悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!

青杜六九

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学院編 1 魔力測定で危機一髪

06 悪役令嬢とクラスの噂

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在籍者が多い普通科には教室が各学年二つあり、剣技科や魔法科に比べて女子が多く、授業と授業の間の短い休み時間も賑やかだった。
「アリッサ様!」
「フローラちゃん、どうしたの?」
休み時間の度に隣のクラスからやってくるオレンジ色の髪の少女が、戸口から顔を出し、廊下側の席に座っているアリッサに声をかけた。
「聞きましてよ!生徒会にお入りになるのね」
ザワッ。
フローラの高くて音量のある声に、生徒達が注目する。
「アリッサ様が生徒会に入りたいと、レイモンド様と離れていたくないとおっしゃったのでしょう?レイモンド様は快く承諾なさったと聞きましたわ。学年が違うと校舎の階も違いますもの。なかなかお会いできず、気持ちが募るものですものね。私のクラスではもうこの話題でもちきりなんですの」
「えっと……」
正しくはレイモンドに勧誘されて、生徒会入りを承諾したのである。フローラが言うようにこちらから強請ったものではない。
「それは違いますわ」
アリッサがもじもじしていると、横から声がかけられた。
「マリナちゃん」
「今のお話は、少し事実と異なりますわ、フローラ様」
「まあ」
フローラの緑色の瞳が見開かれる。情報通としては、真偽の怪しい噂を掴んでしまったことを恥じているのだろうか。
「セドリック殿下が会長の権限で、私を生徒会に入れたいとおっしゃったんですの。副会長のレイモンド様も一人推薦できるとあって、私が不安な思いをしないようにアリッサを生徒会に誘ったのですわ」
「では、先に言い出したのは王太子殿下なのですね」
「ええ。私には荷が重いと、お断りしようと思ったのですけれど、レイモンド様が先にアリッサから了承を得ていて」
「周りを固められてしまったんですのね」
「その通りですわ。ですから、アリッサが生徒会入りを望んで、レイモンド様に詰め寄ったという噂はでたらめです」
マリナとアリッサがいるクラスでは、今朝の一件は正しく認知されており、アリッサが我儘娘だとかマリナが婚約者権限で無理に生徒会へ入ったという悪評は立っていなかった。クラスメイトは二人の人物像を理解し、王太子とレイモンドの方がハーリオン侯爵令嬢に夢中だと分かっているが、どうやら隣のクラスでは違うらしい。
「あの、フローラちゃん。お隣のクラスでは、私達はよく思われていないみたいだけど……」
「そのようなことはございませんよ、アリッサ様。マリナ様は公明正大で頼りになるお方、アリッサ様はお優しく聡い方だと、私が皆に伝えておりますもの」
「ええっ」
まさかの宣伝係登場である。
「恥ずかしいから、あの……」
「正しくお伝えすることが肝要ですものね。わたくし、しかと心得ましたわ。今朝の一件は私が聞き及んだ範囲でお話ししましたけれど、次からは先にアリッサ様に確認いたしますわね」
「確認は、いいけど……噂は広めなくていいからね?」
「噂は広めなくても広まるものですわ。ましてやアリッサ様は、入学式で新入生代表として壇上で決意を述べられた有名人ですし、皆が注目するのも当然でしょう?」
――有名人だなんて、目立ちたくないのに困るよぉ……。
「マリナ様は王太子殿下のお妃候補、全校の誰もが知っていますわね。注目されるのにも慣れていらっしゃるご様子。アリッサ様もお姉様からコツを教わってはいかがです?」
フローラは顔をずいっと近づけてくる。アリッサは横目でマリナに助けを求めるが、マリナは微笑したまま二人を眺めているだけだった。

   ◆◆◆

「いよいよですね、エミリー」
黒いローブのエミリーの隣で、キースはさも嬉しそうに囁いた。
魔法科の一時間目、簡単なオリエンテーションの後、二時間目は魔力測定であった。生徒達は魔法科訓練場に連れて行かれ、一人ずつ測定器に向かって全力で魔法を放つよう言われた。測定器の魔法石が共鳴し、魔力の属性と強度を示すのである。
「次は、キースですよ」
恰幅の良いメーガン先生が、優しい顔でこちらを見ている。他の先生方も、生徒に危険がないように線から出ないよう呼びかけ、前の生徒の測定結果を書き取り、測定器を元に戻す。
「緊張しなくていいのよ。いつも通り、ね」
「はい」
キースは測定器に手をかざした。すっと瞼が下り、閉じられた瞳に力が籠る。
「んっ……」
両手から青、橙、緑、金の四色の光が虹のように放たれ、測定器に吸い込まれていく。彼の前に測定された生徒は、皆二属性か三属性の者ばかりであったので、メーガン先生は四色の魔力を放つキースに瞠目した。
「まあ、素晴らしいわ」
測定器の横に取り付けられた水・土・風・光の魔法石に力が宿り、それぞれ五個のうち四個または三個が輝き始めた。
「キースは四属性、一番強いのは水かしら?他の三属性もなかなかのものよ」
なかなかと言われたキースは悔しそうに顔を歪めた。
「もっといけると思ったんですが」
「来年も測定はありますよ。訓練すればもっと力が出せるようになるわ」
「はい。頑張ります」
軽く礼をして、生徒達が待つ一角へ戻る。
「なかなか、ね」
エミリーがにやりと微笑む。
「悔しいです。やはり、天井がなく風が吹く空間では、魔力を集中させるのが難しいですね」
「そうかしら」
上を見上げると青空がある。魔法科の訓練場は、剣技科ほど大きくはないものの闘技場の形をしており、魔力が籠るのを防ぐために天井が開いている。見学のための座席もあり、サッカースタジアムの小さい版といった形だ。
「私は外でも構わない」
「まったく、あなたって人は。どこまで自信家なんでしょうね」
二人がひそひそ話していると、先生が次の生徒を呼んだ。
「次は、……測定していないのは残り二人ね。では、アイリーン」
ピンク色の髪の女子生徒が短く返事をして立ち上がり、測定器の前に立った。
――ここで光魔法を溢れさせて、マシューが一目置くんだっけ。
エミリーはゲームのワンシーンを思い出し、マシューの不在がどう影響するのだろうかと考えていた。
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