今日、私は死んだ

イノナかノかワズ

文字の大きさ
1 / 1

今日、私は死んだ

しおりを挟む
 4月1日 晴れ 15℃
 
 これをあなたが読んでいるということは、私はそこにいないでしょう。
 今日はエイプリルフール。午前中だけは嘘を吐いて良いということで、私は母に彼氏ができたと言った。
 母は踊るように驚き、喜んだ。それはもう、ひどく喜んでいた。
 祝いだパーティーだと騒ぎ、流石にその喜びようが半端なかったため、エイプリルフールだと伝えたら、ものすごく落ち込んでいた。
 ……今日の私には無理だけど、これを読んでいるあなたに託す。


 4月2日 晴れ 13℃

 これをあなたが読んでいるということは、私はそこにはいないでしょう。
 昨日の彼女の日記を読み、母には悪いなと思った私は奮発してお肉を買い、母と花見をしに行った。
 だけど、どこの公園の桜の下は満席。結局、お肉は家で食べた。
 母は嬉しそうに笑っていたけれど、ちょっと悔しいと思った。
 ……今日の私には無理だけど、これを読んでいるあなたに託す。


 4月3日 曇り 14℃

 これをあなたが読んでいるということは、私はそこにいないでしょう。
 昨日の彼女の日記を読み、けど今は無理だなと思った私は二日酔いもあり、ずっとベッドで寝ていました。
 というか、起きたら夕方でした。
 ……今日の私はアレだったけど、これを読んでいるあなたはきちんと起きてください。

 
 ~~~


 4月18日 18℃

 これをあなたが読んでいるということは私はそこにいないでしょう。
 今日、仕事が上手くいき、昇進しそうです。これまでの彼女たちに感謝の意をささげるとともに、私はあなた方の礎になります。
 どうか私の屍に意味がありますように。


 4月19日 17℃

 これをあなたが読んでいるということは、私はそこにいないでしょう。
 彼氏ができました。初めての彼氏です。なんか嘘みたいです。4月1日の彼女にこれを報告できた事を嬉しかったです。
 ……今日の私には無理だけど、これを読んでいるあなたには忠告します。いいことは続かない。警戒してください。


 ~~~


 4月30日 絶望
 弟が事故にあいました。幸い、後遺症はなかったけどそれでもひどい怪我です。冷や水を浴びせられました。
 ここ最近絶頂な日々が続いていたこともあり、そのふり幅が弟に向かったと思うととても嫌になります。
 けど、これまでの彼女たちが確かに築いてきた今日は、確かな一日です。
 ……これを読んでいるあなたに言います。私たちを呪わないで。無下にしないで。どんな一日でも私と彼女たちが精いっぱい生きてきました。


 ~~~


 6月21日 雨 23℃
 じめじめのべとべとの日。たまたま朝起きたら窓に緑のカエルがくっついていました。
 ずっと動かず、今も窓にくっついています。お腹を見ていたらぷにぷにで案外可愛いのではと思い始めました。
 ……今日の私には無理だけど、もしよかったらあなたがこの子を飼ってください。愛着がわきました。


 6月22日 大雨 24℃
 ざーざーと降り注ぐ雨。昨日の彼女の言葉に従って私は緑のカエルを飼い始めました。
 というより、朝起きたら前足がはがれていて今にも落ちてしまいそうでした。風が吹いてスイーと飛んでいこうとしたため、思わず掴んでしまいました。
 ニュルっとしてました。けど、昨日の彼女のいう通り、愛着があり、可愛いと思いました。
 ……今日の私には無理だけど、これを読んでいるあなたに言います。この子の名前はミドリンコです。好きな食べ物は分かりません。


 6月23日 雨 23℃
 しとしとと雨が降ります。会社の帰りに指定していた場所で餌を受け取り、ミドリンコに食べさせました。正直、どれもパッとしませんでしたが、なぜか評価が一番低かった餌を好んで食べているようでした。
 あと、昨日の彼女に言います。ミドリンコってミジンコと間違えやすいです。もうちょっと覚えやすい名前を付けてほしかった。

 6月24日 軽く絶望
 初の彼氏と別れました。まだ、二ヶ月しか経っていないのに別れました。結構絶望しています。動く気力もなく、暗い部屋でずっと倒れていました。
 ふと、ミドリンコが目に入りました。すると、向こうが水槽から飛び出し、私の頭の上に乗りました。
 驚き慌てふためきました。愛着がわき、可愛いと思ってもカエルです。ぬめってしているんです。
 けど、いつの間にか失恋のショックはどこか消えていて、活力が湧いていました。
 ……これを読んでいるあなたに言います。このこの寿命はたぶんとっても短いけど、大切にして。私からのお願い。


 ~~~

 9月の3日 弔い
 ミドリンコが亡くなりました。朝起きたら、コテンとひっくり返ってピクリともしませんでした。冬眠したのかな?とも最初は思いましたが、そういうのに詳しい友人に見せたら亡くなっているということでした。
 私はもっと長生きすると思ってました。調べたら飼育下の寿命は七年ほどと書いてあったから。
 けど、その友人がいうにはそもそも年老いたカエルだったのではと言っていた。窓にずっと張り付き、前足がはがれても跳ぶ様子もなかったから。
 悲しいし、むなしいし、ポカンとしていた。
 けど、これまでの彼女たちを読み返していたら、これまでのミドリンコとの日々が嘘ではないと実感した。
 これからは無理だけど、これまでを大切にしたいと思った。そしてこれからも。




 Φ




「よし、今日はこれでいいかな」

 私はいつも通り日記を書き、ベッドに横になった。
 そして私は部屋の電気をスマホで消して、目を瞑った。

「じゃあね、今日の私。そしてよろしくね、明日の私」

 今日の私はここで死ぬのだ。





======================================
 読んでくださりありがとうございます!
 少しでも何かを感じてくださったのならば、お気に入り登録や応援、感想などをお願いします! 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

悪役令嬢(濡れ衣)は怒ったお兄ちゃんが一番怖い

下菊みこと
恋愛
お兄ちゃん大暴走。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...