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壱鬼 人捜しと仕事の余韻
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最初の印象はかわいい女の子だと言う感じだった。
背もそこまで高くない。
顔立ちも中性的というよりかは、小さくまとまっておりかわいい。
笑ったとき、特有の八重歯が出ており、それがチャームポイントといったところだった。服装も、独特ではあるがかわいい体裁にまとまっている。
服装などに頓着がないので、それがどんなジャンルなのかはなんとも分からない。いつも好むのはシンプルで動きやすい格好。それが一番いい。変にオシャレをしたところで、似合うものでもない。
「仕事探しているんだって?」
天使のような美声だった。
「……」
「ちょうど、君みたいな人がいたらなぁって、ドクに相談していたんだ!」
本当にうれしそうにコロコロとしゃべる。
「……」
「最初は驚くと思うけど、すぐに慣れると思うよ!」
感情が非常に豊かなのだとすぐに理解出来た。
「……」
「ねぇ、なんで黙ってるの?」
そんな声が少しだけ沈む。
「僕の名は九鬼茜《くきあかね》よろしくね!」
「柊涼」
それが二人の出会いだった。
・
涼と茜に連れられ、二階へと上がった少女は青白い顔をしていた。
「ちょっと散らかってるけどごめんねぇ。徹夜で作業してたから!」
茜店長はそう言う。
たしかに工具が散乱している。
あまり片付けが得意では無い茜だった。そこをフォローするようになったのが涼といったところだった。
そもそも、涼が来なければ生産性はあっても商売気がない茜では店をきりもみするのは難しいところだっただろう。その意味では良かったのかもしれない。
「それで要件は?」
「兄を探しています」
「お兄さん?」
「それってこう言う顔かな?」
茜はそういうと、画用紙を取り出すと、さらさらと描きだした。そうして出来上がった似顔絵を彼女に見せる。
「……! どうして」
「うん、見えるからね」
カラカラと茜は笑った。
「どこに居るんですか?」
「さぁ、そこまでは、ただ……」
そこで茜はすっと声音を落とした。
「ただ、なんです?」
その変化に彼女はこわごわと聞く。
「たぶん、もう死んでいるよ」
聞きたくない言葉だった。
「なぜ分かるんです!」
思わず激昂する彼女の声が響く。
「いるからね。涼、見えてるでしょ?」
話を振られた彼は頷いた。
「見えてはないけど、感じる」
「あぁ、それじゃ見えてないか」
なぞのやりとりに彼女は困惑するだけだった。
「僕の目はね。死んだ人も見えるんだ」
あっけらかんとして言う茜に対し、少女はうなだれるだけだった。
「どうしてほしい? ここまでなら、報酬はいらないよ」
でも警察じゃ見つからないよ、そう茜は断言した。
その言葉に少女、真紀はやっぱりというように視線を落とした。
「兄は、一年前に失踪しました。最近、私の夢に出てくるようになったんです。誰に言っても信じてくれませんでしたし、警察も兄を探してくれません」
「そりゃそうだよ。見つからないよ」
当然というように言う茜に対して真紀は茜を睨み付けた。
「あなたなら見つけられると?」
「それが業務の一環だからね。依頼は受けたらそりゃ、探しますよ~」
どこまでも軽い口調に真紀はどんどんと怒気をはらんでいった。
その様子を見ていた涼がため息を漏らす。
いつもの事だが、相手のペースに合わせることのない茜は相手を怒らせやすい。永いこと生きているのに、こういうところは直そうという気がそもそも無いから質が悪い。
「はいはい、店長は下行ってて、詳しいことはこっちで聞いておきますから」
「え~……あ、そういうこと? らじゃ~」
と軽い感じで茜はそのまま下へと行ってしまった。
「ごめんね。ああいう人なんだけど、仕事の腕は確かだから」
「……」
「とりあえず、お兄さんを見つければいいんだね?」
「はい」
