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第一話
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1981年、東東京市江戸川区。冷たい冬の雨がネオンの光を滲ませ、薄暗い路地に響く。19歳の高本陽太は、バー「黒猫」のカウンターでグラスを拭きながら、客の雑談に耳を傾ける。労働者たちが普段のノルマや賃金への不満、蒸気機関車の遅さに愚痴をこぼし、西東京の街の輝きや新幹線、羽田空港の噂で盛り上がる。陽太は無表情で聞き流すが、ポケットの中のメモには今夜の「仕事」が記されている。佐藤健司、52歳。東日本の工場労働者で、先の大戦の分断で新婚の妻を西日本に残した男。陽太の任務は、健司を東経138度の非武装地帯(DMZ)へ導き、5キロの地雷原を越えて西日本へ亡命させることだ。時計が午後9時を指す。陽太はバーの裏口から雨の路地へ滑り出る。黒いコートの襟を立て、リュックには地雷探知機、偽造通行証、折り畳みナイフ、そしてDMZの地雷配置を記した手書きの地図。東東京からDMZまでは約200キロ。東日本の蒸気機関車は遅く、検問だらけの道路は危険すぎる。陽太の計画は、闇ルートを縫って静岡県のDMZ手前まで移動し、そこから地雷原を突破することだ。陽太は路地の奥で健司と落ち合う。廃墟と化した倉庫の暗がりで、健司は震えていた。やつれた顔に、希望と恐怖が交錯する。「高本さん…本当に妻に会えるんだな? 西で待ってるんだ…」陽太は鋭い目で健司を見据え、短く答える。「約束は守る。だが、俺の言う通りに動け。一瞬のミスで終わりだ」二人は東東京の外れへ向かう。東日本の夜の街は灰色で、監視カメラと人民警察の目が光る。陽太は裏道を知り尽くしていた。かつて姉が亡命に失敗し、DMZで地雷に吹き飛ばされた2年前から、彼はこの裏仕事で生きてきた。姉の笑顔を思い出すたび、胸が締め付けられるが、陽太は感情を押し殺す。「誰かがやらなきゃ、誰も救えねえ」最初の難関は、東東京を抜けることだ。日本人民共和国 通称東日本では移動の自由すらない。江戸川区から東へ向かうには、人民警察の検問を避け、闇の運び屋が使うルートを通るしかない。陽太は健司を連れ、市場の裏手にある古い下水道へ潜る。濡れたコンクリートの匂いとネズミの足音が響く中、陽太は懐中電灯で道を照らす。「足音を殺せ。見つかれば即射殺だ」東日本は下水道まで警備してることがあると言う。下水道を抜けると、そこは江戸川区を抜け千葉県浦安市。陽太が手配した闇の運び屋のトラックが待っていた。運転手は無口な東日本人民軍の兵士で表向きには補給のための輸送隊に所属していて、陽太に一瞥をくれる。「DMZの手前までだ。後はお前で何とかしろ」陽太は頷き、健司を荷台に押し込む。古い軍用トラックは夜の闇に紛れ、検問の少ない田舎道を大宮から西東京を迂回して西へ進む。トラックの古びた窓から見える東日本の風景は、灰色の工場と荒れ果てた田畑。遠くで西東京の光が一瞬見えるたび、健司の目が揺れる。「あれが…西の光か」夜が明ける前に、トラックは静岡県の山間部で二人を降ろす。東経138度、DMZの手前の東方限界線だ。幾重にも建造された電流が走る高い有刺鉄線が行く手を遮る。わらで隠された鉄板をあけると彼らが掘った秘密の抜け穴が現れた。そこをくぐっていくと有刺鉄線の先つまり非武装地帯へと出られる。