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閑話 レメイデの日
閑話 レメイデの日 1
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「はあー。近づいてきたねえ」
カレンダーを見ながら、ジュリアが溜息をつく。
「皆どうすんの、今年のレメイデの日」
レメイデの日とは、愛と豊穣の女神レメイデを讃える日である。乙女ゲーム『永遠に枯れない薔薇を君に』略して『とわばら』の中では、所謂バレンタインイベントが起こる日である。
「どうしようかしらね。アリッサはレイモンドにあげるんでしょう?」
「うん。プレゼントは用意したし、後はチョコだけ」
「こっちの世界さ、チョコはチョコなんだよねえ」
「私もそれ、不思議に思ってたの。お菓子のチョコレートはそのまま同じ名前なのね」
「プレイヤーが分かりやすいようにでしょう。……そう、アリッサは手作りするのね」
「もちろん!」
自信満々のアリッサはうふふと笑う。
「いいなー。作ったら私にも頂戴」
「ジュリアちゃんが食べるの?試作品ならいっぱいできるけど……」
「ううん。包んでアレックスに持ってくの」
「ええー?自分で作りなよぉ」
楽しそうにはしゃいでいる姉達の傍で、エミリーは長椅子に横になっていた。
「……るさい」
「あら、起きたの?」
「いいよね……あげる相手がいて」
「……ごめん」
「ごめんね、エミリーちゃん」
場の空気が暗くなった。エミリーは三人を気遣い、寝るのをやめて部屋から出て行った。マシューは廃魔の腕輪をつけられてどこかへ行ってしまい、エミリーは恋愛にやる気をなくしているようだ。
「作ったら、エミリーにもあげましょう?」
「美味しい物を食べれば元気が出るよね!」
「美味しくできればいいよね……」
一人張り切るジュリアに、アリッサは一抹の不安を覚えた。
◆◆◆
ハーリオン侯爵邸の厨房にて。侍女のエプロンを身に纏い、マリナ、ジュリア、アリッサの三人は材料を前にして腕まくりをした。
「いいねー。このナッツ、うまそう」
ぽりぽりぽり……。
「ジュリアちゃん、食べたらダメだよ。材料がなくなっちゃうよ」
「融かして固めるだけだけれど、私達、今世では料理をまともにしていないでしょう?上手にできるか不安だわ」
「マリナは何でもできるじゃん。ヨユーだよ、ヨユー」
王都の店で買った板チョコを融かす。時々お菓子作りをしているアリッサが主導し、マリナが手伝って作業が進んでいく。ジュリアは傍で「わぁお」だの「すっごい」だの「やるねー」だのと囃し立て、二人を鼓舞する係である。
「ジュリア、気が散るから黙っていて」
「……冷やし固めるのに、私はハートの型を使うけど……マリナちゃんはどうする?」
「私は……いいわ。こっちの丸いのにするわ」
「ハートでいんじゃね?殿下が喜ぶよ?あ、それとも兄様にハートのをあげるの?」
義兄ハロルドは王立学院の寮にいて、父や弟のように直接渡すことはできない。使用人の誰かに届けてもらう予定だ。
「どっちも丸でいいの!……もう、ジュリアはどうするのよ?」
「私?こっちの鉄板にちょっとずつ垂らして、そこにナッツを乗せようかなって」
「いいよね、小さくて食べやすそう!ジュリアちゃん天才!」
「でっしょー?思いついた時、自分で自分を褒めたくなったよ」
そんなこんなでチョコレートを冷やす段になって、マリナはふと考えた。
「ねえ、アリッサ。包むのはどうするの?」
「可愛い袋と包み紙を用意してあるよ?リボンもいろいろ。図書館の帰りに買ってきたの」
「準備いいねえ」
三人は別室で、アリッサの包み紙コレクションを鑑賞した。全体的に淡い色合いの、アリッサ好みの色柄である。ジュリアはすぐに不満を口にした。
