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ゲーム開始前 5 婚約騒動
73 港町・ロディス
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アスタシフォン王国北部の港町・ロディス。ここは海を挟んで北にあるグランディア王国との貿易拠点であり、州都として栄えてきた。四姉妹の父であるハーリオン侯爵も、代々経営してきた貿易会社「ビルクール海運」の社長として、何度も足を運んだことがある。いわば馴染の町であった。
ビルクール海運のロディス支店に、子供を保護したとの連絡があったのは昨日の昼前。魔法便ですぐに侯爵に伝えられ、こうして船を飛ばして来たのである。
「話が違うではないか!」
机を叩き、ハーリオン侯爵は歯ぎしりをした。
「はい。子供を保護しているとの連絡が参りまして、我々もすぐに確認に赴いたのですが」
「見つけたのはこれか」
侯爵は机の上の水色の物を手に取った。
「髪飾り……ああ、言った通りだな。裏に当家の紋章がある」
「紋章を見た古物商が、こちらに連絡してきたのです。侯爵家由来の品かどうか確かめるために」
「値踏みのためか」
「おそらく」
「これを店に持ち込んだ者は?」
「店主の話では、七、八歳くらいの子供だったと」
「子供からも買い取るのか」
「ここはそういう町ですから。……髪飾りはハーリオン家の品に間違いありませんね」
「ああ。娘がつけていた物だ。ハロルドが持ち出したのだろうな」
胸に苦いものがこみ上げる。マリナとの関係を疑い、留学の名目で彼を追い払った。ハロルドは海賊に襲われ、今も行方が分からない。辛い目に遭わせるつもりはなかったのだ。
「こちらの品がロディスにあるなら、ハロルド様もこの町にいらっしゃるということでしょう。古物商に売りに来た子供の行方も追っておりますし、見つかるのも時間の問題ではと」
「ハロルドはまだアスタシフォン公用語が得意ではない。ここは訛りがひどい。会話にならずに困っていることだろう。……すまない、ハロルド……」
額に手を当て、俯いた侯爵の目から涙が零れた。
昼に港に着いてから、侯爵はいくつかの貿易会社を回った。貿易会社で働く者には、グランディア語を解する者も多くいる。彼らならハロルドと会話ができる。何か手がかりはないかと捜し歩いた。
「グランディア語を話す、子供ねえ……」
色の浅黒い筋肉質の船員が腕組みして考える。
「背はこれくらいで、綺麗な金髪なんだ。切っていなければ髪はこれくらい。青緑の瞳だ」
「他に何か特徴は?」
「事故に遭ってから脚が悪いんだ」
「脚が?」
「歩く分には問題ないが」
船員は顎に手を当てた。うーんと唸っている。
「……俺も、聞いた話であれなんですがね」
「何でもいい、教えてくれ」
「噴水から大通りに抜ける路地に、食堂があるんすよ」
「うん、それで」
「そこで下働きしてる子供が、金髪のえっれー綺麗な子だってんでさ」
「その子の名前は?」
「知らないっすよ。でも、うまく歩けねえっては聞いた。酒瓶を落として割ったり、皿を落として……」
「ありがとう!」
ハーリオン侯爵は笑顔で船員に礼を言い、広場の噴水へ走った。
◆◆◆
「またヘマしやがって!」
店主は少年の頬を叩いた。
「いったい何枚皿を割ったら気が済むんだ!このノロマが」
裏口から蹴り出し、少年は汚れた路地に頭をぶつける。くすんだ色のシャツがさらに汚れた。
「仕事も満足にできねえようじゃ、うちにはいらねえ。次やりやがったら……わかってんだろうな?ああ?」
フン、と店主は鼻先で笑い、裏口のドアを閉めた。
店に戻ると大勢の男達が入ってきたところだった。
「いらっしゃい。何名様で?」
「ここに金髪の少年はいるか」
先頭にいた身なりのいい男が訊ねる。
「いや、うちには……」
「ここにいると聞いてきたんだがな。子供をこき使っていると」
ダン!