ここから先は、陽太の足だけが頼り。雨が止み、霧が立ち込める中、陽太は地図を広げる。5キロの非武装地帯は、何百万もの地雷と監視塔に守られ、大戦終結以来手つかずの大自然が広がる。木々が風に揺れ、遠くで鹿の鳴き声が響く。だが、その美しさの下には死が潜む。陽太は地雷探知機を手に、健司に囁く。「ここからが本番だ。地雷は一歩間違えれば終わり。監視塔の光は3分ごとに動く。俺の後ろを離れるな」健司は頷くが、足が震えている。陽太は一瞬、姉の最後の言葉を思い出す。「陽太、自由は命より重いよ」。その言葉が、彼を前に進ませる。霧深いDMZの入口で、陽太は地雷探知機を起動する。ピピッという音が、静寂を切り裂く。遠くの監視塔からサーチライトが動き出し、二人の影を追いかける。陽太は健司を茂みに押し倒し、息を殺す。「まだだ。まだ終わらねえ」陽太の心に、姉の笑顔と健司の娘の待つ未来が重なる。命懸けの旅は、ここから始まる。
冷たい空気が陽太の頬を刺す。陽太のリュックには地雷探知機、偽造通行証、折り畳みナイフ、そして命より大切な地雷配置の地図。健司の目は、恐怖と娘への思いで揺れている。「高本さん…本当に越えられるんだよな?」陽太は鋭く一瞥し、答える。「俺を信じろ。だが、一歩間違えたら終わりだ」DMZは手つかずの大自然そのものだった。大戦後の非武装地帯がもうけられてからは、人間の手が殆どつけられていないからだ。木々が霧に霞み、遠くで野生の鹿の鳴き声が響く。だが、地面の下には何百万もの地雷が眠り、たまにやってくる捜索隊のサーチライトが闇を切り裂く。陽太は地雷探知機を手に、獣道を慎重に進む。ピピッという警告音が鳴るたび、健司の息が止まる。「右に2歩ずれるな。そこは死に場所だ」と陽太が囁く。健司は頷き、陽太の背中に必死でついていく。2キロ進んだところで、巡察のライトが突然動き出し、二人の頭上を掠める。陽太は健司を茂みに押し倒し、息を殺す。監視犬の遠吠えが近づき、二人の心臓が跳ねる。2年前、姉がこのDMZで地雷に吹き飛ばされた記憶が脳裏をよぎる。あの夜、陽太は姉を救えなかった。「二度と失敗しねえ」と心の中で呟き、陽太は健司の手を握りしめる。「動くな。光が過ぎるまで10秒だ」サーチライトが遠ざかり、陽太は地図を確認する。軍事境界線はあと3キロ。白い杭が立っているだけの簡素な線が、西日本への自由を約束する。だが、そこに至る道は地雷と監視に守られた死の回廊だ。陽太は健司に囁く。「境界線を超えてすぐ行けば、西側のインターホンがある。お前が自分で押す。それがルールだ。そしたら西日本軍が迎えに来る」夜が深まる中、二人はさらに進む。地雷探知機の音が不規則に鳴り、陽太の額に汗が滲む。突然、地面がわずかに揺れ、遠くで地雷の爆発音が響く。野生動物が誤って踏んだのか、別の亡命者が失敗したのか。健司が震えながら呟く。「高本さん…俺、怖いよ。妻に会いたいだけなのに…」陽太は目を細め、答える。「怖くても足を動かせ。奥さんが待ってるんだろ?」やがて、霧の向こうに白い杭が見えてくる。軍事境界線だ。military demarcation lineと英語で書かれた古びた看板が打ち付けられているだけの白い杭が無機質に数百キロと並んでいるのだ。本当に杭以外は何もない。だが、その簡素さが逆に不気味だ。陽太は地雷探知機をしまい、健司に最後の指示を出す。「ここから50メートル直進。西側に地雷はないが、まだ東の監視が見ている。お前を西に引き渡すところを見られると全て台無しだ。