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子鬼と出勤2
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家を出てから漕ぎ続ける事、十分。
会社までの中間地点あたりまで来ると、それまでスイスイと涼丸の隣を通り過ぎ追い抜いていた車がノロノロ運転へと変わっていく。
この山の一帯は計画によって切り開かれ開発され、企業の研究所や大学の施設があり、朝はその出勤の車で渋滞してしまうのだ。
山道を行くこのグリーンロードと呼ばれる道路は整備されていて、片側一車線でありながら、端には緑色に舗装された歩行者自転車帯がある。車の間をすり抜けてくるバイクにさえ気をつけていれば、それほど安全的には問題ない。
それもあって涼丸は入社して早々に車通勤から自転車通勤に切り替えている。
朝から夏の強い日差しを肌にジリジリと受けながら抜け、冬の強風の日には手袋越しに寒風が浸みる。そんな時はやはり辛いけど、田舎者の涼丸にとって四季をつぶさに感じることができる環境は子どもの頃から親しんだもの。
自宅が近くてよかったと、得した気分になる。
涼丸が勤めるのは、産業用ロボットの設計開発生産を主にする株式会社エルマド。
その男性社員は独身者の割合が多い。この針研究所の理系集団ばかりで人付き合いが苦手という事ではなく、単に出会いが少なく、社内にも女性が少ないのも原因だろう。
事務系の仕事もすべて派遣社員へと切り替えられているのだが、事務系の部署とは働く建物さえ違うのだから仲良くなる隙もない。
人の事をどうこう言えた義理もなく、涼丸自身もこれまで恋人ができた事のない独身男性ではあるけれどそう分析するのだった。
「あ、うちのバスだよ、月日」
上へと続く車の列中に、駅から会社を往復する従業員バスを発見する。
すぐに追いつきその隣をすーっと通り抜けると、見知った顔が手をあげてくれるのがチラリと見えたから、笑顔で頭を下げておいた。
バスの中から外を眺めていた数人は、あれはあの人だな、と涼丸の存在に気付いただろう。
涼丸は会社において、その所属と立場を結構知られている存在だ。
とは言っても所長でも賞を取ったやり手の社員でもない。
涼丸は、ただの平社員。
出世も上下関係もあまりない、会社の保健室にいる産業看護師だ。
人の手の入った生垣が始まり、社の正門が見えてくる。会社に入るには高速にあるような認証式のゲートをくぐらなければならない。社員証がなければゲートは開かず突撃、そして威嚇音が流れ恥をかく。
従業員バスに乗る際にも出入り口で認証が必要。もしこれを忘れてしまうとバスに乗れないし、守衛室でのパソコンを経由しての面倒な手続きが必要となり、遅刻は免れなくなる。
その感知のスピードが遅いせいか、一時に車が集中し過ぎるせいか……
渋滞の原因を考えながら近づいていくと、守衛室の前に紺の制服を着込み立っている、知った顔を見つける。
「克己さん、おはようございます。今朝もお疲れ様です」
「おお、涼丸君、おはよう」
子供の頃から知った顔である守衛の克己に軽く手を上げ挨拶する。
克己はもう孫もいる七十代のお爺さんだが、家にいてもボケるだけだとこうして働いている。
会社の門の前にある小さな守衛室に立っているだけでお金がもらえると笑い、夜勤もこなし仕事が終わると畑仕事までして、仲間とグランドゴルフに行くのだから、その健脚が羨ましい。
一度も停止することなく門を通り過ぎる。自転車のメリットはここでも発揮される。
家からここまでノンストップ……!
