NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~

天宮暁

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第五章 15歳

59 至聖所

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 会長の企みについてはさておくとして。

 俺たちは、精霊教会の連中に気取られないように注意しながら、学園都市の中央にある至聖所を目指していた。
 都市機能によって気候が管理されたウルヴルスラだが、現在至聖所の周辺には霧が立ち込めている。
 夜に向かって気温が下がる時間帯には、この辺りには霧が出やすいらしい。

 俺たちは路地裏の物陰をつたって至聖所のある広場へと近づいていく。

 俺たちっていうのは、俺、ロゼ、ユナ、メイベルに加え、途中で合流したバズパ副会長の5人だな。
 ラシヴァも来たがったが、至聖所にあまり多くの人数で押しかけるのはよくないらしい。

 帝国のスパイであることが確定した精霊教会の連中の目につかないように動く必要もある。
 このメンバーは、サンヌル、ヒュルサンヌル、アマ、ヌルホド(闇地)、ヌルとなっていて、五人中四人も「影隠れ」が使える。
 ユナも、水魔法で霧を生み出し、その中に姿を隠す術「霧隠れ」が使えるという。

「ふむ。エリアックとロゼの『陰隠れ』は一級品だな。影に潜んだまま移動もできるというのだから、トワの一族すら凌駕している」

 霧のかかった路地裏で、バズパ副会長がそう囁いてくる。
 肩の上で切りそろえた黒髪で、武術科のコバルトブルーのブレザーに、乗馬ズボンのようなタイトなボトムス、足元は膝の下まであるロングブーツ。
 男装の麗人という雰囲気だが、輪郭には女性らしい柔らかさがあって、男と見間違えることはないだろう。

 バズパは、入学式早々会長にケンカをふっかけたラシヴァを瞬殺し、学内におけるラシヴァのかませとしてのポジションを確かなものにした。
 まあ、その後、ラシヴァを闘戯で二度も下して、ラシヴァのかませキャラを不動のものにしたのは俺なんだけどな。

 そんなわけで、微妙に親近感を覚える相手ではあるのだが、俺やロゼと面と向かって話すのはこれが初めてだ。
 円卓に霊威兵装の件を報告した時に言葉を交わしているが、差し向かいだったわけじゃない。

 バズパにトラウマのあるラシヴァは、今はついてきていない。

(あいつは隠密行動に向かないからな)

 俺やロゼでカバーすることもできなくはないが、人数が多ければその分見つかるおそれも高くなる。
 同じ理由で、学園内で顔を知られたエクセリア会長も置いてきた。

「バズパ副会長こそ、『影隠れ』と剣術を融合させたあの戦い方は見事でした。並々ならぬ修練を感じます。
 あと、セルゲイさんが、バズパ先輩に会ったらよろしく言っておいてくれ、と言ってました。『影を歩む者同士通じ合うこともあろう』と」

 かなり今さらではあるが、宮廷の元執事長にして「王国の影」の長であるセルゲイからの伝言を伝える。
 バズパ副会長はセルゲイの孫娘らしいからな。

 もう三年も前のことになるので補足しておくと、王都ラングレイの王城から黒装猟兵に誘拐されたロゼを救出(というかロゼが囮になって黒装猟兵を一網打尽に)した時、その事後処理を引き受けてくれたのがセルゲイさんだ。
 セルゲイさんは、セルゲイ=ヌル=トワといい、ミルデニア王国で諜報を生業にしてきたヌルの一族の当主だという。
 あまりに鮮やかに帝国軍を撃退してのけたブランタージュ伯、つまり俺の父さんに疑念を抱き、王都での世話役としてブランタージュ伯の王都別邸に入り込んでいた。
 俺がロゼと仲良くなったことや、黒装猟兵を返り討ちにしたことで一定の信用を得て、その後は何度か帝国関連の情報を回してくれたりもしていた。

 隠密行動をしていたはずの俺や黒装猟兵の動きに気づいたあたり、かなり油断のならないじいさんではあるが、とりあえず味方だと思っていいだろう。
 王家の存続を至上命題とするトワの一族にとって、俺はともかく、ロゼは守護すべき対象のはずだ。

 「ヌルの一族」とさっきは言ったが、もちろんこの世界でヌルに生まれ落ちるかどうかは生まれた曜日で決まってくるので、トワ家に確実に優秀なヌルが揃うとは限らない。
 セルゲイはどうも、俺の闇魔法を見て、ゆくゆくは「王国の影」に、あるいはロゼと結婚したならしたで、「影」に理解のある者を王家に送り込める、などと計算している節がある。

