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番外 家飲みの理由(赤池)
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ペチペチと小さな手が頬を叩いてくる。
「パパ。起きて下さい。部屋にいきますよ。風邪をひいてしまいますよ」
息子が全力で自分の体を揺さぶっているのがわかる。しかしそれが余計に眠りを深めるのだと言いたくても口が開かない。
瞼は重く閉ざされ意識がまた泥のように沈んでいく。酒を飲み過ぎたつもりはないのだが、食後にリビングのソファーに座り、酒をちびちび飲みつつテレビを見て、グズグズと体を横たえ眠りに入るのは赤池にとって至福の時なのだ。
「もう、お風呂もまだなのに」
愛しい史の声も呆れを含んでいる。
いいんだ。明日は休み。私の事などほうっておいて、いつものように布でも掛けておいてくれ。
「どうする?」
「寝苦しいだろうし、ズボンだけはパジャマに変えてあげたら、母さん」
「朝まで放置して風邪ひいてもいいんじゃない? それで反省するならさ」
「それ賛成」
「せめて風呂の後に酒ってルールにしようよ」
「顔に落書きするか。ヒゲとか、面白そう。郁也やるか?」
「しまーす。僕、お部屋から色鉛筆もってきます」
「鉛筆は死ぬかもな」
「それくらいいいだろう」
「その後で庭に放り出そう」
「いいね」
ワハハハッ。
いやよくないだろうが。
大きな子供たちが好き勝手な事を喋っている。
いつもは澄ました大人顔をしているのに、こういう悪戯に関しては子供らしくはしゃいでいる。
まあでも、そうだな。確かに風呂は先に入っとくべきか……これが何度も続けば史に嫌われてしまうかもしれないし。
そう思いつつ、意識は遠のき誰の声も聞こえなくなってしまっていた。
うー、トイレに行きたい……もう少し眠っていたい。
二つの間でせめぎ合っているが、そろそろ起きるべき時間なのが瞼に感じる明るさからわかる。
赤池は時間を確認しようと薄く目を開け横を向く、そしてぎょっとした。
自分が放置し寝かされていたのはリビングではなかった。外、でもない和室。そしてそんな場所で自分を囲んでいるのは日本人形。
人形の群れだった。
小さく息をのんだのは一瞬だけ、だが眠りからは一気に醒めた。
「間違いなく、家、だよな……」
体を起こせば自分のいる場所がわかった。一階の和室。寝落ちしたはずのリビングは廊下の向こうだ。
自分はしっかり布団で眠らせてもらったようで、体のどこもギシギシしていない。
「真二さん、おはようございます。子供たちはもう登校しましたからね」
枕元に置いてあったスマホを見つけると襖が開き史が入ってくる。赤池の困惑を少し面白がっているようだ。
愛しい番は今朝もかわいかった。
この家に住むようになってから佐保と共に服を買いに出かけるからだろう。史の普段着は地味一辺倒ではなく少々遊び心がある物に変わっている。
古着屋に吊るしてあるような緩めのトップスは70年代風。ボトムはインディゴのストレートジーンズ。きっと史の古い友人がやっている店の物だろう。
お洒落であるかどうかの判定は赤池にはできないが、史にはよく似合っていた。
「夕べはいろいろ、手間をかけさせたようで、悪い……」
「しょうがない人ですね。ここへは子供達が協力して運んだんですよ。シーツを担架みたいにしてね。驚きました?」
史は畳に膝をつくと、手で人形を示す。
そこには緑色の毛氈の上に骨董と呼べそうな古めかしい甲冑兜が飾られていた。後ろの金屏風が神々しい。
「説明します。この大きいのが元からこの家にあった武者飾り。佐保さんの物ですね。子供のサイズだけど実際に着用できるらしいですよ。で、隣にあるのが俺の」
史は膝を横にすすめて、少しだけ移動する。
そこには丸くずんぐりした体型の武者人形が勇ましいポーズを決めていた。
凛々しい眉の下に丸く開いた瞳。小さな鼻におちょぼ口。その愛らしさが何とも史にぴったりな節句の段飾りだ。