涼丸は自分がこの会社の誰よりも楽な通勤をしていると、この瞬間に気分が上がる。
駐車場のある右ではなく左へと回り、広い敷地の中をまたしばらく走ると、メインとなる本館A棟の脇に入る。
自転車置き場にのりつけ、後ろの月日をよいしょと降ろし解放すると、月日はすぐにテテテテッと靴を鳴らしどこかへと走っていってしまった。それを何となく、敷地の隅にある社の方だろうと当たりをつける。
空気を含みふわっとした髪の隙間から見える角は、白い三角錐。
月日の走っていた方向には、小さな社がある。
そこには背の高い男性なら頭をぶつけてしまいそうな高さの鳥居と、小さな社がある。涼丸の想像では、月日はそこの神様と友達なのではないかと思うのだ。
見た目は人間の二、三才ほどの子供。ちらりと見える角は二センチの高さで成長途中に見える。
それを隠すくせ毛はそれほど巻いてはおらず、少し長めのショートカットはお洒落パーマのようにニュアンスがあり、褐色の肌は時に小生意気な印象を与える。
だがしかし、ほっぺは丸く、冬場はそこい赤みが差してとても可愛い。夏は夏でぷっくりした手足が剥き出しになって、やはり可愛い。
それは涼丸だけが思っている主観的な感想ではなく、他の人からの目を通してもそうなのだ。その見た目の可愛らしさで、月日はこの工場建設当時の二十年前からずっとアイドル的存在だった。ごく一部の月日が見える人達の間で。
そんな月日は最初に出会った時は雪ん子スタイルだった。
次に会った時は獣の皮を腰に巻き、上半身は裸。足は素足の由緒ただしき鬼スタイルだった。金棒的な武器は持っていなかった。
案外、奇抜な衣装持ちなんだと思ったのはその時だった。
涼丸と出会い暮らすようになってから現代の子供の服を着るようになり、今日は叔父の睦が買って来たイルカの絵がプリントされたシャツに、細身パンツを着ている。
どれも質はそれほど良くないのだが、サングラスをカチューシャのように頭に置いているせいか、小じゃれた子供に見える。
鬼だから外気温も関係ないのかと思いきや、寒さを感じたら涼丸にすり寄ってくるし、暑ければすぐ真っ裸になってしまう。
たとえ喋らなくとも、これほど人間くさい鬼を嫌いになれるわけない。
会社までの中間地点あたりまで来ると、それまでスイスイと涼丸の隣を通り過ぎ追い抜いていた車がノロノロ運転へと変わっていく。
この山の一帯は計画によって切り開かれ開発され、企業の研究所や大学の施設があり、朝はその出勤の車で渋滞してしまうのだ。
山道を行くこのグリーンロードと呼ばれる道路は整備されていて、片側一車線でありながら、端には緑色に舗装された歩行者自転車帯がある。車の間をすり抜けてくるバイクにさえ気をつけていれば、それほど安全的には問題ない。
それもあって涼丸は入社して早々に車通勤から自転車通勤に切り替えている。
朝から夏の強い日差しを肌にジリジリと受けながら抜け、冬の強風の日には手袋越しに寒風が浸みる。そんな時はやはり辛いけど、田舎者の涼丸にとって四季をつぶさに感じることができる環境は子どもの頃から親しんだもの。
自宅が近くてよかったと、得した気分になる。
涼丸が勤めるのは、産業用ロボットの設計開発生産を主にする株式会社エルマド。
その男性社員は独身者の割合が多い。この針研究所の理系集団ばかりで人付き合いが苦手という事ではなく、単に出会いが少なく、社内にも女性が少ないのも原因だろう。
事務系の仕事もすべて派遣社員へと切り替えられているのだが、事務系の部署とは働く建物さえ違うのだから仲良くなる隙もない。
人の事をどうこう言えた義理もなく、涼丸自身もこれまで恋人ができた事のない独身男性ではあるけれどそう分析するのだった。
「あ、うちのバスだよ、月日」
上へと続く車の列中に、駅から会社を往復する従業員バスを発見する。
すぐに追いつきその隣をすーっと通り抜けると、見知った顔が手をあげてくれるのがチラリと見えたから、笑顔で頭を下げておいた。
