悪役令嬢が四つ子だなんて聞いてません!

青杜六九

文字の大きさ
398 / 794
学院編 8 期末試験を乗り越えろ

231 公爵令息の作戦会議

しおりを挟む
【レイモンド視点】

エミリーから伝令魔法が届いたのは夜遅くのことだった。
俺は目の前で腕組みをして憤るセドリックを宥めるのに苦労して、いや、一つも苦労していなかった。
「今日という今日は、レイにガツンと言わないとと思っているんだ」
「そうか。なら、ガツンとを聞こうか」
「昼食にアレックスとキースを呼んだのはいいよ。朝も一緒に通ってるし、僕達は仲がいいからね。だけど……」
「アイリーン・シェリンズがいたのが気に入らない?」
「当たり前だよ!あいつは僕を魔法でおかしくして、僕はマリナに酷いことを言ってしまったんだ。入学してからいつも、僕達の近くをうろうろしていたし、演劇の時だって……」
話し続けるセドリックを手で制し、俺は薄く笑った。
「お前の言う通り、あの女は危険だ」
「分かっているなら、どうして!」
「危険だからこそ、近くに置いて監視する必要がある」
「もっと危険じゃないか!また魔法で操られたらどうするんだよ」
「……手は打ってある。エミリーから連絡があった。明日にはお前にも届くだろう」
「何が届くんだ?」
「対アイリーン、魔法除けの魔導具だ。エミリーを通じて、コーノック先生に依頼し作っていただいた」
セドリックは目を丸くした。魔導具を作ったのが、国唯一の六属性魔導士だと知り、俺の本気度を感じたらしい。
「コーノック先生が作った魔導具があれば、俺達はアイリーンの魔法の影響を受けない。だが、あの女のしてきた悪事を白日の下に晒すためには、まだ証拠が十分ではない。スタンリーとグロリアの事件も、エミリーや先生はあの女の犯行ではないかと疑っていたが、宮廷魔導士達が調べても、罪に問うには決定打に欠けるんだそうだ」
「近くにいれば、ボロが出る……?」
「まあ、そういうことだ。シェリンズに、自分の目的が達成するかのように錯覚させる。あいつの目的は、お前や俺を自分の虜にすることだからな」
王位を狙っているとは、口が裂けても言えない。
推測の域を出ないが、アイリーンはセドリックから譲位されて女王になり、不要になった夫を『処分』するかもしれない、自分が即位するために現国王夫妻を……などと、セドリックが聞いたら卒倒するような内容ばかりだ。
「何人もの男を傅かせたいってこと?」
「らしいな。リオネル王子も言っていたと思うが、アイリーンが俺達の誰かと恋仲になれば、婚約者である『ハーリオン侯爵令嬢』が死ぬ。俺達全員を虜にしたら、恐らくハーリオン姉妹は……」
考えたくはないが、セドリックを説得するには一番の方法だった。自分が少し我慢してアイリーンを手元に置き、証拠を集めて罠にかければマリナが助かる。俺は、罠にかける、とは言うつもりはない。
「……分かった。あくまで監視するってことだよね」
「俺が様子を見る。ただし、俺一人では危険がある。コーノック先生の魔導具が発動せず、俺が『魅了』される可能性もあるだろう。お前やアレックスに傍にいてもらえると助かる」
「任せて!レイが『魅了』されたら、往復ビンタしてでも正気に戻してあげるよ」
にやり。
セドリック、お前、今邪悪な顔になったぞ。
「アレックスには言わないでくれ。あいつは素直すぎるから、あちこち筒抜けになる。魅了されたふりをしろと言ったところで、演技力は皆無だからな」
「レイは魅了されたふりをするの?」
「多少はな」
「アリッサに見られたらどうする?きっと傷つくと思うなあ。僕が魔法にかかった時、マリナだって泣いていたんだよ」
「悪いとは思っている。……アリッサに危険が及ばないように、しばらく距離を置くつもりだ」
セドリックは青い瞳を潤ませ、頭を左右に振った。
「……何てことだ」
「セドリック?」
「君はアリッサを心から大切に想っているとばかり思っていたよ。傷つけるような真似はしないって」
「ああ。アリッサを大切に想っているからこそ、俺は本気で幸せを掴みにいく」
潤んだ瞳を瞠り、セドリックは口をぽかんと開けた。

   ◆◆◆

眠そうに目を擦ったセドリックが部屋を出ていく。
まだ納得がいかないようだが、仕方があるまい。セドリックにはしばらくアイリーンの標的として俺の隣にいてもらうか。
足音が遠のき、しばらくして見計らったようにドアがノックされた。マーゴが応対に出る。
「レイモンド、夜分遅くに申し訳ありません。少し話せますか?」
隣室のハロルドが辺りに気を配りながら、人目を憚るようにして立っていた。

「ユーデピオレをご存知ですか」
テーブルに案内し、開口一番彼は俺に問いかけた。
「確か、種に解毒作用がある……」
「ええ。貴重な植物で、我が国から輸出が禁じられています。その非常に貴重な種が、ビルクール海運によって輸出されているそうなのです」
「ビルクール……ハーリオン家の貿易会社で?」
瞳を伏せて、ハロルドは唇を引き結び、静かに耐えるように頷いた。
「表向きは当家の関連会社が販売していることになっています。当家では一切関知していないのに、です。」
「何者かがハーリオン家の名を騙り、私腹を肥やしているということか」
「問題はそれだけではありません。売っているのは実はピオリの種なのです。解毒作用のあるユーデピオレだと信じて、何の効果もないピオリの種を服用したら、効果が出るのを待っている間に手遅れになってしまいます。命にかかわるのです」
震える手が、ハロルドの真剣な気持ちを代弁していた。

「アスタシフォンの港町ロディスで、ビルクール海運の社員が売られていた種を入手し、父へ届けたのです。私が調べたところ、種はピオリのもののようでしたので、本物のユーデピオレの種と見比べて確認しました。やはり、全く違うものでした。人々は本物のユーデピオレの種を見たことがないから、簡単に騙されたのでしょう」
「どこでそれを?」
「王宮です。研究のためと称して、特別に見せていただいたのです。赤ピオリの種とともに、厳重に保管されていました」
ハロルドは自由課題で植物の研究をしている。ハーリオン侯爵領にいた頃からの趣味らしい。
「赤ピオリ?それも解毒剤なのか?」
ピオリの花は白ではないのか。
「いいえ。劇薬で、かなり強い毒性を持ちます。赤い花が咲いた年のピオリの種を絞った油です。本によれば、油は微かに僅かに赤みを帯びる程度で、古くはよく食事に混ぜて暗殺に使われたとか」
「何者かが輸出している種に、赤ピオリは混入していないのか?我が国が毒を輸出しているとなれば、外交問題だぞ」
「分かりません。売られている種の産地も不明なのです。回収しようにも、販売先がどこなのか義父も掴みかねていて……」
毒薬で死者が出たとなれば、アスタシフォン王国は我が国を攻める大義名分ができる。大きくもないグランディア王国を得たところで、たいした利はなさそうだが。ハーリオン家の事業で戦争を招いたとなれば、親友であっても国王陛下はハーリオン侯爵を罰するだろう。我が父上もハーリオン家との縁組を考え直し、アリッサとの婚約は流れてしまうかもしれない。
「分かった。俺もできるだけ協力しよう。ハーリオン家が罰せられて零落れていくのは耐えられないからな」
「よろしくお願いしますね」
ハロルドは儚く笑った。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...