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第1章 旅
冒険記録17. 夜の会話
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辺りは徐々に薄暗くなり始め、明かりがついている店は少なくなってきている。
「そういえばヨシュアさんは何故この街に?」
「私に魔法の適性があるかどうかを知る為と、ハイド村出身の魔法使いを探している」
「その方はどんな人なのですか?」
足元が暗さで見えなくなり始め、危険な状態になってくるが、後ろにいた護衛達が明かりを灯してくれていた。
「それが、よく分からん」
「ええ……」
よく聞かずにヨシュアは村を出たためか、探す人物の容姿や年齢、性別すらも分からない状況だった。
「知っているのはハイド村出身という事だけだ」
「それだと探す範囲が大きそうですね」
「詳しく聞いておけばよかったと思っている。今更ながらな」
首を横に振り、ため息を吐く。
戻って聞きに行くのも一つの手だが、今度は森に巣食う化け物に見つからないとは限らない。それで命を落としてしまっては、元も子もなかった。仕方の無いことだが、地道に探すしかない。旅をすると決めた時から、長い道になるのは解っていた。それならば、ゆっくり探していけばいいだけだ。まだ時間はたっぷりとある。
「問題はいろいろと山積みだが、明日考えればいい」
「そうですね!」
会話というのは本当に便利なもので、目的地まで距離が分かりづらい夜道も短く感じ、あっという間に城につく。前では、帰りが遅くなったのを心配したジュリーの母親と従者が待っていた。
「お母様、この方が私の言っていた方です」
「ご紹介にあがりましたヨシュアと申します。このような身なりで申し訳ありませんが、どうかご容赦を」
ジュリーから紹介された彼は、右手を体に添え、左手を横方向に水平に差し出して腰を落とす。その様子に目の前の女性は微笑み、隣にいるジュリーは驚いた顔をしていた。
「そのような挨拶も出来たのですか?!」
「意外か?」
いまだに信じられないのか、目は開きっぱなしだ。その様子にヨシュアは愉快そうに喉を鳴らしながら笑う。
「ヨシュア様、貴方は」
「ああ、私はそこまで偉い人物ではありませんので、敬称は不要で」
話を遮るのは失礼に当たるのだが、ヨシュアはまったく気にしない。
もし彼が、貴族の嫡男ちゃくなんであれば問題になるだろう。だが、彼は貴族ではなく海賊だ。どのような態度をとろうと彼の自由である。
「では、娘と同様にヨシュアさんと呼ばせていただきますわ」
「お好きなように」
お互いにこやかに笑い合っている。いるのだが、両方とも笑顔なせいか、どこか探り合っているようにしか見えなかった。
軽い挨拶が終わったヨシュアは、城内へ案内される。もう少しで扉が閉まろうとしていたその時、事件が起きた。
離れたくないと訴えるアルヴァ―ノが地面に穴を開け始め、暴れ出したのだ。初めて見る愛馬の攻撃に、驚きと興奮が混じりながらしばらく見ていたが、悲鳴に近い声を上げながら、ヨシュアになんとか止めるよう懇願したジュリーの言葉を聞き、しぶしぶ宥めることにした。
そのお陰で周りに負傷者が出ることはなかった。
「慣れんな」
客室に案内され、ベッドに腰かけて周りを見る。一人用としては十分すぎる部屋に豪勢な装飾。二人で寝ても余るくらい広いベッド。むず痒さを感じるヨシュアに追い打ちをかけるように、部屋全体に漂う正体不明の香りで更に彼の眉間に皺が寄っていく。
「これなら、アルヴァーノの近くで寝たほうがましだな」
そうと決まれば即行動に移した。ドアから出ようとも考えたが、何かの気配をドア付近に感じていたのか、反対側にある窓を開けて静かに出ていった。
遠くからヨシュアが来ることが分かったのか、起き上がり、馬小屋から飛び出してくる。
「元気だな」
夜という事もあって、小さい声で鳴く愛馬を撫でながら戻って行く。一緒に馬小屋へ向かうヨシュアに首を傾げ、それに気づいた彼は
