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第一章
誕生日
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「ラルフ、誕生日おめでとう」
温かい声と共に、母が俺の頭を優しく撫でた。今日は俺の誕生日。この世界では、誕生日を家のもののみでささやかに祝うのが慣例となっている。
ダイニングテーブルには色とりどりの料理が並び、中央には大きなバースデーケーキが置かれている。ろうそくの火が揺らめき、部屋を暖かく照らしていた。
「もう10歳か、早いものだな」
父、ダグラス・キンガルドが感慨深げに呟いた。
父上は屈強な体格をしており、国境防衛の総督を務めているだけあって、全身から威圧感が漂っている。
「もう立派な少年ね」
母、メリア・キンガルドも優しい微笑みを浮かべている。
そして、俺の兄、レイモンド・キンガルドは少し複雑な表情をしていた。レイモンドは俺より3歳年上で、キンガルド家の長男。将来はキンガルド家を継ぎ、当主となることが決まっている予定だった。
この世界では長子相続が一般的だ。つまり、キンガルド家を継ぐのはレイモンドであり、俺はあくまでも次男に過ぎない筈だったが、正直に言って、俺は兄上よりも勉学の面で優秀で、家庭教師からもその優秀さに驚かれたほどだ。
そういった事情もあり、兄上は俺のことを当主の座を脅かす敵として捉えているフシがある。
「ラルフ、おめでとう」
レイモンドは少しぶっきらぼうにそう言った。
「ありがとう、兄上」
俺は笑顔で答えた。だが、レイモンドの視線はどこか冷ややかだった。
前世では、父は仕事で家に居らず、母は常に俺に過度な期待を押し付け、誕生日も形式的なものだった。プレゼントは参考書や問題集ばかり。家族で楽しく過ごす時間などなかった。
しかし、この世界では違う。家族全員が俺の誕生日を心から喜んでくれている。
「ラルフ、誕生日プレゼントだ」
父が革表紙の分厚い本を手渡してきた。
「これは…?」
俺は不思議そうに本を受け取った。表紙には何も書かれていない。だが、俺はこの本を知っていた。
「これは…魔導書ですか?」
「ああ、そうだ。キンガルド家に代々伝わる魔導書だ。お前も今日で10歳。そろそろ魔法を学ぶ時期だと思ってな」
俺は驚きを隠せなかった。魔法…それはこの世界において、選ばれた者だけが使える特別な力だ。貴族の子息であれば、10歳になれば身体に宿る魔力が本格化していき、家庭教師や学園などで学ぶとのことだ。
「父上、ありがとうございます!」
俺は冷静なのを装うために、わざとらしく興奮気味に声を上げた。
「しかし、魔法を学ぶには時間がかかる。焦らずじっくりと取り組むのだぞ」
「はい!」
そして、俺は力強く頷いた。だが、内心は少し違った。
実は、俺はすでに魔法を使うことができたのだ。幼い頃から、書斎に忍び込んで、こっそりと魔導書を読んでいたのだ。そして、独学で魔法を習得していた。前世の学習能力を活かし、魔力が本格化する前でも使用できる魔法を生み出したのだった。
(まあ、もちろん家族には内緒だけど…)
書斎には政治に関わることや、軍の規模、配置に関する重大な書物が多く、父上とその側近以外はたとえ家族であっても入ることを禁止されていた。
しかし、俺は魔法の魅力に負けてしまい、小さい頃から書斎に忍び込んでいた。そのことことに反省と少しの後ろめたさを感じながらも、父から貰った魔導書を開く。俺は魔導書をペラペラとめくっていき、中身の確認をした。
(なるほどな、我が家に伝わると言ってはいたが、根幹の部分は今まで見た魔導書と内容はだいたい一緒だな、これなら問題なく使えそうだ)
そんなことを考えながら魔導書を読んでいると、嫌な視線に気がついた。視線の正体はやはりレイモンドだった。
(目立つと兄上との関係が少し面倒になりそうだな、あまり魔法は使えないという設定でいこうか)
キンガルド家は辺境の貴族であり、国境警備の任務を初代国王から与えられていた由緒正しい貴族家だ。そういうこともあって領主には兵士とともに戦い、士気を高揚させる強大な騎士であることが理想とされてきた。だからこそ、俺が魔法をすでに使えると知ってしまえば、兄上からの嫌がらせも起きるだろう。