隣の物より華やかで、両脇には点灯できる篝火が配置してある所に時代の移りを感じる。
「そして俺の隣が子供たちのケース飾り。黒でピカピカの武将兜が光流で、布の桃太郎人形が怜、白木ケースで飾りに白金を使ってる高級品が空。郁也のは、これ、手にのるサイズの陶器です」
示された方へ首をひねれば、布団の上の角の部分に小さな鯉のぼりが赤青黄色と三つ並んでいる。
眠る赤池の周りに郁也が自分で配置したのだろう。
史に何も言われなければ見過ごして踏みつけていたかもしれない小ささだ。
「それぞれ好きな人形を選ばせたら面白くて。光流は店に入ってすぐに決めたのに、怜なんて最後まで桃太郎か金太郎かで迷って、多美さんが二つ買おうって言うのも断って悩んで。空は意外にも光物が好きだし、人形一つ選ぶのに新発見ばかりで」
うちの子は本当に可愛いのだとぷぷっと史が笑う。
佐保と史の飾りは元々この家にあった物。
子供達の飾りは多美と人形店をはしごして選んだ物らしい。
子供たちは大きくなったし購入する必要ないと一度は断ったのだが、一人に一つは必要だと多美に言い負かされてしまったようだ。
この家の男たちは元々多美と勝負する胆力を持っていない。
「この小さな飾りで郁也は満足しているのか?」
「まさか。郁也の本命は誰よりも大きい、鯉のぼりです」
鯉のぼり。
青い空で風になびく勇壮な姿がイメージとして浮かぶ。
赤池はそれを長い事見ていないが、それはこの都会に住むほとんどの人間、いや現代日本人がそうではないだろうか。
「聞いてください。父と郁也が散歩に行って、ご近所の人にもらってしまったんです。いつもの様なお菓子とか、鉢花とか、銀杏とか、石とか、そんなのなら俺も歓迎するけど、今回は鯉のぼりって……」
史は深々と溜息をつく。
佐保と郁也はたまに二人で散歩に出る。
近所の散策なんて子供の頃以来の佐保は、新たな抜け道や懐かしい建物を見つけられるのだと喜んでいる。
この辺りも高齢者が多くなり、小さな子供の姿は珍しくなっている。犬を散歩させるご近所の方々との交流が増え、郁也は顔と名前を覚えられ可愛がられるようになっていた。
二軒隣の沖田夫婦も、挨拶だけでなく、それに続けて会話をする仲になっている。
今回いただく事になった鯉のぼりは、その沖田家の物だ。
鯉のぼりはどうやら既に独立している息子さんの為に昔買った物。その息子さんは現在プロ棋士として活躍しているのも、佐保と郁也のハートに刺さったらしい。
二人してワクワクで沖田家の中にまでお邪魔したという。
見せてもらうと虫食いもなく綺麗だったので、後日改めて巨大なそれを引き取る約束をして帰ってきた。
「散歩って言って一時間も帰ってこないから心配で、交通事故とか、二人に何があったのかと……俺、人生で初めて鬼電ってやつしました」
「佐保さんは気付かなかったのか?」
「はい。そもそも部屋に忘れてたみたいで」
怒りが再熱した史がふーふー息を荒くする。そして自分で息を整えて落ち着けていた。
「ポールは注文済みで、今週中に庭で土台の工事します。ここまで来ると、それも俺の楽しみになってるんですけどね」
鯉のぼりを見上げてはしゃぐ郁也の姿が赤池の目にも浮かぶ。史はそれも込みで楽しみにしているのだろう。
「そこまでは理解した。しかし、これは、おかしいだろう……呪いだ」
赤池はこの部屋でとびきり異彩を放つ雛人形を指さした。
「これは多美さんの七段飾りです。郁也が見たがったから、わざわざ運び込んでくれたんです。お人形が全員後ろ向きなのは、郁也が怖がったからで、夜中に勝手に動いたわけじゃないですよ。あれ? お内裏様の頭部がない……困ったな。どこに行っちゃったのかな……」
頭部なんて普通はなくならないだろう。赤池にはそれが妙に怖い。
「一番上が平安時代っぽいのは何だ?」