「赤いのないの?バレンタインって言ったら赤でしょ?」
「女神レメイデは豊穣の神だもの。豊穣って言ったら、緑でしょう?」
「レイモンドは緑が好きかもしんないけど、アレックスは赤一択でしょ」
「あら、それを言ったら青が欲しいわ。ロイヤルブルーの」
二人の意見にアリッサは頬を膨らませた。
「んもう!二人で好きなのを買ってきたらいいじゃない!」
◆◆◆
その頃。
グランディア王国の王宮のとある部屋では、男子三人がレメイデの日談義を繰り広げていた。
「明日は僕のチョコレートが一番大きいと思うよ。絶対に!」
「フン。アリッサはいつでも最高の贈り物を俺にくれる。お前には負けん」
バチバチと意味もない火花を散らすセドリックとレイモンドは、王立学院から王宮に来る馬車の中でも言い争いをしていたらしい。王太子の側近として同じ部屋に籠められたアレックスは、はらはらして二人を見ていた。
「あの……何で喧嘩してるんですか?」
「喧嘩ではない」
「喧嘩はしていないよ。僕達は愛情の深さを競い合っているんだ」
「あいじょう……」
「お前には分からないかもしれないが、レメイデの日のチョコレートと言えば、愛のバロメーター。大きさで本気度が分かると言われている!」
レイモンドは腕を広げ、舞台役者のようなオーバーアクションをした。アレックスはもう、どうしていいか分からず、
「そうなんですか?」
ととりあえず相槌を打った。
「僕はマリナから、今年こそ、こーんな、大きなチョコレートをもらうよ!」
部屋の隅から隅まで走り、チョコレートの大きさを表現したセドリックだが、アレックスは
「……意気込みがすごいですね、殿下」
としか言えない。そんな大きなチョコレートがあるならお目にかかってみたいものだと思った。
「うん!去年の雪辱を……」
「俺は去年ももらったがな。セドリックは初めて、チョコレートをもらえると期待しているんだろう。マリナが王太子妃候補として正式に認められて、初めてのレメイデの日だからな」
「信じているよ。僕は、必ず……」
セドリックは鼻息を荒くして、青い瞳をきらきらと輝かせた。
カレンダーを見ながら、ジュリアが溜息をつく。
「皆どうすんの、今年のレメイデの日」
レメイデの日とは、愛と豊穣の女神レメイデを讃える日である。乙女ゲーム『永遠に枯れない薔薇を君に』略して『とわばら』の中では、所謂バレンタインイベントが起こる日である。
「どうしようかしらね。アリッサはレイモンドにあげるんでしょう?」
「うん。プレゼントは用意したし、後はチョコだけ」
「こっちの世界さ、チョコはチョコなんだよねえ」
「私もそれ、不思議に思ってたの。お菓子のチョコレートはそのまま同じ名前なのね」
「プレイヤーが分かりやすいようにでしょう。……そう、アリッサは手作りするのね」
「もちろん!」
自信満々のアリッサはうふふと笑う。
「いいなー。作ったら私にも頂戴」
「ジュリアちゃんが食べるの?試作品ならいっぱいできるけど……」
「ううん。包んでアレックスに持ってくの」
「ええー?自分で作りなよぉ」
楽しそうにはしゃいでいる姉達の傍で、エミリーは長椅子に横になっていた。
「……るさい」
「あら、起きたの?」
「いいよね……あげる相手がいて」
「……ごめん」
「ごめんね、エミリーちゃん」
場の空気が暗くなった。エミリーは三人を気遣い、寝るのをやめて部屋から出て行った。マシューは廃魔の腕輪をつけられてどこかへ行ってしまい、エミリーは恋愛にやる気をなくしているようだ。
「作ったら、エミリーにもあげましょう?」
「美味しい物を食べれば元気が出るよね!」
「美味しくできればいいよね……」
一人張り切るジュリアに、アリッサは一抹の不安を覚えた。
◆◆◆
ハーリオン侯爵邸の厨房にて。侍女のエプロンを身に纏い、マリナ、ジュリア、アリッサの三人は材料を前にして腕まくりをした。
