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蛇足
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「じゃあね」
「またね」
来年には中学生となる少女は、紅葉が彩る神社の前で友達と別れる。
「ふぅ」
去っていく友達の背を見送った少女はランドセルの重さに溜息を吐きながら、鳥居につながる長い階段を見上げる。
少女は神社の生まれだ。
有名な神社でもないし、大したご利益もない。ちっぽけな山神を祀る神社だ。
その山神は古事記や日本書紀には一切出てくることはなく、地方の民俗にも出てこない。この土地だけの神様。
十年前くらいまではもう少し離れた限界集落に本社があり、少女の実家は末社だったのだが、巨大災害により限界集落の直ぐ近くにあった山が崩壊。
村人は少女と同じくらいの年齢の少年を残し、全員が亡くなったらしい。本社も再建不可能になり、結果として少女の実家が本社としてなっている。
「ああ。つまんない」
しかし、少女にとってはそんなことはどうでもよかったりする。
神様なんているはずもないし、神社を継ぐ気もない。
そもそも、その巨大災害に尾ひれがつき、その神社は厄災の神様を祀るとして、恐れられているし。
「あ」
階段を登り、溜息を吐いた少女は見つけた。
狐だ。
「綺麗だ」
先ほどまで灰色だった世界が少しだけ色づく。
紅葉よりも美しく映える純白の毛並み。澄んだ黄金の瞳。
世にも珍しく、いっそ神秘さえ感じるその白狐が静かに少女を見つめていた。
その瞬間、
「ミタマノミョウブ……」
少女がポツリと漏らした。
「え?」
そして少女は困惑した。
無意識に知らない『名前』が口からでてきたから。
白狐が悠然と落ち葉を踏みしめながら、少女へ近寄る。
「……お前の名前なのか?」
「ワン」
足にすりすりと体をこすり付ける白狐に少女は直感的に尋ねれば、白狐は「そうだ」と言わんばかりに頷く。少女を見上げる。
その黄金の瞳には驚くほどの理知の光があった。
すると、白狐はさっと翻り、少女に背を向ける。社の方へ歩き出した。
「あ、待て」
少女は慌てて白狐を追う。
見慣れていたはず参道を優雅に静かに歩く真っ白な狐は、しゃなりしゃなりと落ち葉を踏みしめる。
秋の優しい夕日が真っ白な毛並みに反射して、きらきらと輝いている。
けれど少女は、
「夜の方が綺麗だろうに」
そうつぶやく。
また首をひねる。なんでそう思ったのか。まるで、以前からこの白狐を知ってるような言いぶりのような……
少女は既視感と違和感に眉をひそめながら、白狐を追いかけた。
そして、本殿前。
「久しぶり、ミタマノミョウブ」
「あ」
そこには一人の青年がいた。参拝が終わり、白狐に振り返っていた。
少女は声を漏らす。
まるで足りなかったピースを見つけたかのように。かつてなくした宝物を見つけたかのように。
朗らかな微笑み。平凡で、それでいて柔らかな顔立ち。声は穏やかで、背筋は凛と伸びていた。
白狐を撫でるその手は、少し大きくそれでいて温かみがあって。
けど、それは少女の目には入らなかった。
少女の世界に映っていたのは瞳。優しく澄んだ黒の瞳。
少女は動けない。
呼吸も瞬きもできず、止まっていた。青年に全てを奪われていた。
「あら帰ってきたのね。それで帰ってきて急だけど彼――」
「どうしても家で働きたい――」
どうやらその青年は新しく雇った神職の人らしく、見習いだとか。
だが、少女は両親のその言葉が聞こえていなかった。
「ッ」
白狐――ミタマノミョウブが少女を見やった。その黄金の瞳は『約束を果たせ』と言っていた。
少女は走り出した。
青年に飛び込む。
「おっと」
両親の動揺する声も少女にとっては雑音でしかない。
少女は無垢でなくなったその瞳で青年の黒の瞳を見つめた。
そして、
「――」
かつて神として果たせなかった約束を、その返事を告げた。
======================================