「御殿飾りって言って、京の御所がモチーフらしいです。昔の人形って豪華ですね。まあ人形の説明はともかく、真二さんが少しは驚いてくれてよかった。子供達のイタズラが少しは成功って事で、帰ったらそう報告しようっと。これからはお酒の前にお風呂に入って、眠くなったら自分の足で布団に入るんですよ」
「わかった。申し訳ない」
めっとされしまい、子供たちにも面倒かけないようにしようと一応誓って頭を下げる。
「真二さんは素直でいいですね」
「だけど、史。あの場所で佐保さんや史や子供たちのお喋りを聞きながらうたた寝するのがいいんだよ。部屋でベッドに入って眠るのとは全然違う」
史ににじりより、まるで甘えて泣きつくかのように正面から抱き付く。
「んーっ、ふみぃ」
返事はなくても史の気持ちはわかる。ぶわっと強くなった匂いは隠しようもなく正直に教えてくれる。
「史、かわいい……」
あーいい匂い。
自分だけの愛しい匂い。
ちゅっちゅっと髪に小さなキスを繰り返す。
「史、愛してる」
このまま押し倒してしまいたい。
「もうっ。昨日はお風呂に入ってないんだから、まずはシャワーをして綺麗にして下さい。それと」
「母屋では絶対しない。わかっている」
自分の腕の中でもぞもぞする史を、それでも放してやらない。
史はこの母屋で赤池とするのを拒否する。甘い空気を出すのでさえ嫌がっているようだ。
実際ホテルでするのがほとんど、離れの部屋でしたのは一度だけだ。
佐保は昨日から二泊の出張に出ている。今回のように二人きりになる機会を作ってくれるから、その点でも二人にストレスはない。
遠出や泊まりをした事はないが、デートとして頻繁に出かけているから、赤池はこの夫夫生活に満足している。
酒が進むのも、安眠できるのも、季節を感じられるのも、この家族があるからだ……
そう言えば庭には出た事がないなと、赤池は広縁の窓の向こうに初めて興味を持った。
しかし、ここに来て消えたはずの尿意の波が赤池を襲ってくる。
それを察した史が赤池へ腰を擦り付けてくる。いつもならあり得ない行為だから赤池の窮地で遊んでいるのだろう。
もう少しいちゃいちゃしていたい。しかしもう限界だ。
甘いひと時を捨てて赤池はトイレへ急いだ。後ろでは史が笑ってた。
「パパ。起きて下さい。部屋にいきますよ。風邪をひいてしまいますよ」
息子が全力で自分の体を揺さぶっているのがわかる。しかしそれが余計に眠りを深めるのだと言いたくても口が開かない。
瞼は重く閉ざされ意識がまた泥のように沈んでいく。酒を飲み過ぎたつもりはないのだが、食後にリビングのソファーに座り、酒をちびちび飲みつつテレビを見て、グズグズと体を横たえ眠りに入るのは赤池にとって至福の時なのだ。
「もう、お風呂もまだなのに」
愛しい史の声も呆れを含んでいる。
いいんだ。明日は休み。私の事などほうっておいて、いつものように布でも掛けておいてくれ。
「どうする?」
「寝苦しいだろうし、ズボンだけはパジャマに変えてあげたら、母さん」
「朝まで放置して風邪ひいてもいいんじゃない? それで反省するならさ」
「それ賛成」
「せめて風呂の後に酒ってルールにしようよ」
「顔に落書きするか。ヒゲとか、面白そう。郁也やるか?」
「しまーす。僕、お部屋から色鉛筆もってきます」
「鉛筆は死ぬかもな」
「それくらいいいだろう」
「その後で庭に放り出そう」
「いいね」
ワハハハッ。
いやよくないだろうが。
大きな子供たちが好き勝手な事を喋っている。
いつもは澄ました大人顔をしているのに、こういう悪戯に関しては子供らしくはしゃいでいる。
まあでも、そうだな。確かに風呂は先に入っとくべきか……これが何度も続けば史に嫌われてしまうかもしれないし。
そう思いつつ、意識は遠のき誰の声も聞こえなくなってしまっていた。
うー、トイレに行きたい……もう少し眠っていたい。
二つの間でせめぎ合っているが、そろそろ起きるべき時間なのが瞼に感じる明るさからわかる。
赤池は時間を確認しようと薄く目を開け横を向く、そしてぎょっとした。
自分が放置し寝かされていたのはリビングではなかった。外、でもない和室。そしてそんな場所で自分を囲んでいるのは日本人形。
