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第五章 15歳
61 原始精霊ウルヴルスラ
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白いドーム状の空間だが、さっきまでいた樹のあった空間よりはだいぶ狭い。
半径十メートルのまっさらなドームだ。
その真ん中に、異貌の少女がいた。
「ようこそ。ここに人を招いたのは千年ぶり」
さっきまで脳内に響いていた声が、少女の口から発せられた。
いや、それを少女と言っていいものかどうか。
白磁の肌と青く透明な長い髪を持った、ローティーンくらいに見える少女……ではある。
ただし、その髪は、木の枝のように折れ曲がって四方に広がり、この空間の壁の奥へと消えている。
その髪は、さっき至聖所で見た「樹」にそっくりだ。
青く透明な瞳……というとユナのようだが、受ける印象はちょっと違う。
この少女は、ユナ以上に目つきが茫洋としてて、どこを見てるのかわからない感じがする。
目で見なくても、あらゆるものを把握できてる、だから、目をせわしなく動かす必要がない。
そんな泰然とした雰囲気で、まぶたが半分閉じた目を、どこでもない中空へと向けている。
少女の耳は細く尖っていた。
前世のファンタジーによくあるエルフのようだが、少女の耳は先端に近づくに従って透明になり、その先端は空中にまぎれてはっきりしない。
少女は裸だったが、不思議とセクシャルな印象はしなかった。
人間の裸体というのは、隠すからこそ性的な意味合いを持ってくる。
最初から隠さず、裸であることに対する羞恥を知らなければ、彼女のように平然としてることができるのだろう。
前世のテレビで、未開部族の女性が乳房を隠さないで映っていても、そこに性を感じないようなものだ。
そんな少女が、透明な青い枝のようなものを頭から四方に生やしたまま、地面にぺたんと座っていた。
いわゆるアヒル座りで、膝が内側を向いている。
身体がやわらかくないと足が痛くなりそうな姿勢だが、少女の身体にはほとんど力感を感じない。
糸を切られたパペット人形が崩れたかのように、脱力しきった身体が、重力に従って積み重なっただけという感じの座り方だ。
「あなたが……ウルヴルスラ……なのですか?」
メイベルが言った。
「この学園都市そのものがウルヴルスラ。わたしはその心臓、中枢、頭脳のようなもの。わたしがウルヴルスラかどうかは見方による」
裸の少女がうなずいた。
「もったいぶった言い方。あなたがウルヴルスラの核となる存在なら、一般的に言ってあなたをウルヴルスラと呼んで間違いはない」
前のやりとりを引きずってるのか、いきなり喧嘩腰でユナが言う。
そのユナと「ウルヴルスラ」を比べてみる。
共通点は多い。
ユナのアクアマリンの髪と、ウルヴルスラの青く透明な樹木のような髪は一脈通じるものがある。
青く透き通った瞳もよく似てる。
浮世離れした茫洋とした雰囲気もそっくりだ。
もっとも、ユナがまだ十分に人間味を残してるのに対し、ウルヴルスラからはほとんど人間味を感じない。
まあ、ユナと口論する時だけは妙に感情的になるけどな。
「ユナシパーシュは単なる適合者にすぎない。用件としては後回し。その程度の価値しかない」
「なんですって?」
噛み付くユナに、
「デシバル帝国の霊威兵装は、黄昏人の生み出した精霊には遠く及ばない紛い物だった。
ユナシパーシュはその機能の一部を身のうちに取り込んではいるけど、あくまでも人間にすぎない」
ウルヴルスラのセリフは、毎度のことながら情報量が多かった。
「黄昏人が精霊を生み出した、だって?」
「そう。エリアック。あなたならわかるはず。なぜこの世界には精霊なるものが存在するのか。あなたの元の世界には、こんな奇妙なものはなかったでしょう?」
「そりゃ、そうだけど……」
まさか、その部分につっこみが入るとは。
そういう世界なんだ、で疑問に思わずやってきたのだが。
「ち、ちょっと待って、エリア!
ず――――ーっと聞こうと思って我慢してたんだけど、エリアの『元の』世界ってどういうことかな!?
