つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

文字の大きさ
95 / 128
さぁ、はじめようか

93

しおりを挟む
「はぁ~~~~」

 何度目のため息だろう。

「リディア様、そろそろご準備を…」

 イザークが目の前に現れる。

「はぁ~~~~~」
「何度溜息をついたとて、状況は変わりません」
「はぁ~~~~、解ってるわ、でも、行きたくない」

 この前、想定外のダントツトップで総合1位になってしまった事で落ち込んでいるのに。

(なんでこんなに立て続けに試験をするのよ!)

 まだその傷が癒えてないうちに次の試験当日となった。

「もう時間がございません」
「行きたくない」

 少し困り果てた表情をするイザークの微妙な心情を察知すると余計に拗ねてしまう。

「…そんな期待しても、絶対失敗して見せるわよ?」
「っ‥‥」

 リディアの落ち込みとは真逆にイザークの瞳に微かな希望の光を宿しているのに気づいていた。

(イザークは私にここに居て欲しいモノね、だから当然ね…)

 後2つ勝てば聖女が私に決まってしまう。
 今回のでもし、ダントツとなるような事になったら加算点が加わり、聖女になってしまう。

(聖女になってしまったら、監視も強まり注目を浴び過ぎて逃亡には不利…)

「想定外の事が起こらなければ、ですね」
「あなたも言うようになったわね」
「あなた様に鍛えられましたから」
「それはそれで少しうれしく思ってしまうから複雑だわ」
「ふふ…、さ、行きましょう」

 背に手を当て、私の手を取り誘導するイザークに従い、ため息交じりに立ち上がる。

「はぁ~~~、やっぱり行きたくない」
「なら、抱き上げて連れて参りましょうか?」
「それは恥ずかしいから嫌」
「では参りましょう」

 私の扱いにすっかり慣れたイザークに負け、もう一度盛大にため息を零すと、仕方なく部屋を後にした。







 レティシアの登場に試験会場が沸く。

「レティシア様~!頑張って下さい!」
「リディアをやっつけて下さいまし!」

 試験には参加しなくていいはずの聖女候補生達や、貴族から教団側まで色んな人々が観戦に訪れ会場には人だかりが出来ていた。
 たくさんの声援の中、一瞬立ち止まる。

「‥‥これは」

 レティシアが会場入りして目を見張る。 

「一体…、これはどういう事?」
「‥‥私にも解りません、確かにアナベル妃殿下にお聞きしたのは『調合魔法』だと…」

 どう見てもここは『調合魔法』を使うような会場ではない。
 『戦闘用』に使う会場だ。
 試験がかなり早まり焦ったが、流石お母さま、母アナベルがロドリゴ教皇に情報をちゃんと聞き出してくれていた。
 アナベルは過去の試験を全て検証し全てにすぐに対応できるように準備を整えていた。お陰で調合魔法に用いる素晴らしい素材も既に用意されていて、それを持参し隠し持っていた。
 これでリディアに完全に勝てるという算段だった。
 なのに―――

「偽の情報をつかまされた…ということね」
「その様ですね」

(恐れ多くも教皇に偽を掴ますなど…できそうなのはあの枢機卿か…)

 オーレリーを思い浮かべ手にした扇子を握りしめる。
 手を打っていないわけではなかった。
 枢機卿もこちらに引き込もうと色々手練手管を行使した。
 だが、最後まで落とす事は出来なかった。
 
(あの阿呆な豚が一応教皇だと思って甘く見過ぎていましたわ…)

 教皇は教団のトップだ。
 その教皇が母アナベルにベッタリだ。
 枢機卿より上である教皇がこちらについていれば問題ないかと思っていた。
 現に、今までの試験は教皇の横流し情報で悠々と上位をキープできていた。
 フェリシーは優秀だったため食らいついてきたのは計算外だったが、前回の試験より前までは何も問題はなかった。

(油断したわ…、あの枢機卿何としてでも落としておくべきでしたわ)

 本来の聖職者らしい中立を保とうとするオーレリー枢機卿。
 フェリシーの時も王妃の娘という配慮は一切なかった。
 どちらも聖女候補生として同等に扱われた。
 自分の軸を持ち、揺さぶられない人間は厄介だ。
 会場がまたざわめく。

(この女も、また厄介な人間…)

 あの魔物執事と共にリディアも会場に姿を現した。
 そんなリディアを睨み見る。

(後々もっと厄介になる、今のうちに排除しておかないと…)





 一方、リディアの方も会場を見渡し冷や汗を背中に流していた。

「ねぇ…、これって戦闘用の会場よね?」
「はい」
「という事は、バトルとか?」
「可能性はあるかと」
「ちょっとどうしよう?」
「‥‥」

 魔法が使えないリディアにとって、レティシアとのバトルは瀕死に値する。
 部屋を出るときと打って変わってイザークの表情も険しい。

「もしもの時は、必ずお守りします」
「でもここで黒魔法使うのは厳しいわよ?」

 これだけのギャラリーが居ては、黒魔法使ってないという体はもう通用しない。
 だがレティシア相手だ。普通の魔法威力程度で太刀打ちできるとは思えない。

「覚悟はできております」
「私は覚悟できてない」

(どうしよう?)

