悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!

青杜六九

文字の大きさ
719 / 794
学院編 14

547 悪役令嬢は肩を震わせる

しおりを挟む
魔法伝令便を使ってアスタシフォン王国から正式な通知を送ることもなく、リオネルはアリッサとエミリー、エミリーと手錠で繋がれたマシュー、それとアレックスの四人を魔法陣の間へ連れて来た。
「いい?アレックス。王宮に着いたら、アリッサを連れてなるべく早く家に戻るんだ。……お邸が安全かどうかは分からないけれど、ハーリオン侯爵がアスタシフォン王家から追われているのなら、グランディアでも拘束される可能性がある。本当は、どこか安全な場所に皆で隠れられればいいんだけど、弟くんも心配でしょ?」
「うん。マリナちゃんもクリスも狙われるかもしれないもの。できれば皆で相談して、どこかに……」
「俺、目立たないようにアリッサを連れて王宮を出る。殿下のところに来てるから、絶対迷わないぞ」
アレックスが胸を叩いた。アリッサは若干不安になった。
「……帰りたくない」
マシューが纏う空気をさらに重くして、エミリーを抱きしめながら体重を預けてくる。
「重……。そういうの、やめてって言ってるのに」
「……嫌、か?」
「聞かないで」
撥ねつけると酷く寂しそうな顔をすると分かっているから、エミリーはマシューから顔を背けた。

「行くよ。……うわ!」
「きゃっ」
魔法陣を通る者の魔力に反応して光る。マシューとエミリーに加え、貴族として一般的な魔力を持つアリッサの分も光が溢れ出た。
「大丈夫?アリッサ」
「うん。ちょっとびっくりしただけ」
「これ、どうなってるんだ?すげえな!」
魔法に興奮したアレックスが、自分の役割を忘れてはしゃいでいる。リオネルはアリッサの手を引き、アレックスの傍に立たせた。
「見回りの者が部屋に入ってきたら、その隙に走るんだ。いいね?」
「お、おう!」
リオネルの予想通り、見張りの兵士がすぐに部屋のドアを開けた。
「行って!」
走るのが遅いアリッサを引きずるようにして、アレックスが部屋を飛び出した。
「ぅおわ!……な、何だ?」
「気にしないでくれると助かるな。ええと、僕の顔、分かるよね?」
王子スマイルを作ったリオネルは、一歩進んで若い兵士に詰め寄った。

   ◆◆◆

「……っ、か、かあさま、おかあさまぁあ」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をすり寄せ、クリスは侯爵夫人に甘えた。
「クリス……ごめんなさいね、長いこと留守にして。マリナ、ジュリア。あなた達にも悪いことをしたわ」
「心配をかけてすまなかったね」
「お父様……!」
ジュリアが侯爵に抱きつく。出遅れたマリナは一歩後ろで立ち止まった。
「……マリナ」
優しい声が呼びかけた瞬間、マリナの中で気持ちの堰が決壊した。声にならない声を上げ、ジュリアの隣に潜りこむようにして父に抱きつくと、肩を震わせて泣いた。

リリーから濡らした布を受けとり、泣き腫らした目を押さえながら、マリナは両親の話を聞いた。泣きつかれたクリスは母の膝でうとうとしており、ジュリアも椅子に座ってはいるものの眠そうだ。
「私達は急いでエスティアに向かわねばならない」
「エスティアに?王都に戻られたばかりなのに?アリッサとエミリーは一緒ではないのですか?」
「急いであちらを出発してきたのよ。……理由があって」
侯爵夫人は夫に視線を送る。侯爵は上着の胸元から一通の手紙を取り出した。それは白い無地の封筒で、特徴のない文字が綴られている。マリナは父から受け取って、すぐに中の文章に目を走らせた。
「……これは……!お兄様が……」
「私達がすぐに帰国して、エスティアに隠居しなければ、ハロルドを『公開処刑』すると書いてある。ハロルドはどこにいるのか、どうしているのか、何か知らないか?」
「ジュリア」
「ん……?あ、兄様は……エスティアの山の裏側の辺りで、敵に捕まってさ」
「敵とは?誰なんだ?」
「分かんないよ。結構いい、金持ちそうなお邸で。兄様と一緒に逃げようとしたけど、追われて……」
ジュリアは事の顛末を簡単に話し、エスティアの近くのどこかに義兄がいると告げた。
「お父様とお母様がエスティアに行けば、敵にとっては好ましい状況になるということね」
「そうだろう。ただ、帰国したのに、……領地があのようなことになっているのに、陛下にお詫びもせずに領地へ引き籠るなど、世間的には逃げているようにしか見えないだろう。それでも、私達は行かねばならないのだよ。マリナ、ジュリア。ハロルドの育ての親として、彼を見捨てることなどできない。彼を幸せにしてやりたいと、心から思っているのだよ」
侯爵の話しぶりから、フロードリンやコレルダードの状況は把握しているように思えた。マリナは黙って俯いた。自分では代わりになれない。
「んー……」
母の膝の上にいたクリスが身を捩り、マリナの方へ手を差し出した。
「マリナねえさま……」
「眠いのね、クリス。お母様、私が寝室へ連れて行くわ。さあ、行きましょう?」
「ん……」
クリスの小さな手を掴んだ。そのとき、
「きゃっ!?」
急に彼の重みが増し、抱き上げたマリナは後ろに倒れた。
「マリナ!」
ジュリアが頭を支え、後頭部強打だけは免れた。が、目の前には銀髪の美青年が至近距離でマリナの瞳を覗き込んでいた。
「クリス!ふざけるのもいい加減にして!」
「あ……」
大人の姿になった弟は自分の銀髪を一束手に取り目を眇めると、小声で何かを呟いた。
「やった!」
――ええ!?目の前の、クリス?どこからどうみてもお父様じゃない!お父様より若いけど、髪の色も目の色も……。
振り返ると、両親とジュリアが目を丸くしている。
「そっか、エミリーが使ってる変身するやつだ!やるじゃん、クリス!」
「ふふ。僕、すごい?」
「すごいすごい。クリスは何でもできるねえ!」
「おだてすぎよ、ジュリア。クリス、あなたまさか……」
大人の姿で姉に抱きついたまま、弟は両親を見て言った。
「僕とマリナ姉様が代わりに行ったらいいんじゃないかなあ?だって、こーんなにそっくりなんだもん」
マリナの銀髪を掬い上げて、母と同じように頭の後ろで纏める。
「ほおら、姉様。お母様とよく似てるよ?……ダメ?」
――この子、あざとい!
首の後ろから手を離させて、マリナは弟を視界に入れないようにして咳払いをした。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...