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23 復帰初日
復帰初日は早めに控え室に顔を出すことにした。
勤務は今日から正常。いつまでも怪我人の扱いでは嫌だから安心した。制服を着こむと落ち着くのは、自分があるべき所に戻ってきたからだろう。
「おはようございます」
寮で度々顔を合わせてはいたものの、復帰初日という事できっちりと頭を下げる。
宮の控室である大部屋。
傍らに立つ私に対し、専属警備担当のまとめ役である先輩は、書類をまとめる手を止め座ったままで私を見上げヒッと小さな声を上げた。
「パトリシア!……日勤にしては随分早いじゃないか、いつからいたんだ?」
「十五分ほど前からです。今日から仕事に復帰する事になります。忙しい時に大変ご迷惑をおかけしました。皆さんに挨拶しようかと思い早めに出てきました」
「そうだったのか、驚いたよ。遠慮せず早く声を掛けてくれればよかったのに。悪い、全然気付かなかった……本当に、いつからいたんだ?」
やはりそうなんですね。
先輩は驚きを自分の中で納めきれなかったようで、少し力が抜けるような声だった。
それほど私の登場は唐突で驚愕ものだったのだろうか。申し訳ない。
しかしもっと言うとのなら、先輩が入って来る前から私はとっくに待機していてた。声を掛ける前に書き仕事を始めてしまった先輩を気遣い、それが終わるまでと大人しくしていたのだ。
彼女が入室してきた時には私を含めて三名いたのだが、二人は揃って何やら机で探し物をしそそくさと出て行ったから、そのどさくさで私は先輩に認知されなかったのかしれない。
後宮の女性近衛しかいない控え室というと、結構な割合でみな整頓された室内だと勘違いしそうなものだが、この部屋は雑多な物で溢れている。
十台しかない机は一人一台もある訳がなく、担当毎で使われている。壁際にある書棚はもう紙一枚をも挟み込む隙間がなく、書類は徐々に机の上に重なり始めているのだ。
そんなごちゃごちゃした中で、私の姿が紛れてしまったのだろう。
ということにしておく。
何しろそんな魔力を持っている私だから仕方ない。
だけどやはり地味にこたえる言葉だ。
「まあ、秋祭り中も目立った問題はなく混乱もなかった。戦力が一人二人と抜けたのは正直痛いと思ったが家の子はみな優秀だから助かる。また今日からよろしく頼むよ」
「はい。よろしくお願いします」
どこを怪我したのかと聞かれ、怪我ではなく頭を打ったと言うと、本気の心配顔をされた。
先輩は立ち上がり、私の耳元で囁く。
「隊長からは町中で窃盗犯と格闘したと聞いているが、詳しい中身は公言していない。他の人間から何を聞かれても嫌なら説明する必要はないよ」
「ご配慮ありがとうございます」
私の声も同じくらいに小さくなる。
森で間諜と格闘、頭を強打し気を失う、よりは窃盗犯と格闘の方がかなりましだろうか。
その後、同じアデラ様付きである先輩とも合流し、同じように謝罪したが、気にする事はないと言ってくれた。
「仕事とはいえ祭りは楽しかったよ。村の踊りなんてこんな機会でもなければ見に行こうとも思わないでしょ。惜しかったね、パトリシア。ついてなかったよ」
「本当に、何だか大変な目に合いました」
誰にも言えないことが多すぎる。
「怪我はもう痛まないの?」
責めらえても仕方ないと思っていたのに、出る言葉は優しくて胸にじんときた。
私に敵対するだけでない、心配してくれる先輩もいるのだ。
「アデラ様も心配しておられた」
「本当ですか」
護衛として壁と同化していただけの、少し言葉を交わしただけの私を……
それは仕える者としてとても嬉しいことだった。
勤務は今日から正常。いつまでも怪我人の扱いでは嫌だから安心した。制服を着こむと落ち着くのは、自分があるべき所に戻ってきたからだろう。
「おはようございます」
寮で度々顔を合わせてはいたものの、復帰初日という事できっちりと頭を下げる。
宮の控室である大部屋。
傍らに立つ私に対し、専属警備担当のまとめ役である先輩は、書類をまとめる手を止め座ったままで私を見上げヒッと小さな声を上げた。
「パトリシア!……日勤にしては随分早いじゃないか、いつからいたんだ?」
「十五分ほど前からです。今日から仕事に復帰する事になります。忙しい時に大変ご迷惑をおかけしました。皆さんに挨拶しようかと思い早めに出てきました」
「そうだったのか、驚いたよ。遠慮せず早く声を掛けてくれればよかったのに。悪い、全然気付かなかった……本当に、いつからいたんだ?」
やはりそうなんですね。
先輩は驚きを自分の中で納めきれなかったようで、少し力が抜けるような声だった。
それほど私の登場は唐突で驚愕ものだったのだろうか。申し訳ない。
しかしもっと言うとのなら、先輩が入って来る前から私はとっくに待機していてた。声を掛ける前に書き仕事を始めてしまった先輩を気遣い、それが終わるまでと大人しくしていたのだ。
彼女が入室してきた時には私を含めて三名いたのだが、二人は揃って何やら机で探し物をしそそくさと出て行ったから、そのどさくさで私は先輩に認知されなかったのかしれない。
後宮の女性近衛しかいない控え室というと、結構な割合でみな整頓された室内だと勘違いしそうなものだが、この部屋は雑多な物で溢れている。
十台しかない机は一人一台もある訳がなく、担当毎で使われている。壁際にある書棚はもう紙一枚をも挟み込む隙間がなく、書類は徐々に机の上に重なり始めているのだ。
そんなごちゃごちゃした中で、私の姿が紛れてしまったのだろう。
ということにしておく。
何しろそんな魔力を持っている私だから仕方ない。
だけどやはり地味にこたえる言葉だ。
「まあ、秋祭り中も目立った問題はなく混乱もなかった。戦力が一人二人と抜けたのは正直痛いと思ったが家の子はみな優秀だから助かる。また今日からよろしく頼むよ」
「はい。よろしくお願いします」
どこを怪我したのかと聞かれ、怪我ではなく頭を打ったと言うと、本気の心配顔をされた。
先輩は立ち上がり、私の耳元で囁く。
「隊長からは町中で窃盗犯と格闘したと聞いているが、詳しい中身は公言していない。他の人間から何を聞かれても嫌なら説明する必要はないよ」
「ご配慮ありがとうございます」
私の声も同じくらいに小さくなる。
森で間諜と格闘、頭を強打し気を失う、よりは窃盗犯と格闘の方がかなりましだろうか。
その後、同じアデラ様付きである先輩とも合流し、同じように謝罪したが、気にする事はないと言ってくれた。
「仕事とはいえ祭りは楽しかったよ。村の踊りなんてこんな機会でもなければ見に行こうとも思わないでしょ。惜しかったね、パトリシア。ついてなかったよ」
「本当に、何だか大変な目に合いました」
誰にも言えないことが多すぎる。
「怪我はもう痛まないの?」
責めらえても仕方ないと思っていたのに、出る言葉は優しくて胸にじんときた。
私に敵対するだけでない、心配してくれる先輩もいるのだ。
「アデラ様も心配しておられた」
「本当ですか」
護衛として壁と同化していただけの、少し言葉を交わしただけの私を……
それは仕える者としてとても嬉しいことだった。
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