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第二話 新宿駅 「おじさん、パリピな若者たちの尻拭いをする」
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しおりを挟むニイとホリーチェのショッピングが続いていた。
ホリーチェがダンジョンの奥底で死亡した際、彼女はほとんどの装備をロストしてしまった。それを揃えないことには再出発ができない。その買い出しが今日の目的なのだ。
命を預ける道具であるため、その選択は慎重になり時間がかかる。それに女だらけの買い物ともなればその時間が二倍から三倍になるのは避けられない。今日は一日仕事の覚悟で全員来ているのだ。
ホリーチェとしては
「前と同じのでいい」
という明確な判断基準があったのだが。対してニイは
「可愛くなくちゃ駄目」
という曖昧な基準をもちだして抗戦した。
これは長くなりそうだぞ、店先のベンチに座りながらシンウとスイホウは覚悟を新たにした。彼女たち二人も、今日はニイが張り切る日だと悟っているのだ。
昼ちかく、エントランスの騒がしさが一段上がった。冒険者たちが大量に集まりだし、整列し始めたのだ。
「なに、なに?」
シンウはスイホウの肩に頭を乗っけて尋ねる。
「あれだろ、さっきの騒がしいやつ」
「ああ、ギョエンの。フーリガンの。にしても多すぎない?」
スイホウは携帯で検索をかけて、出た画面をそのままシンウに見せた。
「ヒャクて!まじで?百人パーティ~!」
シンウは天を見上げて、ホリーチェの「金持ってるなー」の発言とスレた顔を思い出した。
「ほとんど派遣冒険者だが。でも全部でいくらだよソレ」
スイホウも呆れている。いくら強敵相手とはいえ、ここまで数と金に物を言わせるとは。これでは冒険者ではなく軍隊だ。
携帯に映っているのはホーリーフーリガンズの宣伝HP「100人パーティーでドラゴンを倒してみた!」
軽薄そのもののキャッチコピーに叫んでいるリーダーの顔がコラージュされている。重厚感のかけらもない軽薄さだ。だが、その軽薄を成立させるための予算を考えただけで二人は目眩がした。自分たちが弱小パーティーにすぎないと思い知らされる。天上界の冒険者というのが存在したのだ。これではいくら実戦派を気取っても、金満ぶりをけなしても、負け犬の遠吠えにしかならない。
おそらく年収にして百倍違う。それくらいの差はあるはずだ。
あちゃ~という感想しかでてこない二人だった。
たしかにとてつもない偉業だ。ただし、成功するかどうかは、まだわからない。
これまでも複数パーティーで連携して強敵と当たる、ということはあった。しかしそれも三十とか四十人でのことで、百は確実に限度を超えている。それをまとめて戦力にするには、冒険者とは別のスキルが要求される。
「軍師」「軍団長」という類のスキルだ。
エントランスに集まった百人はダラダラと列を作っていてその行動にまとまりは見えない。その桶の中のウナギのような、だらけた群衆に対して、駅構内に臨時で設置された壇上からガミガミと指示を出している男がいた。
「あれがホリフリの?」
「あーー、っとミシマ トオル?」
スイホウは公式HPを見て答える。ホーリーフーリガンズのリーダーだ。ベンチの二人からも壇上のミシマはよく見えた。その印象はまさしく金持ったボンボン。その発する怒号も軍団を統べる人格者とは程遠いものだった。
「これって放送されてないの?」
シンウがスイホウに寄りかかって携帯の画面を覗く。
「いや、まだ放送前。ちゃんと並んでから放送でしょ。ほら、スケジュールの最初に団長挨拶、ってあるから。こっから放送スタートで、完全実況。四時くらいから戦闘開始、五時に終了、六時からパーティーメンバーによる座談会ってスケジュール」
不確定な大型戦闘を挟んでいるのに、このスケジュールのタイトさはなにか。
「ドラゴン舐められてない?ねえ、舐められてない?」
シンウの言葉にスイホウもクスクスと笑った。
そんな二人の前を中年男性が叫びながら横切る。整列しない派遣冒険者たちをまとめようと虚しく声を上げていた。
「みなさ~~~ん、ちゃんと並んでくださ~~い。並ぶのも給料のうちですよ~」
その声になぜか聞き覚えがあったシンウとスイホウはその中年の顔を目で追った。
この軽薄なドラゴン戦のスタッフの中に、あの男、尾地がいた。
「尾地さん!?」
「オジー?」
二人が声を上げる。振り返った尾地はよくわからない笑顔を返した。
(仕事中の忙しさ+女の子に声をかけられた喜び+まずいとこで会ったという感じ)そういうものがミックスされた中年の笑み。
「なにしてるんですか?」
見てわかることをシンウは聞いた。