 なお、ミルデニア王国の制度では、王に子どもが娘しかいなかった場合、中継ぎとして女性でも王になることができるらしい。
 逆に、その女王の配偶者(王配)が国王になることはできないという規定である。

 もちろん、ロゼの親父さん――すなわち現国王サルゴン陛下が、亡くなった前王妃の次の王妃を得、そのあいだに王子が生まれた場合、ロゼが王位を継承することはできなくなる。

 男尊女卑ではあるが、そういう世界なんだから仕方がない。
 考えてみれば前世の日本でも女性は天皇になれないわけで、日本人だった俺にミルデニア王国の王位継承順位について批判できる資格があるかといえば怪しいもんだ。

 ともあれ、どんな黒い計算をしてるのか、セルゲイは俺には妙に親切である。
 学園に入る前に、副会長である孫娘への伝言を託してくれるくらいにはな。

 バズパは、俺の言葉にわずかに目を見開いた。

「ほう。おじいさまがそう言ってよこしたということは、エリアックのことは信用せよ、便宜を図ってやれ、という意味合いだ。滅多にないことなのだぞ?」

「そうだったんですか」

 それならもっと早く言えばよかったな。
 まあ、バズパと面と向かって話せる機会がなかったんだけど。

 セルゲイがバズパに直接言ってくれればよかったのでは? と思ったかもしれないが、学園都市と外部とのやりとりは基本的には手紙である。
 セルゲイは、俺との関係が証拠として残ることを避け、あえて俺に合い言葉代わりの伝言を託したってことだろうな。

 もちろん、円卓が生徒騎士の外部とのやりとりを検閲してたりはしないのだが、手紙を預かり、配達するアルバイトをしてる生徒騎士はいる。
 もしそこに帝国の、あるいは精霊教の息のかかった者がいれば、副会長であるバズパへの手紙を盗み見られる可能性がないわけではない。

(そんな段階から、セルゲイは今回のことを見越してたみたいだな)

 単に、諜報の専門家として身についた習慣なのかもしれないけどな。
 あるいは、学園内には外部の家格を持ち込まないのがルールなので、バズパの立場を思いやって、緊急時以外の連絡は極力減らすようにしてるって線もある。

 いずれにせよ、用心深いことである。
 こういう事態になったことを思えば、セルゲイの用心深さは見習うべきだ。
 もちろん俺も、緊急時に実家と連絡を取れるような手段は用意してあるのだが。
 ブランタージュ伯領に再び帝国兵がなだれ込んでくるようなことだって、ないとは言い切れない情勢だ。

 バズパが俺に、観察するような目を投げかけてくる。
 俺の顔に何を読み取ったのか、バズパは小さくうなずいて言う。

「ともあれ、今回の目的は、精霊教会の連中に気取られずに至聖所の地下に潜入し、ユナの適合者としての適性を見る……ということでいいんだな?」

「ええ。それにしても、この学園に円卓の支配の及ばないところがあるとは思いませんでした」

「支配が及んでいないわけではないさ。
 ただ、個人のプライバシーは尊重せよというのがウルヴルスラの意向らしい。精霊教の信者が私的に集まることまで、円卓で禁止するわけにはいかないのだ」

 信仰の自由、集会の自由、結社の自由ってわけか。

 バズパの言葉を、メイベルが補足する。

「ウルヴルスラは、善良で進歩的な考えの持ち主なのです。
 あまりに進歩的すぎて、わたしたちには理解が及ばないこともあります。
 ウルヴルスラは、過去に幾度となく、行政権としての円卓とはべつに、立法を担う評議会、司法を行う裁判所の併設を求めています。さらに、そのすべてのプロセスを透明化せよ、とも。
 たしかに、都市国家の中には評議会を置くところもあります。
 しかし、国が大きくなれば、王による統治の方が効率的なのは明らかです。
 まして、学園騎士団は軍事組織で、ミルデニア王国騎士団の一翼でもあるのですから」

「へえ……」

「もっとも、ウルヴルスラは理想と現実の区別を付けられる現実主義的な進歩主義者です。
 現状、学園騎士団の統治が、実力を示した円卓による権威主義的支配に落ち着かざるを得ないことは理解しています」

