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学院編 7 学院祭、当日
195 王太子と予言
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【セドリック視点】
「セドリック様、ちょっと話したいんだ。いい?」
学院祭一日目が終わり、夕食後に自室でくつろいでいたところに、訪問者がやってきた。
「どうぞ」
侍従に促されて入ってきたのは、リオネルだけではなかった。レイモンドとアレックスが続いている。どういう組み合わせなんだろう。
「この四人で話したいと思って。……二人にも来てもらったんだ」
「とても重要な話だそうだ。使用人にも席を外してもらうが、それでいいな?」
「うん。……ねえ、もしかして、明日の『みすこん』のことかな」
僕の部屋は、廊下から入ってすぐが居間、左側に簡単な食事が作れる厨房と、バスルームがある。居間の右側には机や本棚がある書斎があり、さらに奥が寝室だ。レイモンドは書斎で話し合おうと言ったが、居間へ音が漏れるのを警戒したリオネルが、奥の部屋で話せないかと提案した。特に断る理由もないので、僕は三人を寝室へ案内した。寝室にはベッドだけではなく、長椅子と一人掛けの椅子が二脚にテーブルもある。四人で話し合うには十分だった。
リオネルと僕が一人掛け椅子に座り、レイモンドとアレックスが長椅子にかける。アレックスは緊張した顔をしている。そう言えば、奥の部屋に呼んだことはなかったか。
「皆に話したいのは、ハーリオン姉妹の今後のことだよ」
リオネルは落ち着いて話し出した。
「侯爵家から妃を娶るのは諦めたんだよね?」
「うん。君達が不幸にするなら、すぐに攫って行くけどね」
――何を言っているんだ。
「僕はマリナを不幸にしない!絶対に」
宣言すると、レイモンドも同調した。アレックスは僕の剣幕に驚いたようだった。
「まあまあ、セドリック様もさ、そんなにムキにならないでよ」
この飄々としたところが気に食わない。マリナとも仲が良いようだから余計に。
「ところで、三人はマリナとアリッサとジュリアから、何か聞いてる?前世のこと」
「ぜんせ?」
アレックスがきょとんとしている。部屋に入って第一声がこれか。かくいう僕も、一瞬聞き返しそうになったけれど。
「人によっては、生まれかわる前の人生の記憶がある者がいるとか。そういう類の本を読んだことはあるが……俺は信じていないな。アリッサとも話したことはない」
読書が趣味のレイモンドは何でも知っている。同じく読書好きのアリッサとも話題にしたことがないんだ。意外だな。
「アレックスは知らなそうだよね。……じゃ、セドリック様はどうなの?」
「僕も……うん、前世の話はしていないな」
マリナとじっくり深い話をしたことがない気がする。さり気なく問題ありじゃないか?
将来は夫婦になるのに。
「そう。……じゃあ、この話は終わり。別な話にする」
リオネルは少し考えてから、再び口を開いた。
「アスタシフォンに伝わる先読みの力で、僕は彼女達の未来を見たんだ」
鋭い視線が僕、レイモンド、アレックスを順に射抜く。
「未来?胡散臭い話だな」
「明日とか、来年とか?もっと先も?」
「僕が見たのは、だいたい数年以内の話。そうだね、遠くても三年先ってところかな」
唇に指を当て、リオネルは声をひそめた。
「これから言うことは、彼女達には言ってはいけないよ。君達が自分で解決するんだ」
「俺達が解決……ということは、何か厄介ごとに巻き込まれる、と」
「その通り。流石レイモンド、鋭いね」
◆◆◆
「……つまり、マリナは僕に婚約を破棄される?」
「そう。婚約破棄され、実家は零落れ、マリナは邸に入った強盗に殺されるんだよ。僕はハーリオン家が没落するのは、誰かに仕組まれたからなんじゃないかって思ってる。筆頭侯爵家が没落するなんて、余程のことがない限り難しいからね。おそらく、王家が手を回して……」
「馬鹿な!僕から婚約を破棄するなんてあり得ない」
勢い余って椅子から立ち上がる。リオネルは平然として僕を見上げた。
「セドリック様は他に好きな人ができるんだよ。……信じられないだろうね」
「相手は誰か知っているの?僕の知り合い?」
「知ってるよ。今日もマリナの役を奪おうとしていたじゃないか」
――何だって!?
