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第15話 シャーロットの思惑通り

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 時間は少し前に戻る。

 クラリス特別講義が終わり、生徒たちには自由時間が与えられた。

 クラリスに会えたという興奮がおさまらないのか、大講堂の直ぐ近くには大勢の生徒たちが集まり、思い思いに話していた。

 そんな人込みの中、エドガーはシャーロットを探していた。

 というのも、シャーロットはスザリオン伯爵令嬢であり、昨日、挨拶ができなかった二人内の一人である。ちなみに、もう一人はバンボラだ。ただ、エドガーはバンボラに見切りをつけているが。

「魔力と気配はあの時覚えたから……」

 入学式の時に覚えたシャーロットの魔力と気配を探しながら、人込みを抜けていく。

 途中で、何人かの令嬢に声を掛けられたが、用事があるからと断りつつ、人込みを抜けて学園を歩いたエドガーはようやくシャーロットの魔力と気配を捉え、そちらへと向かう。


 そこは大図書館だった。

 エドガーはシャーロットを見失わないように急いで大図書館に入ると、り口の直ぐ近くの受付で座っていた猫獣人の司書に呼び止められた。

「学生証の提示をお願いいたします」
「あ、はい。分かりました」

 シャーロットの魔力と気配に意識を向けつつ、エドガーは学生証を懐から取り出し、猫獣人の司書に渡す。

「……エドガー・マキーナルト様ですね」
「あ、はい」

 受け取った学生証を見て、司書は一瞬だけ目を見開き猫耳をピンっと立てたが、直ぐに来館管理表に筆ペンでエドガーの名前を書き記す。

 猫獣人の司書がエドガーに学生証を返す。

「学生証、ありがとうございます。それで、エドガー様は当館のご利用が初めてですね」
「あ、はい」
「では、当館のご利用に関して、いくつか説明させていただきます」
「え」

 エドガーは困った声を上げる。猫獣人の司書が首を傾げた。

「どうかいたしましたか?」
「あ、いえ」
「そうですか。では、まず、当館の開館時間について、ご説明します」

 ああ、逃げられない。

 そう悟ったエドガーは粛々と猫獣人の司書の説明を聞いた。

 そして十分近く、大図書館の利用ルールやどのように本が分類されているか。普段の勉強エリアの利用方法や試験期間のおける利用変更など。

 猫獣人の司書から大まかに説明された。

「他に分からないことや、探している書物などがございましたら、お気軽に声をかけてください。では、ルールを守り、当館をご利用ください」
「……ありがとうございます」

 焦る心を抑えて、エドガーは猫獣人の司書に頭を下げる。シャーロットの所へと足を進める。
 
「いた」

 シャーロットは六冊の本を抱えながら、つま先立ちして本棚の高いところにある本を取ろうとしていた。

 身なりを見直して整えたエドガーはシャーロットに近づく。シャーロットが取ろうとしていた本を手に取り、シャーロットに差し出す。

「これですか」
「……ありがとう」

 不審に顔をしかめながらも、シャーロットは差し出された本を受け取り、エドガーに軽く頭を下げる。

 それからシャーロットは逃げるようにその場を離れようとするが、

「シャーロット嬢。この後、少しお時間よろしいですか?」
「……アナタ、誰?」

 警戒するようにシャーロットは顔をしかめた。

 それを見て、エドガーは内心安堵した。

「あ、これは失礼。申し遅れました。私はエドガー・マキーナルトとお申します。本当は昨日挨拶に伺うはずだったのですが、シャーロット嬢が見当たらず……」
「……ああ。そういえば、昨日、寮でそんな話聞いた」

 ボソリとフラットに呟いたシャーロットは、それから少し考えこんだ後、

「……持って」
「え?」
「……私に用事なんでしょ? 持ってくれたら早くその用事を済ませられる」
「あ、はい」

 声量は大きくない。というか、小さい。しかし、有無を言わせない強い意志が丸眼鏡の奥底の瞳に宿っていて、エドガーは流されるままにシャーロットが持っていた本を受け取る。