「さっき店長が言っていたとおりなら、もう亡くなっていると思うけどそれでもいいだね?」
「……はい。夢に出てきた兄は凄く辛そうでした。もし亡くなっているのならば、苦しみから解放してほしいです」
仲のいい兄だったんです、真紀はそういった。
「わかった。私達にまかせて、報酬は知っている?」
「はなしづてですけど……」
「大丈夫、無理の無い程度で済ませると思うから」
にっこりと涼が言うと、彼女は少しだけ頬を赤らめながら頷いた。
・
真紀が帰ると、涼は茜に詰め寄った。
「何度も話してるけど、あの態度はなに?」
「え? なんのこと」
きゅるんと、茜はかわいらしい格好で応える。
「大切な身内を亡くされているのに、あんな口調じゃ怒って当然でしょう」
「だって、人の機微ってわかんないんだもん。身内ねぇ、いるだけでやっかいな存在じゃん」
「厄介かどうかは、人それぞれでしょう。彼女の場合は仲のいい兄妹だったてことでしょう」
「そっか。そういうパターンもあるよね!」
その反応に涼はため息をもらした。
「そんなため息をもらさない~。もう涼はかっこいいんだから、そういう根暗っぽい動作はマイナスだよ!」
茜はそう言いながら、涼に抱きついた。
「だぁ! もう、店開けましょうよ。もういいでしょう!」
「あ、そうだね。開けよう開けよう。で、さっきの子から手がかりはもらったの?」
「えぇ、もらいましたよ」
それはよかった。と茜は満足げに頷き。久々のごちそうだぁと喜んでいた。
・
夕方となり、涼は客足が途絶えると少し早い店じまいとした。
茜はそれに応じて店に降りてきた。
「売上どうだった?」
「新作は全部売れたから、いいですよ」
「やったね! あ、今回の報酬は今日の売上でいい?」
「あ~、そうですね。今日の額はそれなりなのでいいですよ」
「わ~い。あ、ねぇねぇ、久々にあっちも味わっておく?」
そう、茜は涼をかがませ耳元で言った。
「……考えておきます」
涼は少し顔を赤らめながらそういった。
その様子に茜は満足気に頷いた。
「じゃあ、出かけようか!」
茜は少し古ぼけたスマートフォンを取り出した。
それは茜の持ち物では無かった。
真紀から借りた、兄が残した持ち物だった。
「あとはこれが教えてくれるはずだね!」
二人は店を完全に閉めると、外へと出た。
もう夕方を過ぎ、外は夕闇に包まれ出していた。
電灯のない路地《ろおじ》は暗く、人気がない。すぐそこが寺町商店街だというのに、ここだけ異界のように気配と喧噪がなかった。
「さて、とりあえず歩こうか」
「はい」
茜を先頭に二人は歩き出した。
商店街へ出ると、観光客がごった返していた。
地元の人間を探す方が難しいような光景に、涼は辟易した。
もとから人混みが得意では無かった。そのためもあるだろう。
涼は茜の後をついて行く。
茜は後ろを振り返ることなく、人とぶつかることなく、スマートフォンに視線を落としながら歩き続ける。
そうして、商店街を抜け、三条大橋へと向かう。
若者が集まりだす時間。木屋町通りを抜け、鴨川へと向かう。
「へぇ、こんなとこで起きたのかな」
「なにが?」
訝しむ涼にあっさりと茜は言う。
「神隠し」
また物騒な言葉を発する。
軽々しく、そういうことを言うからこの人は怖い。
「線がここを指してる」
そこは橋の下だった。
カップルなどが行き交うこの場所。人目に触れやすいこの場所がそうだというのだ。
茜に見える世界。茜が住む世界。そういった話だ。そういう世界だ。もう1年ほど付き合い慣れてきているが、相も変わらず怖い。
「涼、君も見てみるんだ」
そう言われ、涼は眼帯を外した。
そして、こわごわと左目を開く。
世界の色が混ざる。
群青色の空は赤紫色となり、行き交う人々とは別に灰色の影がそこらかしこで蠢いていた。
場所が場所だけにこれは仕方が無い。
この三条大橋の付近、三条河原は昔処刑場であり、さらし首の場所だった。そのころから怨念が渦巻く場所。霊達が集まっていても不思議ではない。
