15 / 41
第二話 新宿駅 「おじさん、パリピな若者たちの尻拭いをする」
4
しおりを挟む新宿口ダンジョン第二十八層。
通称「シンジュク・ギョエン」
地底に広がる広大な空間は、枯れきった池の窪地を中心にどこまでも岩肌が広がる荒野だ。ドーム状の天井が覆いかぶさり、その天井からライトのように赤い光が降り注いでいるが、その光は弱く視界良好とはいえない薄暗闇の空間が広がっている。
その薄暗闇を切り裂くスポットライトの強い光。
ギョエンの出入り口は高さ3mほどの小さなトンネルが一本あるだけ。そのトンネル出口の前方に鉄パイプで組み立てられた櫓が立っている。高さは八mほどある。
その櫓には前方を照らすためのスポットライト、櫓の上の人物を照らすフットライト、大音量でBGMを流すスピーカーと音響装置、メインスタッフ用のドリンクバー、休憩用ソファー、応援用の巨大な旗、用途不明な巨大な槍を持った騎士のコスプレイヤー、撮影スタッフと大量の設置型カメラ
場違いなものが全て揃っていて、場違いでないものは一つもないといったという有様だった。
そのライブ会場のステージのような櫓の前には、逆に場違いと言われそうな、冒険者たちによる軍隊的な戦陣が作られていた。
五〇名の傭兵部隊を作る派遣冒険者たち、二五名の魔法使い、一五名の弓矢部隊。
傭兵たちは背丈を超える巨大な盾を構え、横三列で並んでいる。横に並ぶ盾どうしを接続し三列の巨大な盾の城壁を築いている。
その背後にいつでも射撃可能な魔法使いと弓矢部隊。即席の城塞がそこに出来上がっていた。
その後ろにパリピな櫓が立っていてる
その頂上に立ち勢い良く叫んでカメラの向こうの視聴者を喜ばせようとしているのが、本作戦の最高責任者であるチーム「ホーリーフーリガンズ」のリーダー、ミシマという男だ。
人間の壁、城壁チームの最後尾から魔術チームの方に一人の男が移動する。
城壁チームのトップ、頭を任されている尾地だ。彼は魔術チームの頭である、マキという男に近づき声をかける。
「どう?」
仕事をする者同士、同じ現場に立つ者同士の、重要な情報のやり取りの要請が、この短い一言だ。
マキは三〇代そこそこの魔法使いだが、現場歴は長く、経験と勘に優れた男だと尾地は見ていた。
「ヤバイっすね。 上、駄目っすよ」
マキはまだ若さが抜けきらない語彙で状況が悪化していることを尾地に告げた。
「私もさっきミシマさんに、もっと前に出ないと駄目だって進言したんですが、聞いてもらえなくて」
「聞かないっすよ、大軍率いる器じゃないっす。尾地さんがやったほうがまだいいですヨ」
マキは冗談のように言ったが、半分本気だ。現場を扱う、まとめるということなら、尾地の方が上だというのはすぐに分かった。とにかくミシマという男は現場を知らないし、この異常なまでの大所帯を扱いきれていない。
「来るぞー!」
前方から声が上がる。城壁チームの兵士たちがギュッとひとつにまとまる。彼らの作る人間の壁の密度と強度が上昇する。
「来るぞー」
頭である尾地やマキも声を上げ、全員に情報を行き渡らせる。その声は最後尾に立つ櫓最上段の男にも伝わる。
「防御固めろー!今度こそ倒すぞー!」
ミシマの発した無責任かつ軽薄な声がスピーカーにより大音量の命令として響き渡る。気を利かせた音響スタッフが盛り上げる効果音を鳴らす。
ホーリーフーリガンズのメンバー以外、雇われた傭兵たちは全員「無理だって」という諦めの言葉を口の外に出ないようにこらえた。
薄暗闇から、重低音が響く。
ドコドン、ドコドン
城壁チームの全員の顔色が悪くなる。
盾を構えこらえている脚が震えと振動で揺れている。
ドコドンドコドンドコドン
音は大きく近づいてくる。
尾地も人間城壁の最後尾に付き、壁の一部になる。
「来るぞー!」
尾地は叫び城壁チームの力を一つにまとめようとする。
ド!
