勇者科でたての40代は使えない

重土 浄

文字の大きさ
13 / 41
第二話 新宿駅 「おじさん、パリピな若者たちの尻拭いをする」

しおりを挟む




 ニイとホリーチェのショッピングが続いていた。

 ホリーチェがダンジョンの奥底で死亡した際、彼女はほとんどの装備をロストしてしまった。それを揃えないことには再出発ができない。その買い出しが今日の目的なのだ。

 命を預ける道具であるため、その選択は慎重になり時間がかかる。それに女だらけの買い物ともなればその時間が二倍から三倍になるのは避けられない。今日は一日仕事の覚悟で全員来ているのだ。

 ホリーチェとしては

 「前と同じのでいい」

という明確な判断基準があったのだが。対してニイは

 「可愛くなくちゃ駄目」

という曖昧な基準をもちだして抗戦した。

 これは長くなりそうだぞ、店先のベンチに座りながらシンウとスイホウは覚悟を新たにした。彼女たち二人も、今日はニイが張り切る日だと悟っているのだ。



 昼ちかく、エントランスの騒がしさが一段上がった。冒険者たちが大量に集まりだし、整列し始めたのだ。

 「なに、なに?」

 シンウはスイホウの肩に頭を乗っけて尋ねる。

 「あれだろ、さっきの騒がしいやつ」

 「ああ、ギョエンの。フーリガンの。にしても多すぎない?」

 スイホウは携帯で検索をかけて、出た画面をそのままシンウに見せた。

 「ヒャクて!まじで?百人パーティ~!」

 シンウは天を見上げて、ホリーチェの「金持ってるなー」の発言とスレた顔を思い出した。

 「ほとんど派遣冒険者だが。でも全部でいくらだよソレ」

 スイホウも呆れている。いくら強敵相手とはいえ、ここまで数と金に物を言わせるとは。これでは冒険者ではなく軍隊だ。

 携帯に映っているのはホーリーフーリガンズの宣伝HP「100人パーティーでドラゴンを倒してみた!」

 軽薄そのもののキャッチコピーに叫んでいるリーダーの顔がコラージュされている。重厚感のかけらもない軽薄さだ。だが、その軽薄を成立させるための予算を考えただけで二人は目眩がした。自分たちが弱小パーティーにすぎないと思い知らされる。天上界の冒険者というのが存在したのだ。これではいくら実戦派を気取っても、金満ぶりをけなしても、負け犬の遠吠えにしかならない。

 おそらく年収にして百倍違う。それくらいの差はあるはずだ。

 あちゃ~という感想しかでてこない二人だった。

 たしかにとてつもない偉業だ。ただし、成功するかどうかは、まだわからない。

 これまでも複数パーティーで連携して強敵と当たる、ということはあった。しかしそれも三十とか四十人でのことで、百は確実に限度を超えている。それをまとめて戦力にするには、冒険者とは別のスキルが要求される。

 「軍師」「軍団長」という類のスキルだ。

 エントランスに集まった百人はダラダラと列を作っていてその行動にまとまりは見えない。その桶の中のウナギのような、だらけた群衆に対して、駅構内に臨時で設置された壇上からガミガミと指示を出している男がいた。

 「あれがホリフリの?」

 「あーー、っとミシマ トオル?」

 スイホウは公式HPを見て答える。ホーリーフーリガンズのリーダーだ。ベンチの二人からも壇上のミシマはよく見えた。その印象はまさしく金持ったボンボン。その発する怒号も軍団を統べる人格者とは程遠いものだった。

 「これって放送されてないの?」

 シンウがスイホウに寄りかかって携帯の画面を覗く。

 「いや、まだ放送前。ちゃんと並んでから放送でしょ。ほら、スケジュールの最初に団長挨拶、ってあるから。こっから放送スタートで、完全実況。四時くらいから戦闘開始、五時に終了、六時からパーティーメンバーによる座談会ってスケジュール」

 不確定な大型戦闘を挟んでいるのに、このスケジュールのタイトさはなにか。

 「ドラゴン舐められてない?ねえ、舐められてない?」

 シンウの言葉にスイホウもクスクスと笑った。

 そんな二人の前を中年男性が叫びながら横切る。整列しない派遣冒険者たちをまとめようと虚しく声を上げていた。

 「みなさ~~~ん、ちゃんと並んでくださ~~い。並ぶのも給料のうちですよ~」

 その声になぜか聞き覚えがあったシンウとスイホウはその中年の顔を目で追った。

 この軽薄なドラゴン戦のスタッフの中に、あの男、尾地がいた。



 「尾地さん!?」

 「オジー?」

 二人が声を上げる。振り返った尾地はよくわからない笑顔を返した。

 (仕事中の忙しさ+女の子に声をかけられた喜び+まずいとこで会ったという感じ)そういうものがミックスされた中年の笑み。

 「なにしてるんですか?」

 見てわかることをシンウは聞いた。

 「あ~~~~…今日の派遣のお仕事です。一応、派遣冒険者のまとめ役、お頭なんだけどね。みんないう事聞いてくれなくてね」

 さっそく泣き言が聞こえてきた。

 「まとめ役なんてすごいですね!!さすが年の功です」

 シンウは無難なことを言って、とりあえず持ち上げてみようと努力をした。

 「いや、みんなリーダー嫌がってたら、なぜか私に回ってきちゃって…」

 派遣という仕事の辛さを察知してお互いに黙ってしまった。

 スイホウはそんな尾地を凝視している。

 この男が彼女たちパーティーの全滅の危機を救ったこと、スパイアントをたった一人で倒したことは確かであるが、パーティーメンバーは誰もその現場を見ていない。

 シンウは別の場所で待っていたし、奇襲組だった三人は、その場から退避してて見ていない。ホリーチェはその時はまだ死んで、敵の腹の中にいたので、見ていない。

 感謝はしているし、普通の中年ではないということも分かってはいるが、彼の実態、実力は未だまったくの謎なのだ。それに…今現在のこの下働きぶりからは、そんな英雄的活躍をした人間と見ることは出来なかった。

