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閑話 悪役令嬢がRPGだなんて聞いてません!
悪役令嬢がRPGだなんて聞いてません! 8
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「堪える?……って、違うでしょ!」
伸し掛かってきたセドリックを力一杯避けて隣に転がすと、背中が息子に当たったらしい。
「おかあさま……?」
金髪がさらりと揺れ、眠い目を擦って小さな身体を起こした。
「ん……ははうえ……」
釣られてもう一人も目を覚ます。
セドリックが起き上がり、息子の髪を撫でた。
「……あっ、おとうさまだ!」
「ちちうえ!おかえりなさい!」
「うわっ!」
二人に飛びかかられ、セドリックが仰向けに倒れた。ベッドが弾み、マリナの身体が揺れる。子供達を抱きしめて、ぐりぐりと頭を撫でながら苦笑するセドリックと一瞬目が合い、胸がじわりと熱くなった。
――これは、夢なのよね?
マリナは再度確認した。
魔女に国を乗っ取られ、自分と息子達は離宮に閉じ込められたままだ。何も問題は解決していないのに、幸せそうにじゃれ合う三人を見ていると愛しさがこみ上げてきて、この夢から醒めたくないと思ってしまう。現実世界で自分が辿る悲惨な運命から、一時でも目を逸らしていたいと望んで見た夢なのだろうか。
「セドリック様」
「……何だい?」
「魔女を城から追い出すために、私の妹達を探していただけませんか」
「妹……?」
「私には三人の妹がおります。皆私と同じ、銀髪と紫の瞳です。一人は騎士になっているかもしれません。一人は……レイモンドという青年の近くにいると思います。もう一人はおそらく……」
エミリーがマシューと一緒にいるという確証はない。だが、自分がセドリックを夢に見ているなら、きっと……。
「魔王と共にいることでしょう」
「魔王だって!?」
セドリックは驚いて起き上がった。息子達は不思議そうに両親を見ている。
「……そう言えば、街に勇者を名乗る一行が来ていたらしい。アイリーンが僕を謁見の間から追い出し、彼らの相手をすると言っていた。勇者が魔王を倒してしまったら、君達を守る結界も消えてしまう。君の妹さんから魔王へ、迫る危機を伝えてもらえれば……」
「私には妹……エミリーと連絡を取る手段がありません。ジュリアとアリッサもそうです。私達はいつも、四人で危機を乗り越えてきたのです。集まればきっと、道が開けるような気がするのです」
「……うん。分かったよ。エミリーとジュリアとアリッサ、だね。それから、レイモンド?」
「はい。妹に繋がる手がかりは、それだけで……」
温かい手がマリナの頭を撫でた。
「分かった。探してくるよ。危険なことはしないで……待っていてくれるね?」
「ええ。お約束します」
優しい微笑を浮かべ、セドリックはマリナと息子達の額に軽く口づけると、侍女に夕食を持ってくるように言いつけて部屋から出ていった。
◆◆◆
「支度金をもらい損ねたな」
レイモンドが渋い顔をしてアレックスを見た。
王宮からつまみ出されてから、五人は宿屋を探して王都の中心部をぶらぶら歩いていた。地図を持っていたキースが先導し、もうすぐ宿屋街へ着くと告げる。
「お前が魔女の相手をすれば、倍もらえるところだったのだがな」
「嫌ですよ。俺、あんな女の餌食になるのは!……それに」
金色の瞳がジュリアの背中を追う。何も気づかずアリッサと話をしている彼女は、つい小一時間前に爆弾発言をしたことをケロリと忘れているようだ。
「俺はジュリアの夫ですから。……ジュリアを裏切る真似はしたくない」
