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学院編 5 異国の王子は敵?味方?
140 悪役令嬢は補習課題を擲つ
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廊下を走るけたたましい足音がして、生徒会室のドアに何かがぶつかる。
「何だ?」
すぐにレイモンドが開くと、血相を変えたフローラが口をパクパクさせていた。
「レ、レイモンド様!大変ですわ!アリッサ様が」
言い終わらないうちに、レイモンドはフローラと共に廊下に出た。
「どこだ」
「中央棟の西階段ですわ。先ほどロン先生が向かわれました」
「ジュリアとエミリーに知らせてくれ。まだ校内にいるはずだ。頼む」
「承知いたしましたわ!」
フローラは東棟へ駆けて行く。レイモンドとは逆方向だ。
西階段まで行き、騒がしい方へと下りる。制服を着た生徒達の中に白い人影が見える。白いローブの治癒魔導士ロンだろう。人だかりができ、口々に何かを言っている。
「ハーリオンさんが……?そんなはずは」
「押したのは誰だ?どっちなんだ?」
「シェリンズさんが泣いて……」
断片的にしか聞き取れなかったが、レイモンドにはシェリンズの名は聞き取れた。
「退いてくれ!」
一声かけると生徒達がさっと左右に分かれた。そして、最後の人垣が割れた向こうには、誰かが治癒魔導士ロン先生に魔法をかけられていた。
床に広がる銀色の髪、腕だけが見える深緑色の制服……。
駆け寄るとロン先生が振り向いた。
「……階段から落ちたようね。怪我は治したけど、意識は戻らないねえ」
「意識が……」
アリッサの瞳は固く閉じられたままだ。ぴくりとも動かない。
「あそこ、階段の踊り場からここまで、転がり落ちたみたいだから……事情は、あそこに座ってるコが知ってると思うわよ」
見上げると階段の踊り場には、座って泣き真似をしているアイリーンがいる。フィービー先生が肩を抱いていた。
「医務室に連れて行くよね?」
「はい。……頭を動かしても問題はありませんか?」
「大丈夫よ」
レイモンドはアリッサの身体を起こし、背中と膝裏に手を回して抱きかかえた。
「何なら、寮の部屋まで転移魔法で送ってあげようか?今日はこのまま寝かせてあげたほうがいいと思う」
「お願いします」
頷いたロン先生が呪文を詠唱すると、アリッサを抱えたレイモンドの周囲が光を放ち、二人の姿は見えなくなった。
◆◆◆
バタバタバタバタ……。
「ったく!」
ジュリアとアレックスに説教をしていたバイロン先生が、廊下に響く足音に不快そうに眉間に皺を寄せて椅子から立ち上がった。丈の長い上着を翻してドアを開け、外に向かって一喝した。
「廊下を走るな!」
「申し訳ございません!ですが、一大事ですのよ!」
バイロン先生を押しのけ、ドアからオレンジ色の髪の少女が飛び込んでくる。
「フローラ?」
「大変ですわ、ジュリア様!アリッサ様が階段から落ちて!」
「何だって!?」
ジュリアとアレックスが同時に叫んだ。ぱっとバイロン先生を見る。
「行って来い」
頷いてジュリアが走り出し、続いてアレックスが廊下に出ようとする。が、襟首を掴まれてしまった。
「お前は残れ。課題が終わっていないぞ」
「そんなぁ。俺だってアリッサの友達ですよ?そ、それに……義理の兄になるかもしれないし……」
「義理の兄が試験に落第するようでは、学年主席のアリッサも、さぞ恥ずかしい思いをすることだろうな」
「ぐ」
「動詞の活用も基本を覚えれば簡単だ。基本はこの六種類、さらに男性・女性・中性で変化が……」
説明を始めたバイロン先生の声を聞きながら、アレックスは気が遠くなりそうだった。
◆◆◆