人形の群れだった。
小さく息をのんだのは一瞬だけ、だが眠りからは一気に醒めた。
「間違いなく、家、だよな……」
体を起こせば自分のいる場所がわかった。一階の和室。寝落ちしたはずのリビングは廊下の向こうだ。
自分はしっかり布団で眠らせてもらったようで、体のどこもギシギシしていない。
「真二さん、おはようございます。子供たちはもう登校しましたからね」
枕元に置いてあったスマホを見つけると襖が開き史が入ってくる。赤池の困惑を少し面白がっているようだ。
愛しい番は今朝もかわいかった。
この家に住むようになってから佐保と共に服を買いに出かけるからだろう。史の普段着は地味一辺倒ではなく少々遊び心がある物に変わっている。
古着屋に吊るしてあるような緩めのトップスは70年代風。ボトムはインディゴのストレートジーンズ。きっと史の古い友人がやっている店の物だろう。
お洒落であるかどうかの判定は赤池にはできないが、史にはよく似合っていた。
「夕べはいろいろ、手間をかけさせたようで、悪い……」
「しょうがない人ですね。ここへは子供達が協力して運んだんですよ。シーツを担架みたいにしてね。驚きました?」
史は畳に膝をつくと、手で人形を示す。
そこには緑色の毛氈の上に骨董と呼べそうな古めかしい甲冑兜が飾られていた。後ろの金屏風が神々しい。
「説明します。この大きいのが元からこの家にあった武者飾り。佐保さんの物ですね。子供のサイズだけど実際に着用できるらしいですよ。で、隣にあるのが俺の」
史は膝を横にすすめて、少しだけ移動する。
そこには丸くずんぐりした体型の武者人形が勇ましいポーズを決めていた。
凛々しい眉の下に丸く開いた瞳。小さな鼻におちょぼ口。その愛らしさが何とも史にぴったりな節句の段飾りだ。
隣の物より華やかで、両脇には点灯できる篝火が配置してある所に時代の移りを感じる。
「そして俺の隣が子供たちのケース飾り。黒でピカピカの武将兜が光流で、布の桃太郎人形が怜、白木ケースで飾りに白金を使ってる高級品が空。郁也のは、これ、手にのるサイズの陶器です」
示された方へ首をひねれば、布団の上の角の部分に小さな鯉のぼりが赤青黄色と三つ並んでいる。
眠る赤池の周りに郁也が自分で配置したのだろう。
史に何も言われなければ見過ごして踏みつけていたかもしれない小ささだ。
「それぞれ好きな人形を選ばせたら面白くて。光流は店に入ってすぐに決めたのに、怜なんて最後まで桃太郎か金太郎かで迷って、多美さんが二つ買おうって言うのも断って悩んで。空は意外にも光物が好きだし、人形一つ選ぶのに新発見ばかりで」
うちの子は本当に可愛いのだとぷぷっと史が笑う。
佐保と史の飾りは元々この家にあった物。
子供達の飾りは多美と人形店をはしごして選んだ物らしい。
子供たちは大きくなったし購入する必要ないと一度は断ったのだが、一人に一つは必要だと多美に言い負かされてしまったようだ。
この家の男たちは元々多美と勝負する胆力を持っていない。
「この小さな飾りで郁也は満足しているのか?」
「まさか。郁也の本命は誰よりも大きい、鯉のぼりです」
鯉のぼり。
青い空で風になびく勇壮な姿がイメージとして浮かぶ。
赤池はそれを長い事見ていないが、それはこの都会に住むほとんどの人間、いや現代日本人がそうではないだろうか。
「聞いてください。父と郁也が散歩に行って、ご近所の人にもらってしまったんです。いつもの様なお菓子とか、鉢花とか、銀杏とか、石とか、そんなのなら俺も歓迎するけど、今回は鯉のぼりって……」
史は深々と溜息をつく。
佐保と郁也はたまに二人で散歩に出る。
近所の散策なんて子供の頃以来の佐保は、新たな抜け道や懐かしい建物を見つけられるのだと喜んでいる。
この辺りも高齢者が多くなり、小さな子供の姿は珍しくなっている。犬を散歩させるご近所の方々との交流が増え、郁也は顔と名前を覚えられ可愛がられるようになっていた。
