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第五章 15歳
34 円卓への道
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円卓を目指す。
そう意気込んではみても、すぐに挑戦権が得られるわけじゃない。
最低でも五人のメンバーを確保しなければ、生徒会長には挑戦できないからだ。
俺とロゼの二人で円卓五人と戦えないか?
戦えないこともないとは思う。
ただ、円卓戦では自陣の防衛も必要だ。二人だけでは手数の面で厳しいだろう。
まあ、仮に戦えたとしても、人数を揃えるのが規則なので、挑戦権は認められないわけなのだが。
あの赤髪――ラシヴァというザスターシャの元王子が副会長に諭されてたように、人の上に立つ器を問うという意味もあるのだから。
とりあえず、俺は身近で円卓に対抗できそうな人に声をかけてみた。
「エレイン先生、俺、円卓に挑もうと思うんですけど、一緒にやってみませんか?」
「ぶっ! けほっ、げふっ……」
俺の雑な勧誘に、エレイン先生が飲んでたお茶でむせていた。
場所は、担任生徒に割り当てられた指導室だ。
そんなに広い部屋ではないが、学内に部屋が割り当てられるだけでも大変名誉なことらしい。
円卓と新入生の担任以外では、よほど目覚ましい成果でも上げない限り、寮以外の個室はもらえない。
「けほっ、けほっ。いきなりで驚いたわ。
他のメンバーは?」
「俺とロゼ――ローゼリアは決まってます」
「ヒュルサンヌルの王女様ね。たしかに、ゆくゆくは生徒会長候補になるでしょうけれど……もっと時間をかけてもいいのではないかしら?」
「対帝国の戦いも逼迫してますからね。のんびり構えてるわけにはいかないですよ」
俺が実力を隠そうとしても無駄だというのなら、いっそのこと電光石火で円卓を掌握してしまいたい。
いざという時に作戦指揮に関われる立場にいられるかどうかで、戦い方も変わってくる。
「その危機感は頼もしいわね。そういえば、あなたの領地は戦役の時に帝国に攻め入られたんだったっけ」
「俺の、じゃなくて、父さんの領地ですけどね」
エレイン先生は、ちょっと考えてからこう言った。
「悪いけど、お断りするわ」
「なぜです?」
「エクセリア会長にも言ったのだけど、わたしは戦陣での回復魔法を極めておきたいの。作戦指揮や実戦は、わたしじゃなくてもできるけど、この分野の専門家は少ないから。本格的な開戦が近いからこそ、わたしはわたしにしかできないことに集中すべきだと思ったの」
「なるほど……」
「それに、円卓に挑むのなら、わたしはあなたかローゼリアさんの指揮下に入るわけだけど、あなたやローゼリアさんに従う理由が、いまのところわたしには見つからないわ。実力でも、カリスマでも、個人的な信頼関係でもいいけどね。
ちょっと辛辣かしら?」
「いえ、そりゃそうですよ」
俺とエレイン先生の関係は、ただの生徒と担任ってだけだ。
自分をメンバーに加えたいなら、それだけの力を示せ。
エレイン先生はそう言ってる。
さすが、隠れ武闘派だけはあるな。
「どうせダメ元で誘ってるんでしょ?