「ほう。夫婦だったとは知らなかったな。宿屋でも同じ部屋に泊まらなかっただろう」
「それは、ジュリアがアリッサと一緒の部屋がいいって言うから……」
もごもごと口ごもると、前を歩いていたジュリアが振り返る。
「何?呼んだ?」
「よ、呼んでないよ」
「ああ、アレックスが宿屋でお前と同室がいいと言い出してな」
「えっ……」
「言ってない!へ、変なこと言わないでくださいよ、レイモンドさん!」
「夫婦なのに別室なのはおかしいだろう?……アリッサのことなら心配は要らないぞ。俺が同室になろう」
「レイ様……」
アリッサが顔を真っ赤にして、手で頬を覆っているのを見て、レイモンドは愉しそうに眉を上げた。
宿屋の受付でレイモンドが部屋を取っている間、ジュリアはアリッサの隣でもじもじしていた。
「ねえ、アリッサ。この展開、どう思う?」
「どうって……ジュリアちゃんが夫婦だなんて言うから」
「私のせいなの?アリッサがレイモンドと一緒の部屋がいいって思ったんじゃない?」
「願望だって言うの?私、レイ様の神官コスは見たかったけど、キ、キス以上のことはまだ……」
「私だって同じだよ。いくら夢の中だからって」
レイモンドは四人を振り返り、肩を竦めて戻って来た。
「今日は二部屋しか空いていないそうだ。残念だが、男女別で泊まるしかないな」
「そ、ソウデスカ……」
緊張からロボットのようになってしまったアレックスが、カクカクと頷く。
「部屋は取ってある。夕食がてら装備を買いに出よう」
◆◆◆
セドリックは王宮の兵士から、勇者アレックス一行の話を聞いた。アイリーンが露骨に誘い勇者の妻が文句を言ったところ、五人とも叩きだされたと。勇者の妻はジュリアという名前で剣士らしい。彼女こそマリナが言っていた妹のジュリアではないだろうか。
こっそり王宮の門を抜け、馬車でしか出たことがない王都の中を歩く。
勇者は魔王討伐に行く。日も暮れてきている。少なくとも今晩は王都に泊まるだろう。
「宿屋はどこですか?」
道行く人に尋ねて、宿屋が多く集まる一角へ着く頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
「数が多いな……」
王都でも有数の繁華街がすぐ傍にあり、宿屋はどこも満室のようだった。一軒一軒訪ね歩き、銀髪のジュリアという女性を連れた赤髪の勇者一行を見なかったかと、店主と客に尋ねた。
「ああ、アレックスとかって奴だろ?」
「知っているのか!?」
「この先の食堂で見たぜ。酔っ払いどもが、銀髪の別嬪を二人も連れているから一人寄越せと絡んでいたんだ。しかし、あいつらも馬鹿だな。赤い髪の兄ちゃんにボコボコにされて、神官に幻覚見せられて、ヒイヒイ言いながら逃げてった」
「そうか……で、彼らはまだそこにいるのか?」
「どうだろうな。料理を頼んだばかりだったから、まだ……」
「ありがとう!」
セドリックは宿屋の客の肩を叩き礼を言うと、道の先にある食堂へと走って行った。
伸し掛かってきたセドリックを力一杯避けて隣に転がすと、背中が息子に当たったらしい。
「おかあさま……?」
金髪がさらりと揺れ、眠い目を擦って小さな身体を起こした。
「ん……ははうえ……」
釣られてもう一人も目を覚ます。
セドリックが起き上がり、息子の髪を撫でた。
「……あっ、おとうさまだ!」
「ちちうえ!おかえりなさい!」
「うわっ!」
二人に飛びかかられ、セドリックが仰向けに倒れた。ベッドが弾み、マリナの身体が揺れる。子供達を抱きしめて、ぐりぐりと頭を撫でながら苦笑するセドリックと一瞬目が合い、胸がじわりと熱くなった。
――これは、夢なのよね?
