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死因を探ります
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「もうCM終わるよ~!戻して!」
「喋れるようになった途端うるさくなったな……」
雄吾はザッピング癖がある。CMが始まるとすぐにチャンネルを変えられてしまうので、見ていた番組のCM開けが見られない、なんてことはざらだった。私はリモコンには触れないので雄吾にチャンネル変えてもらう以外にできることはないのだ。
「……お前、成仏する気あんの?」
「あるよ!無いように見える⁉」
「だって、あれ以来セックスさせてくれないだろ」
「……それは、だって、シても、成仏できそうにないし……」
俯いてぽそぽそ言っていると、雄吾はニヤニヤと私を見下ろして来た。エロオヤジみたいな手つきで触ってきたからその手をぺち、と叩く。
私は結局成仏はできず、部屋からも出られず、ただ喋れるようになっただけでまだこの部屋にいた。あれからもう一週間は経っている。
雄吾は、相変わらずのダメ男っぷりだ。毎日昼過ぎに起きてきてダラダラしながらご飯を食べて、ごろんと横になって昼間っから缶ビールを飲みながらテレビを見る。日が落ちると冷蔵庫の中身を見て、何もないと舌打ちして外に出て行って、使いまわしのコンビニ袋にお弁当入れて帰って来る。たまに丸一日とか、夜通しとかで、日雇いの仕事に行く。
変わったのは、出かける前に私に一言かけるようになったことと、私にべたべたするようになったことだ。いや、前からも触ってきてたけど、なんと言うか……前と違う感じがする。
「う、うぅ、まだ要に連絡しないの?」
「何かあったらあっちから来るだろ」
「要は成仏できなかったら連絡しろって……んむ」
言い終わらないうちにキスされる。最近いつもこんな感じだ。私に話しかける隙を与えないくらいに、キスしてくる。おかげで私には体温がないのに唇だけいつも熱を持っているようだ。
まずい、流される、と思ったところで、玄関のチャイムが鳴る音がした。
雄吾はチッと舌打ちをして立ち上がる。
「今日は絶対ヤるからな」
「ひぃっ……」
何で幽霊の私が人間の雄吾に怯えてるんだ……。雄吾は私を一睨みしてから、ドアを開けた。
「げっ……」
「成仏しなかったら連絡しろと言っただろうが」
やってきたのは、要だった。
何を考えているかわからない澄ました顔の要とむすっとしている雄吾が部屋に戻ってきて、私はなんとなく正座する。
「ど、どうも……」
ぺころ、と頭を下げると要がわずかに目を見開いた。
「本当にヤったのか」
「おう」
「そうか……」
要にじっと見られて、なんだかもぞもぞしてしまう。要の目はデッサンする時にモデルを見つめるような、全く温度のないものだった。
「よっぽど強い未練があるのだろう」
「未練……」
「心当たりはないのか」
未練。未練か……。うーん。家族とは仲が悪かったし、一度恋人を作ってみたかったし、あとは、まぁ、色々あるけど、強いかと言われるとそうでもない。
うんうんと頭を悩ませても思い浮かばないので、はっきり言った。
「ないです」
「……もう少し考えたらどうだ」
あきれたように言う要にむっとするが、成仏したがっているのは私である。
「あ、私、どうやったか死んだかわかってないんですよね」
「……何?」
私は自分の死に方を覚えていない事を話すと、要は考え込むようにして黙ってしまった。何か問題あったのかな、と雄吾にも視線を移すと、雄吾も難しい顔をしている。
「病気にかかっていたとかではなく?」
「はい」
「……では、なぜ自分が幽霊だとわかった?」
「鏡に姿が映ってなかったのと、あとは声とか、自分の格好とかで」
「……普通、死んだ記憶のない霊は、自分が幽霊だという自覚はない」
「へえ?」
「だから、お前はおかしい」
「ええ?」
いかにも怪しい自称霊媒師におかしいと言われて傷つくはずもなく、むしろ腹立たしい気分になる。しかし要は気にせず話を続けた。
「普通、死んだ記憶がないと、霊はこの世を彷徨い、悪霊と化し、生きた人間を呪うようになる」
「へー、本当にそういうことあるんだぁ」
ホラー映画とかの中だけじゃなくて現実でもあるんだなぁ、でも要は怪しいから本当じゃないかもなぁ、と思っていると、要は「本当に自分が幽霊だと自覚あるのか?」と眉間に皺を寄せた。……確かに、自分が一番のホラーだったわ。
「だから、お前に霊としての自覚があるのは、本当は死んだ理由がわかっているからか、外因があるからかのどちらかだ」
「外因」
「おそらく、お前がこの部屋から出られないのと何か関係があると思う」
なるほどわからん。
一応真剣な顔を作っておいたがそう思っていることがバレたのか、要は胡乱げな目で私を見て来た。思わず助けを請うように雄吾に視線をやるけど、雄吾は冷蔵庫の前で「ゲッ酒がねえ」と顔をしかめていた。アル中め。
「まぁ、お前の死因を知るのが一番早いだろう」
「あの、要はお金貰って霊媒師の仕事やってるんじゃないの?私、お金持ってないけど……」
「給料は協会から貰ってるのであって個人と金銭のやり取りがあるわけではないからいい」
「協会があんの⁉」
「一応公務員だ」
「公務員⁉そんな怪しいのに⁉」
「…………」