でも、まず当たってみる精神はすばらしいわ。エクセリアさんに挑むに当たって聞きたいことがあったら、相談には乗ってあげる」
まあ勝てないでしょうけど、と暗にほのめかす感じで、エレイン先生がそう言った。
「ありがとうございます。
じゃあさっそくで悪いんですけど、聞きたいことが」
「なに?」
「どうやって人を集めたらいいんでしょう?」
「それをわたしに聞いちゃうの?」
「円卓に対抗できるような人となると、候補は先輩がたになると思うんですが、俺たちに会長のようなカリスマはないですし」
そんな話を持ちかけても、一笑に付されるだけだろう。
あるいは、逆に自分の指揮下に入れと言われるか。
「そうね。あなたやローゼリアさんのカリスマのほどはわからないけど、人望というのは一朝一夕に得られるものではないわ。普段の術科の授業や訓練の中で徐々に高まっていくものよ」
「やっぱり、時間がかかりますか」
「時間をかけるしかないと割り切ることもできるでしょうけれど、あなたたちはすぐにでも挑戦したいのよね? それなら、それだけの実力があることを、周囲に示していくしかないでしょう。強い人は、自分の認めた人の言うことしか聞かないわ」
「どうすればいいんです?」
「入学式でラシヴァ君がやってたことは、方向性としては間違ってなかったとわたしは思うの。もちろん、結果としては惨敗だったわけだけど」
「ええっと、個人として円卓の会長以外の相手に闘戯を挑むってことですか?」
「それでもいいけど、現状で受けてもらえるかどうかは疑問よね。
それに、いずれ会長に挑むのなら、集団戦の経験も必要よ。
円卓模擬戦って言葉は聞いてるかしら?」
「いえ……」
「円卓に挑むと言っても、ぶっつけ本番で集団戦をやったら、経験に勝る円卓が有利すぎるでしょ? だから、いずれ円卓になろうという志を持った人たちがチームを作って、定期的に模擬戦をやってるの。模擬戦はリーグ形式で、ランキングも存在するわ」
「なるほど……そこで経験を積みながら実力を示して、円卓に挑むわけですね?」
「慣例として、模擬戦のリーグ首位が、リーグの各期終了後に、円卓に挑戦するという形になってるの。
もちろん、挑戦権は円卓以上の人数を集めさえすれば得られるから、リーグを無視して挑戦してもいいのだけど」
いきなりラスボスに挑むこともできるが、遠回りしてレベリングすることもできると。
なかなかオープンなシステムだな。
「リーグ戦は公開されてるから、それを見てから考えても遅くはないわ。というより、普通はそうね。
模擬戦に出るようなチームには、当然優秀なメンバーが揃ってるわ。彼らと自分を比較して、自分に足りないものを身につける。円卓模擬戦は、未熟な生徒騎士たちに範を示すためのものでもあるの」
「へええ」
素直に感心する俺に、
「でも、エリアックくんはそういうレベルではなさそうよね。どんな修羅場をくぐってきたのか知らないけれど、ブランタージュ戦役の英雄のご子息だもの。
それでも、模擬戦は見る価値があると思うわよ? 仲間探しをする上では参考になるんじゃないかしら」
どこまで見抜かれてるかわからないが、エレイン先生がそう言った。
「いやいや、そんなたいそうなもんじゃないです。いまから円卓を意識してやってこうってだけで」
「度を超えた謙遜は嫌みに聞こえるわよ?
あなたは、いつどうやって力を示すかを、よく考える必要がありそうね。いくらあなたが強かったとしても、反感を買っては人が集まらないわ」
「う……よく考えます」
直球で痛いところを突かれ、俺はすごすごと指導室を後にしたのだった。
「まあ、そうなんだよな」
前世での経験を加味すれば、精神年齢は周囲より高いはず――そんなふうに思ってたが、前世と今とでは、置かれてる環境が違いすぎる。
今の環境の中で、しっかりと力を示しながら、反感を買わずに人望を集めなければならない。
無双して気持ちいいのは自分だけだ。
その力をみんなのために生かせるのだと示していく必要があった。
そんな「持てる者の悩み」みたいなもんは、前世の俺にはまったくなかった。
思い上がるつもりはないが、今の俺に力があるのは事実なのだ。
エレイン先生に言われたように、見え透いた謙遜をするのもよくないし、かといって力をただ見せつければいいってもんでもない。
じゃあ、どうすればいいのか?