帝国の丞相とも因縁があるみたいな雰囲気だったよね!?」
ロゼが、俺の前に回り込んで聞いてきた。
「すまん、ウルヴルスラ。そっちの説明からしてもいいか?」
「構わない。
でも、ローゼリアにはもっと早くに打ち明けるべきだった。
あなたが秘密を抱えれば抱えるほど、あなたの周囲の歪みは大きくなる。心にも雑念が起こって、精霊からの加護も微妙に揺らぐ。
それが、あなたの伸び代を奪うことにもなる」
「うっ……悪いとは思ってるよ」
「あなたはストレスを感じないから、精霊の動揺に気づいていない。嘘や秘密は邪念につながる。精霊は邪念を嫌う。綺麗事ではなく、精霊はそのように出来ている。だから、ゼーハイドは精霊の力を扱えない」
「ち、ちょっと待ってくれ! 情報が多すぎる!」
俺はウルヴルスラを制し、額に手を当てて今聞いたことを整理する。
「メモっていいか?」
「どうぞ」
俺は制服のポケットからメモを取り出し、ウルヴルスラに聞かされたことをメモに取る。
・ウルヴルスラは俺が転生者であることを知っている
・精霊は黄昏人が生み出した
・霊威兵装は精霊の下位互換?
・ユナは霊威兵装の機能の一部を取り込んでいる?
・精霊は邪念を嫌う。邪念は魔法の威力に悪影響
・ウルヴルスラは【無荷無覚】のことを知っている
・ゼーハイドは魔法が使えない
ゼーハイドっていうのは、遠足の帰りにキロフがけしかけてきた半透明の三つ目の青い怪物のことだ。
学園騎士団の入団試験では、ゼーハイドそっくりの仮想ターゲットが試験の的として使われていた。
そのことを思えば、ウルヴルスラがゼーハイドのことを知ってるのはおかしくない。知らないほうがむしろおかしかったくらいだ。
「ふう……。聞き逃せないことばかりだな」
「エリア! 最初に、元の世界ってどういうことか教えて!」
「わかってるよ。ごめん、ロゼ。なかなか話す決心がつかなかったんだ」
俺は、ロゼに前世からの出来事を説明する。
前世で死んだこと(死因については今はいいだろう)、その後神を名乗る存在に拾われてこの世界の赤子に転生したこと。
その際に、「ストレスを感じない」力――【無荷無覚】を授かったこと。
俺がサンヌルの相克を克服できたのは、【無荷無覚】と前世の記憶のおかげであること。
その後のことは、ロゼは大体知っている。
補足するとすれば、ネオデシバル帝国の丞相キロフが前世で因縁のある相手だったことか。
この場に居合わせたユナとメイベルは、目を見開いて俺の話を聞いていた。
「そういうことだったんだ……わかったよ、エリア。話してくれてありがとう」
ロゼは、俺の話を聞くなりあっさりとそう受け入れてくれた。
「信じてくれるのか?」
「わたしがエリアのことを疑うはずがないでしょ?」
「……それもそうだな」
「むしろ、こんな土壇場じゃなくて、もっと早く話してほしかったよ」
「ごめん」
「まあ、こんな話じゃしょうがないとは思うけどさ」
ロゼのほうは、それで納得してくれたようだ。
メイベルは、難しい顔で俺の話を聞いていた。
引き下がったロゼに代わって、メイベルがウルヴルスラに聞いた。
「エリアック君の話は事実なんですか?」
「すべて事実」
ウルヴルスラがうなずいた。
さすがに、ウルヴルスラに保証されては、メイベルもそれ以上は疑えない。
「驚きましたね。
まあ、エリアック君のこれまでの実績を思えば、むしろ納得かもしれませんが。
まったく。会長たちにどう報告するか、頭が痛くなります。
図書館の索引作成を苦にしてなかったのも、ひょっとしてその【無荷無覚】の力ですか?」
「そうです。すみません」
「なんで謝るんです?」
「いえ、なんかずるいかなって」
「持てる力を最大限発揮すること。それが、この学園騎士団の鉄則です。
そういうことなら、これからは図書館の索引作成が捗りそうでなによりです。持てる力を最大限に発揮してくださいね、エリアック君?」
「うっ……」
そう言われては断われない。
机の前にどっさりと積まれた本の山が目に浮かぶ。
ストレスは感じないものの、疲れないわけじゃないからな。
今度はユナが言った。
「まあ、わたしが疑うのもおかしな話」
「そりゃそうだ」
古代デシバル帝国の霊威兵装の中で死霊に混じって二百四十年生きてましたって言われるのと、別の世界から転生してきましたって言われるのと、どっちが信じられないかは微妙なところだ。
「わたしの話に移っていい?」
ウルヴルスラが聞いてきた。
「ああ、すまん。
どこから聞いたものか……」
「エリアの転生関係の話から済ませよう」
ロゼがそう言ってくる。