(それに俺は女神様から特別なギフトを授かる予定だしな)
この世界では15歳、つまり成人の年に、それまで神殿へ多額の寄付をしている貴族家や商人などの裕福な家系はギフトという神の祝福を授かることが出来た。
そして俺はそのときに特別なギフトを授けてくれると女神様が約束してくれた。今世は前世のように息子に無関心な父も、ヒステリックで勉強ばかりを押し付ける母もいない。
(今度の人生こそは、前世の分を取り返せるほど幸福な人生を歩みたいし、そのために兄上との確執は避けなきゃな)
俺は心の中でそう決心し、父上に再び感謝を述べた。
「ありがとうございます、父上。父上のご期待に添えられるよう、努力いたします」
俺の言葉に、父上は満足げに頷いた。
母上も俺のことを嬉しそうに見つめた。レイモンドは俺には視線も寄越さず、つまらなそうな表情のまま果汁を含んだ小ビールを口に運んだ。
「さて、そろそろデザートの時間かしら」
母上がそう言うと、使用人たちがデザートを運んできてくれた。
「それじゃ、お願いできるかしら」
「はい、奥方様」
使用人たちは丁寧に頭を下げると、厨房へと向かった。
しばらくして、ミラが豪華なプレートを運んでくる。プレートに載せたデザートが甘い香りを放つ。甘い香りはすぐさま部屋中に広がり、俺は目を輝かせた。
「っ、母上。これは...」
「そうよ、ドライプラムの砂糖漬けよ。特別に作ったの」
母上は優しく微笑んだ。俺は感激した様子で母を見つめた。ドライプラムの砂糖漬けは俺が最も好きなデザートだからだ。
イギリスではなく、日本で前世を過ごしたせいで、この世界での食事にはかなり不満があったのだが、すももを乾燥させ、砂糖漬けにしたこのデザートは、わりと自分の口にあっており、なおかつ前世で好きだった作品に登場していた食材ということもあり、かなり気に入っている。
「ありがとうございます、母上」
使用人たちがドライプラムを家族全員に分けて、楽しく味わった。甘酸っぱく、しっとりとした食感に子どものように胸を弾ませ、家族との会話に花を咲かせる。会話は和やかに続き、時折笑い声も聞こえた。
食事が終わりに近づくと、父上が立ち上がった。
「ラルフ、今日という日を祝して、私からも言葉を贈ろう」
部屋の空気が引き締まる。ラルフは背筋を伸ばし、父の言葉に耳を傾けた。
「お前はキンガルド家の誇りだ。知性に富み、責任感も強い。これからも家族と領民のために、そしていずれ当主となる兄レイモンドのために、その才能を存分に発揮してくれることを期待しているぞ」
「はい、父上。身に余るお言葉、感謝いたします」
ラルフは深々と頭を下げた。レイモンドの表情が一瞬曇ったが、誰も気づかなかった。
「さて、そろそろお開きにしようか」
父上がそう告げると、使用人が皿を片付け始めた。
「明日も早いからな」
家族全員が立ち上がり、ラルフに最後の祝福の言葉をかけた。俺は母上に抱きしめられ、レイモンドには形式的に肩を叩かれた。
パーティーは和やかな雰囲気のまま終わりを告げ、家族はそれぞれの部屋へと戻っていった。
ラルフは自室に戻ると、窓際に立ち、夜空を見上げた。星々が輝く中、彼は今日一日を振り返り、幸せな気持ちに包まれた。
「しかし、女神様には感謝だな、マッチポンプとは言え、こんな素晴らしい家族の元に送ってくれて」
そう呟きながら、ラルフはベッドに向かった。その時、部屋にノックの音が部屋に響く。
「ご主人様、ミラです。少しお時間よろしいでしょうか?」
ドアをノックする音と共に、柔らかく優しい声が部屋に響く。俺はドアの方へと顔を向ける。
「ああ、入っていいよ」
ラルフが返事をすると、ミラがそっと部屋に入ってきた。彼女の表情には少し緊張の色が見えた。
「あの…本日は10歳の誕生日、改めてお祝い致します」
ミラは頬を赤らめながら、俺に向かって深々と頭を下げた。彼女の手には、丁寧に包装された小さな箱が握られていた。
「ミラ、ありがとう。でも、そんなに緊張しなくていいよ」
俺はミラに優しく声をかける。彼女は恥ずかしそうに目を伏せながら、小さな声で言った。
「これ、つまらないものですが…ご主人様のために作りました」
震える手でプレゼントを差し出すミラ。俺はにっこりと微笑んで受け取ると、その場で開けた。