霊は水気を好む。今でこそ、カップル達がいる賑やかな場所になっているが、元々は生々しい場所なのだ。それを目の当たりに出来る光景といえる。
そう、涼の左目はこの世ならざるものが見える。
それは茜もまたそうだった。
「チャンネルを見つけた。じゃあ、行こうか……あっちの世界に」
茜はピクニックにでも行くかのように明るくそういった。
右の指で空中に楕円を描き、軽く指を鳴らす。
それだけだ。楕円の縁がオレンジ色に輝き、道が出来る。茜はさも当然のようにそれをくぐった。涼もまたそれにならい続く。
そうして、二人は現世から消えた。
紫色の世界。
建物などは全て同じ現世と同じ。ただ、人間はいない。
ここは怪士の世界だった。
鴨川が流れている。
いつも見る光景があった。
いや、違う。
鴨川の中心に何かが巣くっていた。
橋桁の下に中之島が出来ており、そこに白い糸の巣がある。
「なるほど、あの蟲の世界か」
白い糸の先、ぐるぐる巻きとなった糸の塊大きな大きなさなぎが取り付いている。塊はいくつもあり、ソレが吊り下げられている。
その下には大きな蛾がいた。
「この世界は時間が遅い法則のようだね」
「え?」
「だって普通の時間の流れだと人ってすぐに死んじゃうでしょう? だから、ここだと人の流れってゆっくりになっているみたい」
あいつの仕業だね、と人より大きい蛾をさした。
「もしかして、吊り下げられているものって全部人間?」
「だろうね。幼虫に養分を吸わせて成長させているんだろうね。死んだって事は全て吸ってしまったって事じゃないかな」
茜は軽い調子言い。その手に武器を持つ。
それは自分と同じくらいの身の丈がある大鎌だった。
「じゃあ、涼はいつもどおり援護お願いね。たぶんだけど、あの蛹たちもう羽化しそうだから、したら撃ってね」
と、茜は気軽にライフルを渡してくる。
いつもながらどこから取り出してくるのやらだ。
何もないところから茜はものを出す。どういう法則なのか、理解することは出来ない。もう、そういうものなのだと思ってしまった。
涼は、何度も使っているライフルを手に左目で照準を合わせる。
たしかにスコープを覗いてみると、さなぎが微妙に蠢いている。
「じゃ、始めよっか!」
茜は走り出した。
狩りの時間。
敵がやってきたと悟った蛾が抵抗を試みる。
が、それはむなしい結果となった。
所詮、大きくても蛾は蛾だ。
茜……ハイデイライトウォーカー、吸血鬼の敵ではないのだ。
戦いの気配に呼応するかのようにさなぎが動き出す。
「あっ」
あわてて、スコープを覗くとちょうどさなぎが割れ、それが姿を現す。
「うっ」
あまりのグロテスクさに背筋が寒くなった。
それは人の顔をもった蛾だった。
「涼! ご褒美!」
「う、わ、わかってる!」
決して欲に負けるのではない。
涼は、そう念じながら引き金を引いた。
放たれた弾は狙い通りに人間頭の形をした頭部をぶちぬき、蛾を死滅させていく。
そうして、今回の仕事は終えていった……
・
次の日の夕刻。
ふらふらと真紀が九鬼堂から出て行く。
その足取りは危なっかしく、その表情はどこか上気していた。
実の兄だったものと対面したときは、青ざめ泣き崩れていたが、そんな面影は今の彼女には何処にも無かった。
茜に報酬を払ったせいだろう。
大体の人はそうなるものだった。特に命に関わることもないし、記憶の一部を消しているので、対面時に受けたショックの後遺症も残ることは無かった。
それが茜のやり方……
だが、涼は違う。
涼は全て記憶に残し、そしてそれに溺れかける。
そしてそれを茜は楽しんでもいた。
九鬼堂の三階、そこに二人はいた。
一仕事終え、報酬も得た茜は上機嫌だった。
「涼、久々だね」
「そ、そうだな」
「何期待してるの?」
すでに服は脱がされている。
細くすらっとした体のフォルムが闇に映し出される。
茜はゆっくりと涼を後ろから優しく抱きしめた。
「うっ、き、期待してなんか」
「嘘だね。目が泳いでる」
全てを見せて、と茜が耳元でささやく。
ふっと掛けられる息に涼は体をびくっと震わせた。