「おじょーちゃんの親切心なんだろうが、自分にはあの部屋は合わねぇ」
と言う。それを聞いた愛馬は、納得したのか小さく鳴いた。
「そういえばヨシュアさんは何故この街に?」
「私に魔法の適性があるかどうかを知る為と、ハイド村出身の魔法使いを探している」
「その方はどんな人なのですか?」
足元が暗さで見えなくなり始め、危険な状態になってくるが、後ろにいた護衛達が明かりを灯してくれていた。
「それが、よく分からん」
「ええ……」
よく聞かずにヨシュアは村を出たためか、探す人物の容姿や年齢、性別すらも分からない状況だった。
「知っているのはハイド村出身という事だけだ」
「それだと探す範囲が大きそうですね」
「詳しく聞いておけばよかったと思っている。今更ながらな」
首を横に振り、ため息を吐く。
戻って聞きに行くのも一つの手だが、今度は森に巣食う化け物に見つからないとは限らない。それで命を落としてしまっては、元も子もなかった。仕方の無いことだが、地道に探すしかない。旅をすると決めた時から、長い道になるのは解っていた。それならば、ゆっくり探していけばいいだけだ。まだ時間はたっぷりとある。
「問題はいろいろと山積みだが、明日考えればいい」
「そうですね!」
会話というのは本当に便利なもので、目的地まで距離が分かりづらい夜道も短く感じ、あっという間に城につく。前では、帰りが遅くなったのを心配したジュリーの母親と従者が待っていた。
「お母様、この方が私の言っていた方です」
「ご紹介にあがりましたヨシュアと申します。このような身なりで申し訳ありませんが、どうかご容赦を」
ジュリーから紹介された彼は、右手を体に添え、左手を横方向に水平に差し出して腰を落とす。その様子に目の前の女性は微笑み、隣にいるジュリーは驚いた顔をしていた。
「そのような挨拶も出来たのですか?!」
「意外か?」
いまだに信じられないのか、目は開きっぱなしだ。その様子にヨシュアは愉快そうに喉を鳴らしながら笑う。
「ヨシュア様、貴方は」
「ああ、私はそこまで偉い人物ではありませんので、敬称は不要で」
話を遮るのは失礼に当たるのだが、ヨシュアはまったく気にしない。
もし彼が、貴族の嫡男ちゃくなんであれば問題になるだろう。だが、彼は貴族ではなく海賊だ。どのような態度をとろうと彼の自由である。
「では、娘と同様にヨシュアさんと呼ばせていただきますわ」
「お好きなように」
お互いにこやかに笑い合っている。いるのだが、両方とも笑顔なせいか、どこか探り合っているようにしか見えなかった。
軽い挨拶が終わったヨシュアは、城内へ案内される。もう少しで扉が閉まろうとしていたその時、事件が起きた。
離れたくないと訴えるアルヴァ―ノが地面に穴を開け始め、暴れ出したのだ。初めて見る愛馬の攻撃に、驚きと興奮が混じりながらしばらく見ていたが、悲鳴に近い声を上げながら、ヨシュアになんとか止めるよう懇願したジュリーの言葉を聞き、しぶしぶ宥めることにした。
そのお陰で周りに負傷者が出ることはなかった。
「慣れんな」
客室に案内され、ベッドに腰かけて周りを見る。一人用としては十分すぎる部屋に豪勢な装飾。二人で寝ても余るくらい広いベッド。むず痒さを感じるヨシュアに追い打ちをかけるように、部屋全体に漂う正体不明の香りで更に彼の眉間に皺が寄っていく。
「これなら、アルヴァーノの近くで寝たほうがましだな」
そうと決まれば即行動に移した。ドアから出ようとも考えたが、何かの気配をドア付近に感じていたのか、反対側にある窓を開けて静かに出ていった。
遠くからヨシュアが来ることが分かったのか、起き上がり、馬小屋から飛び出してくる。
「元気だな」
夜という事もあって、小さい声で鳴く愛馬を撫でながら戻って行く。一緒に馬小屋へ向かうヨシュアに首を傾げ、それに気づいた彼は
「おじょーちゃんの親切心なんだろうが、自分にはあの部屋は合わねぇ」
と言う。それを聞いた愛馬は、納得したのか小さく鳴いた。
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