 そんなスキャンをするようなスイホウの視線を気にする様子もなく、尾地は今してる仕事の内容をペラペラと、聞かれてもいないのに話しだした。仕事の裏話をしゃべるというのは楽しいものである。



 単なる派遣の現場仕事にも関わらず、尾地はこのミッションを熟知していた。

 派遣の傭兵はたしかに百人だが、実際にはさらに先行部隊があり、現地までのルート確保、撮影クルー、通信機材の搬入などの諸々のスタッフも含めて、実際は二百人体勢であるということ。

 それを聞いただけでシンウとスイホウはさらに目を回した。「幾らかかってんだ!」

 新宿駅入り口から現場であるシンジュクギョエンまでの行程のモンスターの草刈りは済んでおり、百人同時にノンストップで到達できる。それが出来るからこその、このタイトなスケジュールなのだと。

 このミッションにホーリーフーリガンズはその資金のほとんどを費やしているため、失敗は許されない状態である。

 「たしかに成功すれば知名度が抜群になりますからね」

 シンウの感想に

 「ミシマさんにしてもこれは人生を賭けた大きなギャンブルになりますから」

 雇い主である以上、敬称を略さない尾地だった。

 「ギョエンって百人で戦えますか?」

 スイホウは百人体制の実効性が気になっていた。

 「広さは問題ないです。天井の高さも十分。実際広いですからね、ギョエンは。戦術もシンプルです。盾で防御陣を作って、その後ろから魔法と飛び道具を撃ちまくる。面白みはありませんが、確実性は高い。盾に五十、魔法二十五、弓十、残りの十五人がホリフリの実際のメンバーです」

 「魔法使いを二十五も用意したか。大した人脈だな」

 ホリーチェが突然会話に加わった。

 「あ、ホリーチェ!買い物は?」

 「諦めた。アイツに全部任せた」

 店内に残されたニイがアレもコレもと踊っている。

 シンウがホリーチェの肩をつついて教える。

 「ホリーチェ、こちらが”あの”尾地さんですよ~」

 ホリーチェは尾地の顔を見上げた。年に似合わぬ大人の笑顔。

 尾地はまた先ほどと同じ様なニマリとした笑顔。

 「どうやら私は、いや私達全員はあなたに助けられたようだ。私が・まったく・預かり知らぬところで、私たちはあなたに救われたようなので、改めて、今!この場で礼を言いたいのだが」

 「いえ、礼は派遣依頼料というお金ですでにいたただいていますので、わざわざの追加のお礼など無用ですよ」

 「そうもいくまい。金が回るだけで社会が回るわけではない、そこに心を込めなければ、人の世とは言えないでしょう」

 「いえいえ、言葉足らずでも回してみせるのが大人の社会というもの。一度の謝辞は儀礼であっても二度の謝辞は控えめな要求ともとられかねますし」

 あれ?なんか変な空気だな。シンウが気づいた。あ、この子、この中年に助けられたということが気に入ってないんだ。その雰囲気がビンビンすぎて尾地もそれに反応してしまっている。

 (この子供が~~)

 そう思ったシンウとスイホウは、ホリーチェの肩と頭を掴んで

 「たす・けて・くれ・て!あり・がとう・ござい・ました!」とブンブンと頭を上下に振った。

 そのバカバカしさにシンウが微笑むと、尾地もそれにほほえみで返してくれた。

 「おら!そこの派遣オッサン!サボってんじゃねーぞ!」

 台上のホーリーフリーガンズ団長ミシマの激が飛んできた。エントランスホール中に響くうるささだ。

 「ハイ!すみません!」

 実際サボっていた尾地は素直に詫び、シンウたちに目線だけで別れの挨拶をして、その場を立ち去った。

 残された三名のミシマに対する印象は悪くならずにはいられなかった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。

三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。 ……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」 その言葉は、もう何度聞いたか分からない。 霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。 周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。 同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。 ――俺だけが、何もできない。 反論したい気持ちはある。 でも、できない事実は変わらない。 そんな俺が、 世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて―― この時は、まだ知る由もなかった。 これは―― 妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

無能と追放された俺、死にかけて覚醒した古代秘術を極めて最強になる

仲山悠仁
ファンタジー
魔力がすべての世界で、“無能”と烙印を押された少年アレックスは、 成人儀式の日に家族と村から追放されてしまう。 守る者も帰る場所もなく、魔物が徘徊する森へ一人放り出された彼は、 そこで――同じように孤独を抱えた少女と出会う。 フレア。 彼女もまた、居場所を失い、ひとりで生きてきた者だった。 二人の出会いは偶然か、それとも運命か。 無能と呼ばれた少年が秘めていた“本当の力”、 そして世界を蝕む“黒い霧”の謎が、静かに動き始める。 孤独だった二人が、共に歩き出す始まりの物語。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...