「いくよ」
そして、茜はゆっくりとその首筋を噛んだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
吸われた瞬間、すさまじい快楽が体中を駆け巡る。
一瞬で絶頂を迎え、涼の体が跳ねた。
「ふふっ、かわいい涼。もう夢中だね」
「はぁはぁ」
「ねぇ、気持ちいい?」
「はい」
「まだ吸えるよ?」
「すってくだ……さい」
「いい子だね」
茜は後ろから抱いたまま、涼の顎に手をやり口づけをした。小さな舌が侵入してきて涼の口の中を愛撫する。
脳がとろけている涼にはこれがまた快楽への道筋となっていく。すぐに反応し、求めるように舌を絡めていく。そうして堪能したあと、また茜は涼の血を少しだけ吸う。
涼の絶叫が響き渡り、あまりの快楽に果てる。
ベッドはぐっしょりと濡れ、淫らな匂いを部屋中に充満させた。
「いいね。でも、人間は下も満足させないといけないんでしょう?」
茜はそう言い、自らも服を脱いでいく。
そこには怒張した彼のモノがあった。
そう、茜は女の子ではない。かわいい格好をしただけの男だった。
そして、涼は彼のモノを愛おしそうに舌を這わせていく。
「あぁ、これですこれを私にください」
竿から袋まで丹念に舐め上げ、涼は本能ままに動く。
「いいね、いつものクールな涼の獣《けだもの》な姿……ほんと好きだ」
もはや涼の下はぐっしょりとぬれ上がり、よだれを流していた。
そう涼もまた、男ではなくただのイケメンな女だった。
「よく見せて」
「……はい」
涼は言われるがままに、四つん這いになりお尻を高く上げた。そして、自らの手でそれをひらげて見せた。
「お願いです。じらさないでください」
「あぁ、いくよ」
「ひぐっ! ぐぅぅうぅぅ!!!」
一気に奥まで突き刺され、涼は悲鳴を上げた。それは痛みではない、強烈な快楽によるもの。久しぶりだというのに、体は茜のソレを覚えている。全身で、茜を受け入れ、全身で喜びを彼に伝えた。
彼もそれに応えるように彼女の体を堪能するように愛していく。
二人の夜はそうやって更けていった。
背もそこまで高くない。
顔立ちも中性的というよりかは、小さくまとまっておりかわいい。
笑ったとき、特有の八重歯が出ており、それがチャームポイントといったところだった。服装も、独特ではあるがかわいい体裁にまとまっている。
服装などに頓着がないので、それがどんなジャンルなのかはなんとも分からない。いつも好むのはシンプルで動きやすい格好。それが一番いい。変にオシャレをしたところで、似合うものでもない。
「仕事探しているんだって?」
天使のような美声だった。
「……」
「ちょうど、君みたいな人がいたらなぁって、ドクに相談していたんだ!」
本当にうれしそうにコロコロとしゃべる。
「……」
「最初は驚くと思うけど、すぐに慣れると思うよ!」
感情が非常に豊かなのだとすぐに理解出来た。
「……」
「ねぇ、なんで黙ってるの?」
そんな声が少しだけ沈む。
「僕の名は九鬼茜《くきあかね》よろしくね!」
「柊涼」
それが二人の出会いだった。
・
涼と茜に連れられ、二階へと上がった少女は青白い顔をしていた。
「ちょっと散らかってるけどごめんねぇ。徹夜で作業してたから!」
茜店長はそう言う。
たしかに工具が散乱している。
あまり片付けが得意では無い茜だった。そこをフォローするようになったのが涼といったところだった。
そもそも、涼が来なければ生産性はあっても商売気がない茜では店をきりもみするのは難しいところだっただろう。その意味では良かったのかもしれない。
「それで要件は?」
「兄を探しています」
「お兄さん?」
「それってこう言う顔かな?」
茜はそういうと、画用紙を取り出すと、さらさらと描きだした。そうして出来上がった似顔絵を彼女に見せる。
「……! どうして」
「うん、見えるからね」
カラカラと茜は笑った。
「どこに居るんですか?」
「さぁ、そこまでは、ただ……」
そこで茜はすっと声音を落とした。