マリナは再度確認した。
魔女に国を乗っ取られ、自分と息子達は離宮に閉じ込められたままだ。何も問題は解決していないのに、幸せそうにじゃれ合う三人を見ていると愛しさがこみ上げてきて、この夢から醒めたくないと思ってしまう。現実世界で自分が辿る悲惨な運命から、一時でも目を逸らしていたいと望んで見た夢なのだろうか。
「セドリック様」
「……何だい?」
「魔女を城から追い出すために、私の妹達を探していただけませんか」
「妹……?」
「私には三人の妹がおります。皆私と同じ、銀髪と紫の瞳です。一人は騎士になっているかもしれません。一人は……レイモンドという青年の近くにいると思います。もう一人はおそらく……」
エミリーがマシューと一緒にいるという確証はない。だが、自分がセドリックを夢に見ているなら、きっと……。
「魔王と共にいることでしょう」
「魔王だって!?」
セドリックは驚いて起き上がった。息子達は不思議そうに両親を見ている。
「……そう言えば、街に勇者を名乗る一行が来ていたらしい。アイリーンが僕を謁見の間から追い出し、彼らの相手をすると言っていた。勇者が魔王を倒してしまったら、君達を守る結界も消えてしまう。君の妹さんから魔王へ、迫る危機を伝えてもらえれば……」
「私には妹……エミリーと連絡を取る手段がありません。ジュリアとアリッサもそうです。私達はいつも、四人で危機を乗り越えてきたのです。集まればきっと、道が開けるような気がするのです」
「……うん。分かったよ。エミリーとジュリアとアリッサ、だね。それから、レイモンド?」
「はい。妹に繋がる手がかりは、それだけで……」
温かい手がマリナの頭を撫でた。
「分かった。探してくるよ。危険なことはしないで……待っていてくれるね?」
「ええ。お約束します」
優しい微笑を浮かべ、セドリックはマリナと息子達の額に軽く口づけると、侍女に夕食を持ってくるように言いつけて部屋から出ていった。
◆◆◆
「支度金をもらい損ねたな」
レイモンドが渋い顔をしてアレックスを見た。
王宮からつまみ出されてから、五人は宿屋を探して王都の中心部をぶらぶら歩いていた。地図を持っていたキースが先導し、もうすぐ宿屋街へ着くと告げる。
「お前が魔女の相手をすれば、倍もらえるところだったのだがな」
「嫌ですよ。俺、あんな女の餌食になるのは!……それに」
金色の瞳がジュリアの背中を追う。何も気づかずアリッサと話をしている彼女は、つい小一時間前に爆弾発言をしたことをケロリと忘れているようだ。
「俺はジュリアの夫ですから。……ジュリアを裏切る真似はしたくない」
「ほう。夫婦だったとは知らなかったな。宿屋でも同じ部屋に泊まらなかっただろう」
「それは、ジュリアがアリッサと一緒の部屋がいいって言うから……」
もごもごと口ごもると、前を歩いていたジュリアが振り返る。
「何?呼んだ?」
「よ、呼んでないよ」
「ああ、アレックスが宿屋でお前と同室がいいと言い出してな」
「えっ……」
「言ってない!へ、変なこと言わないでくださいよ、レイモンドさん!」
「夫婦なのに別室なのはおかしいだろう?……アリッサのことなら心配は要らないぞ。俺が同室になろう」
「レイ様……」
アリッサが顔を真っ赤にして、手で頬を覆っているのを見て、レイモンドは愉しそうに眉を上げた。
宿屋の受付でレイモンドが部屋を取っている間、ジュリアはアリッサの隣でもじもじしていた。
「ねえ、アリッサ。この展開、どう思う?」
「どうって……ジュリアちゃんが夫婦だなんて言うから」
「私のせいなの?アリッサがレイモンドと一緒の部屋がいいって思ったんじゃない?」
「願望だって言うの?私、レイ様の神官コスは見たかったけど、キ、キス以上のことはまだ……」
「私だって同じだよ。いくら夢の中だからって」
レイモンドは四人を振り返り、肩を竦めて戻って来た。
「今日は二部屋しか空いていないそうだ。残念だが、男女別で泊まるしかないな」
「そ、ソウデスカ……」
緊張からロボットのようになってしまったアレックスが、カクカクと頷く。
「部屋は取ってある。夕食がてら装備を買いに出よう」
◆◆◆
セドリックは王宮の兵士から、勇者アレックス一行の話を聞いた。アイリーンが露骨に誘い勇者の妻が文句を言ったところ、五人とも叩きだされたと。勇者の妻はジュリアという名前で剣士らしい。彼女こそマリナが言っていた妹のジュリアではないだろうか。
こっそり王宮の門を抜け、馬車でしか出たことがない王都の中を歩く。
勇者は魔王討伐に行く。日も暮れてきている。少なくとも今晩は王都に泊まるだろう。
「宿屋はどこですか?」
道行く人に尋ねて、宿屋が多く集まる一角へ着く頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
「数が多いな……」
王都でも有数の繁華街がすぐ傍にあり、宿屋はどこも満室のようだった。一軒一軒訪ね歩き、銀髪のジュリアという女性を連れた赤髪の勇者一行を見なかったかと、店主と客に尋ねた。
「ああ、アレックスとかって奴だろ?」
「知っているのか!?」
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