「そうだな。
ウルヴルスラ、おまえはなんで、俺が転生者だってことを知ってたんだ?」
「なんでも何も、適切な転生者を用意してもらったのはわたし」
「用意して……もらった?」
「知り合いに、別の世界で神様をやってるひとがいる。そのひとは、魂と輪廻に干渉する力を持っている。彼女に頼んだら、一晩でやってくれた」
「別の世界って、俺の元いた世界ってことだよな?」
「違う。あなたの元の世界でもこの世界でもない別の世界」
「なんでそんなのと知り合いなんだ?」
「気が合った。趣味も合った」
「趣味?」
「地球のオンラインゲーム」
「ゲームのフレかよ!」
「彼女のおかげで、あなたという転生者をこの世界に招くことができた」
「それが、うっすら記憶にあるあの『女神様』の正体か。
でも、待ってくれ。俺はこの世界に転生するにあたって、女神様からこれといった指示を受けてない。ただ、ストレスを感じない力をあげるから、第二の人生をゆっくり送ってねって感じだったぞ」
「何事もなければ、その通りになっていた」
「だが、おまえが転生者を要望したってことは、何か意図があってのことだったんだろう? 実際、俺が9歳になった時にネオデシバルがミルデニアに侵攻してきた」
「未来は不確かなもの。黄昏人の技術をもってしても、運命を確実に見通すことは不可能。むしろ、見通せない出来事のことを運命と呼ぶ。
でも、世界のバランスが崩れる予兆くらいは感じ取れる。
今回問題になっている事象『古代デシバル帝国の再興』は、1%以下の確率で発生すると予想されていた。確率は低いものの無視のできない重大事態。そこに保険をかける形で、わたしは異世界からの転生者という不確定要素を導入した」
「なんか、めっちゃ迂遠な感じがするんだけど」
「その通り。わたしは人間たちの世界に直接的な干渉はあまりできないことになっている。状況をよくするための間接的な干渉は推奨されているものの、わたしの意思で状況に直接介入することは厳密に禁止されている」
「奥歯にものの挟まった言い方だな。誰が『推奨』したり、『禁止』したりしてるんだ?」
「わたしは、黄昏人によって生み出された存在。その存在を規定するプロトコルが、わたしの行動を推奨したり禁止したりする」
異世界の神様に依頼して俺を転生させたくらいだから、目の前の少女は神に等しい力を持っている。
だが、その力を使用するには制限がある。
彼女を造り出したのは黄昏人で、彼らは彼女に制限をかけた。
(話がでかすぎて消化しきれないな)
とりあえず、ずっと気になってたことから聞いてみるか。
「ウルヴルスラは原始精霊と呼ばれてると聞いた。黄昏人は精霊を『造った』のか? それと、六大精霊と原始精霊はどう違う?」
半径十メートルのまっさらなドームだ。
その真ん中に、異貌の少女がいた。
「ようこそ。ここに人を招いたのは千年ぶり」
さっきまで脳内に響いていた声が、少女の口から発せられた。
いや、それを少女と言っていいものかどうか。
白磁の肌と青く透明な長い髪を持った、ローティーンくらいに見える少女……ではある。
ただし、その髪は、木の枝のように折れ曲がって四方に広がり、この空間の壁の奥へと消えている。
その髪は、さっき至聖所で見た「樹」にそっくりだ。
青く透明な瞳……というとユナのようだが、受ける印象はちょっと違う。
この少女は、ユナ以上に目つきが茫洋としてて、どこを見てるのかわからない感じがする。
目で見なくても、あらゆるものを把握できてる、だから、目をせわしなく動かす必要がない。
そんな泰然とした雰囲気で、まぶたが半分閉じた目を、どこでもない中空へと向けている。
少女の耳は細く尖っていた。
前世のファンタジーによくあるエルフのようだが、少女の耳は先端に近づくに従って透明になり、その先端は空中にまぎれてはっきりしない。
少女は裸だったが、不思議とセクシャルな印象はしなかった。
人間の裸体というのは、隠すからこそ性的な意味合いを持ってくる。
最初から隠さず、裸であることに対する羞恥を知らなければ、彼女のように平然としてることができるのだろう。
前世のテレビで、未開部族の女性が乳房を隠さないで映っていても、そこに性を感じないようなものだ。
そんな少女が、透明な青い枝のようなものを頭から四方に生やしたまま、地面にぺたんと座っていた。
いわゆるアヒル座りで、膝が内側を向いている。
身体がやわらかくないと足が痛くなりそうな姿勢だが、少女の身体にはほとんど力感を感じない。
糸を切られたパペット人形が崩れたかのように、脱力しきった身体が、重力に従って積み重なっただけという感じの座り方だ。