俺が囮になる。お前は走ってインターホンを押せ」陽太は懐から煙幕弾を取り出し、近くにいる巡察兵の視線をそらすために投げる。異状に気づいたのかライトがこちらを照らす。煙が広がる中、健司は必死で走る。陽太は別の方向へ走り、サーチライトを引きつける。健司が杭を越え、インターホンの前にたどり着く。震える手でボタンを押すと、低いブザー音が響く。「日本国警察軍事境界線特別警備隊だ。その場に腹這いに伏せていろ。指示があるまで一切動くな。」ブザー音の後に兵士の声が響く。西側からヘッドライトが近づき、西日本憲兵隊のジープが現れる。憲兵の一人が健司を引き上げる。「佐藤健司だな? よくやった。例の請負人か?」陽太は煙の向こうで一瞬だけ姿を見せる。西日本軍の兵士の間で、彼の名は知れ渡っていた。「黒猫の陽太」と呼ばれる少年。無言で手を振ると、陽太は即座に東側へ引き返す。健司が「高本さん、ありがとう!」と言ったのが口の動きでわかった。だが、陽太は振り返らない。DMZの霧の中、彼の背中は闇に溶ける。東東京への帰路、陽太は姉の笑顔を思い出す。「自由は命より重いよ」。その言葉が、彼をこの仕事に縛り続ける。次の依頼が待っている。陽太はコートの襟を立て、再び地雷原を歩き出す。
陽太に休息はない。東東京への帰路、5キロの地雷原が再び彼を待つ。リュックには地雷探知機、偽造通行証、折り畳みナイフ、そして命より大切なDMZの地図。陽太はコートの襟を立て、霧の闇へ踏み出す。DMZは静寂に包まれ、松の木々が風に揺れ、遠くで野生の鹿の鳴き声が響く。だが、地面には何百万もの地雷が潜み、巡察のライトが闇を切り裂く。陽太は地雷探知機を手に、慎重に獣道を進む。ピピッという警告音が鳴るたび、額に汗が滲む。健司を無事に送り届けた安堵は一瞬。2年前、姉がこの地雷原で吹き飛ばされた記憶が、陽太の胸を締め付ける。「二度と失敗しねえ」と呟き、彼は足元に全神経を集中する。2キロ進んだところで、霧の向こうに人影が動く。陽太は即座に身を低くし、茂みに隠れる。東日本軍の巡察兵だ。革製のコートに身を包み、ライフルを手に巡回している。陽太の心臓が跳ねる。いつもとは違う動き――想定外の遭遇だ。巡察兵が近づき、陽太の隠れる茂みを踏む音が響く。逃げ場はない。陽太はナイフを握り、教わった格闘術を脳裏に蘇らせる。2年間、バー「黒猫」の二階で同じレジスタンスの仲間によって鍛えた技だ。巡察兵が振り返った瞬間、陽太は茂みから飛び出し、音もなく背後に迫る。ナイフが月光に光り、斥候兵の腕を狙う。兵士が気づき、ライフルを構えるが、陽太は一瞬早く腕をひねり、ナイフを喉元に押し当てる。「動くな」と囁くが、兵士は抵抗し、肘打ちを繰り出す。陽太は身をかわし、足を払って兵士を地面に叩きつける。地雷の危険が頭をよぎるが、躊躇はない。ナイフが一閃し、兵士は静かに倒れる。陽太は息を整え、血のついたナイフを拭う。「すまねえ。俺も生きなきゃならねえ」陽太は兵士の無線を壊し、遺体を茂みに隠す。異状に気づいたのか他の巡察のライトが近づく中、彼は地雷探知機を手に再び進む。3キロを越え、DMZの出口にたどり着く。そこには、内通者の一人である東日本軍兵士・田中のトラックが待っていた。帰りは彼のトラックだ。陽太は荷台の毛布の下に滑り込む。田中は無言でエンジンをかけ、陽太に一瞥をくれる。「また生き延びたか、黒猫」陽太は疲れ果てた顔で頷く。「お前のおかげだ。急げ」トラックは新幹線高架下の管理道を走る。頭上を300キロの新幹線が轟音と共に駆け抜け、東日本の灰色の風景が窓の外を流れる。陽太は毛布の下で目を閉じ、姉の声を思い出す。「自由は命より重いよ」。その言葉が、彼をこの仕事に縛り続ける。トラックが東東京の外れに到着し、陽太は闇に降り立つ。田中が低く言う。「次は気をつけろ。巡察の動きが増えてる」陽太は無言で頷き、路地へ消える。バー「黒猫」の消えかけのネオンが揺れる。きっと、近いうちに次の依頼が来るだろう。
