NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁

文字の大きさ
16 / 80
第四章 12歳

15 サンヌルの王女

しおりを挟む
「ようこそ、お戻りになられました、旦那様」

 屋敷に入った父さんを、銀髪の老執事が出迎えた。
 この世界では髪の色は精霊の加護に影響されるが、白髪になってしまえば関係ない。肌が浅黒いから、ジト(火)かホド(地)かヌル(闇)なんだろうけどな。

「お世話になります、セルゲイさん」

「セルゲイで結構ですよ。国王陛下から、エリオス様がいらっしゃる間はエリオス様を主人と思ってお仕えせよと申し付けられておりますので」

「じゃあ、よろしく、セルゲイ。
 ミスラは、セルゲイのことは知ってたね?」

「ええ、よろしく、セルゲイ」

「こちらこそよろしくお願いします、ミスラ奥様」

 母さんが会釈し、セルゲイさんが礼を返す。

 父さんは俺に向き直り、

「エリアック、この方はセルゲイさん。つい最近まで王家の執事長を務めておられた方だ。僕らがラングレイに滞在するあいだ、屋敷と僕たちの世話を見てもらえることになってる」

「ほっほっほ。執事長はもう引退いたしました。いまはただの老いぼれですよ。もっとも、そのおかげで救国の英雄であるブランタージュ伯のお役に立てるわけですがな。
 エリアック坊っちゃま。短い間ではございますが、何かございましたらこのセルゲイめに遠慮なく申し付けてくだされ」

「うん、よろしく、セルゲイさん」

 俺はそう言って会釈する。

 父さんはこの王都の別邸をあまり使ってないそうで、普段は最低限の管理人しか置いてないらしい。
 かといって、急にしかるべき人を見つけるのも難しい。
 そこで、国王陛下が気を利かせて、セルゲイさんを紹介してくれたというわけだ。
 もう退役したとはいえ、王家の執事長を務めたというから、使用人の立場であっても、へたな貴族より影響力がありそうだ。

「長旅でお疲れでしょう。部屋は整えておりますゆえ、まずはゆっくりおくつろぎくださいませ」

 セルゲイさんの勧めに従い、俺たちは各自の部屋に向かうことにした。





 俺の部屋は二階の玄関側で、屋敷の正面を窓から見下ろすことができた。
 そろそろ夕食どきかなと思ってると、門の前にやたら豪華な馬車が乗り付けられた。
 馬車の前後には、白馬にまたがった騎兵が何人もいる。