中から出てきたのは、美しい白鳥の羽根で作られた羽根ペンだった。その羽軸には繊細な金の装飾が施され、先端は鋭く斜めに切り取られ、丁寧に削り取られていた。
「ミラ、これは...」
俺は思わず息を呑んだ。羽根ペンは確かに一般的な文房具だが、これほど美しく上質なものは珍しい。羽の先端の切り方や削り方を見ると、熟練した職人の技が感じられる。かなり高名な職人に依頼したのだろう。
ミラは少し頬を赤らめながら言った。
「ご主人様、いつも勉学や読書に励んでいらっしゃるお姿を拝見しておりまして...これを使えば、より捗るのではないかと思いまして」
「ありがとう、ミラ。本当に素晴らしい贈り物だ」
俺は心からの感謝を込めて言った。このペンの柔らかな手触りと、繊細な装飾を指でなぞりながら、ミラの気持ちの深さを感じ取った。
俺がそう言うと、ミラの猫耳がぴくりと動いた。彼女の尻尾も嬉しそうに揺れている。
「よかった...喜んでいただけて本当に嬉しいです」
ミラの瞳が潤んでいるのに気づいた。思わず俺は彼女の頭を優しく撫でた。
「どうしたんだ? 泣いてるのか?」
「いえ...ただ、ご主人様に出会えて本当に良かったなって...」
ミラは俺の手を両手で包み込むようにして、ゆっくりと話し始めた。
「あの日、ご主人様が私を拾ってくださらなかったら、今の私はありません。毎日が幸せで...だから、少しでもご主人様のお役に立ちたいんです」
その言葉に、俺は3年前のことを思い出した。物盗りをして衛兵に捕らえられていたミラを見つけ、屋敷に連れ帰ったあの日のことを。
ミラは貧民街出身で、両親もおらず、なおかつ獣人ということもあってろくな生き方が出来なかったのだ。
「ミラこそ、毎日俺の側にいてくれてありがとう。ミラがいてくれるから、俺も頑張れるんだ」
俺の言葉に、ミラの頬がさらに赤くなった。彼女は俯きながらも、嬉しそうに微笑んでいる。
「これからもずっと、ご主人様の側にいさせてください」
ミラの声には決意が滲んでいた。その瞳には、感謝の気持ちと共に、何か特別な感情が宿っているようにも見えた。
俺は再びミラの頭を撫でながら、優しく微笑んだ。
「ああ、これからもよろしくな、ミラ」
温かい声と共に、母が俺の頭を優しく撫でた。今日は俺の誕生日。この世界では、誕生日を家のもののみでささやかに祝うのが慣例となっている。
ダイニングテーブルには色とりどりの料理が並び、中央には大きなバースデーケーキが置かれている。ろうそくの火が揺らめき、部屋を暖かく照らしていた。
「もう10歳か、早いものだな」
父、ダグラス・キンガルドが感慨深げに呟いた。
父上は屈強な体格をしており、国境防衛の総督を務めているだけあって、全身から威圧感が漂っている。
「もう立派な少年ね」
母、メリア・キンガルドも優しい微笑みを浮かべている。
そして、俺の兄、レイモンド・キンガルドは少し複雑な表情をしていた。レイモンドは俺より3歳年上で、キンガルド家の長男。将来はキンガルド家を継ぎ、当主となることが決まっている予定だった。
この世界では長子相続が一般的だ。つまり、キンガルド家を継ぐのはレイモンドであり、俺はあくまでも次男に過ぎない筈だったが、正直に言って、俺は兄上よりも勉学の面で優秀で、家庭教師からもその優秀さに驚かれたほどだ。
そういった事情もあり、兄上は俺のことを当主の座を脅かす敵として捉えているフシがある。
「ラルフ、おめでとう」
レイモンドは少しぶっきらぼうにそう言った。
「ありがとう、兄上」
俺は笑顔で答えた。だが、レイモンドの視線はどこか冷ややかだった。
前世では、父は仕事で家に居らず、母は常に俺に過度な期待を押し付け、誕生日も形式的なものだった。プレゼントは参考書や問題集ばかり。家族で楽しく過ごす時間などなかった。
しかし、この世界では違う。家族全員が俺の誕生日を心から喜んでくれている。
「ラルフ、誕生日プレゼントだ」
父が革表紙の分厚い本を手渡してきた。
「これは…?」
俺は不思議そうに本を受け取った。表紙には何も書かれていない。だが、俺はこの本を知っていた。
「これは…魔導書ですか?」
「ああ、そうだ。キンガルド家に代々伝わる魔導書だ。お前も今日で10歳。そろそろ魔法を学ぶ時期だと思ってな」