これがまったくわからない。
前世で経験したことのない立場だから、前世での経験値も役に立たない。
「会長の凄みっていうのは、単に魔術師として強いってだけじゃないんだよな」
思えば、異世界転生モノの主人公は、力があればあるほど孤独である。
力がありすぎるせいで、対等に接することのできる相手がいない。
ヒロインですら、金を払い、奴隷としてはべらせることになってしまう。転生モノのヒロインは、主人公を無条件に尊敬し、従順に付き従う存在になりがちだ。
もちろん、ネット小説を読んで楽しむだけならそれでもいい。
現実に疲れ果てた現代人にとっては、そのほうがよっぽど気楽だろう。
すべてを力でねじ伏せ、自分の思い通りに事態を運ぶ。
フィクションの中でくらい、そんな妄想を楽しんだっていいじゃないか。
俺の入った会社がブラック化し始めた頃には、俺も寝袋にくるまって、スマホでネット小説を読んだものだ。
ブラック化が極まってくると、そんな余力すらなくなったけどな。
だが、自分がまさにそんな孤独な立場にあるのかと思うと、なんらかの打開策がほしくなる。
今の俺は、他人を力づくで支配したいと思うほど病んでない。
優しい両親に恵まれ、今ではロゼという恋人までいる。
自分でも現金なものだと思わなくもないけどな。
「俺にはロゼがいるから幸せだ」
俺より魔力があって、三属性を扱える王女様。
一見内気そうなのに負けず嫌いで、俺に不満があればそれをまっすぐにぶつけてくる。
俺には、すべてを好き勝手にする権利なんてない。
そのことを、いちばんはっきり教えてくれるのがロゼだった。
そんなことを考えながら廊下を歩いてると、
「……なに一人で惚気てやがるんだ? 気持ち悪ぃな」
聞き覚えのある声に顔を上げる。
そこには、俺より上背のある、赤髪の新入生がいた。
ラシヴァ=ジト=ザスターシャ。
直接言葉を交わすのは、受験の時以来だった。
こいつが入学式で会長に喧嘩を売って返り討ちにされた流れは、一部始終見てたけどな。
「ぶつぶつ独り言言ってやがるせいで、声がかけにくかったじゃねえか」
「あぁ、いや……」
あれを聞かれてたのは恥ずかしいな。
べつに、惚気ではなかったんだけど。
「よう。約束を果たしにきてやったぜ」
ラシヴァが、にやりと笑ってそう言った。
「約束?」
「おまえが言ったんだろ。試験に合格したら名乗れってな」
「ああ、馬車でのことか」
そういや、そんなことを言ったっけ。
「俺の名は、ラシヴァ=ジト=ザスターシャだ」
「もう知ってるよ。新入生で知らないやつはいないだろ」
入学式で円卓の副会長バズパ=ヌル=トワに挑んで瞬殺された新入生として、ラシヴァの名前は知れ渡ってる。ザスターシャの元王子だってことまで含めてな。
「ま、それでも一応な。
で、おまえの名前は?」
「馬車で名乗ったと思うけど」
「そうかもしれんが、覚えてねえ」
「だと思ったよ。エリアック=サンヌル=ブランタージュだ」
「まったく、探すのに手間取ったぜ。魔術科にいるとばかり思ってたのによ。なんで1回目でターゲットを破壊しやがったやつが、学術科なんぞ選んでんだ」
ラシヴァの言葉に、俺は不意を打たれていた。
「え? 試験のこと覚えてんのか?」
「ああ。これのおかげでな」
ラシヴァはそう言って、左手首を持ち上げた。
そこには、形見の品だという金細工のブレスレットがあった。
「そのブレスレットがどうかしたのか?」
「見ろ、ここにヒビが入ってるだろ?