 金の縁取りのされた豪華な馬車の側面には、俺にも見覚えのある紋章がかけられていた。
 この国でもっとも有名な紋章だ。

 先触れの騎士に声をかけられた門番が、平身低頭で応対し、やがて大急ぎで屋敷の中へ飛び込んできた。

 ほどなくして、俺の部屋の扉がノックされた。
 父さんの声が聞こえてくる。

「エリアック! お客さんが来た。一緒に来てくれ」

「わかった、父さん」

 俺は、緩めていた襟を直しながら廊下に出る。
 父さん、母さんと合流し、階下に向かう。

 父さんは急ぎ足でホールを横切ると、玄関扉を開けて前庭に出る。

 前庭にはすでに豪華な馬車が停まっていた。

 馬車の扉が開く――かと思ったら、近くにいた鼓笛隊みたいな格好の騎士が、パラッパラッパラー!と金管楽器を吹き鳴らす。

「「「国王陛下の、おなーりー!」」」

「おいおい、そこまではせんでいい。大げさにはしたくねえんだ」

 扉を自分で押し開き、中からいかつい大男が現れた。

 金の王冠やびろうどのマント、といった王様専用のアクセサリーを身につけてはいるが、そんなものより中の人物のほうが特徴的だ。

 大柄で筋骨たくましい身体。黒い髪と黒い肌。いたずらに成功した子どもみたいな豪快な笑み。

「はっ! 失礼いたしました!」

 鼓笛隊が男に敬礼をする。

「いいっていいって。よかれと思ってやったことだ」

 前情報では、父さんと同年齢って話だったが、優男の父さんと比べると、四十くらいのおっさんに見える。

 父さんが、国王相手にしか使わない、深いお辞儀をしてから言った。

「ようこそ、おいでくださいました、サルゴン陛下」

「なぁに堅苦しいこと言ってやがるエリオ! 俺とおまえの仲だろうが!」

「来るなら来るで、先触れくらい出してくださいよ。僕はともかく、妻は身支度もあるんですよ?」

「ミスラさんは、もともと身なりを気にしねえさっぱりしたいい女じゃねえか。
 あんまり仰々しくはしたくなかったんで、セルゲイにだけ含んでおいていきなり来てやったってわけよ。王様のこの気遣いがわからんもんかなぁ?」

「気を使うなら使うで、もっと徹底して忍んで来てほしかったですよ。これ、明日には近所中の話題になってますよ? ただでさえ肩身が狭いっていうのに……」

「なに情けねえこと言ってやがる! おめえは救国の英雄なんだ、おまえがデンと構えてなくちゃ、他の貴族に示しがつかんだろうが。
 って、んなこたぁどうでもいいんだよ!
 エリオ、ひさしぶりだなぁ、おい! 何年ぶりだ!?」

「戦役の後以来ですから、三年ですかね」

「そん時も園遊会に顔を出しもしねえ、せっかくの息子を見せにもこねえ。俺も冷たい友だちを持ったもんだぜ」

 王様と父さんが、やったら馴れ馴れしい感じで話し出した。
 大丈夫か、こんなの。

 さすがの母さんも、相手が国王陛下とあって口を挟めないでいる。

 セルゲイさんが顔をのぞかせ、王様に言った。

「陛下。そのようなところで立ち話もなんでしょう。お食事の準備は整っておりますゆえ、食堂にお越し願えませんか?」

「おう、行く行く。腹が減ってんだ。
 と、その前に……ミスラさんはあいかわらず美人だな」

「どうも、サルゴン陛下。ご無沙汰しております」

 母さんが外行きの顔でそう言った。

 王様が視線を下ろし、今度は俺のほうを見る。

「こいつが、おめえらの子どもか。エリアックとか言ったっけ。なかなか賢そうな面構えをしてやがんな。両親とも美男美女とか、おめえ、ちょっと恵まれすぎなんじゃねえの?」

 王様が、返しに困る絡み方をしてきた。
 言ってることには、まったく同感なんだけどな。
 この夫婦の間に生まれた時点で、容姿の面でだけは勝利が約束されてたようなもんだ。
 神話のナルシスじゃないが、最近は鏡に映った自分の顔を見て「これが俺? マジに?」と思うこともある。

 もちろん、そんな素振りを見せては顰蹙を買うどころの話じゃない。
 前世でフツメンだった俺は、イケメンがどれだけ同性から煙たがられるかを身に染みて知ってるからな。

「お初にお目にかかります、サルゴン陛下。ブランタージュ伯エリオスが息子、エリアック=サンヌル=ブランタージュと申します」

 俺は事前に母さんに仕込まれた通りにお辞儀する。

 俺の名乗りに、王様はあごひげを無骨な指で撫でながら言った。

「サンヌル、か。これから苦労も多いだろうが、何も魔法だけが人生じゃねえや。この二人の子どもなら、きっと魔法以外だって優秀だろう。腐らず行こうや、な?」

「は、はぁ……ありがとうございます」

 なんか、情に厚い親戚のおっちゃんみたいな人だな。
 そんな親戚いたことないけど。

「おい、おまえも挨拶しろい」

 王様が馬車の中に声をかける。

「お、お父様はやることなすこと急すぎます……」

 か細い声でそう答えながら、馬車から一人の女の子が降りてきた。

 その子を見て、俺はおもわず息を呑んだ。

 黒いつややかな髪と、闇色の瞳。
 抜けるように白い肌。
 オフホワイトのブラウスと紫のロングスカートという出で立ちは、いかにも清楚で奥ゆかしい。

(うわっ……かわいいな)

 少女の顔だちは、職人の手になる人形のように整っていた。
 小柄で華奢な身体は、そろそろ子どもとばかりも言えないが、まだ大人とも言うのも早すぎる。
 十代前半の少女にしかない、やがてはなくなる儚さが、目の前の美少女を薄いヴェールのように包んでる。

