NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁

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第五章 15歳

28 学園都市ウルヴルスラ

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「あれじゃない!? 学園都市――ウルヴルスラ!」

 金の巻き毛が印象的な、頬にそばかすのある女子受験生が、進行方向を指差した。

 その指の先には、まだ何も見えていない。

 いや、

「あれが、ウルヴルスラのエネルギーフィールドか」

 受験生の一人がつぶやいた

 そう。進行方向、森の中を走るデコボコ道の奥の空中に、うっすら青い、無数の六角形のタイルが浮いている。
 半透明のタイルはサッカーボールのように隙間なく並べられ、かなり背の高いドームを作り出していた。

 ドームと言っても、東京ドームのような規模じゃない。
 ほとんど山と言ってよさそうな大きさだ。
 父さんと母さんから聞いた話では、都市がすっぽりひとつ収まっるという。

「ほう、ほう! あれがウルヴルスラであるか! 壮観であるな!」

 さっきまで馬車に文句を付けてた坊っちゃんも、この光景には目を奪われていた。
 赤髪の受験生は、ちらりと横目に見ただけだったが、その目に驚きの色が浮いている。

 ウルヴルスラとは、学園騎士団の名でもあり、その守護する学園都市の名でもある。
 もっとも、学園騎士団が学園都市を守護しているというよりは、学園都市によって学園騎士団が守護されていると言ったほうが近い。
 その理由が、これだけ遠くからでも見える巨大なエネルギーフィールドだ。
 学園騎士団の許可なき者は、何人なんびとたりともあのフィールドを通り抜けることはできないという。

(この辺りはミルデニアの北西の国境に近い。つまり、帝国に近接した土地なんだ)

 にもかかわらず、王国の貴族たちがこぞって学園騎士団に我が子を送り込むのは、エネルギーフィールドの存在が大きい。
 もし帝国が国境を越えて侵攻してきたとしても、学園騎士団は都市の中に引きこもってしまえば安全だ。
 黄昏人の遺産である学園都市の都市機能は、高度な自立性を持つという。
 仮にフィールドの外を帝国軍に取り囲まれたとしても、そのままの状態でいくらでも「籠城」することができるのだ。

(もちろん、帝国軍がここを素通りしようとすれば、学園騎士団から打って出て、その後背を突くこともできる)

 高度な自立性を持つ学園都市は、外部からの補給をほとんど必要としない。
 今馬車が進んでいる道が未舗装なのも、他の都市と学園都市を往復する人間が少ないからだ。
 今はただ受験生の尻の皮を剥く役にしか立っていないデコボコ道だが、帝国軍がここを通ろうとした時には、格好の足留め役を務めてくれるだろう。

 ウルヴルスラを落とすことは不可能なばかりか、その近傍を通るだけでも危険がある。
 だから、いくら国境が近いとはいえ、帝国軍がこの近辺を通過することは考えにくい。

(子どもを戦争から遠ざけておきたいって親心は、貴族であっても変わらないってことだな)

 目的地が見えたことで、長い馬車旅にくたびれ果てていた受験生たちも、にわかに活気づいていた。
 馬車旅も三日目で、かなり今更ではあるが、互いの自己紹介まで始めてる。