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陽太に休息はない。東東京への帰路、5キロの地雷原が再び彼を待つ。リュックには地雷探知機、偽造通行証、折り畳みナイフ、そして命より大切なDMZの地図。陽太はコートの襟を立て、霧の闇へ踏み出す。DMZは静寂に包まれ、松の木々が風に揺れ、遠くで野生の鹿の鳴き声が響く。だが、地面には何百万もの地雷が潜み、巡察のライトが闇を切り裂く。陽太は地雷探知機を手に、慎重に獣道を進む。ピピッという警告音が鳴るたび、額に汗が滲む。健司を無事に送り届けた安堵は一瞬。2年前、姉がこの地雷原で吹き飛ばされた記憶が、陽太の胸を締め付ける。「二度と失敗しねえ」と呟き、彼は足元に全神経を集中する。2キロ進んだところで、霧の向こうに人影が動く。陽太は即座に身を低くし、茂みに隠れる。東日本軍の巡察兵だ。革製のコートに身を包み、ライフルを手に巡回している。陽太の心臓が跳ねる。いつもとは違う動き――想定外の遭遇だ。巡察兵が近づき、陽太の隠れる茂みを踏む音が響く。逃げ場はない。陽太はナイフを握り、教わった格闘術を脳裏に蘇らせる。2年間、バー「黒猫」の二階で同じレジスタンスの仲間によって鍛えた技だ。巡察兵が振り返った瞬間、陽太は茂みから飛び出し、音もなく背後に迫る。ナイフが月光に光り、斥候兵の腕を狙う。兵士が気づき、ライフルを構えるが、陽太は一瞬早く腕をひねり、ナイフを喉元に押し当てる。「動くな」と囁くが、兵士は抵抗し、肘打ちを繰り出す。陽太は身をかわし、足を払って兵士を地面に叩きつける。地雷の危険が頭をよぎるが、躊躇はない。ナイフが一閃し、兵士は静かに倒れる。陽太は息を整え、血のついたナイフを拭う。「すまねえ。俺も生きなきゃならねえ」陽太は兵士の無線を壊し、遺体を茂みに隠す。異状に気づいたのか他の巡察のライトが近づく中、彼は地雷探知機を手に再び進む。3キロを越え、DMZの出口にたどり着く。そこには、内通者の一人である東日本軍兵士・田中のトラックが待っていた。帰りは彼のトラックだ。陽太は荷台の毛布の下に滑り込む。田中は無言でエンジンをかけ、陽太に一瞥をくれる。「また生き延びたか、黒猫」陽太は疲れ果てた顔で頷く。「お前のおかげだ。急げ」トラックは新幹線高架下の管理道を走る。頭上を300キロの新幹線が轟音と共に駆け抜け、東日本の灰色の風景が窓の外を流れる。陽太は毛布の下で目を閉じ、姉の声を思い出す。「自由は命より重いよ」。その言葉が、彼をこの仕事に縛り続ける。トラックが東東京の外れに到着し、陽太は闇に降り立つ。田中が低く言う。「次は気をつけろ。巡察の動きが増えてる」陽太は無言で頷き、路地へ消える。バー「黒猫」の消えかけのネオンが揺れる。きっと、近いうちに次の依頼が来るだろう。
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