NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁

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第五章 15歳

30 入学式

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 かくして無事(?)入学試験を突破した俺は、そのまま学園都市ウルヴルスラの学生寮の一室をあてがわれた。

 学生寮は、前世のワンルームとほとんど同じ間取りだ。
 ユニットバスとキッチン付き。
 原理はわからないが、黄昏人の技術でお湯も出るしガスも使える。

 ありがとう、黄昏人。
 軽くスペースコロニー風の未来的な内装も素敵だよ。

「荷物は、あとで届くんだったな」

 受験には身ひとつで臨むこと、という決まりだった。
 その後も、あまり多くの私物は持ち込めないらしい。
 あの赤髪が認められてたような形見の品以外では、書籍くらいが関の山。
 衣服や装身具は、学園都市内で仮想通貨を稼いで手に入れる必要があった。
 アルバイトしてもいいが、授業への出席や単位の取得でも仮想通貨は手に入る。
 贅沢をしなければ、まじめに授業を受けているだけでも最低限のものは揃うという話だ。

「俺の回の試験は終わったけど、その後にも受験馬車が来るらしいからな」

 たぶん、ロゼもそっちだろう。
 学生寮は男女で分かれてるが、建物自体は隣接してる。
 ロゼの気配があったらわかるはずだ。

「あと一日はかかるって言ってたか」

 スケジュールが曖昧なのは、外の天候次第で受験馬車の到着が遅れることがあるからだ。

 ウルヴルスラの内部は、黄昏人の便利技術で一定の環境に保たれてる。
 一定といっても、常に同じ天気同じ気温ってわけじゃなく、季節に応じて人工雨も降れば気温も変わる。冬には雪も降るらしい。
 黄昏人さんマジパネエっす。

「都市内見学をしててもいいらしいけど……とっておくか」

 ロゼと一緒に見学したほうが楽しいだろう。
 合格した者同士なら、知り合いと一緒にいてもかまわないらしい。
 受験の段階では、知り合いと一緒にならないよう入念にコントロールされてたと聞かされた。例によって、外の身分を学園内に持ち込ませないためだという。

 ストレスは感じないものの、王都からウルヴルスラまでの馬車行はけっこう疲れた。他の合格者も、合格の興奮とこれまでの疲労が混ざったような顔をしてたな。

 俺は、自室のベッドに横になる。

「ロゼなら心配いらないだろ。むしろ、目立ちすぎないか心配だ」

 俺同様、やらかしてる可能性は低くない。
 まあ、ロゼは史上類を見ない三重属性ヒュルサンヌルとして、いずれ嫌でも目立つことになるだろうけどな。

「べつに、俺だって目立ってもいいんだけどな……隠してたほうがまだ便利だ。学園だけじゃない、対帝国の意味でもな」

 あっちに転生者がいることはほぼ確実だ。
 こっちの正体は隠しておくに越したことはない。

 俺は大人しく、すべての試験が終わるのを待つことにした。





 学園騎士団というのは、なかなかせっかちな連中だ。

 なにせ、受験に合格したら即入寮、試験の全日程が終わり次第、休む間もなく入学式だ。

 休む間もなくは言いすぎで、厳密には入学式は翌朝になった。

 入学式の舞台は学園の大講堂だ。
 前世の武道館みたいな施設をイメージしてもらえば遠くない。
 収容人数も同じようなもんだろう。

 中央にはライトアップされた演壇があり、俺はそれを二階席から見下ろしている。
 新入生席であるそこには、試験で見覚えのある顔もちらほらあった。
 それぞれ、選択した学科の制服を身につけてる。
 魔術科ならワインレッド、武術科ならコバルトブルー、学術科ならチャコールグレーを基調とした、ブレザータイプの制服だ。
 男子はスラックスで女子はプリーツスカート。実戦を重視する騎士団らしく、女子はスカートの下に履くためのスパッツや、男子同様のズボンもある。

 新入生席にロゼの姿はなかった。

 それもそのはず、

「新入生代表、ローゼリア=ヒュルサンヌル=ミルデニヴァ」

「はい」

 演壇の上に立った、豪奢な感じのサンの美女――生徒会長エクセリア=サン=セルブレイズに名前を呼ばれ、魔術科の制服姿のローゼリアがしっかりした足取りで演壇に上る。

 15歳になったロゼは、美しさに磨きがかかっていた。
 闇の精霊からは黒いつややかな髪とアメジストの瞳を。
 光の精霊からは白く透き通った肌を。
 そして、風の精霊からは、いく房かのエメラルドの髪と、瞳のハイライトを。
 三体もの精霊から加護を授かった少女は、三年間見ない間に、いくぶん大人っぽくなっていた。
 まだ大人の女性とも言い切れないが、もう子ども扱いされる年齢でもないだろう。
 「少女」という言葉がもっともふさわしい人生の春に、ロゼは足を踏み入れていた。

 その美しさは、俺のひいき目ばかりではなかったようだ。
 壇上に上がったロゼに、会場中からため息が漏れる。

「ヒュルサンヌルって、本当だったのか」

 新入生の誰かがそう囁く。

 一方、壇上のロゼは、観客席から誰かを探そうとしてるようだった。

 魔術科の新入生の並ぶ席を、何度となく見返している。
 急に不安そうな面持ちになったロゼは、ようやく二階席に目を向けた。
 俺は、わずかに魔力を漏らしつつ、ロゼに向かって手を振った。

