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学院編 4 歓迎会は波乱の予兆
93 悪役令嬢と腹芸男
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「うう……もう嫌だ!我慢ができないっ!」
ガタン!
セドリックはいきなり立ち上がり、勢いで椅子が後ろに倒れた。
「歓迎の言葉ができあがっていない。生徒会室を出るのは許さないぞ」
王太子の腕を掴み、レイモンドが厳しい視線を向けた。
「マリナがあいつと……」
「あいつではない、ハロルドだ」
「もうあいつでいいだろう?僕にとって邪魔者でしかないんだから」
「優秀な臣下になる男だぞ。邪険に扱うな」
「……ハロルド、が……マリナと二人きりで自習室に」
バン!
テーブルを両手で叩く。大きな音に、書類をまとめていたアリッサがビクッと肩を震わせた。
「手が痛い……」
「だろうな。……次にアリッサを怖がらせたら、王妃様にお知らせするぞ」
「母上に告げ口する気か?」
「俺は正直者だからな。挨拶を考えずに逃げようとしたと、真実を伝えるまでだ」
「うっ」
「昨日のこともあるからな。国賓の前ででたらめな挨拶はできないだろう?」
「うう……」
がっくりと肩を落とし、セドリックは椅子を直して座った。膝を揃えて、反省の色が出まくっている。
「分かったよ。すぐに歓迎の言葉を書き上げて、自習室に行くよ」
「行かなくてもいいだろう?ハロルドは十分な実力がある」
にやりとレイモンドが笑う。セドリックが自習室に行きたい理由を知っていてなお、生徒会室に留めようとしていた。
「……レイは」
「何だ」
「どっちの味方なんだ?僕か、あい……ハロルドか」
「子供じみた話をするな」
話を終わらせようとしたレイモンドの腕に手をかけ、セドリックは食い下がった。
「当然僕だろう?小さい頃から仲良くしてきたから」
「さあな。頼りないお前には、マリナのようなしっかりした妃がいいかと思うが」
「思うが?」
「それはそれで可哀想な気がしてならない」
「か、可哀想って何だよ!」
セドリックが再び椅子から立ち上がった。
「侯爵令嬢に生まれた宿命だとしても、一生子供のお守りをさせられるのはゴメンだろうからな」
「子供?……いずれは、その、ほしいとは思うけど、僕はまだ……」
顔が真っ赤になっている。
「子供はお前だ。何を想像したんだ?」
「へ?僕?」
「身分は低くても、ハロルドは自らの才覚でのし上がれる男だ。ハーリオン侯爵に認められようと努力を続けてきている。将来、アスタシフォン大使に任命される可能性も十分にある。対して、お前はどうだ?」
「……」
無言で椅子に座り、セドリックは目を伏せた。
「王宮にいた頃よりはマシになったが、まだまだだ。自分でも分かっているだろう?」
「……うん。王の器ではないって、皆が言っているのも知ってる。……そうだね。できることをしっかりやっていくよ。皆にもマリナにも認めてほしいから」
青い瞳に力が宿ったのを見てレイモンドが頷いた。
◆◆◆
「えー?明日?無理無理!」
レナードを連れて、披露できるような一芸を持っている生徒達に片っ端から当たっていたが、ジュリア達は思うように成果を上げられないでいた。
「そこを何とか。お願い、俺の顔を立てると思ってさ」
「レナードの頼みでも断る。最近練習してないんだよ」
腹に絵を描いて腹芸ができると噂の普通科二年の男子生徒が、整髪料で撫でつけた頭を掻いて苦笑いをした。
「悪いな。次は早めに声をかけてくれ」
「あーあ。またダメか……」
腹芸と聞いて、王族の歓迎会に出していいものか悩み、声をかけるか迷った。が、彼が最後の頼みの綱だった。
「ジュリアちゃん、ゴメンね?」
レナードが人好きのする笑顔を向けてくる。八の字になった眉がジュリアの笑いを誘う。
「ううん。付き合ってくれてありがとう。……これで八人に断られたね。誰かいないかなあ……」
「今日頼んで明日ってのは、皆難しいって言ってたね。ジュリアちゃんのお姉さん、マリナちゃんは司会だっけ?」
「うん。マリナはハリー兄様と司会をするみたい。グロリアは出かけててさ」
「そうかあ。ピアノでも弾いてもらおうと思ったのにな」
「ピアノ……」
「侯爵令嬢なら、ジュリアちゃんも弾けるんでしょ?」
「いや……えっと、あははははは……」
乾いた笑いが出てしまう。
「ま、いっか。マリナちゃんは忙しい、と。じゃあ、妹さん達は?」
「エミリーはピアノなんか弾けないよ。私と同じでサボってたもん。アリッサは生徒会役員だから、当日は忙しいのかな?少しくらいならやれそうだけど」
「聞いてみたらどう?今んとこ、他にやってくれそうな人はいないじゃない」
「さっき、アレックスが『俺に任せろ!』って教室を出てったよね……」
「うん……」
二人の目が遠くを見つめた。また碌な結果にならない予感がするからだ。
「楽器ができる友達なんかいないだろうし、自分で何かやるつもりじゃないかな」
アレックスは学院に入るまで、大人に囲まれて育ったため、ジュリア以外の友達がいなかった。入学後に知り合った面々も、剣技科の生徒ばかりだった。
「巻き込まれないように気をつけなよ?」
くくっ、と笑ってレナードがウインクする。ジュリアは彼に礼を言い、残念な成果を持って生徒会室へ向かった。
ガタン!