「まあ、ミルデニア自体が王政なのに、その麾下にある学園騎士団だけ民主政にはできませんよね」

 それをやれば、学園騎士団は王による支配にケチをつけるのか、といった話にもなりかねない。
 学園都市そのものは、人口が少ないこともあって、民主的な運営も不可能じゃないかもしれないが。

 でも、三権分立による統治を行うには、その人口の少なさがネックになりそうだ。
 人口600人と少しの学園都市で、評議会や裁判所まで揃えるのは、人員の問題で難しいだろう。

(それを言ったら、ミルデニア王国そのものだって、前世の近代国家並みの機構を揃えられるほどの人的資本はないと思う)

 べつに、メイベルがウルヴルスラの理想を理解できてないって話じゃない。
 ない袖は振れない。それだけのことだ。

「権力を相互にチェックする仕組みがあるのは理想ではありますけど、学園騎士団やミルデニア王国の現状を考えれば、現実的には無理でしょうね」

 俺の相槌に、メイベルが軽く目を見開いた。

「その通りですが……すぐにそこまで理解できた人は初めてです」

 脇に逸れ出した俺とメイベルの会話を、バズパが唇に指を当てて遮った。

「すまないが、政治の話は後にしてくれるか?
 要するに、精霊教会の活動がいかにきなくさく思えようとも、違法行為でも見つからない限り、円卓が立ち入り調査をしたり、解散を命じたりすることはできないということだ」

「帝国がスパイを飼っておくには格好の場所ですね」

「そういうことだ。
 むろん、野放しにしていたわけではない。
 わたしを中心とした執行部の人員が連中を監視下に置いている」

「至聖所に連中の見張りがいたりはしないんですか?」

「いや、やつらの教会が至聖所に近いのはただの偶然だろう。六大精霊を崇める彼らにとって、この都市の『精霊』は興味の対象外なのだ」

 と、バズパは言うが、さっきハントから聞いた話からすると、精霊教徒がこの都市の「原始精霊」に関心を持っている可能性は十分にある。
 途中で合流したバズパには、そこまで詳しい話はまだできてないだけだ。

「精霊教徒の中に、ウルヴルスラへの適合者がいたりはしないんですか?」

 俺の質問には、メイベルが答える。

「ウルヴルスラは狂信者を嫌います。理屈に合わない非合理な『信仰』には、一貫して否定的な態度を取っています。
 しかし同時に、人々が何を信じるかは自由であり、その自由を制限してはならないとも考えています」

「なるほど、進歩的ですね」

 精霊教徒がウルヴルスラにアクセスしたいと思っても、ウルヴルスラのほうでお断りするってことだな。

「納得したなら行こうではないか。至聖所の周囲は開けている。人の目がないか気をつけてくれよ」

 俺たちがうなずくと、バズパは気配を殺して路地を進んでいく。

 バズパは「影渡り」までは安定して使えないという。
 俺やロゼが「影渡り」を使えるのは、サンヌルの相反する魔力を分離して扱う技術の副産物だ。
 魔力を体内で回路にして術を組み立てる、という技術は、生まれつきの相克でもない限り、なかなか身につかないものなのだろう。
 もちろん、俺たちが教えれば、優秀な闇魔法使いであるバズパなら、すぐに習得できるだろうけどな。

 「影渡り」の代わりに今バズパがやってるのは、影を薄く身にまとい、自分の気配を漏れないようにする術だった。
 ヌルホド(闇地)の二重属性であるメイベルも同じ術を使ってる。

 俺とロゼはもちろん「影渡り」を使う。
 バズパたちの術も興味深いが、ぶっつけで使うのはためらわれた。
 俺とロゼはなまじ「影渡り」が使えるせいで、それより難度が低いはずの影をまとう術は、これまでに習得していなかったのだ。

 残るユナはというと、

「『明鏡、止水の如し』」

 そうつぶやいて、身体のまわりを網目のような水流で覆っていた。
 水でできた蚊帳のようなその網は、周囲の光を屈曲し、まるでそこにユナがいないように見せかける。
 水を使った光学迷彩だ。