このブレスレットは、ザスターシャ王家伝来の品でな。身につけてると、有害な魔法から身を守ってくれるって話だった。実際、こいつのおかげで、俺は帝国の魔手を逃れることができたんだ」
「……つまり、あの時の認識阻害がラシヴァには効いてなかったってことか」
これはしくったな。
俺は聞く。
「なんで黙ってたんだ?」
「べつに、俺には関係ないことだと思ったからな。おまえが帝国のスパイでもなければ、だが」
「ないない」
「ブランタージュ伯の息子だってことならそうなんだろう」
さっき、名前を覚えてないって言ってたけど、俺のことは調べてきてたみたいだな。
(ダウトじゃねえか)
激情家に見えて、案外腹芸のできるやつだったらしい。
帝国に滅ぼされたザスターシャは、各部族が強く、王権が弱いと言われてた。その王子だったんだから、当然なのかもしれないが。
「このことを黙っててやるから、俺に従え」
ラシヴァが、出し抜けに言ってきた。
どうかこのことはご内密に……というネタをやる暇もなかったな。
「イヤだよ」
俺は即答する。
「そう言うだろうと思ったぜ。なら、こいつで決着をつけねえか?」
ラシヴァが自分の拳を握り締める。
「闘戯か?」
「ああ。言っとくが、こないだ副会長に負けたようにはいかないぜ」
「ありゃ相手が悪かったろ。気にすることはないんじゃないか?」
「俺にそんなこと言ってる余裕はねえんだよ。国を失う気持ちがおまえにわかるか、英雄の息子」
「……想像するしかないな」
「俺の父である王は、千年の昔から蘇ったデシバル皇帝クツルナイノフとその民たちを、歴史の生き証人として丁重に扱った。
だが、そんな父の気持ちを連中は裏切った。王族の中で、かろうじて俺だけが生き延びた。父も母も、三人いた姉たちも殺された……」
暗い怒りを赤い目に宿してラシヴァが言う。
「ラシヴァ。おまえは、復讐のために学園騎士団を掌握したいっていうのか?
だが、いくら独立性の高い学園騎士団でも、ミルデニア王国の一部には違いない。勝手に帝国に攻め入るわけにもいかないぞ。そんなことができるほどの戦力もない」
「わかってんだよ、んなことは。
だが、他にどうしようがある? 国を失った王子に、他に何ができるってんだ? 他国に仕官することすら難しい中で、このウルヴルスラだけが例外なんだよ。ここでは外の身分は関係ねえ。力だけが正義なんだ」
ラシヴァの答えは、答えになっていなかった。
たしかに、学園騎士団を掌握すれば、何もしないよりは、帝国と戦う力を得られるだろう。
でも、帝国に復讐する上で、効果的な手段ともいいがたい。
(他にやりようがない、か)
自前の兵を持たない亡国の王子が、復讐のための最後の希望として見出したのが、この学園騎士団ウルヴルスラなのだろう。
「で、どうする? 俺に従うか? それとも闘戯で決着をつけるか?」
「……ラシヴァ。おまえ、自分が負けることを考えてないのか?」
「俺は、こんなところで負けるわけにはいかねえんだ。
もし応じないと言うのなら、おまえが試験でやったことを学園中に吹聴してやる」
「俺を脅すつもりか?」
「必要ならな。俺は学園騎士団を……ゆくゆくはこの国を牛耳って帝国を倒す。そのために必要なら、冥府魔道にでも堕ちてやる」
暗い目をしたラシヴァとは、まったく会話が噛み合わない。
(よりにもよって、厄介な相手に目をつけられたもんだ)
俺が本気を出して認識阻害をかければ、ラシヴァのブレスレットを破壊して、ラシヴァに試験で見たことを忘れさせることができるだろう。
(でも、さすがにそれは気が引けるな)
今の話を聞いた上で、形見だというブレスレットを破壊するのはいくらなんでもむごいだろう。
むごかろうとストレスを感じない今の俺ではあるが、それだけに自分の良心は大切にしたい。
俺はしばし悩んでからこう言った。
「戦って、負けたら俺に従うと誓え。その条件でなら闘戯を受けよう」
「いいだろう。俺がこんなところで負けるはずがねえ」
ラシヴァは、追い詰められた獅子のような顔でそう言った。
そう意気込んではみても、すぐに挑戦権が得られるわけじゃない。
最低でも五人のメンバーを確保しなければ、生徒会長には挑戦できないからだ。
俺とロゼの二人で円卓五人と戦えないか?