侯爵は傍のテーブルを叩いて、男を見つめて言った。
「さっさと連れてこい。さもなくば……」
広げられた掌に赤い炎が揺らめく。
「お前の店が塵になるぞ!」
慌てふためいた店主が奥へ走っていき、間もなく引きずるようにして少年を連れてきた。
手を放すと床に倒れこんだ。真っ青な顔色、唇からは血が出ている。
「ハロルド!」
侯爵が駆け寄って抱き上げると、薄く青緑の目が開き、視線を彷徨わせる。
「あなたは……どなたです、か……」
薄く笑い、ハロルドは侯爵の腕の中で意識を失った。
ビルクール海運のロディス支店に、子供を保護したとの連絡があったのは昨日の昼前。魔法便ですぐに侯爵に伝えられ、こうして船を飛ばして来たのである。
「話が違うではないか!」
机を叩き、ハーリオン侯爵は歯ぎしりをした。
「はい。子供を保護しているとの連絡が参りまして、我々もすぐに確認に赴いたのですが」
「見つけたのはこれか」
侯爵は机の上の水色の物を手に取った。
「髪飾り……ああ、言った通りだな。裏に当家の紋章がある」
「紋章を見た古物商が、こちらに連絡してきたのです。侯爵家由来の品かどうか確かめるために」
「値踏みのためか」
「おそらく」
「これを店に持ち込んだ者は?」
「店主の話では、七、八歳くらいの子供だったと」
「子供からも買い取るのか」
「ここはそういう町ですから。……髪飾りはハーリオン家の品に間違いありませんね」
「ああ。娘がつけていた物だ。ハロルドが持ち出したのだろうな」
胸に苦いものがこみ上げる。マリナとの関係を疑い、留学の名目で彼を追い払った。ハロルドは海賊に襲われ、今も行方が分からない。辛い目に遭わせるつもりはなかったのだ。
「こちらの品がロディスにあるなら、ハロルド様もこの町にいらっしゃるということでしょう。古物商に売りに来た子供の行方も追っておりますし、見つかるのも時間の問題ではと」
「ハロルドはまだアスタシフォン公用語が得意ではない。ここは訛りがひどい。会話にならずに困っていることだろう。……すまない、ハロルド……」
額に手を当て、俯いた侯爵の目から涙が零れた。
昼に港に着いてから、侯爵はいくつかの貿易会社を回った。貿易会社で働く者には、グランディア語を解する者も多くいる。彼らならハロルドと会話ができる。何か手がかりはないかと捜し歩いた。
「グランディア語を話す、子供ねえ……」
色の浅黒い筋肉質の船員が腕組みして考える。
「背はこれくらいで、綺麗な金髪なんだ。切っていなければ髪はこれくらい。青緑の瞳だ」
「他に何か特徴は?」
「事故に遭ってから脚が悪いんだ」
「脚が?」
「歩く分には問題ないが」
船員は顎に手を当てた。うーんと唸っている。
「……俺も、聞いた話であれなんですがね」
「何でもいい、教えてくれ」
「噴水から大通りに抜ける路地に、食堂があるんすよ」
「うん、それで」
「そこで下働きしてる子供が、金髪のえっれー綺麗な子だってんでさ」
「その子の名前は?」
「知らないっすよ。でも、うまく歩けねえっては聞いた。酒瓶を落として割ったり、皿を落として……」
「ありがとう!」
ハーリオン侯爵は笑顔で船員に礼を言い、広場の噴水へ走った。
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「またヘマしやがって!」
店主は少年の頬を叩いた。
「いったい何枚皿を割ったら気が済むんだ!このノロマが」
裏口から蹴り出し、少年は汚れた路地に頭をぶつける。くすんだ色のシャツがさらに汚れた。
「仕事も満足にできねえようじゃ、うちにはいらねえ。次やりやがったら……わかってんだろうな?ああ?」
フン、と店主は鼻先で笑い、裏口のドアを閉めた。
店に戻ると大勢の男達が入ってきたところだった。
「いらっしゃい。何名様で?」
「ここに金髪の少年はいるか」
先頭にいた身なりのいい男が訊ねる。
「いや、うちには……」
「ここにいると聞いてきたんだがな。子供をこき使っていると」
ダン!
侯爵は傍のテーブルを叩いて、男を見つめて言った。
「さっさと連れてこい。さもなくば……」
広げられた掌に赤い炎が揺らめく。
「お前の店が塵になるぞ!」
慌てふためいた店主が奥へ走っていき、間もなく引きずるようにして少年を連れてきた。
手を放すと床に倒れこんだ。真っ青な顔色、唇からは血が出ている。
「ハロルド!」
侯爵が駆け寄って抱き上げると、薄く青緑の目が開き、視線を彷徨わせる。
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薄く笑い、ハロルドは侯爵の腕の中で意識を失った。
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