「ただ、なんです?」
その変化に彼女はこわごわと聞く。
「たぶん、もう死んでいるよ」
聞きたくない言葉だった。
「なぜ分かるんです!」
思わず激昂する彼女の声が響く。
「いるからね。涼、見えてるでしょ?」
話を振られた彼は頷いた。
「見えてはないけど、感じる」
「あぁ、それじゃ見えてないか」
なぞのやりとりに彼女は困惑するだけだった。
「僕の目はね。死んだ人も見えるんだ」
あっけらかんとして言う茜に対し、少女はうなだれるだけだった。
「どうしてほしい? ここまでなら、報酬はいらないよ」
でも警察じゃ見つからないよ、そう茜は断言した。
その言葉に少女、真紀はやっぱりというように視線を落とした。
「兄は、一年前に失踪しました。最近、私の夢に出てくるようになったんです。誰に言っても信じてくれませんでしたし、警察も兄を探してくれません」
「そりゃそうだよ。見つからないよ」
当然というように言う茜に対して真紀は茜を睨み付けた。
「あなたなら見つけられると?」
「それが業務の一環だからね。依頼は受けたらそりゃ、探しますよ~」
どこまでも軽い口調に真紀はどんどんと怒気をはらんでいった。
その様子を見ていた涼がため息を漏らす。
いつもの事だが、相手のペースに合わせることのない茜は相手を怒らせやすい。永いこと生きているのに、こういうところは直そうという気がそもそも無いから質が悪い。
「はいはい、店長は下行ってて、詳しいことはこっちで聞いておきますから」
「え~……あ、そういうこと? らじゃ~」
と軽い感じで茜はそのまま下へと行ってしまった。
「ごめんね。ああいう人なんだけど、仕事の腕は確かだから」
「……」
「とりあえず、お兄さんを見つければいいんだね?」
「はい」
「さっき店長が言っていたとおりなら、もう亡くなっていると思うけどそれでもいいだね?」
「……はい。夢に出てきた兄は凄く辛そうでした。もし亡くなっているのならば、苦しみから解放してほしいです」
仲のいい兄だったんです、真紀はそういった。
「わかった。私達にまかせて、報酬は知っている?」
「はなしづてですけど……」
「大丈夫、無理の無い程度で済ませると思うから」
にっこりと涼が言うと、彼女は少しだけ頬を赤らめながら頷いた。
・
真紀が帰ると、涼は茜に詰め寄った。
「何度も話してるけど、あの態度はなに?」
「え? なんのこと」
きゅるんと、茜はかわいらしい格好で応える。
「大切な身内を亡くされているのに、あんな口調じゃ怒って当然でしょう」
「だって、人の機微ってわかんないんだもん。身内ねぇ、いるだけでやっかいな存在じゃん」
「厄介かどうかは、人それぞれでしょう。彼女の場合は仲のいい兄妹だったてことでしょう」
「そっか。そういうパターンもあるよね!」
その反応に涼はため息をもらした。
「そんなため息をもらさない~。もう涼はかっこいいんだから、そういう根暗っぽい動作はマイナスだよ!」
茜はそう言いながら、涼に抱きついた。
「だぁ! もう、店開けましょうよ。もういいでしょう!」
「あ、そうだね。開けよう開けよう。で、さっきの子から手がかりはもらったの?」
「えぇ、もらいましたよ」
それはよかった。と茜は満足げに頷き。久々のごちそうだぁと喜んでいた。
・
夕方となり、涼は客足が途絶えると少し早い店じまいとした。
茜はそれに応じて店に降りてきた。
「売上どうだった?」
「新作は全部売れたから、いいですよ」
「やったね! あ、今回の報酬は今日の売上でいい?」
「あ~、そうですね。今日の額はそれなりなのでいいですよ」
「わ~い。あ、ねぇねぇ、久々にあっちも味わっておく?」
そう、茜は涼をかがませ耳元で言った。
「……考えておきます」
涼は少し顔を赤らめながらそういった。
その様子に茜は満足気に頷いた。
「じゃあ、出かけようか!」
茜は少し古ぼけたスマートフォンを取り出した。
それは茜の持ち物では無かった。
真紀から借りた、兄が残した持ち物だった。
「あとはこれが教えてくれるはずだね!」