「アイリーン・シェリンズ?あいつが?」
驚いて絶句した僕の代わりに、レイモンドが声を荒げた。
「そういう話になっているんだから、仕方がないよ。……そうそう、婚約破棄しないで、マリナが王太子妃になっても、セドリック様は彼女を酷い目に遭わせるんだ。身重のマリナを遠くの城に幽閉して、妾のアイリーンを公式の場に伴う。マリナは発狂して……死ぬ」
「嘘だ!信じるもんか!」
掴みかかった僕をアレックスが止めた。「ゆうへい」って何ですか、とレイモンドに聞いている。
「信じたくないのは分かる。……でも、マリナにとっては、婚約者に捨てられても、夫に裏切られても、結果は同じなんだ」
リオネルは少し躊躇った。
「マリナを破滅させるのは、セドリック様なんだよ!」
真剣な瞳。嘘を言っているようには見えない。
――信じたくない、信じてたまるものか。
その後もリオネルは何か話を続けていたが、僕の耳には入って来なかった。やがて話し合いが終わり、難しい顔をしたレイモンドと、呆然としたアレックスが部屋を出ていった。
「セドリック様、ちょっと話したいんだ。いい?」
学院祭一日目が終わり、夕食後に自室でくつろいでいたところに、訪問者がやってきた。
「どうぞ」
侍従に促されて入ってきたのは、リオネルだけではなかった。レイモンドとアレックスが続いている。どういう組み合わせなんだろう。
「この四人で話したいと思って。……二人にも来てもらったんだ」
「とても重要な話だそうだ。使用人にも席を外してもらうが、それでいいな?」
「うん。……ねえ、もしかして、明日の『みすこん』のことかな」
僕の部屋は、廊下から入ってすぐが居間、左側に簡単な食事が作れる厨房と、バスルームがある。居間の右側には机や本棚がある書斎があり、さらに奥が寝室だ。レイモンドは書斎で話し合おうと言ったが、居間へ音が漏れるのを警戒したリオネルが、奥の部屋で話せないかと提案した。特に断る理由もないので、僕は三人を寝室へ案内した。寝室にはベッドだけではなく、長椅子と一人掛けの椅子が二脚にテーブルもある。四人で話し合うには十分だった。
リオネルと僕が一人掛け椅子に座り、レイモンドとアレックスが長椅子にかける。アレックスは緊張した顔をしている。そう言えば、奥の部屋に呼んだことはなかったか。
「皆に話したいのは、ハーリオン姉妹の今後のことだよ」
リオネルは落ち着いて話し出した。
「侯爵家から妃を娶るのは諦めたんだよね?」
「うん。君達が不幸にするなら、すぐに攫って行くけどね」
――何を言っているんだ。
「僕はマリナを不幸にしない!絶対に」
宣言すると、レイモンドも同調した。アレックスは僕の剣幕に驚いたようだった。
「まあまあ、セドリック様もさ、そんなにムキにならないでよ」
この飄々としたところが気に食わない。マリナとも仲が良いようだから余計に。
「ところで、三人はマリナとアリッサとジュリアから、何か聞いてる?前世のこと」
「ぜんせ?」
アレックスがきょとんとしている。部屋に入って第一声がこれか。かくいう僕も、一瞬聞き返しそうになったけれど。
「人によっては、生まれかわる前の人生の記憶がある者がいるとか。そういう類の本を読んだことはあるが……俺は信じていないな。アリッサとも話したことはない」
読書が趣味のレイモンドは何でも知っている。同じく読書好きのアリッサとも話題にしたことがないんだ。意外だな。
「アレックスは知らなそうだよね。……じゃ、セドリック様はどうなの?」
「僕も……うん、前世の話はしていないな」
マリナとじっくり深い話をしたことがない気がする。さり気なく問題ありじゃないか?
将来は夫婦になるのに。
「そう。……じゃあ、この話は終わり。別な話にする」
リオネルは少し考えてから、再び口を開いた。
「アスタシフォンに伝わる先読みの力で、僕は彼女達の未来を見たんだ」
鋭い視線が僕、レイモンド、アレックスを順に射抜く。
「未来?胡散臭い話だな」
「明日とか、来年とか?もっと先も?」
「僕が見たのは、だいたい数年以内の話。そうだね、遠くても三年先ってところかな」
唇に指を当て、リオネルは声をひそめた。
「これから言うことは、彼女達には言ってはいけないよ。君達が自分で解決するんだ」
「俺達が解決……ということは、何か厄介ごとに巻き込まれる、と」
「その通り。流石レイモンド、鋭いね」
◆◆◆
「……つまり、マリナは僕に婚約を破棄される?」
「そう。婚約破棄され、実家は零落れ、マリナは邸に入った強盗に殺されるんだよ。僕はハーリオン家が没落するのは、誰かに仕組まれたからなんじゃないかって思ってる。筆頭侯爵家が没落するなんて、余程のことがない限り難しいからね。おそらく、王家が手を回して……」
「馬鹿な!僕から婚約を破棄するなんてあり得ない」
勢い余って椅子から立ち上がる。リオネルは平然として僕を見上げた。
「セドリック様は他に好きな人ができるんだよ。……信じられないだろうね」
「相手は誰か知っているの?僕の知り合い?」
「知ってるよ。今日もマリナの役を奪おうとしていたじゃないか」
――何だって!?
「アイリーン・シェリンズ?あいつが?」
驚いて絶句した僕の代わりに、レイモンドが声を荒げた。
「そういう話になっているんだから、仕方がないよ。……そうそう、婚約破棄しないで、マリナが王太子妃になっても、セドリック様は彼女を酷い目に遭わせるんだ。身重のマリナを遠くの城に幽閉して、妾のアイリーンを公式の場に伴う。マリナは発狂して……死ぬ」
「嘘だ!信じるもんか!」
掴みかかった僕をアレックスが止めた。「ゆうへい」って何ですか、とレイモンドに聞いている。
「信じたくないのは分かる。……でも、マリナにとっては、婚約者に捨てられても、夫に裏切られても、結果は同じなんだ」
リオネルは少し躊躇った。
「マリナを破滅させるのは、セドリック様なんだよ!」
真剣な瞳。嘘を言っているようには見えない。
――信じたくない、信じてたまるものか。
その後もリオネルは何か話を続けていたが、僕の耳には入って来なかった。やがて話し合いが終わり、難しい顔をしたレイモンドと、呆然としたアレックスが部屋を出ていった。
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