二軒隣の沖田夫婦も、挨拶だけでなく、それに続けて会話をする仲になっている。
今回いただく事になった鯉のぼりは、その沖田家の物だ。
鯉のぼりはどうやら既に独立している息子さんの為に昔買った物。その息子さんは現在プロ棋士として活躍しているのも、佐保と郁也のハートに刺さったらしい。
二人してワクワクで沖田家の中にまでお邪魔したという。
見せてもらうと虫食いもなく綺麗だったので、後日改めて巨大なそれを引き取る約束をして帰ってきた。
「散歩って言って一時間も帰ってこないから心配で、交通事故とか、二人に何があったのかと……俺、人生で初めて鬼電ってやつしました」
「佐保さんは気付かなかったのか?」
「はい。そもそも部屋に忘れてたみたいで」
怒りが再熱した史がふーふー息を荒くする。そして自分で息を整えて落ち着けていた。
「ポールは注文済みで、今週中に庭で土台の工事します。ここまで来ると、それも俺の楽しみになってるんですけどね」
鯉のぼりを見上げてはしゃぐ郁也の姿が赤池の目にも浮かぶ。史はそれも込みで楽しみにしているのだろう。
「そこまでは理解した。しかし、これは、おかしいだろう……呪いだ」
赤池はこの部屋でとびきり異彩を放つ雛人形を指さした。
「これは多美さんの七段飾りです。郁也が見たがったから、わざわざ運び込んでくれたんです。お人形が全員後ろ向きなのは、郁也が怖がったからで、夜中に勝手に動いたわけじゃないですよ。あれ? お内裏様の頭部がない……困ったな。どこに行っちゃったのかな……」
頭部なんて普通はなくならないだろう。赤池にはそれが妙に怖い。
「一番上が平安時代っぽいのは何だ?」
「御殿飾りって言って、京の御所がモチーフらしいです。昔の人形って豪華ですね。まあ人形の説明はともかく、真二さんが少しは驚いてくれてよかった。子供達のイタズラが少しは成功って事で、帰ったらそう報告しようっと。これからはお酒の前にお風呂に入って、眠くなったら自分の足で布団に入るんですよ」
「わかった。申し訳ない」
めっとされしまい、子供たちにも面倒かけないようにしようと一応誓って頭を下げる。
「真二さんは素直でいいですね」
「だけど、史。あの場所で佐保さんや史や子供たちのお喋りを聞きながらうたた寝するのがいいんだよ。部屋でベッドに入って眠るのとは全然違う」
史ににじりより、まるで甘えて泣きつくかのように正面から抱き付く。
「んーっ、ふみぃ」
返事はなくても史の気持ちはわかる。ぶわっと強くなった匂いは隠しようもなく正直に教えてくれる。
「史、かわいい……」
あーいい匂い。
自分だけの愛しい匂い。
ちゅっちゅっと髪に小さなキスを繰り返す。
「史、愛してる」
このまま押し倒してしまいたい。
「もうっ。昨日はお風呂に入ってないんだから、まずはシャワーをして綺麗にして下さい。それと」
「母屋では絶対しない。わかっている」
自分の腕の中でもぞもぞする史を、それでも放してやらない。
史はこの母屋で赤池とするのを拒否する。甘い空気を出すのでさえ嫌がっているようだ。
実際ホテルでするのがほとんど、離れの部屋でしたのは一度だけだ。
佐保は昨日から二泊の出張に出ている。今回のように二人きりになる機会を作ってくれるから、その点でも二人にストレスはない。
遠出や泊まりをした事はないが、デートとして頻繁に出かけているから、赤池はこの夫夫生活に満足している。
酒が進むのも、安眠できるのも、季節を感じられるのも、この家族があるからだ……
そう言えば庭には出た事がないなと、赤池は広縁の窓の向こうに初めて興味を持った。
しかし、ここに来て消えたはずの尿意の波が赤池を襲ってくる。
それを察した史が赤池へ腰を擦り付けてくる。いつもならあり得ない行為だから赤池の窮地で遊んでいるのだろう。
もう少しいちゃいちゃしていたい。しかしもう限界だ。
甘いひと時を捨てて赤池はトイレへ急いだ。後ろでは史が笑ってた。
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