暗闇から飛び出したのは巨大なゾウガメ。その顔は巨大なハンマーのついた龍の顔。
大きさは新幹線の車両を二台横並びにしたような巨大さ。これがこのシンジュクギョエンのヌシ。ギョエンドラゴンの姿だ。
その巨獣が走ってきた加速のまま、人間の壁に突撃した。
頭部のハンマーが盾に衝突する。
ドラゴンの口から飛び出したよだれが、にわか雨のように降り注ぐ。
崩れそうになる一列目を二列目三列目が押さえて支える。
盾を持つ傭兵たちはみなエグゾスケイルアーマーを着ている。衝撃に耐えた瞬間、その体の運動エネルギーを再イメージし、メモリーの力を使って二倍にする。一人の力が二倍になる。それを五〇人全員が同時に行った。
「ドッセイ!!」
全員が声を合わせて、盾を上に持ち上げる。この力も倍加している。頭どころか前足まで傭兵たちの上に乗り上げていたギョエンドラゴンはその体を上に弾かれて、無防備な喉元から腹を櫓に向かって晒した。
「ぅてェーー!」
魔法使いチームの頭、マキの号令により火炎魔法が一斉に巨獣の腹と首、喉元に打ち込まれる。矢も何十と放たれる。
それに怯んだように後ろに転がったギョエンドラゴンは、ドタドタと暴れた後、体をひっくり返して体勢を立て直し、闇の中に戻っていった。
ため息と冷や汗、疲労の中、再び巨獣の攻撃を跳ね返すことができた事に安堵する傭兵たち。
「ヒャッホー!おととい来やがれ~!」
その上をバカみたいに喜んでいるミシマの声が響いた。
新宿駅エントランス吹き抜け二階の喫茶店。
時間夕方は五時ごろ、一つのテーブルを長時間占拠しているのはホリーチェ、シンウ、ニウ、スイホウの四人。
彼女たちはポテトやアイスを思い思いに食べながら、それぞれの携帯に流れる「ギョエンドラゴンを倒してみた」の中継映像を見ていた。
押して引いての戦いはすでに一時間近く行われている。
駅のそこかしこで、皆がこの中継を見ているのがわかる。映像でなにか起こるたびに同じ様なリアクションがさざなみのように起きるからだ。
スイホウがもう飽きた顔で言った。
「倒せるの?これ」
画面に流れる応援チャットは、始まった当初は応援とギフトが大量に流れていたが、今ではその先行きを不安視するものが増えていた。
「私だったらもう帰ってる」
ニイは自分視点で答えた。
「でも派遣の傭兵じゃそういうわがまま言えないしね…」
シンウは画面を凝視している。
「オジサンいた?」
ニイが聞いてきたが、さっきちょろっと見えた、という返事をしてシンウは画面から目を離さなかった。
「ホリーチェだったらどう指揮する?」
スイホウが自分たちの若いリーダーに聞いた。
「私ならこんなバカ正直に戦争ごっこでモンスターとは戦わない。だいいち、こんな馬鹿騒ぎもしない」
文庫本を読み、画面には一瞥もくれず、めんどくさそうに少女は答えた。片手に紅茶のカップを持ち本を読む、絵になる美少女だ。
「あ!映った!」
突然シンウが叫んだため、ホリーチェは飲もうとした紅茶をこぼしそうになった。
0
あなたにおすすめの小説
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」
(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。
王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。
風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
九尾と契約した日。霊力ゼロの陰陽師見習いが大成するまで。
三科異邦
ファンタジー
「霊力も使えない。術式も出せない。
……西園寺玄弥、お前は本当に陰陽師か?」
その言葉は、もう何度聞いたか分からない。
霊術学院の訓練場で、俺はただ立ち尽くしていた。
周囲では炎が舞い、水がうねり、風が刃のように走る。
同年代の陰陽師たちが、当たり前のように霊を操っている。
――俺だけが、何もできない。
反論したい気持ちはある。
でも、できない事実は変わらない。
そんな俺が、
世界最強クラスの妖怪と契約することになるなんて――
この時は、まだ知る由もなかった。
これは――
妖怪の王を倒すべく、九尾の葛葉や他の仲間達と力を合わせて成長していく陰陽師見習いの物語。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
無能と追放された俺、死にかけて覚醒した古代秘術を極めて最強になる
仲山悠仁
ファンタジー
魔力がすべての世界で、“無能”と烙印を押された少年アレックスは、
成人儀式の日に家族と村から追放されてしまう。
守る者も帰る場所もなく、魔物が徘徊する森へ一人放り出された彼は、
そこで――同じように孤独を抱えた少女と出会う。
フレア。
彼女もまた、居場所を失い、ひとりで生きてきた者だった。
二人の出会いは偶然か、それとも運命か。
無能と呼ばれた少年が秘めていた“本当の力”、
そして世界を蝕む“黒い霧”の謎が、静かに動き始める。
孤独だった二人が、共に歩き出す始まりの物語。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる