ハッピーメーカー

ベッドの上

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本章

憧れ

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 人並みに流され僕は電車から半ば強制的に降ろされた。途端に、肌にまとわりつくムシムシとした空気、鼓膜をつつく蝉の音、それに負けないくらいの人々の声の群れ。僕は人に押しのけられた憤りなんて忘れ、ただひたすらに、この空間を五感の全てで感じていた。
本当ははしゃぎ回ってみたい、でもそれはさすがに社会的にまずい、僕はバカみたいに
期待で飛び跳ね続ける心臓をなんとか落ち着かせ、天井からぶら下がる数多の文字の中から"改札"の2文字を探す。だが、中々見つからず僕はよたよたと歩きながらホームを歩き回っていた。
「あの、すみません」
突然肩をポンポンと叩かれ僕は体をびくりとはね上げ咄嗟に振り向いた。するとそこには制服姿の中年の駅員が一人立っていた。
「あぁ、すみませんね。この旅行カバンあなたのじゃないですか?」
駅員は黄色い旅行カバンを指さし僕の目を覗いた。そこにあったのは確かに僕の旅行カバンだった。
「あ、ありがとうございますっ」
ビクついたことと、興奮でカバンを引かずに歩き回っていたことに気がつき僕は恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
「いえいえ、お気をつけて」
駅員は小さくお辞儀をしてその場から去っていった。
「優しい人でよかった」僕は思ったことをそのまま言葉にし口から零した。その行為が許されるくらいに人の優しさに触れた気がしたんだ。僕はホームの放送の声で我に返り再び
改札を探し始めた。
何とか改札を見つけジーンズのポケットの中に入っていたやや折れ曲がった切符を取り出した。僕の住んでいる田舎と違い電車の本数も多く常に人がで入りを繰り返している。僕は少し緊張しながら改札機に切符を通し、少しぎこちない足取りで改札を抜け駅を出た。すると、人々の声はより大きな群れをつくり、視界だけでは収まりきらないほどの高さのビルが僕を見下ろしていた。
「わぁ、東京だ」
僕の声はきっと誰の耳にも届いていないだろう。それでもそんなことがどうでもよく思えてしまうほど、この街は動き続けていた。足早なサラリーマン、派手な服を着た大学生(?)、僕よりもいいものを食べていそうな小型犬、どれもが僕の視界の中ではどこかきらびやかでとても新鮮だった。僕はハッと思い出し握りしめた小さな箱を親指でつつき、叔父に電話をかける。
「おぉ、叶太。駅ついたか?」
スピーカー越しに聞こえる少ししゃがれた太い声は昔と何も変わっていなかった。
「今ついて駅の前にいるところ」
僕はあたりをキョロキョロと見回しながら周りの声にかき消されないよう叔父に居場所を伝えた。叔父はわかったと言い僕に迎えに行くべきかを聞いた。そりゃ場所わかんないんだから迎えに来てもらわないといけねえよ。
そんな愚痴めいた言葉を飲み込み迎えを頼もうとしたが僕はその言葉も口にせず、辺りをもう一度見回した。当たり前の事だけど行ったことのない場所ばかりだった。子どもじみた好奇心が僕の心臓の鼓動をやけに早くしてくる。
「少し寄り道しながら行くよ」
叔父はそうかと言って僕に家の住所のメモを取らせ電話を切った。僕はiPhoneのメモに教えてもらった住所を残し、そのままポケットに突っ込んで広い道路を挟み向かい側に建つビルをゆっくりと見上げていった。ビルの窓は昼の太陽を浴び鋭く反射し、思わず目を細めてしまう程に輝いていた。僕はゆっくりと息を吸い込んだ。多分、おいしい空気ではないんだと思う。空気の味なんてわからないけど。でも、実家の田舎の空気と違って重たくて濁っている気がしたが、なぜだかそれさえもぼくの心を踊らせた。僕はそのあと東京中を歩き回った。大きな川沿いの舗装された道、ビルとビルの間のやけに広い歩道、少し怪しげな雰囲気の閉まった店の並ぶ通り、そして、危なささえ感じられる路地裏。駅前の賑わった広場。気がつくと空は茜に染まっていた。昼とは違った街の顔はさらに僕を高揚させた。その時僕のポケットの中の何かが振動した。右手をポケットに入れ中にあるものを出すと液晶には叔父からそろそろ一度家に来いとのメッセージが表示されていた。僕はメモに合った住所をマップアプリの検索欄に入力し叔父の家の経路を調べた。画面には現在地から徒歩で17分と表示されており、ルートを表す青いガイドは僕が後方に続いていた。
「さっき来た方じゃん」
大して驚いた訳でもないが口に出してみた。そのくらい僕は高揚していた。僕は道のりの表示されている画面とにらめっこしながら叔父の家を目指した。傾いた太陽の光は至る所で反射しキラキラと光っており、さっき通った道でも全然違う場所、大袈裟に言うなら違う世界に迷い込んだような気分にさせた。
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