「重っ」
「……ついてきて」

 思っていた以上に重かった本を落とさないように抱えなおしたエドガーを一瞥し、シャーロットはスタスタと大図書館を歩く。

 それから五冊、シャーロットは図書館を歩き回って手に取り、エドガーに渡した。どんどんと追加される分厚い本にエドガーは僅かばかり頬を引きつらせながら、粛々とシャーロットについていく。

「……借りる」
「かしこまりました」

 そして受付でシャーロットは本を借りる手続きをした。

「では、こちらの二冊は一週間後。こちらの四冊は二週間後。残りは三週間後です。それと、貸出期限を守らなかったり、本を破損させた場合は弁償をしていただきます。もし警告に従わない場合は王家――」

 基本、本は貴重だ。魔法筆記により、それなりに増刷されてはいるものの、あくまでそれらは人気の書物だけ。

 それこそ、書物の貸し出しができるようになったのは、現国王であるオリバー王が学業に対して力を入れ始めてから。

 大図書館にある程度お金が回ってきたため、スペアの書物を買えるようになり、貸し出しが可能となったのだ。

 なので司書は口酸っぱく言おうとして、シャーロットが強く頷く。

「……分かっている」
「……では、くれぐれも取り扱いには気を付けてください」
「……ん。ありがとう」

 十一冊の本を軽々と受け取り、シャーロットは司書に軽く頭を下げる。ポケットから折りたたんだ布の手提げバッグを取り出し、受け取った本をそこに入れる。

 そして手提げバックを持ったシャーロットはスタスタと大図書館を出た。エドガーも慌ててついていく。

 すると、入り口を出たところ付近でシャーロットがエドガーに振り返る。

「……本、持ってくれてありがとう、助かった」
「いえいえ、どういたしまして。それでなのですが……」

 荷物持ちをするために来たのではない。

 そう思ってシャーロットに要件を切り出そうとしたのだが、

「……ちょっと待って。ついてきて」
「え。あ、はい」

 エドガーの言葉を遮って、シャーロットは歩き出す。

(……なんというか、ぼそぼそとしゃべって入学式の時とは雰囲気がちげぇなと思ったが、こう有無を言わせないというか、意志が強いというか。っつか、何考えてんのか全くわからねぇ)

 そう思いながら、エドガーはシャーロットの後をついていった。


 Φ


 シャーロットの後ろをついていくこと、十分近く。エドガーたちは中等学園の学生寮前まで来ていた。

 シャーロットがエドガーに振り返る。

「……それで、私に何の用?」
「ええっとですね……」

 張り付けた笑みを浮かべながら、エドガーは頬を引きつらせる。

 というものの、

「なんだなんだ?」
「どうして、二人が一緒にいるのかしら?」
「なぁ、どうなってるんだ?」

 大講堂から学生寮に戻ってきた生徒たちと鉢合わせになり、野次馬されていたのだ。

 シャーロットはまったく気にした様子もない。

「……用事がないなら、もういい?」
「あ、あります、あります」

 挨拶をするにはあまり良い状況とはいえないが、仕方がない。そう割り切り、エドガーは慌てて懐から小包を取り出す。

 それをシャーロットに差し出しながら、洗練された礼をする。

「改めまして、エドガー・マキーナルトと申します。シャーロット嬢。今後、三年間、よろしくお願いいたします。それとほんの心ばかりのものですが、受け取ってください」
「……ん。それで、これ、開けていい?」
「え、あ、まぁ」

 奪うように小包を受け取ったシャーロットは丁寧に小包を剥いでいく。

 通常、贈り物を貰ったその場で中身を開けるのはどうかと、思ったのだが、エドガーは頷くしかない。

「……やっぱり」
「え?」

 小包を剥いだ中身を見たシャーロットは溜息を吐く。小包の中身は緑と青に輝く鉱石だった。

 そして次の瞬間、

「ねぇ、あれって」
「まさか?」
「でも、銀砂糖の海に溺れてで」
「本当なの?」

 周囲にいた野次馬、特に女性たちが大きくざわめきだした。

 
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