 ロゼが「あっ!」と声を漏らす……が、会場が大きいのでそんなには目立たなかった。
 ただ、説明を求めるように、俺をきつく睨んでくる。

 俺は笑いながら、両手で入学式に集中しろと伝えておく。

 ロゼはきっ!と俺を睨むと、顔を取り繕って壇上の麗人たちに目を向けた。

 麗人たち。
 まさにその言葉がふさわしいだろう。

 生徒会長にして学園騎士団長でもあるエクセリアは、いかにもサンらしいまばゆい金髪を腰まで伸ばした長身の美女だ。
 年齢はまだ18のはずだが、もはや美少女というより美女というべき貫禄がある。
 実際、学園騎士団長として有事にはこの学園の生徒騎士たちを率いねばならない立場だ。威厳がなくては学園が揺らぐ。
 本人も、強力なサンの魔術師として、入学以来魔術科の頂点に君臨しているという。

 その傍らに、影のように立っているのが、生徒会副会長バズパ=ヌル=トワ。
 男装をしているが、スタイルを見れば女性だということはすぐにわかる。
 黒髪を耳の下でパッツンにした、イケメンにしか許されないような髪型をしている。
 苗字からわかる通り、セルゲイの家――トワの家系に連なる身分らしい。セルゲイの孫娘の一人なのだとか。
 生徒会長とは同い年で幼馴染同士。生徒会長の騎士たることを誓った、武術科きっての剣士だという。

 他にも数名の生徒会役員――「円卓」が壇上に立っている。
 だが、ひとまずはこの二人を押さえておけばいいだろう。
 受験の時の試験監督だった女子もいるな。

「今年の新入生には、大いに期待している」

 生徒会長エクセリアが言った。

「代表であるローゼリアを筆頭に、見所のある新入生が何人もいると聞いている。この難しい時期に意欲ある優秀な新入生を迎えられたことを、騎士団長として大変誇りに思っている」

「恐縮です、騎士団長閣下」

 新入生代表のロゼが、エクセリアに配下の礼をする。

 もちろん、外ではローゼリアは姫なのだが、この学園の中でだけは、外の身分は関係がない。
 生徒会長はロゼのことを名前で呼び、ロゼは生徒会長を指揮官として敬う。

「わたしたち新入生は、この難局に当たって、王国の礎となれるよう、力の及ぶ限り精励刻苦することを誓います」

「うむ。期待している。
 では、ここからはこの学園のルールを説明しよう。
 まず、この学園には、生徒騎士以外の人間は一切存在を許されない。偉大なるウルヴルスラ様のご意志により、生徒騎士でない人間は、この都市に足を踏み入れることができないのだ。
 ゆえに、我らは、我ら自身の足で立てねばならない」

 それこそが、学園騎士団の最大の特徴だった。

 この都市には、大人がいない。

 都市機能を維持する労働者がいないのはもちろんのこと、生徒に授業を行う教師すらいないのだ。

 学園騎士団の伝統は、先輩から後輩へ、15歳から21歳までという限られた時間の中で伝えられなければならない。

 結構な無茶振りだと思うのだが、都市機能の維持のほとんどを黄昏人の遺産がやってくれるので、生徒騎士は知識や技術の伝授・学習に大半の時間を割けるようになっている。

 生徒騎士以外存在できないと今会長が言ったが、厳密には例外もある。
 受験生と戦時捕虜だ。
 いずれも、生徒会が身分証を発行することで、一時的に学園内に収容することが可能となる。
 ……と、退屈しのぎに読んでた学園の校則には書かれてた。

「自ら学べないもの、自ら稼げないもの、自らの世話を見られないものは、この学園には必要ない。
 ここにはすべてがある。学園騎士団は、ひとつの完成されたシステムなのだ。
 ゆえに、緊急時には独自の判断に基づき、高度な自主性を維持したまま作戦行動を遂行することができる」

 生徒会長は、自分の言葉が染み入るのを待つように言葉を切った。

「わたし自身を含め、学園騎士団はどの一個人も怠惰であることが許されない。無能であることが許されない。
 もし怠惰で無能であることが証明されたなら、その者は自らの地位を奪われる。これが、学園騎士団の原則だ」

 そこで、会長は在校生の席に目を向ける。

「これには、学年すら関係ない。
 在籍期間が長いというだけで安穏としていられる場所など、この騎士団にはないと知ってほしい。
 諸君らの頂点に立つこの円卓とて同じこと。
 われわれより有能だと自負するものがいたら、いつでも円卓に挑んでくるがよい。円卓は、挑戦者を拒まない」

 生徒会長がそう言い切ったところで、会場に動きがあった。
 一階にある、武術科の新入生の席だ。
 会長の演説の最中にいきなり立ち上がったのは、見覚えのある赤髪の男子だった。

「――じゃあ、いますぐに挑戦してもいいってのか?」

 赤髪は、不敵な面構えで、壇上に向かって握りこぶしを突き出した。
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