「あなたが……ウルヴルスラ……なのですか?」
メイベルが言った。
「この学園都市そのものがウルヴルスラ。わたしはその心臓、中枢、頭脳のようなもの。わたしがウルヴルスラかどうかは見方による」
裸の少女がうなずいた。
「もったいぶった言い方。あなたがウルヴルスラの核となる存在なら、一般的に言ってあなたをウルヴルスラと呼んで間違いはない」
前のやりとりを引きずってるのか、いきなり喧嘩腰でユナが言う。
そのユナと「ウルヴルスラ」を比べてみる。
共通点は多い。
ユナのアクアマリンの髪と、ウルヴルスラの青く透明な樹木のような髪は一脈通じるものがある。
青く透き通った瞳もよく似てる。
浮世離れした茫洋とした雰囲気もそっくりだ。
もっとも、ユナがまだ十分に人間味を残してるのに対し、ウルヴルスラからはほとんど人間味を感じない。
まあ、ユナと口論する時だけは妙に感情的になるけどな。
「ユナシパーシュは単なる適合者にすぎない。用件としては後回し。その程度の価値しかない」
「なんですって?」
噛み付くユナに、
「デシバル帝国の霊威兵装は、黄昏人の生み出した精霊には遠く及ばない紛い物だった。
ユナシパーシュはその機能の一部を身のうちに取り込んではいるけど、あくまでも人間にすぎない」
ウルヴルスラのセリフは、毎度のことながら情報量が多かった。
「黄昏人が精霊を生み出した、だって?」
「そう。エリアック。あなたならわかるはず。なぜこの世界には精霊なるものが存在するのか。あなたの元の世界には、こんな奇妙なものはなかったでしょう?」
「そりゃ、そうだけど……」
まさか、その部分につっこみが入るとは。
そういう世界なんだ、で疑問に思わずやってきたのだが。
「ち、ちょっと待って、エリア!
ず――――ーっと聞こうと思って我慢してたんだけど、エリアの『元の』世界ってどういうことかな!?
帝国の丞相とも因縁があるみたいな雰囲気だったよね!?」
ロゼが、俺の前に回り込んで聞いてきた。
「すまん、ウルヴルスラ。そっちの説明からしてもいいか?」
「構わない。
でも、ローゼリアにはもっと早くに打ち明けるべきだった。
あなたが秘密を抱えれば抱えるほど、あなたの周囲の歪みは大きくなる。心にも雑念が起こって、精霊からの加護も微妙に揺らぐ。
それが、あなたの伸び代を奪うことにもなる」
「うっ……悪いとは思ってるよ」
「あなたはストレスを感じないから、精霊の動揺に気づいていない。嘘や秘密は邪念につながる。精霊は邪念を嫌う。綺麗事ではなく、精霊はそのように出来ている。だから、ゼーハイドは精霊の力を扱えない」
「ち、ちょっと待ってくれ! 情報が多すぎる!」
俺はウルヴルスラを制し、額に手を当てて今聞いたことを整理する。
「メモっていいか?」
「どうぞ」
俺は制服のポケットからメモを取り出し、ウルヴルスラに聞かされたことをメモに取る。
・ウルヴルスラは俺が転生者であることを知っている
・精霊は黄昏人が生み出した
・霊威兵装は精霊の下位互換?
・ユナは霊威兵装の機能の一部を取り込んでいる?
・精霊は邪念を嫌う。邪念は魔法の威力に悪影響
・ウルヴルスラは【無荷無覚】のことを知っている
・ゼーハイドは魔法が使えない
ゼーハイドっていうのは、遠足の帰りにキロフがけしかけてきた半透明の三つ目の青い怪物のことだ。
学園騎士団の入団試験では、ゼーハイドそっくりの仮想ターゲットが試験の的として使われていた。
そのことを思えば、ウルヴルスラがゼーハイドのことを知ってるのはおかしくない。知らないほうがむしろおかしかったくらいだ。
「ふう……。聞き逃せないことばかりだな」
「エリア! 最初に、元の世界ってどういうことか教えて!」
「わかってるよ。ごめん、ロゼ。なかなか話す決心がつかなかったんだ」
俺は、ロゼに前世からの出来事を説明する。
前世で死んだこと(死因については今はいいだろう)、その後神を名乗る存在に拾われてこの世界の赤子に転生したこと。
その際に、「ストレスを感じない」力――【無荷無覚】を授かったこと。
俺がサンヌルの相克を克服できたのは、【無荷無覚】と前世の記憶のおかげであること。
その後のことは、ロゼは大体知っている。
補足するとすれば、ネオデシバル帝国の丞相キロフが前世で因縁のある相手だったことか。
この場に居合わせたユナとメイベルは、目を見開いて俺の話を聞いていた。
「そういうことだったんだ……わかったよ、エリア。話してくれてありがとう」
ロゼは、俺の話を聞くなりあっさりとそう受け入れてくれた。