 さっきまでは霧に紛れる術を使っていたが、開けた場所に出るということで、警戒度を上げたのだろう。

「よくそんな術を知ってるな」

 俺がユナにこっそり聞くと、

「退屈しのぎに、死霊たちに教えてもらった。
 デシバル帝国に弾圧されていた彼らは、魔法技術では帝国以上のものを持ってたらしい」

「えっ、帝国の方が上なんじゃないのか?」

「帝国は、黄昏人の遺産を用いて、自分たちより強力な魔法を使う民族や部族を滅ぼした。
 そして、最終的には黄昏人の遺産を破壊して、古代宮殿の力で地下に潜った。
 彼らは、地上の文明水準が落ちるのを待ってから、大陸を支配しようと考えた」

「デシバル帝国が強いんだか弱いんだかわからなくなってきたぞ」

「六大精霊から特別な加護を得た賢者たちが、それだけ手強かったということ」

「六大精霊がデシバル帝国を滅ぼす方向で力を貸したんなら、精霊教会が帝国に力を貸すのはおかしくないか?」

「おかしい。
 でも、その後の混乱でデシバル帝国滅亡前後の歴史はわからなくなっていた。死霊たちもそこまでは知らない。
 千年前から蘇った帝国が、真なる精霊を生み出し、人々を救う、と言いだせば、それなりに信憑性はある……のかもしれない」

 歴史については、ユナの話をもっとよく聞くべきなのだろう。
 つい後回しになってしまってるが、ウルヴルスラの都市機能とは別の角度で、対帝国の突破口になるかもしれない。

 それはともかく、俺たちは裏路地を抜け、開けた円形広場へと出た。
 至聖所のあるその一帯は、都市全体から見ると、ほぼど真ん中にあるだろう。

 バズパが慎重に気配を探る。
 そのあいだに、俺とロゼも魔力で周囲を探査する。

「誰もいないと思うが、ここは広い。
 一旦中央に向かえば、隠れる場所もあまりない。
 至聖所の地下に入ってしまえば安全だが、入ろうとするところを見られたくはないな」

「魔力は感じません」

「同じくだ」

 バズパのセリフに、ロゼと俺がそう言った。

 差し渡し数百メートルはありそうな広場は、円の弧に沿う形で几帳面に白いタイルが敷き詰められていた。
 若干すり鉢状に凹んでいて、中央には平たい円形の空間がある。
 その周囲を、六本の柱が囲んでいた。オベリスクみたいな、途中で屈折した四角錐だ。

「あの中央にエレベーターがある。円卓の役職者か適合者がいなければ動かないエレベーターだ。今回はわたしとメイベルがいるから問題ない」

 それなら、精霊教徒も至聖所の中に入り込むことはできないってことだな。

「問題がないなら早速行こう」

 バズパの先導で、俺たちは広場を慎重に進み、柱に囲まれたすり鉢の底へと到着する。

 近くで見ると、六本の柱は、それぞれ六大精霊を象ったもののようだ。
 柱の頂点に、それぞれ少年少女のような容姿の精霊らしき彫像が腰かけている。あるいは足を伸ばして振り、あるいは足を組んでいる。「考える人」みたいなポーズの像もある。
 それぞれの彫像の周囲には、各属性魔法を抽象的に表現した、帯というか波というか、いわく言いがたいものが浮かんでいた。フィギュアのクリアパーツのようにすこし透けてるように見えるが、暗くて霧もあるのではっきりとはわからない。

 俺たちはバズパの手招きでエレベーターのある床に立つ。

「ウルヴルスラ、メイベルです。至聖所に通してください」

 メイベルの言葉とともに、床がなめらかに沈み始める。
 闘戯場に入るためのエレベーターとそっくりだ。
 この中で唯一エレベーターに乗ったことのないロゼが、「わっ!」と驚いてから、慌ててその口を押さえている。

 エレベーターは、長いような短いような距離を沈んでいく。
 最初に床があった部分は、見上げてみると、左右からせり出してきた天井で塞がれていた。

 やがてたどり着いたのは、白いドーム状の空間だ。
 闘戯場と同じく、エレベーターは天井側から空間に入った。
 闘戯場ほどには広くない。
 せいぜい半径数十メートルってとこだろう。
 ドームの中央に巨大な光の柱があり、その根元に樹のようなものがあった。

 樹、と言っても、自然の樹木ではありえない。
 似たものを探すなら、蔵王高原の樹氷だろう。
 あるいは、クリスマス用の人工の青い透明なプラスチックの樹。

 エレベーターから降りてみると、その樹は見上げるほどに大きかった。
 ドームの高さの半分くらいはある。
 薄青い透明な樹木が、大きく枝を広げ、ドームの天井を隠すほどだ。