「ねえ、あなたの名前は?」

 金髪巻き毛の女子が、赤髪の受験生に話を振った。

「ふん……おまえらが受かったら教えてやるよ」

 赤髪はそう言って答えを拒む。

 困った顔で、女子が俺に目を向けてくる。
 自己紹介が済んでないのは俺だけのようだ。

「ん、ああ、俺? エリアック=サンヌル=ブランタージュだ」

 赤髪とは別の理由で面倒に思いつつも、しかたないのでそう名乗る。

「えっ……ひょっとして、救国の英雄ブランタージュ伯の親戚さん?」

「そうだけど、ここではあまり家の話をしないほうがいいよ。馭者さんが聞いてるみたいだからさ」

 俺は女子にだけ聞こえる声でそう答える。
 女子がぎょっとして馭者席を見た。

「……サンヌルだと?」

 赤髪が身を乗り出し、もうひとつのツッコミどころを聞いてくる。

「そうだよ」

 平然と答える俺に、赤髪が吐き捨てるように言った。

「けっ、役立たずじゃねえか」

「ちょっと! そんな言い方!」

 赤髪に、女子が抗議してくれる。
 俺はひらひらと手を振った。

「いいっていいって。でも、俺が受かったら名前を教えてくれよ、ザスターシャの人」

「……なぜ俺がザスターシャ出身だと?」

「そりゃ、ブレスレットを見ればわかるって」

「これか? そんなに有名なものではないと思うがな」

「いや、いわれとかは知らないけど、それだけ精緻な金細工の技術を持ってるのはザスターシャくらいだろ。形見とか言ってたし」

「ふん、受かったら名前を教えろ、か。よほど自信があると見えるな」

「ま、君が落ちる可能性はあるわけだけどね」

「ぬかせ。こんな甘ったれの腑抜けどもに遅れを取るかよ」

「ねえー、仲良くしようよ? ねっ?」

 巻き毛の女子が、赤髪と俺を交互に見て言ってくる。
 赤髪は完全に無視を決め込み、腕を組んで目をつむる。

 俺のほうは、多少の社交性を発揮して、乗り合わせた受験生と雑談に興じることにした。
 他にすることもなくて暇だったからな。

 中にはサンヌルと聞いて侮ってるやつもいたが、その程度でムキになるほどガキじゃない。前世の人生経験プラス、ストレスへの絶対耐性まであるんだからな。

 倍率から考えて、この中で受かるのは二、三人がいいとこだろう。
 もちろん、俺を除いての話だが。

 人の魔力を読む訓練は積んできた。
 ロゼに相克の鎮め方を教えた時みたいに直に触れ合わなくても、今の俺には他人の魔力をある程度感じ取ることができる。
 その人の体内での魔力のありようを見れば、魔法の腕前にも察しがつく。

 武術もひと通りは修練してる。
 物腰を見れば、心得のあるなしくらいはわかる。

 魔法なら、この金髪巻き毛の女子|(サン)と赤髪の受験生|(ジト)、すこし下がって何人か。
 武術は、赤髪の受験生がダントツだ。
 要するに、赤髪はこの中では合格者候補の筆頭だ。
 もちろん、俺を(以下略)

 これまでの無言の道中と違って、雑談しながらの時間は早く感じた。

 ウルヴルスラのエネルギーフィールドがますます大きくなり、その根元にある、内側に反ったタワー型のエネルギーフィールド発生装置の姿も見えてきた。
 高さ十数メートルくらいの湾曲したタワーが、フィールドの外縁に等間隔に並んでいる。外縁と言っても、もちろんフィールドの内側だ。そうじゃなかったら、外側からタワーを破壊できてしまうからな。

(完全にSFだな)

 こっちが馬車でデコボコ道を進んでることに違和感を覚えてしまう。

 もっとも、他の受験者たちは驚きはしても、違和感は覚えてないようだ。こういうものがあるとは聞いてただろうし、実際にある以上違和感もへったくれもない。ウルヴルスラほどに「生きている」遺跡は少ないにしても、黄昏人の遺産自体は、この大陸中に散在してるらしいしな。

 ウルヴルスラが近づくと視界が開け、道も平坦になった。

 エネルギーフィールドのふもとは、高い城壁で囲まれている。
 SF風ではない、ごく普通の城壁だ。矢狭間のあるギザギザの城壁は、高さ5、6メートルくらいだろう。城壁の前には深い濠も掘られている。