ぎろりと睨んでくる要に、下手な口笛を吹いてごまかした。……まだ呻き声しか出ない時に口笛吹いたら、どうなってたのかな。試しとけばよかった。
「喋れるようになった途端うるさくなったな……」
雄吾はザッピング癖がある。CMが始まるとすぐにチャンネルを変えられてしまうので、見ていた番組のCM開けが見られない、なんてことはざらだった。私はリモコンには触れないので雄吾にチャンネル変えてもらう以外にできることはないのだ。
「……お前、成仏する気あんの?」
「あるよ!無いように見える⁉」
「だって、あれ以来セックスさせてくれないだろ」
「……それは、だって、シても、成仏できそうにないし……」
俯いてぽそぽそ言っていると、雄吾はニヤニヤと私を見下ろして来た。エロオヤジみたいな手つきで触ってきたからその手をぺち、と叩く。
私は結局成仏はできず、部屋からも出られず、ただ喋れるようになっただけでまだこの部屋にいた。あれからもう一週間は経っている。
雄吾は、相変わらずのダメ男っぷりだ。毎日昼過ぎに起きてきてダラダラしながらご飯を食べて、ごろんと横になって昼間っから缶ビールを飲みながらテレビを見る。日が落ちると冷蔵庫の中身を見て、何もないと舌打ちして外に出て行って、使いまわしのコンビニ袋にお弁当入れて帰って来る。たまに丸一日とか、夜通しとかで、日雇いの仕事に行く。
変わったのは、出かける前に私に一言かけるようになったことと、私にべたべたするようになったことだ。いや、前からも触ってきてたけど、なんと言うか……前と違う感じがする。
「う、うぅ、まだ要に連絡しないの?」
「何かあったらあっちから来るだろ」
「要は成仏できなかったら連絡しろって……んむ」
言い終わらないうちにキスされる。最近いつもこんな感じだ。私に話しかける隙を与えないくらいに、キスしてくる。おかげで私には体温がないのに唇だけいつも熱を持っているようだ。
まずい、流される、と思ったところで、玄関のチャイムが鳴る音がした。
雄吾はチッと舌打ちをして立ち上がる。
「今日は絶対ヤるからな」
「ひぃっ……」
何で幽霊の私が人間の雄吾に怯えてるんだ……。雄吾は私を一睨みしてから、ドアを開けた。
「げっ……」
「成仏しなかったら連絡しろと言っただろうが」
やってきたのは、要だった。
何を考えているかわからない澄ました顔の要とむすっとしている雄吾が部屋に戻ってきて、私はなんとなく正座する。
「ど、どうも……」
ぺころ、と頭を下げると要がわずかに目を見開いた。
「本当にヤったのか」
「おう」
「そうか……」
要にじっと見られて、なんだかもぞもぞしてしまう。要の目はデッサンする時にモデルを見つめるような、全く温度のないものだった。
「よっぽど強い未練があるのだろう」
「未練……」
「心当たりはないのか」
未練。未練か……。うーん。家族とは仲が悪かったし、一度恋人を作ってみたかったし、あとは、まぁ、色々あるけど、強いかと言われるとそうでもない。
うんうんと頭を悩ませても思い浮かばないので、はっきり言った。
「ないです」
「……もう少し考えたらどうだ」
あきれたように言う要にむっとするが、成仏したがっているのは私である。
「あ、私、どうやったか死んだかわかってないんですよね」
「……何?」
私は自分の死に方を覚えていない事を話すと、要は考え込むようにして黙ってしまった。何か問題あったのかな、と雄吾にも視線を移すと、雄吾も難しい顔をしている。
「病気にかかっていたとかではなく?」
「はい」
「……では、なぜ自分が幽霊だとわかった?」
「鏡に姿が映ってなかったのと、あとは声とか、自分の格好とかで」
「……普通、死んだ記憶のない霊は、自分が幽霊だという自覚はない」
「へえ?」
「だから、お前はおかしい」
「ええ?」
いかにも怪しい自称霊媒師におかしいと言われて傷つくはずもなく、むしろ腹立たしい気分になる。しかし要は気にせず話を続けた。
「普通、死んだ記憶がないと、霊はこの世を彷徨い、悪霊と化し、生きた人間を呪うようになる」
「へー、本当にそういうことあるんだぁ」
ホラー映画とかの中だけじゃなくて現実でもあるんだなぁ、でも要は怪しいから本当じゃないかもなぁ、と思っていると、要は「本当に自分が幽霊だと自覚あるのか?」と眉間に皺を寄せた。……確かに、自分が一番のホラーだったわ。
「だから、お前に霊としての自覚があるのは、本当は死んだ理由がわかっているからか、外因があるからかのどちらかだ」
「外因」
「おそらく、お前がこの部屋から出られないのと何か関係があると思う」
なるほどわからん。
一応真剣な顔を作っておいたがそう思っていることがバレたのか、要は胡乱げな目で私を見て来た。思わず助けを請うように雄吾に視線をやるけど、雄吾は冷蔵庫の前で「ゲッ酒がねえ」と顔をしかめていた。アル中め。
「まぁ、お前の死因を知るのが一番早いだろう」
「あの、要はお金貰って霊媒師の仕事やってるんじゃないの?私、お金持ってないけど……」
「給料は協会から貰ってるのであって個人と金銭のやり取りがあるわけではないからいい」
「協会があんの⁉」
「一応公務員だ」
「公務員⁉そんな怪しいのに⁉」
「…………」
ぎろりと睨んでくる要に、下手な口笛を吹いてごまかした。……まだ呻き声しか出ない時に口笛吹いたら、どうなってたのかな。試しとけばよかった。
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