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第一話 池袋駅 「おじさん、若者たちの窮地を救う」
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しおりを挟む「ヒィヒィ、ハーハァ~~」
床に倒れ込んで荒い呼吸を続ける尾地。
先程の戦闘から敗走し、入ってきた入り口Aとは逆の入り口Bから逃走した。
そこからさらに走り、距離にして百メートルも進んではいないが、人一人を抱えて走るのはここまでが限界だったようだ。抱えてきたシンウを降ろし、倒れ込み寝っ転がってからは荒い呼吸しかしていない。
助け出され、運ばれ、座らされたシンウ。
仲間のほとんどを敵地に捨て置き、武装も失い、ダンジョン探索用アイテムも食料も何もかも荷物として置いてきてしまった。武器は何もなく、見知らぬ中年男性と二人っきりでダンジョン内に取り残された状態になってしまった。
「キツイ…、四十代にこの運動はキツイ」
尾地にできることは仰向けでする呼吸と泣き言だけだった。荷物のように捨て置かれたシンウの方は無言で座り込んでいた。
仲間はすべて死ぬか行動不能。再び戦いに挑むことも出来ない。地上に帰還することも…絶望的と言って良い状況である。戻る道は先程のモンスターが道を塞いでいるし、この広いダンジョンで他の冒険者が偶然ここを通る可能性はほとんどない。
しかし彼女も冒険者として生き、それなりの覚悟も持っていた。涙も泣き言もださなかった。
自分の足の傷を見る。長く切れてはいるがそれほど深くはない。ただしばらくは走ることと長距離歩くことに不自由しそうだ。自分で応急処置を開始した。ただ止血するだけの簡単なものだ。白魔法どころではない、ただ縛っただけだ。
その間、横で寝っ転がっている男は息も静かに無言になっていた。
ダンジョンの通路で黙り込む二人。この逃走中に別のモンスターに出会わなかったのはただただ幸運であり、いずれは別のモンスターと遭遇する可能性は高い。なにかしらの決断をしなければいけない。
「尾地さん、お願いがあります」
シンウは彼の顔を見ずに切り出し始めた。男は返事もせず無言であった。
「ここから尾地さんにもう一度地上に戻ってもらい、救出隊を作って頂いて私達、四人を、地上に連れ帰れるようにしてもらいたいんです」
男の無言を思考中と受け取って話を続ける。
「予算は借金でもなんでも…。このままではここで死ぬことになりますから、いくらでも借金する気にはなります。パーティーのメンバーは尾地さんのお知り合いで、できるだけ強い方を…」
「四人でいいの?」
尾地は顔をこちらにチラとも向けずに聞いてきた。
「…はい、四人で。もう、無理だって分かりましたから」
「せっかくここまで来たのに諦めるの?」
「無理ってわかってるでしょ、あなたにも」
悔しさはあったが叫ぶことはなかった。敗北の感覚が生み出すあまりの冷たさに感性がどんどんと鈍くなっていく。仲間の救出のために燃えていた熱情が崩れていく、自分の命の熱まで消えていきそうだった。もしもこのまま地上の戻れて生き残ったとしても、心の一部が壊死してしまうのは避けられないだろう。
そんな諦めの気持ちだけがあった。
それでもまだ助かるかもしれないジンク、ニイ、スイホウの三人のために、できる事はしなければいけない。本来助けるはずだったホリーチェは、もう諦めるしか無い。
尾地が単独で地上に戻れるかも怪しいし、そこからパーティーを組んで救出に来るまでに何時間かかるかもわからない。それでも、この見ず知らずの男に頼み。彼の温情にすがらなければいけない、暫定でも彼女はパーティーのリーダーなのだから。
「そっかぁ…」
尾地は寝転がった姿勢から両足を高く上げて、勢いで飛び上がり立ちをすると思いきや、勢い足らずでごろりと起き上がった。
体に装着していたエグゾスケイルアーマーのハーネスを外し、アーマーを脱ぎだす。ダンジョン内においては命綱とも言うべき装置を脱ぎ捨ててしまった。
そして手際よくアーマーの利き腕の手甲部分を取り外した
「そうだったら…おじさんにいい考えがあるんだけど…」
ダンジョンの奥底、見知らぬ男と二人っきり、そしてその男はおもむろに上着も脱ぎだした。絶望に沈み込んでいたシンウも発生しようとしてる事案に、恐怖を感じ始めていた。
「あ、あの?ナニを?」
「だいじょぶダイジョブ、すぐすむから。おじさんこういうの得意だし」
暗闇の中に浮かぶ上半身裸の中年の体。
年頃の女性を恐怖させるに十分な破壊力。
そして男は、躊躇なくベルトを緩め、脱いだ!
グレイのボクサーパンツ一丁。半裸を経過しかなりの全裸。シンウは動かぬ脚を引きずり壁際まで後ずさった。
「あ・・・アノッ!」
短い悲鳴を上げる。
ズイと裸の中年が近づく、背中が壁に当たり逃げ場がない。
「まあここまで付き合った以上、責任あるでしょ?」
さらに近づく。そのゆるく薄く脂肪に包まれた体がはっきりと見える。細かな傷。治療魔術の結果残されるわずかな皮膚のつながりのズレが大量に残っている。それでけではなく降る大きな傷も見える。
その体がぬるりぬるりと近づき、少女を追い詰める。壁面は固く逃げ場はどこにもない。
ヌズイと顔面が顔面に接触寸前まで近づき、やさしく彼女の手をとった。。体がビクリと震えた。
「三十分して私が戻ってこなかったら、スマナイ、自分でなんとか地上に戻ってくれ」
「え?」
驚くシンウの顔を間近に見ながら、中年男性は静かに、やさしい顔をして言った。
「とりあえず一人でやってみるから。多分なんとかなると思うけど、ダンジョンの中じゃ絶対はないからさ」
立ち上がり、右手にだけアーマーとメモリーを装着する。何度か腕を振ってメモリーの輝きを確認する。それだけでも攻撃力は強化できるが、防御能力はゼロ、片腕だけの強化など意味がある装備ではない。。
彼はたった一つのアーマーと、一本の折りたたみ式の斧を手に、来た道を戻っていく。
「あ、あの…、駄目です!一人でなんて!」
パンツ一丁の男が背中越しに返事する。先ほどと違い、その体は、その背中はブ厚く見えた。
「ここまで一緒に来た責任もあるしね。第一、私が参加したパーティーが全滅なんて、あっちゃ駄目でしょ、そんなこと!手短にすませてくるから!」
尾地はゆらりゆらりと戦いの場に戻っていく。
悠々と、死地に向かうにしてはあまりに悠然と、下着一枚の男としてはあまりに堂々と
パンイチ中年はあまりにも…
「どうかしてる?」
あの男はおかしい、この状況もおかしい、そんなことは分かりきっているが、それでも、その男を逞しく頼れると一瞬でも思ってしまった自分が一番おかしく愚かしい。
作戦も破綻し人生も破綻しかかっている少女が人生最後と思った瞬間に触れたのは、あの頼りになるのかならないのか分からない、中年のゴツリとした暖かい手であった。
あの男は自分に任せろと言い放ち去っていった。その約束が、いかなる結果に結びつくかを予想することは、少女の短い人生経験では不可能だった。
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