「綺麗……」

 俺の隣でロゼが言った。

「これが、ウルヴルスラの端末です」

 メイベルが言う。

「端末ってことは、本体はべつに?」

「さあ、そこまではわたしにもわかりません。たとえ知ってたとしても、円卓でないあなたたちにそれを教えることはないでしょう」

 相変わらずつけつけとした口調でメイベルがそう答える。

「……メイベル。適性というのはどうやって見るの?」

 ユナが聞く。

 メイベルが四年生、ユナが二年生ではあるが、前にも言ったように、俗世を半分解脱したようなところのあるユナは、上級生にもタメ口だ。
 霊威兵装に囚われてた期間を年齢にカウントすれば、ユナは御歳おんとし256歳の大先輩とも言える。

 だが、そんなユナも、さすがにこの光景には驚いてるようだった。
 アクアマリンの瞳を、目の前の、青く透明な樹に注いでる。

(ユナの瞳の色と、ちょっと通じるものがあるな)

 アマとして水の精霊に愛されたユナは、流水のような透明でさらさらの長い髪と、アクアマリンのような澄んだ瞳の持ち主だ。
 そこから受ける印象と、目の前にある青い透明な樹から受ける印象はよく似てる。

 メイベルが、ユナなら適合者になれるかもと言ったのは、霊威兵装の中で二百年以上の時を生きたことで、修験者じみた浮世離れした精神性を獲得してるから……というのが理由だったが、単純な見た目の印象も大きかったのかもしれない。
 もっとも、見た目だけならユナは霊威兵装に取り込まれる前からこうだったはずで、その時代には適合者ではなかったという。

 そう考えてみると、適合者になれる条件は、いまひとつよくわからない。

 まあ、だからこそこうして、適性を試すためにやってきたのだが。

 樹に近づいたメイベルがユナに言う。

「樹の幹に近づいて、心を通わせてください」

「……心を通わせる?」

「なんでもいいんです。幹に触れてもいいし、手をかざしてもいい。幹の前で手を組んで祈ってもいい。言葉で呼びかけても構いません。
 それでウルヴルスラから答えがあれば、ユナさんには適性があるということになります」

 無言でこくりとうなずくユナに代わって、俺がメイベルに聞いてみる。

「ユナ以外もやってみていいですか?」

「そうですね。エリアック君とローゼリアさんなら、やってみる価値はあるでしょう。ダメならダメで、適合者の条件を絞り込むことができますし」

 メイベルのお墨付きを得て、俺、ロゼ、ユナが揃って幹に近づいた。

(本命はユナとしても、ロゼだって三重属性と膨大な魔力の持ち主だ。俺だって魔力は相当高いし、転生者でもある)

 その辺の特殊事情がどう作用するかはわからない。
 だが、せっかく来たのだ。
 また来られるかどうかもわからないし、ダメ元で試してみたっていいだろう。

「じゃあ、やってみる」

 ユナが先頭に立って、透明な樹の幹に手を伸ばす。

 ユナが樹に向かって何やら念じるようなそぶりをみせる。
 しばらく様子をみるが、変化がない。

「わたしもやる」

 ロゼは、樹の前に跪き、両手を合わせて祈るように目をつむる。
 こちらもすぐには反応がない。

「俺もやるか」

 とはいえ、一体何をどうすればいいのやら。

(原始精霊ウルヴルスラよ。我が呼び声に答えよ!)

 声に出すのも恥ずかしかったので、とりあえず心の中でそれっぽいセリフをつぶやいた。


 ――ぷぷっ


「……えっ?」

 なんか、笑い声が聞こえなかったか?

「どうかしましたか、エリアック君?」

 メイベルが聞いてくる。

「え、いや。何か聞こえたような……」

「本当ですか? ウルヴルスラがすぐに答えてくれることは稀です。手を変え品を変え呼びかけてみてください」

「わかりました」

 しょうがないので、また心の中で呼びかけてみる。

(おお、学園都市の偉大なる守護者、悠久にして不滅の存在たるウルヴルスラよ! 我が呼びかけに応えたまえ! 我が名はエリアック=サンヌル=ブランタージュ! 偉大なる見習い魔術師なり!)

 もはや悪ノリである。


 ――っ……! くっ、負けない つっこんだら負けな気がする……


「いや、今反応したよな!?」

 思わずそうつっこんだ俺に、俺以外のメンツが驚いた顔で振り向いた。
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