悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!

青杜六九

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学院編 7 学院祭、当日

211 悪役令嬢は答え合わせをする

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「土属性の魔法で、服の色が変えられる?」
アレックスはエレノアが言った通りに復唱した。
「はい。皆様の中に、土属性の魔法が使える方はいらっしゃいませんか?」
ハイスペック侍女は四人を見た。セドリックがレイモンドの脇腹を小突いた。
「……何だ」
「レイは主属性が土だよね」
「俺は色を変える魔法など知らない。他の奴に頼むんだな。……ハロルド、君はどうだ?」
「私は基礎魔法を学んだだけです。高度な魔法はとてもとても」
俯いて首を振る。レイモンドは溜息をついた。
「お、俺はっ……」
次は自分に話を振られると思ったアレックスが何かを言いかけた。
「アレックスは魔法が使えないよね」
最初にセドリックが天使の微笑でズバッと斬った。
「最初から数に入れていないが」
「期待はしておりませんでしたよ」
迷惑そうな顔のレイモンドと、アルカイックスマイルを浮かべたハロルドが口々に酷評する。
「酷いです、三人とも……やればできるかもしれないじゃないですか」
「できる見込みが万が一にもあればな。俺はお前が魔法を使えない方に、自分名義の荘園の権利書全部を賭けてもいい」
「う……。土魔法が使える……あ!エミリーを呼んで、やってもらうのはどうですか?」
「男子更衣室に入らせるのか?馬鹿も休み休み言え」
「そうか!ねえ、レイ。キースに頼もうよ。確か、彼が持っている四属性のうち一つが土だと思ったよ」
レイモンドが深く頷き、すぐに侍女に指示を出した。

   ◆◆◆

『みすこん』女子の部は、呆気ない幕切れだった。ざわめく会場に司会者が拍手を求め、とりあえずその場は収まったものの、ジュリアの心は乱れていた。
――アイリーン、どうしていきなり棄権なんか……。
舞台を降りて、姉妹の元へ急ぐ。最前列に陣取っていた三人は、女子更衣室へ行かずにまだそこにいた。
「ジュリアちゃんだ。おめでとう!待ってたよ」
「遅くなった。ゴメン。応援ありがとう」
「……優勝。よかったね」
「……あれ、マリナ、どうしたの?」
お祝いムードのアリッサとエミリーの一歩後ろで、マリナはこの世の不幸を一身に背負ったような顔をしてふらふらと立っていた。
「ジュリア……私の渾身のゴリラをスルーしたわね!」
「はっ!?あ、あれ、やっぱりゴリラだったんだ?アリッサとエミリーが掃除してたから、『綺麗好きのゴリラ』ってとこまで分かったんだけど、答えが出なくてさ。もう、ここまで来てたの」
掌を水平にして自分の喉元に当てる。勢いよく当ててしまい、一瞬おえっと舌を出した。
「掃除じゃないよぉ、ゴルフだよお」
「ゴルフだったの?ゴルフするゴリラ?」

「答えはいいわ。早く更衣室に行きましょう?またアイリーンに衣装を奪われたら堪らないもの」
三人を促してマリナは先を歩く。自然に早足になってしまい、アリッサが遅れ始めたのに気づいて歩調を緩める。女子更衣室までは少し時間がかかるのだ。急ぎたい。
「マリナはドレス、何にしたの?いつもの青系?」
「どうかしら。忙しくて選ぶ暇がなくて、リリーに任せてしまったわ」
「リリーなら大丈夫よね。いつも完璧にコーディネートしてくれるもん」
「……私達の好みも知ってる」
口の端をふっと上げてエミリーが笑う。
「そういうジュリアは何を着るの?まさか男物じゃないわよね?」
「ダンスをするって言ってたから、着たくないけどドレスにしたよ。お母様が無理に持たせた中から適当に選んでって言ってある」
「ジュリアちゃんもお任せなの?」
「そ。アリッサだけじゃない?自分で選んだのは」

四人が更衣室へ入った時、アイリーンは支度が殆ど終わったところだった。
ピンクのふわふわした髪に金の髪飾りをつけ、袖が膨らんだロイヤルブルーのドレスを着ている。マリナはドレスを見て表情を変えた。
――青……ということは、セドリック様狙いだわ!
ドレスは高級感がない。実家から持ってきたものなのだろうか。『とわばら』のイベントなら、貧乏なヒロインに王太子からドレスが贈られる。ただし、好感度が高い場合に限る。
「……随分ゆっくりしていたのね」
ドレッサーから鏡越しに四人を見ていたアイリーンが振り向き、余裕の微笑を顔に貼りつけたまま立ち上がる。
「一般生徒がなだれ込んでくる前に、支度を終えないとダンスに間に合わないわよ」
「ええ。急いで支度するわね。私達のことなどお気になさらず、どうぞお先に会場へ」
マリナが慇懃無礼な態度をとる。少し苛立った様子のアイリーンはすました顔で部屋を出ていく。マリナとすれ違いざまに
「急いで支度、できるかしらね?」
と呟いた。

   ◆◆◆

「勘弁してくださいよ、レイモンドさん」
足取りが覚束ないキースが更衣室に来て、開口一番にそう告げた。
「できないのか?」
「できますよ。土属性の変色魔法でしょう?できますけど、僕は……」
「なら、やれ」
問答無用である。
「僕は昨日から魔力を消耗しっぱなしなんです!今日だって魔法で片づけやら修復作業やらしていたところで、疲れて医務室に行ったら、ロン先生に留守を頼まれて治癒魔法を使い続けて……」
いやいやと首を振る。紫の髪がさらさらと揺れた。
「いいから、やれ」
キースははあ、と息をついて項垂れた。
「魔力が少なくなっていて安定しませんから、変な色になっても文句を言わないでくださいよ?」
と言うが早いが、アレックスの服に魔法をかけた。
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