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第一話 池袋駅 「おじさん、若者たちの窮地を救う」
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しおりを挟むダンジョンに潜って四時間が経過し、無事に二台目のエレベーターに乗ることが出来た。途中モンスターに遭遇することもなく、最速を目指したシンウのダンジョン進行ルートと、尾地が持ってきた今日のダンジョンのモンスター討伐情報を加えた新ルートが上手く行っている。結果的に予想していたよりも早く進むことができている、仮のリーダーであるシンウはひとまず安堵した。
しかし敵回避が上手くいったことに関しては問題でもあった。ここまで一度も戦闘がなかったために派遣冒険者・尾地の戦力が不明なままなのである。
このままぶっつけで実戦、最後のボス戦に戦力として投入するのは不安がある。この中年が戦いで重傷、あるいは死亡するという最悪の想定の場合、荷物が増えて帰還が困難になるということもあり得る。
ただ反対に、もしかしたら見た目に反してものすごく有能である可能性も、まったく無いとも言い切れない。その可能性は限りなく低いが、ないと断言することもできない。。
だから確認しなければならない。
尾地は使えるのか?
「尾地さんは、この派遣のお仕事は長いんですか?」
パーティー内で相対的に社交性が高いニイが道中の空白を埋めるためか、自身の退屈を回避するためにか、比較的的確な質問を投げかけた。
これには中年派遣冒険者の処遇に困っていたリーダーのシンウ、戦闘班長のスイホウともに内心で小さなガッツポーズをした。自己申告で信憑性が薄いが、彼の発言を元に戦力を想定し、作戦を修正する事もできる。
「けっこうやってますよ~何でも出来ますからオマカセください!お荷物をお運びするのも、先頭を走って索敵も、負傷した方を背負って後方まで運ぶのも。皆さんをお守りしますから、なんでも言ってくださいね」
宣伝文句のように言ってから自分の持っている盾をバンバン叩いて自慢げだ。むだに音をダンジョン内に響かせた。
「やっぱり、囮役だな」
心のなかでスイホウもシンウも当初の計画に変更はないことを確認した。当人がそれしかできないと言うのなら、それをやってもらうまでだ。
とりあえず聞いただけという感じのニイは、返事に対して適度に中年を褒めそやす。
見ず知らずの中年にその距離感で接せられるニイの事をシンウはすごいとは思ったが、そうなりたいとは思わなかった。
エレベーターを使い目的の階層に到着した。
今までは狂った商店街が形作るダンジョンであったが、ここからは狂った住宅街といった風景だ。
ここからしばらく進めば目的地だ。流石にこの階層ともなるとモンスターとの遭遇も避けがたくなってくるものだが、事前の他の冒険者が提出した戦闘報告の通り、この当たりでもモンスターの討伐はすでに行われているようだ。普段なら出てきそうな場所からも気配がない。それでもスカウトのシンウは自らの役割を果たし注意深く道を進む。、遭遇の可能性を潰すことも彼女の役目だ。
上層階での弱い相手との戦いなら、新戦力の確認作業という目的と合致したが、この階層での戦闘によって生じるリスクは、ミッションの成功確率に大きく影響してしまう。
作戦成功のための最後の過程を、全員が慎重にこなした。モンスターの気配を察知したらルート変更を手早く行い、気配を殺してやり過ごす。それが基本行動だ。
この行程中、緊張感にかける尾地であったが、ここでの行動は静かで的確。素人臭さはまるでなかった。ほとんど音もなく歩き。目はあらゆる物の陰を探り、脅威の影を探した。
そうした様々な努力の末、目的地直前のエリアにまで到達した。行程中に一度も戦闘がなかったのはルート取りの良さと、スカウトが持てる技量の全てを発揮した結果だった。シンウは自らの成果を誇りたくなったが、この先に待つ、さらなるプレッシャーがそれを許さなかった。
一行は周囲に敵の存在がいないことを確認した上で、ここをキャンプ地と決めた。通路脇にできた僅かなスペースだが、決戦前の荷物置き場としては使える。
背荷物を降ろし、戦闘に不要な道具を全てひとまとめにする。戦闘後に手早く回収し撤退するためだ。尾地は皆の荷物を一つ一つ丁寧に並べ、各荷物に付いているの光の反射板がどこからでも見えるようにした。
全員で端末を見て作戦の最終確認をする。
敵対象:スパイアント(驚異レベル二十一)一体。
対象はこの先の体育館跡を根城として、そこを移動せず獲物がかかるのを待っている。
体育館の3Dマップ:崩れた体育館。床には壁や鉄骨が落ちているが通常戦闘が可能な広い平面がある。入り口は、現在彼らがいる場所から入れる入り口A、
その反対側にもう一つ入り口B、
そしてスキャンの結果現れた、崩れた壁から裏側に潜り込める入り口Cの三箇所だ。
体育館内部の録画映像が映る。崩れた壁にクモ型モンスターが吐き散らした糸がかかり垂れ下がり、まさに廃墟といった雰囲気だ。
作戦概要:スカウトのシンウと派遣の尾地が入り口Aから侵入、敵の注意を引きつける。その間に裏の入り口Cから入った残りの三人、ジンク、ニウ、スイホウが敵の背後から攻撃、最大火力を持って敵を短時間で撃破する。
それが作戦だった。
みなが作戦の確認をしたあとも、尾地は一人、端末画像をスワイプし情報を確認し続けていた。
全員が彼の反応を見ている。
「なに?なにか問題があるなら言っておいてほしいんだけど?」
ジンクが苛立ちを抑えながら聞く。彼としてはこの段階で部外者から文句など言われたくはない。
「…いえ、これで問題ないと思います」
眼鏡を指で上げながら尾地が答える。ただその目は先程と違って異常に厳しい目をしていた。
「私もここまで念入りなら、負けることは無いと思います」
尾地の言う通りこれは念が入りすぎている。ただのモンスター討伐でここまで「負けないこと」を前提とした作戦は立てない。徹底した奇襲作戦。冒険者が取る作戦としては珍しい。
しかしこれは絶対に失敗が許されない戦いである。そのためにここまでやったのだ、卑劣の一歩手前までだ。
「しかし…」
尾地は答案を見た教師のように続ける。
「スパイアント、クモ型モンスターレベル二十一、これになぜあなた方が負けたのか、そこに関しての疑問が未だに残ります」
「だから~あるんだよそういう、バッドラックが!俺たちだってたまにはそういうこともあるんだよ!ゆーだーん!悪かったな!」
ジンクの返答はやはり喧嘩腰になってしまった。番犬役の弟を抑えて姉が答える。
「私達があの戦いで負け、無様に帰ったのはやはり、私達自身の慢心があったからだと思います。自分たちがこのダンジョンの中で強いんだ、そう思った瞬間にその報いを受けたんだと思います。ですから、どうかお力を貸してください」
暫定的に仲間となった男に対して、暫定的なリーダーからの最後のお願い。自分たちの恥を晒してでも助けたい人がいるのだ。
尾地はその低頭する少女の真摯な頼みに、頭をかきながら困った。
彼女が思っていることと違うことが、前回の戦いで起こったのではないか、尾地はそう思ったのが、それを伝えるためには、まだ要素が欠けていた。そのことを説明したかったが、その時間もないようだ。
「…わかりました。一緒にがんばりましょう」
なんとかなるだろう、尾地もその時はそう思った。
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