戦えないこともないとは思う。
ただ、円卓戦では自陣の防衛も必要だ。二人だけでは手数の面で厳しいだろう。
まあ、仮に戦えたとしても、人数を揃えるのが規則なので、挑戦権は認められないわけなのだが。
あの赤髪――ラシヴァというザスターシャの元王子が副会長に諭されてたように、人の上に立つ器を問うという意味もあるのだから。
とりあえず、俺は身近で円卓に対抗できそうな人に声をかけてみた。
「エレイン先生、俺、円卓に挑もうと思うんですけど、一緒にやってみませんか?」
「ぶっ! けほっ、げふっ……」
俺の雑な勧誘に、エレイン先生が飲んでたお茶でむせていた。
場所は、担任生徒に割り当てられた指導室だ。
そんなに広い部屋ではないが、学内に部屋が割り当てられるだけでも大変名誉なことらしい。
円卓と新入生の担任以外では、よほど目覚ましい成果でも上げない限り、寮以外の個室はもらえない。
「けほっ、けほっ。いきなりで驚いたわ。
他のメンバーは?」
「俺とロゼ――ローゼリアは決まってます」
「ヒュルサンヌルの王女様ね。たしかに、ゆくゆくは生徒会長候補になるでしょうけれど……もっと時間をかけてもいいのではないかしら?」
「対帝国の戦いも逼迫してますからね。のんびり構えてるわけにはいかないですよ」
俺が実力を隠そうとしても無駄だというのなら、いっそのこと電光石火で円卓を掌握してしまいたい。
いざという時に作戦指揮に関われる立場にいられるかどうかで、戦い方も変わってくる。
「その危機感は頼もしいわね。そういえば、あなたの領地は戦役の時に帝国に攻め入られたんだったっけ」
「俺の、じゃなくて、父さんの領地ですけどね」
エレイン先生は、ちょっと考えてからこう言った。
「悪いけど、お断りするわ」
「なぜです?」
「エクセリア会長にも言ったのだけど、わたしは戦陣での回復魔法を極めておきたいの。作戦指揮や実戦は、わたしじゃなくてもできるけど、この分野の専門家は少ないから。本格的な開戦が近いからこそ、わたしはわたしにしかできないことに集中すべきだと思ったの」
「なるほど……」
「それに、円卓に挑むのなら、わたしはあなたかローゼリアさんの指揮下に入るわけだけど、あなたやローゼリアさんに従う理由が、いまのところわたしには見つからないわ。実力でも、カリスマでも、個人的な信頼関係でもいいけどね。
ちょっと辛辣かしら?」
「いえ、そりゃそうですよ」
俺とエレイン先生の関係は、ただの生徒と担任ってだけだ。
自分をメンバーに加えたいなら、それだけの力を示せ。
エレイン先生はそう言ってる。
さすが、隠れ武闘派だけはあるな。
「どうせダメ元で誘ってるんでしょ?