 イザークは私の身の危機となったらきっと黒魔法使ってしまうだろう。
 そうなれば、アナベルに確実にイザークは殺されてしまう。
 黒魔法と紅い眼、もう魔物をうやむやにして逃れることは不可能だ。
 しかもここはアナベル派ばかりのギャラリーな上、これだけの沢山の人の前で黒魔法を使ってしまえば、いくらジークヴァルトやサディアスは頭が切れると言っても流石にどうしようもないだろう。
 下手すりゃ、そのままジークヴァルトが連れて来た執事という事でジークヴァルトまで罪を押し付けてくるかもしれない。
 ジークヴァルトの母と同様、反逆罪を煽れば、母の前科があるために皆簡単に信じ込むことは容易に想像できる。

(光魔法以外が使えたらなぁ…)

 光魔法の攻撃技は対魔物に有効だ。人間には意味がない。
 せいぜい光で目をくらます程度だ。

(武術とか体術も習得しておけばよかったわ…)

 そこはリオやイザークが居るから大丈夫かと頭になかった。
 どんなに考えても一つも策が思いつかない。
 そんなリディアの耳に歓声が届く。

「アナベル様だわ!」
「ジークヴァルト殿下まで!サディアス軍師様と一緒だわ!」

 バッと観客席を見る。
 そこにはアナベル一行とジークヴァルト一行の姿があった。

(マズいわ…マズ過ぎる…アナベルまで来るなんて…)

 厳しい表情でその一行を見上げた。





「こりゃちとマズいな…」
「情報では『調合魔法』と聞いておりましたが…」

 ジークヴァルト達も会場を見て険しい表情を作る。
 ちらりと見たアナベルも扇子をギリギリと握りしめていた。

「あっちも偽を掴まされたか」
「枢機卿の仕業ですね」
「あの男しかありえん」
「ですね」

 アナベルの情報は間違いなくロドリゴ教皇だろう。

「教皇に、アナベル、そして我らまで騙すとは…なかなかに曲者」

 扇子を口元にサディアスが会場を睨み見る。

「しかしよりによって『戦闘』とは…あの男何を考えているのか…」
「あの男も彼女を聖女にしたがっていると思ったが…」

 バトルとなったら魔法が使えないリディアは不利だ。
 後のないレティシアは最初から全力で容赦なく攻撃魔法を繰り広げるだろう。
 体術も何もしていないだろう身のこなしのリディアにそれを避けることは不可能。

「ただのバトルとは考えない方がいいのかもしれません」
「ん?」
「前回の『量』と言い、あの男には何か算段がある、どうやら我々よりも彼女の力に詳しい…と考えれば」
「『戦闘』にしたのは彼女が勝つ算段があると…」

 サディアスが頷く。

「教皇やアナベル、そして私達までも偽を掴ませ騙すような男です、ただの『戦闘』ではないかもしれません」
「ふむ、確かに…」
「それに、彼女を今まで保護してきた、そんな男がみすみす目の前で死ぬやもしれないようなことをするでしょうか?」
「‥‥となると」

 ジークヴァルトが口元に手をやる。

「今回の試験でやはりあの男、リディアを聖女にするつもりか」

 会場に佇む険しい表情のリディアを見下ろす。
 その時、会場が一気に湧いた。
 オーレリー枢機卿の登場だ。

「これは見物だな」
「こんな時まであなたは面白がってどうするのです」
「面白いものは面白い、仕方なかろう」
「私は到底、そういう心境になれそうにもありませんが」
「もしもの時は、止めに入ればい―――――!」

 瞬間。
 会場の観客席の前に大きな頑丈な柵が出来る。

「これは一体…」

 観客がざわめく。

「これではもしもの時に助けに行くことも…」
「チッ、ご丁寧に魔法も遮断するようになっていやがる」

 さっきまで余裕だったジークヴァルトも少し表情が強張る。

「あの男、一体何を考えて‥‥」

 二人の目は静かに佇むオーレリー枢機卿を睨み見る。

「会場の中にはこれでは誰も入る事はできません」
「誰も手出しはできないように仕組んでいたか」
「ここまで周到に…、ですが逆を言えばアナベル派も手を出せません」
「だが不利なのはリディアだ、くそっ、これでは守れん」
「‥‥」

 二人の目が会場に向く。

「リディア‥‥」

 イザークが離れ、レティシアと二人だけ取り残され不安気に佇むリディアを心配そうに見下ろした。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※2025年2月中旬にアルファポリス様より第四巻が刊行予定です  2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です 2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...