上 下
19 / 56
第1章 旅

冒険記録17. 夜の会話

しおりを挟む
 辺りは徐々に薄暗くなり始め、明かりがついている店は少なくなってきている。

「そういえばヨシュアさんは何故この街に?」
「私に魔法の適性があるかどうかを知る為と、ハイド村出身の魔法使いを探している」
「その方はどんな人なのですか?」

 足元が暗さで見えなくなり始め、危険な状態になってくるが、後ろにいた護衛達が明かりを灯してくれていた。

「それが、よく分からん」
「ええ……」

 よく聞かずにヨシュアは村を出たためか、探す人物の容姿や年齢、性別すらも分からない状況だった。

「知っているのはハイド村出身という事だけだ」
「それだと探す範囲が大きそうですね」
「詳しく聞いておけばよかったと思っている。今更ながらな」

 首を横に振り、ため息を吐く。
 戻って聞きに行くのも一つの手だが、今度は森に巣食う化け物に見つからないとは限らない。それで命を落としてしまっては、元も子もなかった。仕方の無いことだが、地道に探すしかない。旅をすると決めた時から、長い道になるのは解っていた。それならば、ゆっくり探していけばいいだけだ。まだ時間はたっぷりとある。

「問題はいろいろと山積みだが、明日考えればいい」
「そうですね!」

 会話というのは本当に便利なもので、目的地まで距離が分かりづらい夜道も短く感じ、あっという間に城につく。前では、帰りが遅くなったのを心配したジュリーの母親と従者が待っていた。

「お母様、この方が私の言っていた方です」
「ご紹介にあがりましたヨシュアと申します。このような身なりで申し訳ありませんが、どうかご容赦を」

 ジュリーから紹介された彼は、右手を体に添え、左手を横方向に水平に差し出して腰を落とす。その様子に目の前の女性は微笑み、隣にいるジュリーは驚いた顔をしていた。

「そのような挨拶も出来たのですか?!」
「意外か?」

 いまだに信じられないのか、目は開きっぱなしだ。その様子にヨシュアは愉快そうに喉を鳴らしながら笑う。

「ヨシュア様、貴方は」
「ああ、私はそこまで偉い人物ではありませんので、敬称は不要で」

 話を遮るのは失礼に当たるのだが、ヨシュアはまったく気にしない。
 もし彼が、貴族の嫡男ちゃくなんであれば問題になるだろう。だが、彼は貴族ではなく海賊だ。どのような態度をとろうと彼の自由である。

「では、娘と同様にヨシュアさんと呼ばせていただきますわ」
「お好きなように」

 お互いにこやかに笑い合っている。いるのだが、両方とも笑顔なせいか、どこか探り合っているようにしか見えなかった。


 軽い挨拶が終わったヨシュアは、城内へ案内される。もう少しで扉が閉まろうとしていたその時、事件が起きた。
 離れたくないと訴えるアルヴァ―ノが地面に穴を開け始め、暴れ出したのだ。初めて見る愛馬の攻撃に、驚きと興奮が混じりながらしばらく見ていたが、悲鳴に近い声を上げながら、ヨシュアになんとか止めるよう懇願こんがんしたジュリーの言葉を聞き、しぶしぶなだめることにした。

 そのお陰で周りに負傷者が出ることはなかった。

「慣れんな」

 客室に案内され、ベッドに腰かけて周りを見る。一人用としては十分すぎる部屋に豪勢ごうせいな装飾。二人で寝ても余るくらい広いベッド。むず痒さを感じるヨシュアに追い打ちをかけるように、部屋全体に漂う正体不明の香りで更に彼の眉間に皺が寄っていく。

「これなら、アルヴァーノの近くで寝たほうがましだな」

 そうと決まれば即行動に移した。ドアから出ようとも考えたが、何かの気配をドア付近に感じていたのか、反対側にある窓を開けて静かに出ていった。

 遠くからヨシュアが来ることが分かったのか、起き上がり、馬小屋から飛び出してくる。

「元気だな」

 夜という事もあって、小さい声で鳴く愛馬を撫でながら戻って行く。一緒に馬小屋へ向かうヨシュアに首を傾げ、それに気づいた彼は

「おじょーちゃんの親切心なんだろうが、自分にはあの部屋は合わねぇ」

 と言う。それを聞いた愛馬は、納得したのか小さく鳴いた。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

八十神天従は魔法学園の異端児

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:256pt お気に入り:4

テトラ・ビブロス~異世界転移した司書(俺)の四書が、最強な件~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:533pt お気に入り:151

処理中です...