俺は驚きを隠せなかった。魔法…それはこの世界において、選ばれた者だけが使える特別な力だ。貴族の子息であれば、10歳になれば身体に宿る魔力が本格化していき、家庭教師や学園などで学ぶとのことだ。
「父上、ありがとうございます!」
俺は冷静なのを装うために、わざとらしく興奮気味に声を上げた。
「しかし、魔法を学ぶには時間がかかる。焦らずじっくりと取り組むのだぞ」
「はい!」
そして、俺は力強く頷いた。だが、内心は少し違った。
実は、俺はすでに魔法を使うことができたのだ。幼い頃から、書斎に忍び込んで、こっそりと魔導書を読んでいたのだ。そして、独学で魔法を習得していた。前世の学習能力を活かし、魔力が本格化する前でも使用できる魔法を生み出したのだった。
(まあ、もちろん家族には内緒だけど…)
書斎には政治に関わることや、軍の規模、配置に関する重大な書物が多く、父上とその側近以外はたとえ家族であっても入ることを禁止されていた。
しかし、俺は魔法の魅力に負けてしまい、小さい頃から書斎に忍び込んでいた。そのことことに反省と少しの後ろめたさを感じながらも、父から貰った魔導書を開く。俺は魔導書をペラペラとめくっていき、中身の確認をした。
(なるほどな、我が家に伝わると言ってはいたが、根幹の部分は今まで見た魔導書と内容はだいたい一緒だな、これなら問題なく使えそうだ)
そんなことを考えながら魔導書を読んでいると、嫌な視線に気がついた。視線の正体はやはりレイモンドだった。
(目立つと兄上との関係が少し面倒になりそうだな、あまり魔法は使えないという設定でいこうか)
キンガルド家は辺境の貴族であり、国境警備の任務を初代国王から与えられていた由緒正しい貴族家だ。そういうこともあって領主には兵士とともに戦い、士気を高揚させる強大な騎士であることが理想とされてきた。だからこそ、俺が魔法をすでに使えると知ってしまえば、兄上からの嫌がらせも起きるだろう。
(それに俺は女神様から特別なギフトを授かる予定だしな)
この世界では15歳、つまり成人の年に、それまで神殿へ多額の寄付をしている貴族家や商人などの裕福な家系はギフトという神の祝福を授かることが出来た。
そして俺はそのときに特別なギフトを授けてくれると女神様が約束してくれた。今世は前世のように息子に無関心な父も、ヒステリックで勉強ばかりを押し付ける母もいない。
(今度の人生こそは、前世の分を取り返せるほど幸福な人生を歩みたいし、そのために兄上との確執は避けなきゃな)
俺は心の中でそう決心し、父上に再び感謝を述べた。
「ありがとうございます、父上。父上のご期待に添えられるよう、努力いたします」
俺の言葉に、父上は満足げに頷いた。
母上も俺のことを嬉しそうに見つめた。レイモンドは俺には視線も寄越さず、つまらなそうな表情のまま果汁を含んだ小ビールを口に運んだ。
「さて、そろそろデザートの時間かしら」
母上がそう言うと、使用人たちがデザートを運んできてくれた。
「それじゃ、お願いできるかしら」
「はい、奥方様」
使用人たちは丁寧に頭を下げると、厨房へと向かった。
しばらくして、ミラが豪華なプレートを運んでくる。プレートに載せたデザートが甘い香りを放つ。甘い香りはすぐさま部屋中に広がり、俺は目を輝かせた。
「っ、母上。これは...」
「そうよ、ドライプラムの砂糖漬けよ。特別に作ったの」
母上は優しく微笑んだ。俺は感激した様子で母を見つめた。ドライプラムの砂糖漬けは俺が最も好きなデザートだからだ。
イギリスではなく、日本で前世を過ごしたせいで、この世界での食事にはかなり不満があったのだが、すももを乾燥させ、砂糖漬けにしたこのデザートは、わりと自分の口にあっており、なおかつ前世で好きだった作品に登場していた食材ということもあり、かなり気に入っている。
「ありがとうございます、母上」
使用人たちがドライプラムを家族全員に分けて、楽しく味わった。甘酸っぱく、しっとりとした食感に子どものように胸を弾ませ、家族との会話に花を咲かせる。会話は和やかに続き、時折笑い声も聞こえた。
食事が終わりに近づくと、父上が立ち上がった。
「ラルフ、今日という日を祝して、私からも言葉を贈ろう」
部屋の空気が引き締まる。ラルフは背筋を伸ばし、父の言葉に耳を傾けた。