でも、まず当たってみる精神はすばらしいわ。エクセリアさんに挑むに当たって聞きたいことがあったら、相談には乗ってあげる」
まあ勝てないでしょうけど、と暗にほのめかす感じで、エレイン先生がそう言った。
「ありがとうございます。
じゃあさっそくで悪いんですけど、聞きたいことが」
「なに?」
「どうやって人を集めたらいいんでしょう?」
「それをわたしに聞いちゃうの?」
「円卓に対抗できるような人となると、候補は先輩がたになると思うんですが、俺たちに会長のようなカリスマはないですし」
そんな話を持ちかけても、一笑に付されるだけだろう。
あるいは、逆に自分の指揮下に入れと言われるか。
「そうね。あなたやローゼリアさんのカリスマのほどはわからないけど、人望というのは一朝一夕に得られるものではないわ。普段の術科の授業や訓練の中で徐々に高まっていくものよ」
「やっぱり、時間がかかりますか」
「時間をかけるしかないと割り切ることもできるでしょうけれど、あなたたちはすぐにでも挑戦したいのよね? それなら、それだけの実力があることを、周囲に示していくしかないでしょう。強い人は、自分の認めた人の言うことしか聞かないわ」
「どうすればいいんです?」
「入学式でラシヴァ君がやってたことは、方向性としては間違ってなかったとわたしは思うの。もちろん、結果としては惨敗だったわけだけど」
「ええっと、個人として円卓の会長以外の相手に闘戯を挑むってことですか?」
「それでもいいけど、現状で受けてもらえるかどうかは疑問よね。
それに、いずれ会長に挑むのなら、集団戦の経験も必要よ。
円卓模擬戦って言葉は聞いてるかしら?」
「いえ……」
「円卓に挑むと言っても、ぶっつけ本番で集団戦をやったら、経験に勝る円卓が有利すぎるでしょ? だから、いずれ円卓になろうという志を持った人たちがチームを作って、定期的に模擬戦をやってるの。模擬戦はリーグ形式で、ランキングも存在するわ」
「なるほど……そこで経験を積みながら実力を示して、円卓に挑むわけですね?」
「慣例として、模擬戦のリーグ首位が、リーグの各期終了後に、円卓に挑戦するという形になってるの。
もちろん、挑戦権は円卓以上の人数を集めさえすれば得られるから、リーグを無視して挑戦してもいいのだけど」
いきなりラスボスに挑むこともできるが、遠回りしてレベリングすることもできると。
なかなかオープンなシステムだな。
「リーグ戦は公開されてるから、それを見てから考えても遅くはないわ。というより、普通はそうね。
模擬戦に出るようなチームには、当然優秀なメンバーが揃ってるわ。彼らと自分を比較して、自分に足りないものを身につける。円卓模擬戦は、未熟な生徒騎士たちに範を示すためのものでもあるの」
「へええ」
素直に感心する俺に、
「でも、エリアックくんはそういうレベルではなさそうよね。どんな修羅場をくぐってきたのか知らないけれど、ブランタージュ戦役の英雄のご子息だもの。
それでも、模擬戦は見る価値があると思うわよ? 仲間探しをする上では参考になるんじゃないかしら」
どこまで見抜かれてるかわからないが、エレイン先生がそう言った。
「いやいや、そんなたいそうなもんじゃないです。いまから円卓を意識してやってこうってだけで」
「度を超えた謙遜は嫌みに聞こえるわよ?
あなたは、いつどうやって力を示すかを、よく考える必要がありそうね。いくらあなたが強かったとしても、反感を買っては人が集まらないわ」
「う……よく考えます」
直球で痛いところを突かれ、俺はすごすごと指導室を後にしたのだった。
「まあ、そうなんだよな」
前世での経験を加味すれば、精神年齢は周囲より高いはず――そんなふうに思ってたが、前世と今とでは、置かれてる環境が違いすぎる。
今の環境の中で、しっかりと力を示しながら、反感を買わずに人望を集めなければならない。
無双して気持ちいいのは自分だけだ。
その力をみんなのために生かせるのだと示していく必要があった。
そんな「持てる者の悩み」みたいなもんは、前世の俺にはまったくなかった。
思い上がるつもりはないが、今の俺に力があるのは事実なのだ。
エレイン先生に言われたように、見え透いた謙遜をするのもよくないし、かといって力をただ見せつければいいってもんでもない。
じゃあ、どうすればいいのか?
