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学院編 5 異国の王子は敵?味方?

119 悪役令嬢とくじのからくり

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「お前にしては早いな、アレックス。……と、ジュリアン、か」
男子寮の食堂前、廊下を歩いていたレイモンドが、二人に気づいて声をかける。
「おはようございます、殿下」
隣を歩くセドリックにジュリアが挨拶すると、彼は驚いて目を丸くした。
「……え?ジュリア?なんでここにっ……むぐ」
レイモンドが後ろから口を塞ぐ。王太子にこんな真似ができるのは彼くらいのものだ。
「ジュリアン、だろ?」
「ああ、そうだったよね。ゴメン」
「いいんです、もう」
ジュリアが苦笑いをして、向こうからノアとルーファスを連れて歩いてくるリオネルに視線を向けた。
「バレたんですよ、早速」
アレックスが肩を竦め、レイモンドが額を押さえて
「そんなことだろうと思った。詰めが甘いんだ、お前達は」
と吐き捨てた。

   ◆◆◆

毎朝女子寮の前で繰り返される、人垣が割れるリアルモーセは、疾走してきたジュリアの突撃によって崩れていった。
「聞いてよ、皆!」
「ジュリア?」
「走ってきたの?ジュリアちゃん……」
「……嫌な予感」
マリナの肩を掴み、息を弾ませてジュリアは一呼吸置いた。
「バレた」
「……はあ……」
エミリーが明後日の方向を見て溜息をつく。
「難しいとは思ったのよ。ジュリアも女らしくなってるもの」
「ホント?いやー、まいったな」
「……照れるところじゃないよ、ジュリアちゃん……」
モデルばりにポーズをとるジュリアを、アリッサが眉を顰めて見つめる。
「詳しいところは後で話すけど、今日の放課後、自習室に来れる?」
「勉強会?」
「ううん。リオネル殿下が皆と話したいって」
「ええっ!?」
「ね、頼むよ」
マリナの表情が一気に険しくなる。般若モード突入である。
「あなた、自分可愛さに、私達を売る気?」
「ちち、ち、違うってば!とにかく、放課後にね!」
来た時よりも早く、ジュリアは校舎に向かって全速力で走って行った。

   ◆◆◆

魔法科一年の教室は、一時間目はロングホームルームの時間だった。
学院祭のクラス委員を決めることになっている。学級委員のアガサとアンガスの双子姉弟が、選出方法を決めようと皆に諮った。
「はい。くじ引きにしましょう」
アイリーンが手を挙げて発言した。
「賛成!」
「手っ取り早くていいわ」
「さっさと決めようぜ!」
賛同者が多かったので、アンガスが紙でくじを作り、濃い色の布袋に入れた。希望者から順にくじを引くこととなった。丸印が書かれていたら委員に決定である。印がついた当たりくじは二つだけだとアガサが言う。
「当たりくじが二つでたら、そこで引くのをやめるよ」
アンガスが説明をする。つまり、二人決まったらおしまいにするというのだ。
――やだな……。私、くじ運悪いんだよな。
無表情で黒い袋を睨むエミリーは、生徒会役員のためにくじ引きを免除されたキースが隣でにこにこしていることに腹が立った。
「エミリーさん、学院祭委員になってくださいね」
「やだ」
「学院祭委員は、生徒会役員と共に学院祭を成功に導くんですよ!一緒に頑張りましょうよ」
「お断り。放課後はすぐ帰る」
話していると、教室内がわぁっと湧いた。
「当たりよ!」
アガサがくじを高く掲げた。
「誰?」
机に伏したままエミリーは面倒くさそうにキースに聞いた。
「……あ。あなたの敵が引いたようですよ」
「アイリーンか。本当に当たりくじ?」
「というと?」
「自分で印をつけたくじを手に持って、袋から取り出したふりをしたとか?」
「ありえますね。彼女は生徒会に入りたいようですし」
キースは腕組みをして、くじ引きの行方を注視していた。当たった(らしい)アイリーンは、両頬に拳を当てて小首を傾げ、
「私が委員になるなんてびっくり。困っちゃう」
とまたも女子の反感を買いそうなポーズをしていた。

くじの数が残り四つになったところで、ヒューゴが当たりくじを引いた。
「ぼ、僕、そういうのは……」
引っ込み思案なヒューゴは、もじもじしてアンガスの袖をつまんだ。
「くじで決まったことだから。君に委員をやってほしいな」
ドライなアンガスは容赦なく手を振り払う。
「では、これで決まりね!」
アガサがくじの入った袋を片づけようとした時、エミリーが手を上げた。
「私、まだ引いていないわ」
「でも、二人決まったもの」
「他に二人、くじを引いていない人がいるのよね?誰?」
教室を見回すと、パトリシアが読んでいた本から視線を離して手を上げた。廊下側の席に座って爆睡している男子生徒も怪しい。
「こいつは先にくじを引いたぜ」
隣の席の生徒が言う。
「おかしい」
「ハーリオンさん、どういうこと?」
「くじを引いていないのは、パトリシアと私だけのはず。どうしてくじが三枚あるの?」
「間違いなく人数分用意したぞ」
「欠席者はいないから……」
アンガスとアガサが首を捻る。
――やっぱり、アイリーンの当たりくじは偽物だったんだわ。
エミリーは確信した。どうしても生徒会と接点を持ちたいアイリーンは、自薦しても人望がない。自分が委員になれて、かつ、文句の出ない決定方法としてくじを提案したのだ。

「パトリシアも私も、くじを引いてみましょう?残り一つはアガサが開けて」
「いいわ」
三人は同時に袋に手を入れ、各々紙を掴んだ。
「白いわ」
真っ先に開けたパトリシアがひらひらと皆に見せる。
「私のもよ」
アガサの手元の紙にも何も書かれていない。無言でエミリーが広げた紙を見せた。
「……丸印?」
「どうして三人も?」
生徒達がざわめいた。アガサとアンガスが顔を見合わせて困惑している。
「どうしよう……」
「丸印は二つ作ったのに……」
小声で会話している彼らの脇から、「あのー」という声が聞こえた。
「ぼ、僕、辞退します。委員は二人にお願いしたいです」
ヒューゴはおどおどしながら、しかしはっきりと言い切った。
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