、急いで城に向かうジュリーをアルヴァーノは落とさない様についていった。

 城にたどり着いたジュリーとアルヴァ―ノは城門前で衛兵に止められた。一緒に現れたアルヴァ―ノを警戒する衛兵に危険はないという事を何とか説得したジュリーは、手を出さないよう約束し、城の中に入っていく。

「お父様、お母様。ただいま戻りました」
「ジュリー! よく無事で!」
 
 父と母がいるであろう王座の間のドアを開けて中に入ると、ジュリーの姿を見た母親が椅子から立ち上がり、駆け寄って抱きしめた。

「賊に襲われたと護衛の者から報告を受けましたが、どこも怪我はありませんか?」

 抱きしめた後、怪我がないかと身体中を見回した。

「はい、大丈夫です。ヨシュアさんが助けてくれたおかげで」
「ヨシュア? 助けてくれたという旅の方ですか?」
「はい! あ、でも今お腹を空かせているみたいで」
「まぁ! それなら早く何か食べさせなければ」
「ワシはその者を中に入れる事は認めんぞ」
 
 今すぐにでも行動に移そうとする二人を、王が制止する。

「ですが!」
「ペリルを従えた者が危険でないはずがないだろう」
「ヨシュアさんは危険な人ではありません! その馬に関してもです」

 抗議するジュリーを厳しい目で見つめる。王としての立場もあるが、何より子を心配する親として心配していたが、それが伝わることはなかった。

「ならば、私が自ら向かいます」

 どうしても賛同してくれないと感じたジュリーは、抱きしめていた母親の手をそっと外し、王座の間から出ていく。その様子を見た母は、何か遭った時の為にと近くにいた衛兵に命令し、行かせた。


 ジュリーが王座の間から出て城門前に向かっていると、馬の鳴き声と人の怒声が聞こえてくる。何か遭ったのかと廊下を走り、急いで向かった。

「暴れるな!」
「な、何をしているのですか!」

 城内から出てきたジュリーがみた現場は散々な状況になっていた。
 地面には人の頭ほどの石が何個も落ちていたり、壁は岩をぶつけたかのように円形にへこんでいる。

 少し離れている間に何が遭ったのかと近くの衛兵に聞くと、野放しでいつ暴れるか分からないから暴走抑止用の首輪を付けようとしている所だった。

「言ったはずですよ! 暴れることはないから何もしない様にと!」

 首輪を付けようとしている衛兵に止めるように言い、アルヴァーノを見た。無理矢理しようとしたことが不快だったのか、耳を伏せ、目を吊り上げて相当怒っていた。

「どうしましょう……落ち着かせるにはヨシュアさんに頼らないと。でも、本人は意識を失っていますし」

 ジュリーが考えている間も、怒りが収まらないアルヴァーノは暴れていた。

「どういたしましょうか?」

 このまま暴れ続けられたら更に被害が出ると考えた衛兵たちはジュリーに相談する。無理矢理首輪をつけるようなことはもうしていないが、いつまた石を落としてくるか分からない状況で、警戒しながら剣を向けたり、盾を構えたりしていた。

 様子をうかがっていると、先程まで暴れていた馬が突然動きを止めた。一体何事かと周りが見る中、背に乗せていたヨシュアがゆっくりと動き出した。

「……どう、した、アルヴァーノ」

 目を覚ましたヨシュアがゆっくりとした動きで手を伸ばし、かすれた声を出しながら馬の首筋を撫でてなだめている。それによって落ち着いたのか心配そうに彼の方に首を向けた。

「……なにに、おこって、たん、だ?」

 目覚めたばかりの頭で状況を理解しようとするが、まだ寝ぼけているのか動きが遅
い。

「起きてくれて助かりました!」
「じじょうは、あとで、きくとして、めしを……」

 目を擦りながら、アルヴァ―ノから降りる。

「街へ行くのですよね?」
「ああ」

 眠気が取れてきたのか、言葉もはっきりしだし、城下町に向かおうとするヨシュアを止めた。

「では、これを」

 そう言って懐からお金が入った袋を取り出してからヨシュアに渡そうとしたが、手を前に突き出し止めた。いらないのかと首を傾げるジュリーにヨシュアは

「それだけをわたしにわたされても、つかいかたをしらんから、つかえん」

 と言って断った。

「じゃあ今までどうやって……」
「それは、きくな」
 
 はぐらかされると気になる性格なのか、何度も聞いたが彼の答えは同じだった。

「わたしのことはどうでもいい。はやくいくぞ」
「教えて下さらないのならお金の使い方教えませんからねっ!」

 目に涙をため、泣きそうな声で言い寄ってくる。出会った時から品行方正な彼女だが、どこで覚えたのか泣き落としに使ってきた。

「かまわない。べつのひとにきくだけだ」

 だが、人生経験が豊富なヨシュアには効かなかった。涙目を浮かべるジュリーの様子を見ながら、綺麗にまとめられた彼女の髪を乱暴に撫でる。

「ざんねんだが、いまのおじょーちゃんがそれをつかっても、わたしにはきかんよ」
「大人だったら効きますか?」
「なんだ? わたしをおとしたいのか?」

 誘惑してくるジュリーに少しだけ驚きながらも、片方の眉を上げ、口角を上げながら意地悪を言った。

「そ、そんなんじゃ!」

 顔を赤らめながらついてくるジュリーを後ろに、お腹を満たすために城下町へと向かうのだった。
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