 さいわいなことに、父親にはあまり似なかったらしい。
 王女ともなれば、幼くても公職者としてのふるまいを求められるはずだが、少女の物腰はどこかおどおどとしてて危なっかしい。

「きゃっ」

「おっと」

 ふらつきながら馬車から降りた少女を、父親の無骨な腕が受け止めた。

「あ、ありがとうございます、お父様」

「それより、英雄殿とそのご家族に挨拶してやれ」

「そ、そうでした」

 王女が名乗りを上げる前に、父さんが優雅に礼をした。

「ローゼリア王女。ようこそおいでくださいました。幼いみぎりに一度お会いしたことがあるのですが、覚えておいでではないでしょう。エリオス=ホドアマ=ブランタージュでございます」

「こ、これはどうも、ブランタージュ伯。戦役でのご活躍は聞き及んでおります。救国の壮挙、王家の一員として深く感謝いたします。
 えっと……ああ、そうでした。わたしは、ローゼリア=サンヌル=ミルデニヴァです」

 王女の名乗りに、「あ、やっぱりそうなんだ」と内心で思う俺。
 そのあいだに母さんが一歩進み出て、王族に対する淑女の礼をした。

「ローゼリア殿下。エリオスの妻、ミスラ=ジトヒュル=ブランタージェでございます」

「伯爵夫人も戦役ではご活躍だったと聞いております。お、同じ女性として誇らしく思います……。
 もっとも、ジトヒュルとサンヌルでは、比較するのもおこがましいかもしれませんが……」

 王女様の自虐に、父さん、母さん、俺、王様は、そろって困った顔をした。

 なんでかって?

 次は俺が自己紹介する番だからさ。
 どうも王女様は、俺が王様に名乗るのを聞いてなかったみたいだな。

 俺は両親に視線を向けてみるが、二人も困った顔を返すばかり。

 しかたないので、率直に名乗ることにする。
 王様も事前に言っておいてくれればよかったのに、と思いながら。

「ええっと、ブランタージュ伯の息子、エリアック=サンヌル=ブランタージュです」

「えっ、サンヌル……ですか?」

 王女様の顔が、みるみるうちに青くなる。

「ご、ごごご、ごめんなさいっ! わたし、とっても失礼なことを……!」

 がばっと頭を下げてくる王女様。

(ん……?)

 いま一瞬、右耳にかかる髪の房が、明るい緑に見えたんだが。

「ああ、いや、慣れっこですよ。王女様も大変でしょう。王女様とは同じ属性で、生まれは一週間ちがいだと聞きました。短い間ですが、子ども同士仲良くいたしましょう」

 失礼にならない程度に笑みを浮かべ、俺は王女様に改めてお辞儀する。二度目以降は軽めに、だっけな。

 王様が、あごひげを撫でながら言ってくる。

「エリアックはできた子よなぁ。
 うちのときたら、人の顔色をやたらと気にしておるくせに、すぐにいっぱいいっぱいになりおって、まるで人の話を聞いておらぬ。馬車の中で挨拶の文句ばかりを繰り返しておったからな。俺たちの話をろくすっぽ聞いておらんかったのだろう。いくつになってもそそっかしいやつよ」

 言葉とは裏腹に、王様の口調は優しかった。
 が、王女様はがくりと首を落とす。

「うう……だって、お父様が急に、ブランタージュ伯に会いに行く、おまえも一緒について来い、なんて言うんですもの……。英雄様に粗相でもあったらどうしようかと……」

「こいつとはマブダチだって言っといたろ」

「そ、それで済ませられるのはお父様だけです!」

 涙目になって王女様が言った。

 王様のフォローのおかげで、その場の空気が弛緩する。

「……皆様がた、ご夕飯が冷めてしまいますぞ?」

 セルゲイさんが、再び顔を出してそう言った。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

部屋で寝てたら知らない内に転生ここどこだよぉぉぉ

ケンティ
ファンタジー
うぁー よく寝た さー会社行くかー あ? ここどこだよーぉぉ

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...