「……ここは……」
レイモンドは転移させられた先で辺りを見回した。
どうやらロン先生は、女子寮のハーリオン家四姉妹の部屋ではなく、男子寮のレイモンドの部屋、それも彼の寝室へ転移させたようだ。レイモンドは転移魔法が使えないため、女子寮まで抱えて運んでいくか、アリッサが気づくまで寝かせておいて起きたら送って行くことになる。
「坊ちゃん、お早いお戻りで……ええっ?アリッサ様?」
従僕のデニスが目を丸くする。声に気づいた侍女のハンナとマーゴが部屋に入ってくる。
「あらあら、アリッサ様がお倒れに?」
ハンナが頬に手を当てて眉を八の字にする。一見して状況を把握し、マーゴが二人に指示を出す。
「まずは靴を脱がせてベッドに……デニス、女子寮に行って。リリーかロイドに連絡を」
「はい」
アリッサを気にする素振りを見せながら、デニスは部屋を出て行った。ハンナが靴を脱がせ、レイモンドはアリッサをベッドに横たえた。
「さあ、レイモンド様も隣の部屋へ。リリーが着替えを持って来る間に、制服を脱がせてしまいますので」
「あ、ああ……」
「心配するふりをして着替えを覗こうとなさっても無駄ですよ!」
「濡れ衣だ!」
なかなか出て行かないレイモンドの背中を押し、ハンナは寝室のドアを閉めた。
◆◆◆
職員室に連れて行かれたアイリーンは、フィービー先生に事情を聞かれていた。
「だから、私、よく分からないんですぅ」
顎に緩く握った拳を当て、上目づかいで見つめてみても、同性のフィービー先生には効果がなかった。
「すぐにいなくなってしまったから詳しい話は聞けていないけど、二組のフローラさんの話では、あなたがアリッサさんを後ろから押したようね」
「知りません、私っ……!」
「はずみでアリッサさんがフローラさんとぶつかり、落ちそうになったフローラさんを引き上げて自分が落ちてしまったと」
「私、押してなんかいません!私のせいにするために、二人が仕組んだ罠なんです!」
ピンクのツインテールを振り、アイリーンは職員室にいる全員に聞こえるように大きな声で訴えた。
「何だ?」
すぐにレイモンドが開くと、血相を変えたフローラが口をパクパクさせていた。
「レ、レイモンド様!大変ですわ!アリッサ様が」
言い終わらないうちに、レイモンドはフローラと共に廊下に出た。
「どこだ」
「中央棟の西階段ですわ。先ほどロン先生が向かわれました」
「ジュリアとエミリーに知らせてくれ。まだ校内にいるはずだ。頼む」
「承知いたしましたわ!」
フローラは東棟へ駆けて行く。レイモンドとは逆方向だ。
西階段まで行き、騒がしい方へと下りる。制服を着た生徒達の中に白い人影が見える。白いローブの治癒魔導士ロンだろう。人だかりができ、口々に何かを言っている。
「ハーリオンさんが……?そんなはずは」
「押したのは誰だ?どっちなんだ?」
「シェリンズさんが泣いて……」
断片的にしか聞き取れなかったが、レイモンドにはシェリンズの名は聞き取れた。
「退いてくれ!」
一声かけると生徒達がさっと左右に分かれた。そして、最後の人垣が割れた向こうには、誰かが治癒魔導士ロン先生に魔法をかけられていた。
床に広がる銀色の髪、腕だけが見える深緑色の制服……。
駆け寄るとロン先生が振り向いた。
「……階段から落ちたようね。怪我は治したけど、意識は戻らないねえ」
「意識が……」
アリッサの瞳は固く閉じられたままだ。ぴくりとも動かない。
「あそこ、階段の踊り場からここまで、転がり落ちたみたいだから……事情は、あそこに座ってるコが知ってると思うわよ」
見上げると階段の踊り場には、座って泣き真似をしているアイリーンがいる。フィービー先生が肩を抱いていた。
「医務室に連れて行くよね?」