「お前はキンガルド家の誇りだ。知性に富み、責任感も強い。これからも家族と領民のために、そしていずれ当主となる兄レイモンドのために、その才能を存分に発揮してくれることを期待しているぞ」
「はい、父上。身に余るお言葉、感謝いたします」
ラルフは深々と頭を下げた。レイモンドの表情が一瞬曇ったが、誰も気づかなかった。
「さて、そろそろお開きにしようか」
父上がそう告げると、使用人が皿を片付け始めた。
「明日も早いからな」
家族全員が立ち上がり、ラルフに最後の祝福の言葉をかけた。俺は母上に抱きしめられ、レイモンドには形式的に肩を叩かれた。
パーティーは和やかな雰囲気のまま終わりを告げ、家族はそれぞれの部屋へと戻っていった。
ラルフは自室に戻ると、窓際に立ち、夜空を見上げた。星々が輝く中、彼は今日一日を振り返り、幸せな気持ちに包まれた。
「しかし、女神様には感謝だな、マッチポンプとは言え、こんな素晴らしい家族の元に送ってくれて」
そう呟きながら、ラルフはベッドに向かった。その時、部屋にノックの音が部屋に響く。
「ご主人様、ミラです。少しお時間よろしいでしょうか?」
ドアをノックする音と共に、柔らかく優しい声が部屋に響く。俺はドアの方へと顔を向ける。
「ああ、入っていいよ」
ラルフが返事をすると、ミラがそっと部屋に入ってきた。彼女の表情には少し緊張の色が見えた。
「あの…本日は10歳の誕生日、改めてお祝い致します」
ミラは頬を赤らめながら、俺に向かって深々と頭を下げた。彼女の手には、丁寧に包装された小さな箱が握られていた。
「ミラ、ありがとう。でも、そんなに緊張しなくていいよ」
俺はミラに優しく声をかける。彼女は恥ずかしそうに目を伏せながら、小さな声で言った。
「これ、つまらないものですが…ご主人様のために作りました」
震える手でプレゼントを差し出すミラ。俺はにっこりと微笑んで受け取ると、その場で開けた。
中から出てきたのは、美しい白鳥の羽根で作られた羽根ペンだった。その羽軸には繊細な金の装飾が施され、先端は鋭く斜めに切り取られ、丁寧に削り取られていた。
「ミラ、これは...」
俺は思わず息を呑んだ。羽根ペンは確かに一般的な文房具だが、これほど美しく上質なものは珍しい。羽の先端の切り方や削り方を見ると、熟練した職人の技が感じられる。かなり高名な職人に依頼したのだろう。
ミラは少し頬を赤らめながら言った。
「ご主人様、いつも勉学や読書に励んでいらっしゃるお姿を拝見しておりまして...これを使えば、より捗るのではないかと思いまして」
「ありがとう、ミラ。本当に素晴らしい贈り物だ」
俺は心からの感謝を込めて言った。このペンの柔らかな手触りと、繊細な装飾を指でなぞりながら、ミラの気持ちの深さを感じ取った。
俺がそう言うと、ミラの猫耳がぴくりと動いた。彼女の尻尾も嬉しそうに揺れている。
「よかった...喜んでいただけて本当に嬉しいです」
ミラの瞳が潤んでいるのに気づいた。思わず俺は彼女の頭を優しく撫でた。
「どうしたんだ? 泣いてるのか?」
「いえ...ただ、ご主人様に出会えて本当に良かったなって...」
ミラは俺の手を両手で包み込むようにして、ゆっくりと話し始めた。
「あの日、ご主人様が私を拾ってくださらなかったら、今の私はありません。毎日が幸せで...だから、少しでもご主人様のお役に立ちたいんです」
その言葉に、俺は3年前のことを思い出した。物盗りをして衛兵に捕らえられていたミラを見つけ、屋敷に連れ帰ったあの日のことを。
ミラは貧民街出身で、両親もおらず、なおかつ獣人ということもあってろくな生き方が出来なかったのだ。
「ミラこそ、毎日俺の側にいてくれてありがとう。ミラがいてくれるから、俺も頑張れるんだ」
俺の言葉に、ミラの頬がさらに赤くなった。彼女は俯きながらも、嬉しそうに微笑んでいる。
「これからもずっと、ご主人様の側にいさせてください」
ミラの声には決意が滲んでいた。その瞳には、感謝の気持ちと共に、何か特別な感情が宿っているようにも見えた。
俺は再びミラの頭を撫でながら、優しく微笑んだ。
「ああ、これからもよろしくな、ミラ」
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