女神の手違いでギフトを授からなかった転生者、追放されたけど極めた魔法で異世界無双

そよ風の申し子

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第一章

初めての視察

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 周りの景色は冬から春への移り変わりを感じる。裸の木々の枝先に、かすかに芽吹きの兆しが見え始めている。道端には、雪解けの水たまりが点在し、時折早咲きのクロッカスが顔を覗かせている。
 空気は冷たく澄んでいるが、日差しに少し暖かさを感じる。馬のいぶきが白く霞んで見える。
 日本のようにアスファルトで舗装された道路と違い、未舗装の道路はデコボコしており、馬車は絶えず揺れ動く。たまに車輪が泥濘にはまると、馬が苦労して引っ張る様子がこちらにまで伝わってくる。
 遠くでは、まだ雪を頂いた山々が見え、広大な畑では農民たちが春の作付けの準備を始めている。
この季節の移ろいと旅の情景を、俺たちは静かに観察していた。

 俺とミラは複数の護衛を連れて馬車に乗り、領内の視察に来ていた。
 なぜこんなことになったかと言えば、誕生日から3日後、父上は再び国境沿いへと出発した。その時に父上から頼まれたのだ。

「ラルフ、お前も10歳になったわけだ。そろそろ領地の視察へ派遣してもいい時期だろう。1週間後に馬車と数人の護衛を手配しておく、領内視察に行ってもらうぞ」

 キンガルト家はここ2、3年、異民族や魔物との小競り合いが多発し、国境沿いの問題に対処するために、領内の衛兵や多くの優秀な人材、そして父上の忠臣たちが派遣されていた。
 表立った問題は今のところあまり報告されていないが、第三者機関として残った下士官たちを審査して欲しいとのことだ。

(改めて思い返しても、やっぱり10歳の子供に課す仕事じゃないよな)

 そう思いながらも、俺は父の期待に応えようと決意を固めていた。馬車の窓から外を眺めていると、ミラが声をかけてきた。

「ご主人様、そろそろ最初の村に到着します。まだ寒さの残る季節ですのでお気をつけて」

 ラルフは軽く頷き、心の準備を整えた。
 馬車が村の入り口に到着すると、村長を名乗る中年の男性が笑顔で出迎えた。

「ようこそいらっしゃいました、ラルフ様。私めが村長のグレゴリーでございます」

 ラルフは馬車から降り、丁寧に挨拶を返した。

「お世話になります。父に代わって視察に参りました」

 グレゴリーは村を案内しながら、熱心に説明を始めた。

「我が村は豊かな土地に恵まれ、皆幸せに暮らしております。昨年の収穫も上々で...」

 俺は村長の話を聞きながら、周囲を注意深く観察していた。一見すると、確かに村は平和そうに見える。しかし、何か違和感があった。
 まず、村人たちの表情が気になった。笑顔で挨拶をする者もいたが、その笑顔が心からのものではないように感じられた。目が笑っていない。そして、多くの村人の顔には疲労の色が濃く見えた。
 次に、家々の様子も気になった。村長の話では豊かな暮らしをしているはずだが、家屋の多くは補修が必要そうだった。屋根の一部が傷んでいたり、壁に亀裂が入っていたりする家が目立つ。
 しかし畑を見ると、作物は確かによく育っており、雑草もほとんど見当たらない。むしろ、手入れが行き届きすぎているように感じられた。俺はそのことに不自然さを感じ、眉をひそめた。

「グレゴリーさん、畑の様子を見ると、村人の皆さんはかなり熱心に農作業をされているようですね」

 グレゴリーは誇らしげに答えた。

「はい、我が村の村人たちはとても勤勉でございます。朝早くから夜遅くまで働いております」

 この言葉を聞いて、ラルフの違和感はさらに強まった。確かに畑はよく手入れされているが、それは村人たちの自発的な勤勉さからくるものなのだろうか。

 さらに観察を続けると、畑で働く人々の様子も気になった。彼らは確かに懸命に働いているが、その動きには切迫感があり、疲労の色が濃く見える。休憩を取る人もほとんど見当たらない。

「グレゴリーさん」

 俺は村人たちの働きに違和感を持ち、身なりのいい男に尋ねた。

「村で問題などはありませんでしたか?」

 グレゴリーの表情が一瞬だけ固まるような気配がした、しかし、彼は笑顔のまま質問に答える。

「いいえ、特に大きな問題はございません。多少の困りごとはありますが、それも村民同士で助け合って解決しております」

 その答えに、俺はさらに違和感を覚えた。グレゴリーの言葉には村の状況との矛盾がいくつか見られる。
 それに、どんな村にも何かしらの問題はあるはずだ。俺が学んだ前世の歴史でもそういった問題点が存在していた。だからこそ、「特に問題はない」と言い切った村長に不自然さを感じた。
 この世界には前世と違い、魔法が存在するが、基本的に戦以外の場面では役に立たないものばかりで農業に扱えるものはないと家庭教師から聞いている。
 前世の歴史では弓を発達させて弩を開発していたが、この世界では魔法が弓のかわりとして、兵器として研究され、発達している。
 つまり、この世界の村にも前世と同じような問題が存在するはずだ。しかし、村長はひたすらそれを隠している可能性がある。
 俺は再度質問を試みようとしたが、恐らくグレゴリーは「ラルフ様のお手を煩わせるほどの問題ではございません」と、話をはぐらかすだろうと思い、寸前で口を閉じる。

 視察が終わりに近づき、ラルフはミラと共に用意された宿舎で話し合っていた。会話は、これまでの観察結果についてだった。

「ミラ、何か変だと思わないか?」

「はい、ご主人様。村人の様子が妙に緊張しているように感じました」

「そうだな。畑の手入れも行き過ぎているわりに、補修が必要そうな家は多い、それに、村人たちの表情も...」

「だが、書類上は問題はなさそうに見えた…」

 俺は「よしっ」と立ち上がり、ミラに目配せして小声で言った。

「ミラ、夜の村を見てみたい。こっそり出てみないか?」

 ミラは少し驚いた様子だったが、すぐに頷いた。

「はい、ご主人様。お供いたします」

 二人は静かに宿舎を抜け出し、月明かりの下で村を歩き始めた。昼間とは違う雰囲気が漂う村の様子に、俺は注意深く目を凝らした。
 突然、暗がりの中からがサッと物音が聞こえた。ラルフとミラは音の方向に目を向けると、路地の隅で倒れている少女の姿を見つけた。

「っ!ご主人様、誰か倒れています!」

 ミラが小さく叫んだ。
 俺は急いで少女に駆け寄った。薄暗い中でも、少女の顔が青白いのが分かった。

「君、大丈夫か?」

 ラルフが声をかけると、少女はかすかに目を開けた。

「水...水を」

 少女は弱々しい声で言った。
 ミラがすぐに水筒を取り出し、少女に水を飲ませた。ラルフは少女の体を支えながら、状況を把握しようとした。

「君の名前は?」

「リリィ…」

 少女は小さく答えたが、再び意識を失う。ラルフはミラに向かって言った。

「ミラ、この子を宿舎に運ぼう。そこで手当てをしないと」

 ミラは頷き、二人でリリィを抱えて宿舎へと急いだ。月明かりの下、二人の影が長く伸びていた。
 俺たちは思いがけない少女との出会いのおかげで、この村の問題を知る手がかりを手にした。
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