 その城壁の一角に大きなアーチがあり、そこから跳ね上げ式の橋が降りている。
 橋のこちら側は広場のようになっていて、車列の先を行っていた馬車が停まっていた。

 俺の乗る馬車も広場に停まる。
 後続の馬車がすべて停まるまで、その場で待つように指示があった。
 馬車から離れなければ降りてもいいらしい。
 坊っちゃま受験生が馬車から降りたが、足元をふらつかせ、顔から地面にぶつかった。
 他の受験生が笑い合う。俺と赤髪を除いてだが。

 一時間ほども待たされただろうか。
 ようやく後続の馬車がすべて到着した。
 受験生は広場の真ん中に集められ、大雑把に列を作る。
 車列は結局馬車五台。五十人の受験生がいることになる。

 馭者たちの指示に従って待っていると、ウルヴルスラから男女一組の生徒が現れた。
 ウルヴルスラの制服は初めて見たが、

(前世の高校にもありそうな服だな。ちょっとSFっぽい感じだけど)

 もともと前世の学校制服だって、富国強兵のためにできたものだったはずだ。軍服に通じるという意味では、似たところがあってもおかしくはない。

 現れた男女は、ジトの女子と、ヒュルの男子。
 魔力や鍛え方からして、女子は魔術科、男子は武術科だろう。
 二人とも右腕に腕章をつけている。
 「生徒会円卓」。そう読めた。

 女子のほうが、整列してかしこまる受験生に向かって口を開く。

「受験生諸君。ようこそウルヴルスラへ。それぞれ事情はあろうが、本学を志してくれたことに感謝せよと、エクセリア会長より言付かっている。
 だが、受験を控えて落ち着かぬ諸君らに長い訓示をするつもりはない。
 さっそく試験の説明に入らせてもらう」

 女子が、男子に視線を送る。
 受験生の列の中から、息を呑む気配がした。

「試験は十人ずつ、専用の試験室にて行う。試験科目は魔術のみだ。ウルヴルスラは、魔術を扱えぬものを好まない」

 俺の前にいた巻き毛の女子が、ちらりとこっちを振り返った。
 サンヌルの俺は一体どうするのかと思ったのだろう。

「これから、諸君に受験生用の一時通行パスを配布する。これは絶対になくさないでほしい。なくすと、最悪の場合ウルヴルスラに異物と認識され、エネルギーフィールドによって『排出』されるおそれがある」

 男子の言葉に、受験生たちがざわついた。

「また、受験終了後にこのパスを持ち出そうとした場合、学園騎士団の権限により、諸君らを処罰することができる。ここはもう、学園騎士団ウルヴルスラの自治領なのだ。そのことをよく覚えておいてほしい」

 「生徒会円卓」の二人は、受験生を散々脅してから、「パス」の配布を始めた。
 革のケースに入れられた前世の電子定期券のようなものを、受験生たちがおっかなびっくり受け取っていく。
 円卓の二人は、パスのナンバーと受験者の氏名を、手にしたクリップボードに記録している。

「34番のパスだ。名前は?」

 男子のほうが、俺のところにやってきてそう聞いた。

「エリアック=サンヌル=ブランタージュです」

「ほう?」

 男子が興味深そうに俺を見た。
 こっちはいい加減食傷気味だったのだが。

「サンヌルの挑戦者は久しぶりだ。もし合格すれば、史上初のサンヌルの生徒騎士ということになる。期待しているぞ」

「それはどうも」

 どこまで本気かわからないお世辞とともに、俺はパスを受け取った。

 ほどなくしてパスが受験生に行き渡る。

「では、パスの番号が1番から10番の者までは前に出ろ」

 円卓女子の言葉に、やはり来たかという感じで、該当する受験者が進み出た。
 円卓女子は十名の受験者を引き連れて、ウルヴルスラの中に入っていく。
 途中、エネルギーフィールドが地面までを覆っていたが、パスを持っているものが近づくとその場所だけフィールドが消失するようだ。

 こうして、俺の学園騎士団入団試験が始まった。
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