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第四章「総力戦」
総力戦②
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「ねえ、これ本当にこっち来ないの~?」
「ルティスが大丈夫って言うなら大丈夫なんです。あんまり情けない声を出さないでください。私にまで、あなたの不安が伝播します」
コノハが不安を吐露すると、彼女に抱きかかえられているシャンが皮肉で返した。
青黒い空の下、五人はラガン王国の大地を目指して飛んでいるところだった。
コノハが飛行の魔法でシャンを抱えて飛び、翼を持っているリンもオルハを抱えている状態なので、一行は丸腰なのも同然。
一方で、彼女らが向かっている先の空を埋め尽くしているのは、灰褐色の魔物の群れ。コノハが情けない声を漏らしてしまうのも、まあ、無理もない話。
「ほらほら、噂をしていたらなんとやらだよ。なんか、こっちに寄って来たんですけど~」
ややあって、魔物の一団が接近してくると、いよいよコノハの顔が青ざめる。
「いいから黙って魔法に集中してなさい、コノハ」
「だって~~」
二人のやり取りに小さく笑みを浮かべたのち、ルティスは「大丈夫ですよ」と言って隊列の先頭に進み出ると、左手の宝石を魔物の群れにかざした。
「退きなさい」
ルティスが威厳のある声で言うと、彼女まであと数メートルほどと迫っていた魔物の群れが一斉に動きを止め、道を開けるように左右に分かれた。
「あの魔物たちは、全て、王国を守るためだけに生成された存在。彼らはこの宝石を恐れ避けるように、プログラムされているのです。他の侵入者たちと、区別できるように」
「なるほど、ね。それでこいつらは、こうして道を空けたって訳か」
得心したように、リンが呟いた。
段々と、日が昇り始めた黎明の空。埋め尽くしていた魔物の群れが、ルティスの接近に呼応して左右に割れていく。それは、勇壮な景観にも見えるが、ルティスの胸中は複雑だった。
まるで、私が自然ならざる存在である事を肯定されているようね。まあ、それも事実なのだけれど。
やがて一行の眼前に、巨大な積乱雲の姿がはっきりと見えてくる。時折稲光が走る真っ暗な雲の隙間から覗くのは、天空に浮かぶ大地の姿。間近で目にするそれは、先日テッドが見せてくれた映像のイメージよりも、何倍も大きいように思えた。ほえー、とコノハが感嘆の声をもらす。
ルティスが近づいていくと、天空都市の周囲を厚く覆っていた雷雲も、雲の子を散らすようにかき消えていく。
あたかもそれは、王族の帰還を歓迎しているかのように。
ラガン王国の上空に差し掛かり、眼下に大地の緑が見えてきたその時、がくん、とコノハの体が下方に引っ張られる。
「え、なにこれ!?」
「ちょっと、だから集中を切らさないでと言ってるでしょう!?」
必死に体勢を整えようとするコノハをみて、ルティスが呟いた。
「忘れていました。ラガン王国の周辺には外部からの侵入を拒むため、魔法を遮断する結界が張られているんです」
「それをもっと早く言ってええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
叫び声をあげながら墜落していくコノハに続いて、ルティスの体も重力に引っ張られてがくん、と傾く。
「迂闊でした。ボク自身も、翼と魔法を併用して飛んでるってことを忘れてました」
「大丈夫か?」というリンの言葉にルティスが頷く。「最悪、ボクは翼で滑空ができるので平気です。けど、コノハたちはちょいと不味いです。急いで追いかけましょう」
「言われなくても!」
ルティスに続いてリンも急降下の体勢にはいった。
「ルティスが大丈夫って言うなら大丈夫なんです。あんまり情けない声を出さないでください。私にまで、あなたの不安が伝播します」
コノハが不安を吐露すると、彼女に抱きかかえられているシャンが皮肉で返した。
青黒い空の下、五人はラガン王国の大地を目指して飛んでいるところだった。
コノハが飛行の魔法でシャンを抱えて飛び、翼を持っているリンもオルハを抱えている状態なので、一行は丸腰なのも同然。
一方で、彼女らが向かっている先の空を埋め尽くしているのは、灰褐色の魔物の群れ。コノハが情けない声を漏らしてしまうのも、まあ、無理もない話。
「ほらほら、噂をしていたらなんとやらだよ。なんか、こっちに寄って来たんですけど~」
ややあって、魔物の一団が接近してくると、いよいよコノハの顔が青ざめる。
「いいから黙って魔法に集中してなさい、コノハ」
「だって~~」
二人のやり取りに小さく笑みを浮かべたのち、ルティスは「大丈夫ですよ」と言って隊列の先頭に進み出ると、左手の宝石を魔物の群れにかざした。
「退きなさい」
ルティスが威厳のある声で言うと、彼女まであと数メートルほどと迫っていた魔物の群れが一斉に動きを止め、道を開けるように左右に分かれた。
「あの魔物たちは、全て、王国を守るためだけに生成された存在。彼らはこの宝石を恐れ避けるように、プログラムされているのです。他の侵入者たちと、区別できるように」
「なるほど、ね。それでこいつらは、こうして道を空けたって訳か」
得心したように、リンが呟いた。
段々と、日が昇り始めた黎明の空。埋め尽くしていた魔物の群れが、ルティスの接近に呼応して左右に割れていく。それは、勇壮な景観にも見えるが、ルティスの胸中は複雑だった。
まるで、私が自然ならざる存在である事を肯定されているようね。まあ、それも事実なのだけれど。
やがて一行の眼前に、巨大な積乱雲の姿がはっきりと見えてくる。時折稲光が走る真っ暗な雲の隙間から覗くのは、天空に浮かぶ大地の姿。間近で目にするそれは、先日テッドが見せてくれた映像のイメージよりも、何倍も大きいように思えた。ほえー、とコノハが感嘆の声をもらす。
ルティスが近づいていくと、天空都市の周囲を厚く覆っていた雷雲も、雲の子を散らすようにかき消えていく。
あたかもそれは、王族の帰還を歓迎しているかのように。
ラガン王国の上空に差し掛かり、眼下に大地の緑が見えてきたその時、がくん、とコノハの体が下方に引っ張られる。
「え、なにこれ!?」
「ちょっと、だから集中を切らさないでと言ってるでしょう!?」
必死に体勢を整えようとするコノハをみて、ルティスが呟いた。
「忘れていました。ラガン王国の周辺には外部からの侵入を拒むため、魔法を遮断する結界が張られているんです」
「それをもっと早く言ってええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
叫び声をあげながら墜落していくコノハに続いて、ルティスの体も重力に引っ張られてがくん、と傾く。
「迂闊でした。ボク自身も、翼と魔法を併用して飛んでるってことを忘れてました」
「大丈夫か?」というリンの言葉にルティスが頷く。「最悪、ボクは翼で滑空ができるので平気です。けど、コノハたちはちょいと不味いです。急いで追いかけましょう」
「言われなくても!」
ルティスに続いてリンも急降下の体勢にはいった。
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