「いいねー。このナッツ、うまそう」
ぽりぽりぽり……。
「ジュリアちゃん、食べたらダメだよ。材料がなくなっちゃうよ」
「融かして固めるだけだけれど、私達、今世では料理をまともにしていないでしょう?上手にできるか不安だわ」
「マリナは何でもできるじゃん。ヨユーだよ、ヨユー」
王都の店で買った板チョコを融かす。時々お菓子作りをしているアリッサが主導し、マリナが手伝って作業が進んでいく。ジュリアは傍で「わぁお」だの「すっごい」だの「やるねー」だのと囃し立て、二人を鼓舞する係である。
「ジュリア、気が散るから黙っていて」
「……冷やし固めるのに、私はハートの型を使うけど……マリナちゃんはどうする?」
「私は……いいわ。こっちの丸いのにするわ」
「ハートでいんじゃね?殿下が喜ぶよ?あ、それとも兄様にハートのをあげるの?」
義兄ハロルドは王立学院の寮にいて、父や弟のように直接渡すことはできない。使用人の誰かに届けてもらう予定だ。
「どっちも丸でいいの!……もう、ジュリアはどうするのよ?」
「私?こっちの鉄板にちょっとずつ垂らして、そこにナッツを乗せようかなって」
「いいよね、小さくて食べやすそう!ジュリアちゃん天才!」
「でっしょー?思いついた時、自分で自分を褒めたくなったよ」
そんなこんなでチョコレートを冷やす段になって、マリナはふと考えた。
「ねえ、アリッサ。包むのはどうするの?」
「可愛い袋と包み紙を用意してあるよ?リボンもいろいろ。図書館の帰りに買ってきたの」
「準備いいねえ」
三人は別室で、アリッサの包み紙コレクションを鑑賞した。全体的に淡い色合いの、アリッサ好みの色柄である。ジュリアはすぐに不満を口にした。
「赤いのないの?バレンタインって言ったら赤でしょ?」
「女神レメイデは豊穣の神だもの。豊穣って言ったら、緑でしょう?」
「レイモンドは緑が好きかもしんないけど、アレックスは赤一択でしょ」
「あら、それを言ったら青が欲しいわ。ロイヤルブルーの」
二人の意見にアリッサは頬を膨らませた。
「んもう!二人で好きなのを買ってきたらいいじゃない!」
◆◆◆
その頃。
グランディア王国の王宮のとある部屋では、男子三人がレメイデの日談義を繰り広げていた。
「明日は僕のチョコレートが一番大きいと思うよ。絶対に!」
「フン。アリッサはいつでも最高の贈り物を俺にくれる。お前には負けん」
バチバチと意味もない火花を散らすセドリックとレイモンドは、王立学院から王宮に来る馬車の中でも言い争いをしていたらしい。王太子の側近として同じ部屋に籠められたアレックスは、はらはらして二人を見ていた。
「あの……何で喧嘩してるんですか?」
「喧嘩ではない」
「喧嘩はしていないよ。僕達は愛情の深さを競い合っているんだ」
「あいじょう……」
「お前には分からないかもしれないが、レメイデの日のチョコレートと言えば、愛のバロメーター。大きさで本気度が分かると言われている!」
レイモンドは腕を広げ、舞台役者のようなオーバーアクションをした。アレックスはもう、どうしていいか分からず、
「そうなんですか?」
ととりあえず相槌を打った。
「僕はマリナから、今年こそ、こーんな、大きなチョコレートをもらうよ!」
部屋の隅から隅まで走り、チョコレートの大きさを表現したセドリックだが、アレックスは
「……意気込みがすごいですね、殿下」
としか言えない。そんな大きなチョコレートがあるならお目にかかってみたいものだと思った。
「うん!去年の雪辱を……」
「俺は去年ももらったがな。セドリックは初めて、チョコレートをもらえると期待しているんだろう。マリナが王太子妃候補として正式に認められて、初めてのレメイデの日だからな」
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