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第3章 魔法使い  

冒険記録 36 再度怒られ、怒りました

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「なんかあれだね。嵐のように来て去っていったね」

 隣を歩いているヘル二ーが、アルヴァーノに乗るヨシュアを見上げながら先程の光景を口にしていた。

「1つのところに長居はあまり好かん」
「君らしくていいと思うよ、キャプテン・・・・・

 ニッコリと笑いながら言うヘル二ーに、初めて会った時と同じ状況になったこと思い出したのか、ヨシュアは顔を向けた。

「1つお前さんに聞きたかったのだが、一体何者だ」
「口外しないなら教えてあげるよ」

 余裕ぶっているのだろう。鼻歌を歌い出したヘル二ー。

「盟約でも交わすか?」
「僕お酒飲めない」
「一生聞けんな……」

 口約束ほど信用できないものはないと分かっているヨシュアは血の盟約をしようとしたが、当の本人がお酒を飲めないのでは話にならなかった。
 港から離れた彼らは道通りに沿って移動し続け、見えてきたのは壁が立てられている大きな街だった。まだ遠い所にヨシュア達はいるが、それでも目視で確認できるほど。

「門番がいるな」

 ある程度近づいたことで門の前に4人いることが確認できた。全員鉄の装備を着ていて、そのうちの2人は槍を持っている。人の通りが多いのか、街へ入って行く人の進みは遅い。

「このまま行っても大丈夫かな」
「アルヴァーノか」
「うん」

 ヨシュアに懐き、言葉を聞いてくれるとは言えど、周りからは危険な馬だと知られている。例え珍しい動物に会って興奮していたヨシュアでも、さすがに何度も周りから恐れられていると言われれば考えざるを得なかった。そうだとしても、ずっと愛馬に言っているように手放す気はなかった。

「ここが無理ならどこかに行けばいい話だ」
「それがいいと思う」

 なるようになるの精神で彼らは門へと向かった。近づくにつれ、並んでいる者達の声がざわざわと大きくなる。そんな声は聞こえないと言わんばかりにヨシュアが門へ行こうとしたら、左手の中指にはめていた指輪が久しぶりに紅く点滅し始めた。

「なっ!」

 そのことに驚き、ヨシュアは急に馬を止めた。何故光っているのか本当に分かっていないのか、顔からでも焦っていることがうかがえた。まだ点滅の状態だが、また進ませようと馬を動かせば今度は強く光り始めるだろう。

「とりあえず後ろに下がってみたら?」
「そんなので止まるのか? 私には本当に検討もついていないのだが」
「試してみたらいいと思う」

 紐で愛馬の向きを変えると光はすこしだけ弱まった。ヘルニーが言ったように並んでいる者達の後ろに行くにつれ、どんどん弱くなっていき、最後尾の所まで移動して完全に消えた。光が収まった後でもヨシュアは不思議そうに首を傾げながら、指輪を見つめていた。

「並ぶしかなさそうだね」
「これに関しては女神アテリアに問い詰めたい」

 納得いってないのか、眉間に皺を寄せながらアルヴァーノから降り、大人しく並んだ。少しずつ進んでいる間にもヨシュアはずっと指輪を眺めている。進む速度は遅いもののそのようなことなど我関せずのヨシュアは、門番たちに声を掛けられるまでずっと見ていた。

「ヨシュア、順番来たよ?」
「ん? ああ。いつのまにか進んでたのか」

 ヘルニーに言われて気付いたのか、ヨシュアは指輪から視線を外し、警戒している門番たちを見つめる。警戒している理由はアルヴァーノだろう。ただ、槍を持っていない門番たちはヨシュアを厳しい目で見ている。ヘルニーに関しては先に通されていた。難なく門をくぐれたのだろう。

「何故先に行っている」
「何も問題なかったからとしか言えないね」

 警戒している門番達など視界に入っていないのか、ヨシュアとヘルニーは言い合いをしていた。目の前にいるのに無視されたと咳ばらいをして、視線を自分のところに持ってこさせようとしている門番。同じ身長くらいの門番に目を合わせるヨシュア。

「名前は?」
「……ヨシュア」

 一瞬だけ不快だと言わんばかりに眉を少しだけ動かしたが、門番はちょうど手に持っている紙に視線を落とし、見ていなかった。ここであれ以上の騒ぎを起こしたら入れなくなる可能性もある。それだけならいいが、最悪危険人物と指定されることを恐れたヨシュアは、大人しく質問に答えていた。

「どこの出身だ」
「ハイド村」

 そうヨシュアが言った時、門番の者は嘗め回すように視線を上下に動かし、鼻で笑った。無表情のままだったが、ヨシュアのこめかみに青筋が立つ。どういう意図で笑ったのかは不明だが、バカにしているのだけは確かだった。

「あの村らしい服だな。一丁前に剣なんか持って」
「護身用だ。持っていてはおかしいか?」
「いやぁ、別に」
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