異世界でショタ指揮官になりました

yasaca

文字の大きさ
36 / 59

36話 ケルベロスは甘い物好き

しおりを挟む
 静かになるまでじっと息をひそめているが、まだ戦っている音が聞こえる。戦い方を一目見ておきたいが、隠れていろって言われているからな。邪魔をするわけにもいかない。
 エンベルトはまだ冷静でいるのかとふと横を見ると、震えていた。いったい何に。

「大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫さ。ただ、思いのほか外にいるモンスターが強いみたいだね」

 それはそうだろうな。なんたってケルベロスなのだから。
 それにしても、外で戦っている冒険者たちはすごいな。音がずっと止まない。もしかしたらケルベロスの攻撃の音が止まないのかもしれない。確認は出来ないからな。

「エンベルトさん、なにか甘い物ってあります?」
「どうしたんだい、急に」

 ずっと音は止まない。名前を知っているから対処法も知っているのかと思ったが、そうでもないようだ。この時代は絵本とかよりも、吟遊詩人ぎんゆうしじんの歌が広がっている。もしかしたら名前だけ知っていたのかもしれない。吟遊詩人が実際に戦ったわけではないし、見たわけでもない。だから想像で補い、群衆を感動させたり、泣かせたりする。それと同じだろう。

「冒険者の人たちを助けるの」
「甘いもので?」
「そう。見てて」

 不思議そうに首を傾げながら、エンベルトがぶどうを渡して来た。ぶどうか。つられてくれたらいいが。

「御者さん、僕が合図したらすぐ馬を出して」
「だ、大丈夫なんですか」
「大丈夫」

 布をそっと開け、まだ戦っている冒険者とケルベロスを見る。まだ私には気付いていないようだ。
 御者の後ろに立ち、ぶどうをもった手の肩を回す。遠くに投げられるように。

「ケルベロス。甘いものは好きか?」
「アーロ君」

 全員に聞こえるように大声を出す。当然、ケルベロスも私を見てくる。目視した途端、口を開けたままこちら側に向かってきた。私を喰う気か!
 その口目掛けてブドウを投げ入れる。勢い余り過ぎて喉に当たってしまったようで、ケルベロスから変な声が聞こえた。

「全員荷車に乗って! 御者さんは馬を!」

 何が起きたと呆然としている冒険者たち。その間に御者が馬を走らせようと手綱を動かした。その反動に少しだけ落ちそうになったが、なんとか耐えた。

「早く!」

 私の声を皮切りに全員が武器をなおし、荷車に乗る。ケルベロスはまだ喉の奥の痛みが消えていないようだ。喉の痛みと甘い物。それでだいぶ距離を稼げると思う。
 全員が乗り、荷車を発車させるとケルベロスとどんどん距離が開いていく。
 だが、問題なのは相手は犬だ。匂いで辿ってくるかもしれない。ケルベロスを追い返せる者がいればいいが。

「みんな大丈夫?」
「あ、ああ」

 攻撃を受けたのか、鎧などには傷がついていた。他の者も疲れ切った顔をしているが、それでも冒険者5人とも生きている。

「よくサーベラスの対処法が分かったね」
「昔、聞いたことあったんだ。三つ首の犬は甘いものが好きって」
「あれが、犬、なのか?」
「狼は鼻の部分が長いのが特徴だよ。みんながよく見るモンスターだね。そして反対に犬は鼻が短くて目がくりくりしてる。サーベラスに関しては論外だけど」

 あんな犬がいてたまるか。懐くのはハデスか音楽を奏でる者にしてくれ。
 ずいぶんケルベロスから距離を取ったと思う。吠える声も聞こえてこないし、追いかけてくる音もしない。
 しかし、危なかったな。まさか口を開けて襲い掛かってくるとは。何も持ってなかったら喰われてたところだった。

 しばらく馬を走らせ、安全になったのを確認した冒険者の人たちがここでキャンプをしようとなった。もう少しで日が落ちる。その前にだな。

「何か手伝うことある?」
「じゃあ、枝を集めるのを手伝ってくれる?」
「わかった」

 魔法使いの女性の隣を歩きながら燃えそうな枝と葉を拾い上げていく。野営を誰かがするだろうから、多くとっておいた方がいいだろうな。この世界に季節があるのかはまだ分からないが、もしかしたら今日寒くなるかもしれない。松ぼっくりなんかがあればゆっくりと燃えるから、結構長く持つんだがな。

「集めて来たよ」

 見渡してみたが、松ぼっくりはなかった。だが、腕いっぱいに枝と葉が手に入った。これで長く燃えるだろう。
 野営をすると普段街の中で食べている物は食べられなくなるが、これこそサバイバルって感じだな。
 干し肉に硬いパン。冒険者の人たちはそうだが、エンベルトも同じだった。

 街に着くのは明日。無事に着くといいが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

処理中です...