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学院編 2 生徒会入りを阻止せよ!
19-3 悪役令嬢は恋人繋ぎをする(裏)
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【アレックス視点】
次の時間は練習場に移動だったなと、時間割を見て手元に剣を寄せると、
「おーい、アレックス」
後ろから声をかけられた。
前の時間は歴史だった。興味がなさすぎて爆睡してしまい、学院長に叱られて一番前の席の奴と交換させられてしまった。おかげでジュリアと席が離れてしまった。
「練習場まで一緒に行こうよ」
「ああ。……で?そいつも一緒か?」
ジュリアの隣には、猫目の男がにやにやしている。
レナード・ネオブリー。入学式の日から、やたらとジュリアに絡んでくる奴だ。
「そいつって……俺の扱いひどくない?」
見た目も軽薄そのもので、侍女のエレノアから聞いたこいつの兄達と同様、自己中心的な女たらしに決まっている。ジュリアに近づくのは我慢ならないが、友達ができたと喜ぶジュリアを見ると、仕方ないかという気になってくる。
「いいじゃん、皆で行こうよ」
――俺は二人の方がいいんだけど。
喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
「おー、侯爵家のお嬢さんが男二人を侍らしてるぜ」
――またか。あの野郎……。
「一人じゃ満足できねえんだろう?二人がかりじゃねえと悦ばねえのか」
「何言ってるの?」
ジュリアが練習用の剣に手をかけたのを見て、俺は我に返った。
――私闘はダメだ!
「二度と口がきけないようにしてやってもいいわよ?」
素手でジェレミーに対抗しようとするジュリアの腕を掴まえた。咄嗟に手を繋ぐ。
「……やめろ、ジュリア。あんな奴相手にするな」
大男のジェレミーは、ジュリアが丸腰で敵う相手ではない。怪我をしてしまう。
「手を出したら負けだ、ジュリアちゃん」
レナードも止めていた。俺と同じことを考えたのだろう。
「だって……悔しいっ」
「次の練習試合でぶちのめしてやればいいさ。行こう、遅くなるぞ」
「ちょっと、アレックス」
「ん?」
「手……恋人繋ぎになってんだけど」
「えっ!?」
――恋人!?
いや、俺の聞き違いかもしれない。
「こ、こいび……」
言い淀んでしまった。半分噛んだ。
「恋人繋ぎっていうのはね、こうして指と指が絡まってさ」
ジュリアが二人の間に垂らしていた手を目の前に持ってくる。意識すると忽ち恥ずかしさがこみ上げてきた。
「がっちり繋いでるのを言うんだよ。分かった?」
無意識に、俺は何をしているんだ。
「あ、ああ、うん」
よりにもよって、恋人……。恋人でもないし、婚約者でもないのに。
気にしていない様子のジュリアは、恥ずかしがりもせず、俺の手を振り払うでもなく、手を繋いだままにしている。レナードが俺達を見る目つきが鋭い。
「あ、あの、さ……」
「何?」
「ジュリアは、その……嫌じゃないのか?俺と、こっ、恋人繋ぎするのは」
「嫌じゃない」
うっ、そ、即答!?
嫌だって切り捨てられたら再起不能になりそうだ。俺の気持ちを汲んでくれたのかと思ったが、ジュリアは気を回す性質ではない。いつも直球勝負だ。
練習場まで手を繋ぐ。ジュリアの細い指の腹が俺の指と擦れる度、すべすべとした感触が俺の頭を痺れさせた。
◆◆◆
「エレノア、恋人繋ぎって知ってるか?」
寮に戻った後、俺は侍女のエレノアに訊ねた。俺より年上の彼女なら、恋人繋ぎをしたこともあるだろう。
「何でしょう、アレックス様」
「知らないのか?」
「存じません」
「ほら、こうやって……」
俺は自分の手と手を合わせて、指と指を交互に絡める。
「お祈りですか?」
「違う。二人でこういう組み方をするんだよ」
ああ、とエレノアは合点がいったようだ。
「アレックス様はジュリア様に、そういう繋ぎ方をしてほしいのですね?」
「いや、うん。あの……その通りだよ」
否定する気はない。ジュリアは俺が告白したことを忘れているようだし、お互いを恋人と思っているそぶりはない。
「恋人繋ぎって、恋人以外とするものなのか?」
「そうですね、その方に依るのではないでしょうか」
「恋人だと思っていない男に、恋人繋ぎをされたら、嫌か?」
「嫌ですね」
はっきりと言い切ったエレノアの眉間に皺が寄る。
――何だって!?
ジュリアは気にしていないようだった。
が、本当は嫌だったのかもしれない。友達として嫌とは言えず……?