読んでくださり有難うございます。
「またね」
来年には中学生となる少女は、紅葉が彩る神社の前で友達と別れる。
「ふぅ」
去っていく友達の背を見送った少女はランドセルの重さに溜息を吐きながら、鳥居につながる長い階段を見上げる。
少女は神社の生まれだ。
有名な神社でもないし、大したご利益もない。ちっぽけな山神を祀る神社だ。
その山神は古事記や日本書紀には一切出てくることはなく、地方の民俗にも出てこない。この土地だけの神様。
十年前くらいまではもう少し離れた限界集落に本社があり、少女の実家は末社だったのだが、巨大災害により限界集落の直ぐ近くにあった山が崩壊。
村人は少女と同じくらいの年齢の少年を残し、全員が亡くなったらしい。本社も再建不可能になり、結果として少女の実家が本社としてなっている。
「ああ。つまんない」
しかし、少女にとってはそんなことはどうでもよかったりする。
神様なんているはずもないし、神社を継ぐ気もない。
そもそも、その巨大災害に尾ひれがつき、その神社は厄災の神様を祀るとして、恐れられているし。
「あ」
階段を登り、溜息を吐いた少女は見つけた。
狐だ。
「綺麗だ」
先ほどまで灰色だった世界が少しだけ色づく。
紅葉よりも美しく映える純白の毛並み。澄んだ黄金の瞳。
世にも珍しく、いっそ神秘さえ感じるその白狐が静かに少女を見つめていた。
その瞬間、
「ミタマノミョウブ……」
少女がポツリと漏らした。
「え?」
そして少女は困惑した。
無意識に知らない『名前』が口からでてきたから。
白狐が悠然と落ち葉を踏みしめながら、少女へ近寄る。
「……お前の名前なのか?」
「ワン」
足にすりすりと体をこすり付ける白狐に少女は直感的に尋ねれば、白狐は「そうだ」と言わんばかりに頷く。少女を見上げる。
その黄金の瞳には驚くほどの理知の光があった。
すると、白狐はさっと翻り、少女に背を向ける。社の方へ歩き出した。
「あ、待て」
少女は慌てて白狐を追う。
見慣れていたはず参道を優雅に静かに歩く真っ白な狐は、しゃなりしゃなりと落ち葉を踏みしめる。
秋の優しい夕日が真っ白な毛並みに反射して、きらきらと輝いている。
けれど少女は、
「夜の方が綺麗だろうに」
そうつぶやく。
また首をひねる。なんでそう思ったのか。まるで、以前からこの白狐を知ってるような言いぶりのような……
少女は既視感と違和感に眉をひそめながら、白狐を追いかけた。
そして、本殿前。
「久しぶり、ミタマノミョウブ」
「あ」
そこには一人の青年がいた。参拝が終わり、白狐に振り返っていた。
少女は声を漏らす。
まるで足りなかったピースを見つけたかのように。かつてなくした宝物を見つけたかのように。
朗らかな微笑み。平凡で、それでいて柔らかな顔立ち。声は穏やかで、背筋は凛と伸びていた。
白狐を撫でるその手は、少し大きくそれでいて温かみがあって。
けど、それは少女の目には入らなかった。
少女の世界に映っていたのは瞳。優しく澄んだ黒の瞳。
少女は動けない。
呼吸も瞬きもできず、止まっていた。青年に全てを奪われていた。
「あら帰ってきたのね。それで帰ってきて急だけど彼――」
「どうしても家で働きたい――」
どうやらその青年は新しく雇った神職の人らしく、見習いだとか。
だが、少女は両親のその言葉が聞こえていなかった。
「ッ」
白狐――ミタマノミョウブが少女を見やった。その黄金の瞳は『約束を果たせ』と言っていた。
少女は走り出した。
青年に飛び込む。
「おっと」
両親の動揺する声も少女にとっては雑音でしかない。
少女は無垢でなくなったその瞳で青年の黒の瞳を見つめた。
そして、
「――」
かつて神として果たせなかった約束を、その返事を告げた。
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読んでくださり有難うございます。
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