「信じてくれるのか?」
「わたしがエリアのことを疑うはずがないでしょ?」
「……それもそうだな」
「むしろ、こんな土壇場じゃなくて、もっと早く話してほしかったよ」
「ごめん」
「まあ、こんな話じゃしょうがないとは思うけどさ」
ロゼのほうは、それで納得してくれたようだ。
メイベルは、難しい顔で俺の話を聞いていた。
引き下がったロゼに代わって、メイベルがウルヴルスラに聞いた。
「エリアック君の話は事実なんですか?」
「すべて事実」
ウルヴルスラがうなずいた。
さすがに、ウルヴルスラに保証されては、メイベルもそれ以上は疑えない。
「驚きましたね。
まあ、エリアック君のこれまでの実績を思えば、むしろ納得かもしれませんが。
まったく。会長たちにどう報告するか、頭が痛くなります。
図書館の索引作成を苦にしてなかったのも、ひょっとしてその【無荷無覚】の力ですか?」
「そうです。すみません」
「なんで謝るんです?」
「いえ、なんかずるいかなって」
「持てる力を最大限発揮すること。それが、この学園騎士団の鉄則です。
そういうことなら、これからは図書館の索引作成が捗りそうでなによりです。持てる力を最大限に発揮してくださいね、エリアック君?」
「うっ……」
そう言われては断われない。
机の前にどっさりと積まれた本の山が目に浮かぶ。
ストレスは感じないものの、疲れないわけじゃないからな。
今度はユナが言った。
「まあ、わたしが疑うのもおかしな話」
「そりゃそうだ」
古代デシバル帝国の霊威兵装の中で死霊に混じって二百四十年生きてましたって言われるのと、別の世界から転生してきましたって言われるのと、どっちが信じられないかは微妙なところだ。
「わたしの話に移っていい?」
ウルヴルスラが聞いてきた。
「ああ、すまん。
どこから聞いたものか……」
「エリアの転生関係の話から済ませよう」
ロゼがそう言ってくる。
「そうだな。
ウルヴルスラ、おまえはなんで、俺が転生者だってことを知ってたんだ?」
「なんでも何も、適切な転生者を用意してもらったのはわたし」
「用意して……もらった?」
「知り合いに、別の世界で神様をやってるひとがいる。そのひとは、魂と輪廻に干渉する力を持っている。彼女に頼んだら、一晩でやってくれた」
「別の世界って、俺の元いた世界ってことだよな?」
「違う。あなたの元の世界でもこの世界でもない別の世界」
「なんでそんなのと知り合いなんだ?」
「気が合った。趣味も合った」
「趣味?」
「地球のオンラインゲーム」
「ゲームのフレかよ!」
「彼女のおかげで、あなたという転生者をこの世界に招くことができた」
「それが、うっすら記憶にあるあの『女神様』の正体か。
でも、待ってくれ。俺はこの世界に転生するにあたって、女神様からこれといった指示を受けてない。ただ、ストレスを感じない力をあげるから、第二の人生をゆっくり送ってねって感じだったぞ」
「何事もなければ、その通りになっていた」
「だが、おまえが転生者を要望したってことは、何か意図があってのことだったんだろう? 実際、俺が9歳になった時にネオデシバルがミルデニアに侵攻してきた」
「未来は不確かなもの。黄昏人の技術をもってしても、運命を確実に見通すことは不可能。むしろ、見通せない出来事のことを運命と呼ぶ。
でも、世界のバランスが崩れる予兆くらいは感じ取れる。
今回問題になっている事象『古代デシバル帝国の再興』は、1%以下の確率で発生すると予想されていた。確率は低いものの無視のできない重大事態。そこに保険をかける形で、わたしは異世界からの転生者という不確定要素を導入した」
「なんか、めっちゃ迂遠な感じがするんだけど」
「その通り。わたしは人間たちの世界に直接的な干渉はあまりできないことになっている。状況をよくするための間接的な干渉は推奨されているものの、わたしの意思で状況に直接介入することは厳密に禁止されている」
「奥歯にものの挟まった言い方だな。誰が『推奨』したり、『禁止』したりしてるんだ?」
「わたしは、黄昏人によって生み出された存在。その存在を規定するプロトコルが、わたしの行動を推奨したり禁止したりする」
異世界の神様に依頼して俺を転生させたくらいだから、目の前の少女は神に等しい力を持っている。
だが、その力を使用するには制限がある。
彼女を造り出したのは黄昏人で、彼らは彼女に制限をかけた。
(話がでかすぎて消化しきれないな)
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