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最終章 変化

冒険記録43 恐怖

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「……じいさん、あんたいったい何者なんだ。門で止められることなく難なく入れるようにしたり、あんだけの量を食っても金が払えたり」
「ちょいと名が知られている者なだけじゃよ」

 ガルーラが持っていた杖で暗い道に差し、ヨシュアには分からない言葉を口に、光を灯して足元を見やすくしている。月の光でも見やすかったものが、魔法の光が合わさり、転けるようなことはないだろう。
 普段なら先程の光景を見て感動するのだが、今日だけで起こったことに疲れたヨシュアは、反応する気も起きなかった。
 ラム酒では酔うことが出来なくなっていること。目の前を歩く爺さんが、目的の中の一つの人物だということ。ヨシュアには魔力がない。そして、人ではない何かに体を作り替えられていること。
 ガルーラが住んでいる豪華な屋敷に着いても、ヨシュアは反応出来ないほど衝撃を受けていた。
 屋敷の中に入った後、ベッドまで案内をしようとしているメイドの声すらも入っておらず、ヘルニーが引っ張りながら客間まで向かっていく。白くて柔らかいシルクの布団に体を預けたヨシュアは数秒で眠りに落ちた。


 寝静まった屋敷の中、ヨシュアがいる部屋で一人まだ起きている者がいた。窓から空を見上げているヘルニーだ。ただその姿は斥候をしていた時の茶色いズボンと白いシャツに黒いベストでなく、真っ白な布で体を覆っているような服装だった。

「彼はどうでしたか?」
「動揺して何も聞こえていない状態になっていましたよ、創造主さま」

 ただの斥候かと思われていたヘルニーは、アテリアの命でヨシュアの近くにいて見守るよう使いに出されていたものだった。いつかヨシュアが自身のことを知り、動揺し、内側にある力を制御出来なくなるかもしれないことを見越して。

「一度に多くのことが起きてしまいましたからね」
「そのまま見守りますか」
「ええ、お願いします」

 創造主アテリアとの会話を終えたヘルニーは、斥候をしている時の服に戻し、ヨシュアがうつぶせで寝ているベッドに近づき、彼の首筋に見えている鎖の模様を指で撫でた。少しだけヨシュアが反応するも、ぐっすり寝ているのか起き上がることは無かった。改めてヘルニーが彼の首を触ると、模様が白く淡く光り、片腕だけ付いていた模様が広がり、もう片方の腕にも伸びていく。

「ちゃんと抑えられるようになるまでは、これで勘弁してね。ちょっと痛いかもしれないけど」

 ヨシュアの頭を一撫でしたヘルニーは、自身が寝るつもりだったベッドに向かうと、毛布をかぶって寝る体制になる。


 朝の光が窓から差し込み、その光でヨシュアは目覚める。いつもならジョッキ10杯の酒を飲んだ後の朝は、頭を押さえて顔をしかめているのだが、どこも痛がっているような顔はせず、むしろすっきりした顔で起き上がった。目はぱっちり開いているのだが、眉間にはしわが寄っている。

「おはよ。……朝からすごい顔だね」
「……女神アテリアの声がしたのだが、気のせいか? それともあれは夢だったのか?」
「夢じゃないかな?」
「……そうか」

 朝食にしようと呼びに来たヘルニーがドアを開けて、ヨシュアの顔を見て驚いていた。人でも射殺しそうなほどの目付きだったのだ。起こしに来たのがヘルニーでよかった。他のメイドさん達であれば意識を失うほどの剣幕だったからだ。

「朝ごはん食べよ」
「ああ」

 いつの間にかまた脱ぎ捨てていたシャツを探して着替え、ヘルニーと共に朝食が準備されている部屋へと向かっていく。移動中、ヨシュアは驚いた顔で周りを見ていた。

「いつのまにここに来たんだ」
「夜ご飯食べ終わった後だよ。昨日食堂でいろんなことが起きちゃったからね。君がベッドで寝るまでずっと心ここにあらずな状態だったよ」
「そんなにか」
「うん」

 酒で意識が飛んだわけではなく、頭の処理が追い付かず何も覚えていない状態は、いままでヨシュアの人生の中ではなかったことだ。
 向かい側から来るメイドさんたちは、ヨシュアを見て固まり、勢いよく頭を下げている。ヘルニーが朝見た険しい顔ではなく、ただただ眠たそうな顔をしてゆっくり歩いている彼に怯えていた。不思議に思ったヨシュアがメイドの中の1人に近づく。足音が近づくにつれ、彼女の震えは強くなっていく。

「何をそんなに怯えてる」
「え……あの……」

 顎に手を当て、顔を上に向けさせる。ただ不思議そうにヨシュアが問いかけただけなのだが、彼女は言葉が出てこないほど、恐怖していた。目も別の方向を見ている。

「朝ごはん冷めちゃうよ」

 何も言わないメイドさんからヨシュアの腕をヘルニーが慌てて掴んで離れさせ、朝食が準備されている部屋へと移動する。お腹を鳴らしているヨシュアは特に抵抗することもなく連れ去られていく。先程までいたメイドは足の力が抜けたのか、その場にペタリと床に座り込んでいた。

「おい、ヘルニー。何故ここの女たちは震えてる」
「分かんない」
「しかも、私を見ながらだ。特にしたことなどないぞ。アルヴァーノという愛馬がいる以外は」
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