これがまったくわからない。
前世で経験したことのない立場だから、前世での経験値も役に立たない。
「会長の凄みっていうのは、単に魔術師として強いってだけじゃないんだよな」
思えば、異世界転生モノの主人公は、力があればあるほど孤独である。
力がありすぎるせいで、対等に接することのできる相手がいない。
ヒロインですら、金を払い、奴隷としてはべらせることになってしまう。転生モノのヒロインは、主人公を無条件に尊敬し、従順に付き従う存在になりがちだ。
もちろん、ネット小説を読んで楽しむだけならそれでもいい。
現実に疲れ果てた現代人にとっては、そのほうがよっぽど気楽だろう。
すべてを力でねじ伏せ、自分の思い通りに事態を運ぶ。
フィクションの中でくらい、そんな妄想を楽しんだっていいじゃないか。
俺の入った会社がブラック化し始めた頃には、俺も寝袋にくるまって、スマホでネット小説を読んだものだ。
ブラック化が極まってくると、そんな余力すらなくなったけどな。
だが、自分がまさにそんな孤独な立場にあるのかと思うと、なんらかの打開策がほしくなる。
今の俺は、他人を力づくで支配したいと思うほど病んでない。
優しい両親に恵まれ、今ではロゼという恋人までいる。
自分でも現金なものだと思わなくもないけどな。
「俺にはロゼがいるから幸せだ」
俺より魔力があって、三属性を扱える王女様。
一見内気そうなのに負けず嫌いで、俺に不満があればそれをまっすぐにぶつけてくる。
俺には、すべてを好き勝手にする権利なんてない。
そのことを、いちばんはっきり教えてくれるのがロゼだった。
そんなことを考えながら廊下を歩いてると、
「……なに一人で惚気てやがるんだ? 気持ち悪ぃな」
聞き覚えのある声に顔を上げる。
そこには、俺より上背のある、赤髪の新入生がいた。
ラシヴァ=ジト=ザスターシャ。
直接言葉を交わすのは、受験の時以来だった。
こいつが入学式で会長に喧嘩を売って返り討ちにされた流れは、一部始終見てたけどな。
「ぶつぶつ独り言言ってやがるせいで、声がかけにくかったじゃねえか」
「あぁ、いや……」
あれを聞かれてたのは恥ずかしいな。
べつに、惚気ではなかったんだけど。
「よう。約束を果たしにきてやったぜ」
ラシヴァが、にやりと笑ってそう言った。
「約束?」
「おまえが言ったんだろ。試験に合格したら名乗れってな」
「ああ、馬車でのことか」
そういや、そんなことを言ったっけ。
「俺の名は、ラシヴァ=ジト=ザスターシャだ」
「もう知ってるよ。新入生で知らないやつはいないだろ」
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「ま、それでも一応な。
で、おまえの名前は?」
「馬車で名乗ったと思うけど」
「そうかもしれんが、覚えてねえ」
「だと思ったよ。エリアック=サンヌル=ブランタージュだ」
「まったく、探すのに手間取ったぜ。魔術科にいるとばかり思ってたのによ。なんで1回目でターゲットを破壊しやがったやつが、学術科なんぞ選んでんだ」
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「え? 試験のこと覚えてんのか?」
「ああ。これのおかげでな」
ラシヴァはそう言って、左手首を持ち上げた。
そこには、形見の品だという金細工のブレスレットがあった。
「そのブレスレットがどうかしたのか?」
「見ろ、ここにヒビが入ってるだろ?