「……アレックス様?」
「いや。……えっと……」
言葉が続かない。ジュリアは嫌だったと思うか、とエレノアに聞くのも変だな。
「ネオブリー兄弟は皆、私と手を繋ごうとしてきましたよ?」
またあいつの話題か。
「恋人繋ぎをされて、手を振りほどかないのは、恋人になりたいという気持ちの表れか?」
「さあ、どうでしょうね。単に振りほどくのが面倒くさい場合もあります。その方には悪いけれど」
ジュリアは面倒くさかったのか。そうか。
「嬉しそうですね、アレックス様」
「えっ」
「ジュリア様と手を繋がれて、よろしゅうございましたね。先ほどはこれから手を繋ごうとなさっているとばかり思っておりましたが、ふふふ」
「笑うな!」
「なかなか隅に置けませんね。こうしてはいられません。手紙を認めなくては」
今回の件がエレノアの手紙で父上と母上の知るところとなり、後日俺あてに励ましの手紙が届いたのだった。
次の時間は練習場に移動だったなと、時間割を見て手元に剣を寄せると、
「おーい、アレックス」
後ろから声をかけられた。
前の時間は歴史だった。興味がなさすぎて爆睡してしまい、学院長に叱られて一番前の席の奴と交換させられてしまった。おかげでジュリアと席が離れてしまった。
「練習場まで一緒に行こうよ」
「ああ。……で?そいつも一緒か?」
ジュリアの隣には、猫目の男がにやにやしている。
レナード・ネオブリー。入学式の日から、やたらとジュリアに絡んでくる奴だ。
「そいつって……俺の扱いひどくない?」
見た目も軽薄そのもので、侍女のエレノアから聞いたこいつの兄達と同様、自己中心的な女たらしに決まっている。ジュリアに近づくのは我慢ならないが、友達ができたと喜ぶジュリアを見ると、仕方ないかという気になってくる。
「いいじゃん、皆で行こうよ」
――俺は二人の方がいいんだけど。
喉元まで出かかった言葉を飲み込む。
「おー、侯爵家のお嬢さんが男二人を侍らしてるぜ」
――またか。あの野郎……。
「一人じゃ満足できねえんだろう?二人がかりじゃねえと悦ばねえのか」
「何言ってるの?」
ジュリアが練習用の剣に手をかけたのを見て、俺は我に返った。
――私闘はダメだ!
「二度と口がきけないようにしてやってもいいわよ?」
素手でジェレミーに対抗しようとするジュリアの腕を掴まえた。咄嗟に手を繋ぐ。
「……やめろ、ジュリア。あんな奴相手にするな」
大男のジェレミーは、ジュリアが丸腰で敵う相手ではない。怪我をしてしまう。
「手を出したら負けだ、ジュリアちゃん」
レナードも止めていた。俺と同じことを考えたのだろう。
「だって……悔しいっ」
「次の練習試合でぶちのめしてやればいいさ。行こう、遅くなるぞ」
「ちょっと、アレックス」
「ん?」
「手……恋人繋ぎになってんだけど」
「えっ!?」
――恋人!?
いや、俺の聞き違いかもしれない。
「こ、こいび……」
言い淀んでしまった。半分噛んだ。
「恋人繋ぎっていうのはね、こうして指と指が絡まってさ」
ジュリアが二人の間に垂らしていた手を目の前に持ってくる。意識すると忽ち恥ずかしさがこみ上げてきた。
「がっちり繋いでるのを言うんだよ。分かった?」
無意識に、俺は何をしているんだ。
「あ、ああ、うん」
よりにもよって、恋人……。恋人でもないし、婚約者でもないのに。
気にしていない様子のジュリアは、恥ずかしがりもせず、俺の手を振り払うでもなく、手を繋いだままにしている。レナードが俺達を見る目つきが鋭い。
「あ、あの、さ……」
「何?」
「ジュリアは、その……嫌じゃないのか?俺と、こっ、恋人繋ぎするのは」
「嫌じゃない」
うっ、そ、即答!?
嫌だって切り捨てられたら再起不能になりそうだ。俺の気持ちを汲んでくれたのかと思ったが、ジュリアは気を回す性質ではない。いつも直球勝負だ。
練習場まで手を繋ぐ。ジュリアの細い指の腹が俺の指と擦れる度、すべすべとした感触が俺の頭を痺れさせた。
◆◆◆
「エレノア、恋人繋ぎって知ってるか?」
寮に戻った後、俺は侍女のエレノアに訊ねた。俺より年上の彼女なら、恋人繋ぎをしたこともあるだろう。
「何でしょう、アレックス様」
「知らないのか?」
「存じません」
「ほら、こうやって……」
俺は自分の手と手を合わせて、指と指を交互に絡める。
「お祈りですか?」
「違う。二人でこういう組み方をするんだよ」
ああ、とエレノアは合点がいったようだ。
「アレックス様はジュリア様に、そういう繋ぎ方をしてほしいのですね?」
「いや、うん。あの……その通りだよ」
否定する気はない。ジュリアは俺が告白したことを忘れているようだし、お互いを恋人と思っているそぶりはない。
「恋人繋ぎって、恋人以外とするものなのか?」
「そうですね、その方に依るのではないでしょうか」
「恋人だと思っていない男に、恋人繋ぎをされたら、嫌か?」
「嫌ですね」
はっきりと言い切ったエレノアの眉間に皺が寄る。
――何だって!?
ジュリアは気にしていないようだった。
が、本当は嫌だったのかもしれない。友達として嫌とは言えず……?
「……アレックス様?」
「いや。……えっと……」
言葉が続かない。ジュリアは嫌だったと思うか、とエレノアに聞くのも変だな。
「ネオブリー兄弟は皆、私と手を繋ごうとしてきましたよ?」
またあいつの話題か。
「恋人繋ぎをされて、手を振りほどかないのは、恋人になりたいという気持ちの表れか?」
「さあ、どうでしょうね。単に振りほどくのが面倒くさい場合もあります。その方には悪いけれど」
ジュリアは面倒くさかったのか。そうか。
「嬉しそうですね、アレックス様」
「えっ」
「ジュリア様と手を繋がれて、よろしゅうございましたね。先ほどはこれから手を繋ごうとなさっているとばかり思っておりましたが、ふふふ」
「笑うな!」
「なかなか隅に置けませんね。こうしてはいられません。手紙を認めなくては」
今回の件がエレノアの手紙で父上と母上の知るところとなり、後日俺あてに励ましの手紙が届いたのだった。
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