「はい。……頭を動かしても問題はありませんか?」
「大丈夫よ」
レイモンドはアリッサの身体を起こし、背中と膝裏に手を回して抱きかかえた。
「何なら、寮の部屋まで転移魔法で送ってあげようか?今日はこのまま寝かせてあげたほうがいいと思う」
「お願いします」
頷いたロン先生が呪文を詠唱すると、アリッサを抱えたレイモンドの周囲が光を放ち、二人の姿は見えなくなった。
◆◆◆
バタバタバタバタ……。
「ったく!」
ジュリアとアレックスに説教をしていたバイロン先生が、廊下に響く足音に不快そうに眉間に皺を寄せて椅子から立ち上がった。丈の長い上着を翻してドアを開け、外に向かって一喝した。
「廊下を走るな!」
「申し訳ございません!ですが、一大事ですのよ!」
バイロン先生を押しのけ、ドアからオレンジ色の髪の少女が飛び込んでくる。
「フローラ?」
「大変ですわ、ジュリア様!アリッサ様が階段から落ちて!」
「何だって!?」
ジュリアとアレックスが同時に叫んだ。ぱっとバイロン先生を見る。
「行って来い」
頷いてジュリアが走り出し、続いてアレックスが廊下に出ようとする。が、襟首を掴まれてしまった。
「お前は残れ。課題が終わっていないぞ」
「そんなぁ。俺だってアリッサの友達ですよ?そ、それに……義理の兄になるかもしれないし……」
「義理の兄が試験に落第するようでは、学年主席のアリッサも、さぞ恥ずかしい思いをすることだろうな」
「ぐ」
「動詞の活用も基本を覚えれば簡単だ。基本はこの六種類、さらに男性・女性・中性で変化が……」
説明を始めたバイロン先生の声を聞きながら、アレックスは気が遠くなりそうだった。
◆◆◆
「……ここは……」
レイモンドは転移させられた先で辺りを見回した。
どうやらロン先生は、女子寮のハーリオン家四姉妹の部屋ではなく、男子寮のレイモンドの部屋、それも彼の寝室へ転移させたようだ。レイモンドは転移魔法が使えないため、女子寮まで抱えて運んでいくか、アリッサが気づくまで寝かせておいて起きたら送って行くことになる。
「坊ちゃん、お早いお戻りで……ええっ?アリッサ様?」
従僕のデニスが目を丸くする。声に気づいた侍女のハンナとマーゴが部屋に入ってくる。
「あらあら、アリッサ様がお倒れに?」
ハンナが頬に手を当てて眉を八の字にする。一見して状況を把握し、マーゴが二人に指示を出す。
「まずは靴を脱がせてベッドに……デニス、女子寮に行って。リリーかロイドに連絡を」
「はい」
アリッサを気にする素振りを見せながら、デニスは部屋を出て行った。ハンナが靴を脱がせ、レイモンドはアリッサをベッドに横たえた。
「さあ、レイモンド様も隣の部屋へ。リリーが着替えを持って来る間に、制服を脱がせてしまいますので」
「あ、ああ……」
「心配するふりをして着替えを覗こうとなさっても無駄ですよ!」
「濡れ衣だ!」
なかなか出て行かないレイモンドの背中を押し、ハンナは寝室のドアを閉めた。
◆◆◆
職員室に連れて行かれたアイリーンは、フィービー先生に事情を聞かれていた。
「だから、私、よく分からないんですぅ」
顎に緩く握った拳を当て、上目づかいで見つめてみても、同性のフィービー先生には効果がなかった。
「すぐにいなくなってしまったから詳しい話は聞けていないけど、二組のフローラさんの話では、あなたがアリッサさんを後ろから押したようね」
「知りません、私っ……!」
「はずみでアリッサさんがフローラさんとぶつかり、落ちそうになったフローラさんを引き上げて自分が落ちてしまったと」
「私、押してなんかいません!私のせいにするために、二人が仕組んだ罠なんです!」
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