「あ~~~~…今日の派遣のお仕事です。一応、派遣冒険者のまとめ役、お頭なんだけどね。みんないう事聞いてくれなくてね」
さっそく泣き言が聞こえてきた。
「まとめ役なんてすごいですね!!さすが年の功です」
シンウは無難なことを言って、とりあえず持ち上げてみようと努力をした。
「いや、みんなリーダー嫌がってたら、なぜか私に回ってきちゃって…」
派遣という仕事の辛さを察知してお互いに黙ってしまった。
スイホウはそんな尾地を凝視している。
この男が彼女たちパーティーの全滅の危機を救ったこと、スパイアントをたった一人で倒したことは確かであるが、パーティーメンバーは誰もその現場を見ていない。
シンウは別の場所で待っていたし、奇襲組だった三人は、その場から退避してて見ていない。ホリーチェはその時はまだ死んで、敵の腹の中にいたので、見ていない。
感謝はしているし、普通の中年ではないということも分かってはいるが、彼の実態、実力は未だまったくの謎なのだ。それに…今現在のこの下働きぶりからは、そんな英雄的活躍をした人間と見ることは出来なかった。
そんなスキャンをするようなスイホウの視線を気にする様子もなく、尾地は今してる仕事の内容をペラペラと、聞かれてもいないのに話しだした。仕事の裏話をしゃべるというのは楽しいものである。
単なる派遣の現場仕事にも関わらず、尾地はこのミッションを熟知していた。
派遣の傭兵はたしかに百人だが、実際にはさらに先行部隊があり、現地までのルート確保、撮影クルー、通信機材の搬入などの諸々のスタッフも含めて、実際は二百人体勢であるということ。
それを聞いただけでシンウとスイホウはさらに目を回した。「幾らかかってんだ!」
新宿駅入り口から現場であるシンジュクギョエンまでの行程のモンスターの草刈りは済んでおり、百人同時にノンストップで到達できる。それが出来るからこその、このタイトなスケジュールなのだと。
このミッションにホーリーフーリガンズはその資金のほとんどを費やしているため、失敗は許されない状態である。
「たしかに成功すれば知名度が抜群になりますからね」
シンウの感想に
「ミシマさんにしてもこれは人生を賭けた大きなギャンブルになりますから」
雇い主である以上、敬称を略さない尾地だった。
「ギョエンって百人で戦えますか?」
スイホウは百人体制の実効性が気になっていた。
「広さは問題ないです。天井の高さも十分。実際広いですからね、ギョエンは。戦術もシンプルです。盾で防御陣を作って、その後ろから魔法と飛び道具を撃ちまくる。面白みはありませんが、確実性は高い。盾に五十、魔法二十五、弓十、残りの十五人がホリフリの実際のメンバーです」
「魔法使いを二十五も用意したか。大した人脈だな」
ホリーチェが突然会話に加わった。
「あ、ホリーチェ!買い物は?」
「諦めた。アイツに全部任せた」
店内に残されたニイがアレもコレもと踊っている。
シンウがホリーチェの肩をつついて教える。
「ホリーチェ、こちらが”あの”尾地さんですよ~」
ホリーチェは尾地の顔を見上げた。年に似合わぬ大人の笑顔。
尾地はまた先ほどと同じ様なニマリとした笑顔。
「どうやら私は、いや私達全員はあなたに助けられたようだ。私が・まったく・預かり知らぬところで、私たちはあなたに救われたようなので、改めて、今!この場で礼を言いたいのだが」
「いえ、礼は派遣依頼料というお金ですでにいたただいていますので、わざわざの追加のお礼など無用ですよ」
「そうもいくまい。金が回るだけで社会が回るわけではない、そこに心を込めなければ、人の世とは言えないでしょう」
「いえいえ、言葉足らずでも回してみせるのが大人の社会というもの。一度の謝辞は儀礼であっても二度の謝辞は控えめな要求ともとられかねますし」
あれ?なんか変な空気だな。シンウが気づいた。あ、この子、この中年に助けられたということが気に入ってないんだ。その雰囲気がビンビンすぎて尾地もそれに反応してしまっている。
(この子供が~~)
そう思ったシンウとスイホウは、ホリーチェの肩と頭を掴んで
「たす・けて・くれ・て!あり・がとう・ござい・ました!」とブンブンと頭を上下に振った。
そのバカバカしさにシンウが微笑むと、尾地もそれにほほえみで返してくれた。
「おら!そこの派遣オッサン!サボってんじゃねーぞ!」
台上のホーリーフリーガンズ団長ミシマの激が飛んできた。エントランスホール中に響くうるささだ。
「ハイ!すみません!」
実際サボっていた尾地は素直に詫び、シンウたちに目線だけで別れの挨拶をして、その場を立ち去った。
残された三名のミシマに対する印象は悪くならずにはいられなかった。
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