ヴォルチヤ・パーラ〜非処女厨の馬に執着されてます〜

みらい

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八話、会えない名

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 河は赤に染まっていた。
 討伐の証拠を持ち帰らねばならない。
 魔石とドラゴンの角を切り取る。
 ――これでいい。

「心臓を一突きか。流石俺様のご主人様」

 することがなく、主人の行動を見ていた馬。
 採取したことがわかると途端近寄る。

 そして、すりすりと顔を寄せた。
 ――珍しく、らしくない行動。

(私の迷いがわかっているのだな……)

 今日は良い飯を与えてやろうと誓った。
 それに、もし故郷に戻るのなら――。
 彼を置いていくことになる。
 それもまた、迷いであった。



 一度自宅の小屋に戻り、クロを置いた。
 手入れしてやってから、一人で協会へ向かう。
 なんとなく、クロと共に行く気持ちが乗らなかった。
 何故と馬に問われたが、「買い出しがある」と言い添えた。

 実際は違う。
 一人になりたかった。
 一人で考えたかった。
 想い人を探したかった。

 ――分かりやすいウソ。

 既に陽が沈みかけていた。
 賑わい始めるギルドの隣の酒場。
 誰とも飲む気にもならない。
 それでも、顔は一人一人見た。

 しかし――。
 違う。
 銀の髪で。綺麗なひと。
 優しく、包容力があった。
 ちょうど、試乗式の一年前だった。
 出会ったひと。
 綺麗な泉で。人には秘密の逢瀬。
 何度暖かさを感じたか。
 あの暖かさはもう望めないのだろうか。

「――……はあ」

 協会で手早く済ませ、馬係に毎度世話になっているので包みを渡す。

 手続きの間。
 ほぼ上の空。

 泉でヴォルコフは自身のすべてを明け渡した。
 向こうも与えてくれた。
 全てがキラキラしていた。

 世界が灰色になってしまったのは、そのあと。
 試乗式の後。
 その人はもう泉には現れなかった。
 どこかで心の拠り所が欲しかった。

 その人の名前は、リュカオン。
 それだけははっきり覚えている。
 名前も。
 姿もわかるのに――。

「……」

 ハッとして、荷物を改める。
 なにも盗まれていないし、ちゃんと依頼は達成済みになっている。

(流石にぼーっとしすぎたな……)


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