二人は店を完全に閉めると、外へと出た。
もう夕方を過ぎ、外は夕闇に包まれ出していた。
電灯のない路地《ろおじ》は暗く、人気がない。すぐそこが寺町商店街だというのに、ここだけ異界のように気配と喧噪がなかった。
「さて、とりあえず歩こうか」
「はい」
茜を先頭に二人は歩き出した。
商店街へ出ると、観光客がごった返していた。
地元の人間を探す方が難しいような光景に、涼は辟易した。
もとから人混みが得意では無かった。そのためもあるだろう。
涼は茜の後をついて行く。
茜は後ろを振り返ることなく、人とぶつかることなく、スマートフォンに視線を落としながら歩き続ける。
そうして、商店街を抜け、三条大橋へと向かう。
若者が集まりだす時間。木屋町通りを抜け、鴨川へと向かう。
「へぇ、こんなとこで起きたのかな」
「なにが?」
訝しむ涼にあっさりと茜は言う。
「神隠し」
また物騒な言葉を発する。
軽々しく、そういうことを言うからこの人は怖い。
「線がここを指してる」
そこは橋の下だった。
カップルなどが行き交うこの場所。人目に触れやすいこの場所がそうだというのだ。
茜に見える世界。茜が住む世界。そういった話だ。そういう世界だ。もう1年ほど付き合い慣れてきているが、相も変わらず怖い。
「涼、君も見てみるんだ」
そう言われ、涼は眼帯を外した。
そして、こわごわと左目を開く。
世界の色が混ざる。
群青色の空は赤紫色となり、行き交う人々とは別に灰色の影がそこらかしこで蠢いていた。
場所が場所だけにこれは仕方が無い。
この三条大橋の付近、三条河原は昔処刑場であり、さらし首の場所だった。そのころから怨念が渦巻く場所。霊達が集まっていても不思議ではない。
霊は水気を好む。今でこそ、カップル達がいる賑やかな場所になっているが、元々は生々しい場所なのだ。それを目の当たりに出来る光景といえる。
そう、涼の左目はこの世ならざるものが見える。
それは茜もまたそうだった。
「チャンネルを見つけた。じゃあ、行こうか……あっちの世界に」
茜はピクニックにでも行くかのように明るくそういった。
右の指で空中に楕円を描き、軽く指を鳴らす。
それだけだ。楕円の縁がオレンジ色に輝き、道が出来る。茜はさも当然のようにそれをくぐった。涼もまたそれにならい続く。
そうして、二人は現世から消えた。
紫色の世界。
建物などは全て同じ現世と同じ。ただ、人間はいない。
ここは怪士の世界だった。
鴨川が流れている。
いつも見る光景があった。
いや、違う。
鴨川の中心に何かが巣くっていた。
橋桁の下に中之島が出来ており、そこに白い糸の巣がある。
「なるほど、あの蟲の世界か」
白い糸の先、ぐるぐる巻きとなった糸の塊大きな大きなさなぎが取り付いている。塊はいくつもあり、ソレが吊り下げられている。
その下には大きな蛾がいた。
「この世界は時間が遅い法則のようだね」
「え?」
「だって普通の時間の流れだと人ってすぐに死んじゃうでしょう? だから、ここだと人の流れってゆっくりになっているみたい」
あいつの仕業だね、と人より大きい蛾をさした。
「もしかして、吊り下げられているものって全部人間?」
「だろうね。幼虫に養分を吸わせて成長させているんだろうね。死んだって事は全て吸ってしまったって事じゃないかな」
茜は軽い調子言い。その手に武器を持つ。
それは自分と同じくらいの身の丈がある大鎌だった。
「じゃあ、涼はいつもどおり援護お願いね。たぶんだけど、あの蛹たちもう羽化しそうだから、したら撃ってね」
と、茜は気軽にライフルを渡してくる。
いつもながらどこから取り出してくるのやらだ。
何もないところから茜はものを出す。どういう法則なのか、理解することは出来ない。もう、そういうものなのだと思ってしまった。
涼は、何度も使っているライフルを手に左目で照準を合わせる。
たしかにスコープを覗いてみると、さなぎが微妙に蠢いている。
「じゃ、始めよっか!」
茜は走り出した。
狩りの時間。