このブレスレットは、ザスターシャ王家伝来の品でな。身につけてると、有害な魔法から身を守ってくれるって話だった。実際、こいつのおかげで、俺は帝国の魔手を逃れることができたんだ」
「……つまり、あの時の認識阻害がラシヴァには効いてなかったってことか」
これはしくったな。
俺は聞く。
「なんで黙ってたんだ?」
「べつに、俺には関係ないことだと思ったからな。おまえが帝国のスパイでもなければ、だが」
「ないない」
「ブランタージュ伯の息子だってことならそうなんだろう」
さっき、名前を覚えてないって言ってたけど、俺のことは調べてきてたみたいだな。
(ダウトじゃねえか)
激情家に見えて、案外腹芸のできるやつだったらしい。
帝国に滅ぼされたザスターシャは、各部族が強く、王権が弱いと言われてた。その王子だったんだから、当然なのかもしれないが。
「このことを黙っててやるから、俺に従え」
ラシヴァが、出し抜けに言ってきた。
どうかこのことはご内密に……というネタをやる暇もなかったな。
「イヤだよ」
俺は即答する。
「そう言うだろうと思ったぜ。なら、こいつで決着をつけねえか?」
ラシヴァが自分の拳を握り締める。
「闘戯か?」
「ああ。言っとくが、こないだ副会長に負けたようにはいかないぜ」
「ありゃ相手が悪かったろ。気にすることはないんじゃないか?」
「俺にそんなこと言ってる余裕はねえんだよ。国を失う気持ちがおまえにわかるか、英雄の息子」
「……想像するしかないな」
「俺の父である王は、千年の昔から蘇ったデシバル皇帝クツルナイノフとその民たちを、歴史の生き証人として丁重に扱った。
だが、そんな父の気持ちを連中は裏切った。王族の中で、かろうじて俺だけが生き延びた。父も母も、三人いた姉たちも殺された……」
暗い怒りを赤い目に宿してラシヴァが言う。
「ラシヴァ。おまえは、復讐のために学園騎士団を掌握したいっていうのか?
だが、いくら独立性の高い学園騎士団でも、ミルデニア王国の一部には違いない。勝手に帝国に攻め入るわけにもいかないぞ。そんなことができるほどの戦力もない」
「わかってんだよ、んなことは。
だが、他にどうしようがある? 国を失った王子に、他に何ができるってんだ? 他国に仕官することすら難しい中で、このウルヴルスラだけが例外なんだよ。ここでは外の身分は関係ねえ。力だけが正義なんだ」
ラシヴァの答えは、答えになっていなかった。
たしかに、学園騎士団を掌握すれば、何もしないよりは、帝国と戦う力を得られるだろう。
でも、帝国に復讐する上で、効果的な手段ともいいがたい。
(他にやりようがない、か)
自前の兵を持たない亡国の王子が、復讐のための最後の希望として見出したのが、この学園騎士団ウルヴルスラなのだろう。
「で、どうする? 俺に従うか? それとも闘戯で決着をつけるか?」
「……ラシヴァ。おまえ、自分が負けることを考えてないのか?」
「俺は、こんなところで負けるわけにはいかねえんだ。
もし応じないと言うのなら、おまえが試験でやったことを学園中に吹聴してやる」
「俺を脅すつもりか?」
「必要ならな。俺は学園騎士団を……ゆくゆくはこの国を牛耳って帝国を倒す。そのために必要なら、冥府魔道にでも堕ちてやる」
暗い目をしたラシヴァとは、まったく会話が噛み合わない。
(よりにもよって、厄介な相手に目をつけられたもんだ)
俺が本気を出して認識阻害をかければ、ラシヴァのブレスレットを破壊して、ラシヴァに試験で見たことを忘れさせることができるだろう。
(でも、さすがにそれは気が引けるな)
今の話を聞いた上で、形見だというブレスレットを破壊するのはいくらなんでもむごいだろう。
むごかろうとストレスを感じない今の俺ではあるが、それだけに自分の良心は大切にしたい。
俺はしばし悩んでからこう言った。
「戦って、負けたら俺に従うと誓え。その条件でなら闘戯を受けよう」
「いいだろう。俺がこんなところで負けるはずがねえ」
ラシヴァは、追い詰められた獅子のような顔でそう言った。
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