女装男子はハイデイライトウォーカー

源蔵@頑固一徹堂

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零鬼 九鬼堂

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 それは唐突に襲ってきた。
 いつもの道をいつもの時間に帰る。
 何一つ変わらない日常。
 大学生活も刺激が足りない。
 友人達は将来を見据えだしているが、私は何も興味がわかなかった。
 足りない日常。
 飽き飽きした日常。
 そんなときにそれはやってきた。

 ドンっと、いう衝撃。

 覚えているのはそれだけだった。
 唐突な衝撃は後ろから全身に走り、私「柊涼ひいらぎりょう」の意識を暗転させていった。

 次に気付いたのはベッドの上だった。
 そして、視界が半分暗い気がする。
 なぜだろう?
 体中が痛い。
 視界を巡らせてみると、一人の男性が立っていた。
「やぁ気分はどうだい?」
「……誰です?」
 知らない人物だった。
 小さなめがねを掛けており、細い顔立ちで青白い顔色。明らかに普通の人間には見えなかった。
 他に人は……いない。こんな気味の悪い人と二人で居ることに対して嫌悪感を覚えた。
「私……帰ります」
 そう言い、起き上がろうとしたときだった。
「痛っ!」
 目の辺りが痛んだ。
「まだなじんでない。しばらくは経過観察で入院してもらうよ」
「は? 何言ってんですか」
「まだ分かってない? あれ、承諾はもらったと思うんだけど」
 気味の悪い男はぽかんとしていた。
「何を言って……」
「え~とね、君は――――」
 それは私の日常を終わらせる言葉だった。

            ・

 京都の中心街、そして観光客が押し寄せて人の波が無いときがない場所。それが寺町商店街だった。そんな商店街の路地ろおじにその店はあった。
 ここ半年ほどで出来た店だった。
 開店前だというのに、外には人が何人か中の様子をうかがうようにして立っていた。どの客も若い女性だった。
 店の中ではすらっとした背の高い店員が商品を陳列させていた。
 細い切れ長の目に中性的で凜々しい顔立ちだった。薄い金髪を一つにくくり、薄いブラウンの右目に左目は白い眼帯をしている。
 店に来る客の中には彼目当ての人が居てもおかしくないくらいのイケメンである。
 外の様子に、彼は少しため息を漏らす。
 監視されているようでやりづらいのだ。おそらく、店長が昨夜流したSNSを見ての客がいるのだろう。新作を作ると徹夜で作業したあげく、今は二階の作業場でバタンキューと寝ている。
 朝一に店に来てみれば、「これ出しといてね。じゃ」と言ってそのまま寝てしまったのだ。
 よくあることだが、非常に迷惑な話だ。
 客に聞かれても詳しい仕様をしらないから、答えようが無い。まぁ、今回の商品は蝶をあしらったものなので、そんなに困ることはないのだが……
 ここはオリジナルのシルバーアクセサリーを中心に売っている雑貨屋だった。店長のSNS好きなのもあって、色々と画像が拡散。いろんな意味で繁盛している店となっていた。
 十一時になろうとしている。
 時計の針の動きを見て、彼は軽くため息をつきながら、商品の陳列を終えた。あとは店を開けるだけ……
 そして時間。
 ゆっくりと出入り口に行き、札をひっくり返す。

 OPEN

 すると、さっそく女性客達が狭い店内に入り込んできた。
「柊さん、おはようございます!」
「はい、おはよう」
 中には店員である柊涼に挨拶する常連客もいた。
「今回の新作、やっぱりかわいい!」
「だね! 数少ないから、やっぱりゲットしとこ!」
 そんな会話が聞こえる。
 決して安いものではないはずだが、最近の学生はお金を持っているものだ。少しうらやましいと、涼は正直に思った。
 元々苦学生、そして今や居候として生活している。
 身寄りも無い彼からすると、お小遣いやバイト代を生活費として使わなくて済む学生というのはうらやましい対象だった。
 そんなときだった。左目がうずいた。
 視界の端によくくる客層とは服装が違う子がいた。違うというか、学生服だった。こんな時間にいるということは普通はない。
 涼は新作のシルバーアクセサリーを中心に売っていく。が、その子は商品を眺めるだけで何かに決めるようなそぶりはない。
 なるほどと思いながら、涼は客を捌いていく。
 そうして、第一陣の客足が落ち着くと、彼はゆっくりと出入り口の札をひっくり返した。
「いらっしゃい。これで他に客は来ないよ」
「あっ……あの」
 少し青い顔をしながら、少女は涼の前に立つ。
「私に用じゃ無いよね。店長だよね。ちょっと待ってね、起こしてくるから」
「え……私まだなにも」
「九鬼堂のお客さんでしょう?」
 そう言うと、彼女はゆっくりと頷いた。
「じゃ、まってて」
 涼は階段に向かいながらにっこりとそう言う。それだけで、彼女は少しだけ顔を赤らめてしまった。
 そのときだった。
「ちょっとちょっと、涼! また色目使って、何してんの?」
 階段の上から声がした。
 それはそれは綺麗なソプラノだった。
 トントントンとリズミカルな軽い音と共に、降りてきたのはかわいらしい丸眼鏡を掛けた女性だった。
「店長起きてたの?」
「うん、気配を感じたからね」
 と、あくびをかみしめながら彼女はそういう。
「ようこそ、九鬼堂きゅうきどうへ」
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