敵がやってきたと悟った蛾が抵抗を試みる。
が、それはむなしい結果となった。
所詮、大きくても蛾は蛾だ。
茜……ハイデイライトウォーカー、吸血鬼の敵ではないのだ。
戦いの気配に呼応するかのようにさなぎが動き出す。
「あっ」
あわてて、スコープを覗くとちょうどさなぎが割れ、それが姿を現す。
「うっ」
あまりのグロテスクさに背筋が寒くなった。
それは人の顔をもった蛾だった。
「涼! ご褒美!」
「う、わ、わかってる!」
決して欲に負けるのではない。
涼は、そう念じながら引き金を引いた。
放たれた弾は狙い通りに人間頭の形をした頭部をぶちぬき、蛾を死滅させていく。
そうして、今回の仕事は終えていった……
・
次の日の夕刻。
ふらふらと真紀が九鬼堂から出て行く。
その足取りは危なっかしく、その表情はどこか上気していた。
実の兄だったものと対面したときは、青ざめ泣き崩れていたが、そんな面影は今の彼女には何処にも無かった。
茜に報酬を払ったせいだろう。
大体の人はそうなるものだった。特に命に関わることもないし、記憶の一部を消しているので、対面時に受けたショックの後遺症も残ることは無かった。
それが茜のやり方……
だが、涼は違う。
涼は全て記憶に残し、そしてそれに溺れかける。
そしてそれを茜は楽しんでもいた。
九鬼堂の三階、そこに二人はいた。
一仕事終え、報酬も得た茜は上機嫌だった。
「涼、久々だね」
「そ、そうだな」
「何期待してるの?」
すでに服は脱がされている。
細くすらっとした体のフォルムが闇に映し出される。
茜はゆっくりと涼を後ろから優しく抱きしめた。
「うっ、き、期待してなんか」
「嘘だね。目が泳いでる」
全てを見せて、と茜が耳元でささやく。
ふっと掛けられる息に涼は体をびくっと震わせた。
「いくよ」
そして、茜はゆっくりとその首筋を噛んだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
吸われた瞬間、すさまじい快楽が体中を駆け巡る。
一瞬で絶頂を迎え、涼の体が跳ねた。
「ふふっ、かわいい涼。もう夢中だね」
「はぁはぁ」
「ねぇ、気持ちいい?」
「はい」
「まだ吸えるよ?」
「すってくだ……さい」
「いい子だね」
茜は後ろから抱いたまま、涼の顎に手をやり口づけをした。小さな舌が侵入してきて涼の口の中を愛撫する。
脳がとろけている涼にはこれがまた快楽への道筋となっていく。すぐに反応し、求めるように舌を絡めていく。そうして堪能したあと、また茜は涼の血を少しだけ吸う。
涼の絶叫が響き渡り、あまりの快楽に果てる。
ベッドはぐっしょりと濡れ、淫らな匂いを部屋中に充満させた。
「いいね。でも、人間は下も満足させないといけないんでしょう?」
茜はそう言い、自らも服を脱いでいく。
そこには怒張した彼のモノがあった。
そう、茜は女の子ではない。かわいい格好をしただけの男だった。
そして、涼は彼のモノを愛おしそうに舌を這わせていく。
「あぁ、これですこれを私にください」
竿から袋まで丹念に舐め上げ、涼は本能ままに動く。
「いいね、いつものクールな涼の獣《けだもの》な姿……ほんと好きだ」
もはや涼の下はぐっしょりとぬれ上がり、よだれを流していた。
そう涼もまた、男ではなくただのイケメンな女だった。
「よく見せて」
「……はい」
涼は言われるがままに、四つん這いになりお尻を高く上げた。そして、自らの手でそれをひらげて見せた。
「お願いです。じらさないでください」
「あぁ、いくよ」
「ひぐっ! ぐぅぅうぅぅ!!!」
一気に奥まで突き刺され、涼は悲鳴を上げた。それは痛みではない、強烈な快楽によるもの。久しぶりだというのに、体は茜のソレを覚えている。全身で、茜を受け入れ、全身で喜びを彼に伝えた。
彼もそれに応えるように彼女の体を堪能するように愛していく。
二人の夜はそうやって更けていった。
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