バスの中から外を眺めていた数人は、あれはあの人だな、と涼丸の存在に気付いただろう。
涼丸は会社において、その所属と立場を結構知られている存在だ。
とは言っても所長でも賞を取ったやり手の社員でもない。
涼丸は、ただの平社員。
出世も上下関係もあまりない、会社の保健室にいる産業看護師だ。
人の手の入った生垣が始まり、社の正門が見えてくる。会社に入るには高速にあるような認証式のゲートをくぐらなければならない。社員証がなければゲートは開かず突撃、そして威嚇音が流れ恥をかく。
従業員バスに乗る際にも出入り口で認証が必要。もしこれを忘れてしまうとバスに乗れないし、守衛室でのパソコンを経由しての面倒な手続きが必要となり、遅刻は免れなくなる。
その感知のスピードが遅いせいか、一時に車が集中し過ぎるせいか……
渋滞の原因を考えながら近づいていくと、守衛室の前に紺の制服を着込み立っている、知った顔を見つける。
「克己さん、おはようございます。今朝もお疲れ様です」
「おお、涼丸君、おはよう」
子供の頃から知った顔である守衛の克己に軽く手を上げ挨拶する。
克己はもう孫もいる七十代のお爺さんだが、家にいてもボケるだけだとこうして働いている。
会社の門の前にある小さな守衛室に立っているだけでお金がもらえると笑い、夜勤もこなし仕事が終わると畑仕事までして、仲間とグランドゴルフに行くのだから、その健脚が羨ましい。
一度も停止することなく門を通り過ぎる。自転車のメリットはここでも発揮される。
家からここまでノンストップ……!
涼丸は自分がこの会社の誰よりも楽な通勤をしていると、この瞬間に気分が上がる。
駐車場のある右ではなく左へと回り、広い敷地の中をまたしばらく走ると、メインとなる本館A棟の脇に入る。
自転車置き場にのりつけ、後ろの月日をよいしょと降ろし解放すると、月日はすぐにテテテテッと靴を鳴らしどこかへと走っていってしまった。それを何となく、敷地の隅にある社の方だろうと当たりをつける。
空気を含みふわっとした髪の隙間から見える角は、白い三角錐。
月日の走っていた方向には、小さな社がある。
そこには背の高い男性なら頭をぶつけてしまいそうな高さの鳥居と、小さな社がある。涼丸の想像では、月日はそこの神様と友達なのではないかと思うのだ。
見た目は人間の二、三才ほどの子供。ちらりと見える角は二センチの高さで成長途中に見える。
それを隠すくせ毛はそれほど巻いてはおらず、少し長めのショートカットはお洒落パーマのようにニュアンスがあり、褐色の肌は時に小生意気な印象を与える。
だがしかし、ほっぺは丸く、冬場はそこい赤みが差してとても可愛い。夏は夏でぷっくりした手足が剥き出しになって、やはり可愛い。
それは涼丸だけが思っている主観的な感想ではなく、他の人からの目を通してもそうなのだ。その見た目の可愛らしさで、月日はこの工場建設当時の二十年前からずっとアイドル的存在だった。ごく一部の月日が見える人達の間で。
そんな月日は最初に出会った時は雪ん子スタイルだった。
次に会った時は獣の皮を腰に巻き、上半身は裸。足は素足の由緒ただしき鬼スタイルだった。金棒的な武器は持っていなかった。
案外、奇抜な衣装持ちなんだと思ったのはその時だった。
涼丸と出会い暮らすようになってから現代の子供の服を着るようになり、今日は叔父の睦が買って来たイルカの絵がプリントされたシャツに、細身パンツを着ている。
どれも質はそれほど良くないのだが、サングラスをカチューシャのように頭に置いているせいか、小じゃれた子供に見える。
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たとえ喋らなくとも、これほど人間くさい鬼を嫌いになれるわけない。
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