セドリックはいきなり立ち上がり、勢いで椅子が後ろに倒れた。
「歓迎の言葉ができあがっていない。生徒会室を出るのは許さないぞ」
王太子の腕を掴み、レイモンドが厳しい視線を向けた。
「マリナがあいつと……」
「あいつではない、ハロルドだ」
「もうあいつでいいだろう?僕にとって邪魔者でしかないんだから」
「優秀な臣下になる男だぞ。邪険に扱うな」
「……ハロルド、が……マリナと二人きりで自習室に」
バン!
テーブルを両手で叩く。大きな音に、書類をまとめていたアリッサがビクッと肩を震わせた。
「手が痛い……」
「だろうな。……次にアリッサを怖がらせたら、王妃様にお知らせするぞ」
「母上に告げ口する気か?」
「俺は正直者だからな。挨拶を考えずに逃げようとしたと、真実を伝えるまでだ」
「うっ」
「昨日のこともあるからな。国賓の前ででたらめな挨拶はできないだろう?」
「うう……」
がっくりと肩を落とし、セドリックは椅子を直して座った。膝を揃えて、反省の色が出まくっている。
「分かったよ。すぐに歓迎の言葉を書き上げて、自習室に行くよ」
「行かなくてもいいだろう?ハロルドは十分な実力がある」
にやりとレイモンドが笑う。セドリックが自習室に行きたい理由を知っていてなお、生徒会室に留めようとしていた。
「……レイは」
「何だ」
「どっちの味方なんだ?僕か、あい……ハロルドか」
「子供じみた話をするな」
話を終わらせようとしたレイモンドの腕に手をかけ、セドリックは食い下がった。
「当然僕だろう?小さい頃から仲良くしてきたから」
「さあな。頼りないお前には、マリナのようなしっかりした妃がいいかと思うが」
「思うが?」
「それはそれで可哀想な気がしてならない」
「か、可哀想って何だよ!」
セドリックが再び椅子から立ち上がった。
「侯爵令嬢に生まれた宿命だとしても、一生子供のお守りをさせられるのはゴメンだろうからな」
「子供?……いずれは、その、ほしいとは思うけど、僕はまだ……」
顔が真っ赤になっている。
「子供はお前だ。何を想像したんだ?」
「へ?僕?」
「身分は低くても、ハロルドは自らの才覚でのし上がれる男だ。ハーリオン侯爵に認められようと努力を続けてきている。将来、アスタシフォン大使に任命される可能性も十分にある。対して、お前はどうだ?」
「……」
無言で椅子に座り、セドリックは目を伏せた。
「王宮にいた頃よりはマシになったが、まだまだだ。自分でも分かっているだろう?」
「……うん。王の器ではないって、皆が言っているのも知ってる。……そうだね。できることをしっかりやっていくよ。皆にもマリナにも認めてほしいから」
青い瞳に力が宿ったのを見てレイモンドが頷いた。
◆◆◆
「えー?明日?無理無理!」
レナードを連れて、披露できるような一芸を持っている生徒達に片っ端から当たっていたが、ジュリア達は思うように成果を上げられないでいた。
「そこを何とか。お願い、俺の顔を立てると思ってさ」
「レナードの頼みでも断る。最近練習してないんだよ」
腹に絵を描いて腹芸ができると噂の普通科二年の男子生徒が、整髪料で撫でつけた頭を掻いて苦笑いをした。
「悪いな。次は早めに声をかけてくれ」
「あーあ。またダメか……」
腹芸と聞いて、王族の歓迎会に出していいものか悩み、声をかけるか迷った。が、彼が最後の頼みの綱だった。
「ジュリアちゃん、ゴメンね?」
レナードが人好きのする笑顔を向けてくる。八の字になった眉がジュリアの笑いを誘う。
「ううん。付き合ってくれてありがとう。……これで八人に断られたね。誰かいないかなあ……」
「今日頼んで明日ってのは、皆難しいって言ってたね。ジュリアちゃんのお姉さん、マリナちゃんは司会だっけ?」
「うん。マリナはハリー兄様と司会をするみたい。グロリアは出かけててさ」
「そうかあ。ピアノでも弾いてもらおうと思ったのにな」
「ピアノ……」
「侯爵令嬢なら、ジュリアちゃんも弾けるんでしょ?」
「いや……えっと、あははははは……」
乾いた笑いが出てしまう。
「ま、いっか。マリナちゃんは忙しい、と。じゃあ、妹さん達は?」
「エミリーはピアノなんか弾けないよ。私と同じでサボってたもん。アリッサは生徒会役員だから、当日は忙しいのかな?少しくらいならやれそうだけど」
「聞いてみたらどう?今んとこ、他にやってくれそうな人はいないじゃない」
「さっき、アレックスが『俺に任せろ!』って教室を出てったよね……」
「うん……」
二人の目が遠くを見つめた。また碌な結果にならない予感がするからだ。
「楽器ができる友達なんかいないだろうし、自分で何かやるつもりじゃないかな」
アレックスは学院に入るまで、大人に囲まれて育ったため、ジュリア以外の友達がいなかった。入学後に知り合った面々も、剣技科の生徒ばかりだった。
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