君に、炎を捧ぐⅢ〜偽りの剣と、真実の愛〜

みらい

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五十五話、炎、夢を焼く

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 灰色と金の雲が絡まって、地に降るはずの光が、逆巻く炎と雷に焼かれていく。
 その空を割って、私たちは降り立った。
 胸を打つ音。
 悲鳴のような雄たけびが聞こえた。

「……やっときたか」
「兄上――!」

 地に膝をついた殿下。

 アッシュ様が駆け寄った。
 その妹の姿に顔を歪ませる。
 恐らく救出できたことに感涙しそうなのだろう。
 私は後方で頷いた。
 彼は薄っすらと笑った。

 半ば焼け焦げた肩の鎧が剥がれ、所々朱が混じっていた。
 それでも雷の槍は手放さず、四散した首の残骸を見下ろしていた。

 ヴァルセリアス様でもここまでなんて……。
 あの首――ラザリさんか。

 時折雷を落とし、向こうの部隊へ攻撃がいかないようにしていた。

 ……あれは。

「帝国軍だ。支援しに来てくれて、助かったのだよ。帝王もまだまだ折れておらぬな」

 叔父様が呼んだのかな?

 どちらにしろ心強い。
 置き土産が多すぎる。
 でも、もうありがとうも伝えられない。
 そう思っていると、アッシュ様が現状を聞いていた。

「兄上、ヤツは……?」
「七つの竜は三つまで減らしたが、その後は意識を取り戻してな。しかも回復するようでな……一人では中々歯が立たぬ」
「あとは任せて」

 そう伝えて、アッシュ様は私を見た。
 言葉は交わさずとも、視線だけで通じた。
 私と彼女の炎が、世界の色を塗り替えていく。

 地鳴りがした。
 三本の首が、再び空を睨んでいた。
 八岐の巨蛇――ラザリ。
 元は人であった者が、力を貪り、愛を語り、歪みを積み上げた“竜の成れの果て”。

「……君たちの“正義”で、私の夢を終わらせるつもりか?」
「正義なんて、数多く存在するというのに」
「私の夢もまた正義だ」

 虚しく声が響き渡った。

「夢? それがこの惨状か」
「違う。“完全な支配”。君たちには分からない。愛し方も、信じ方も、加護も。間違っていたのは世界の方だ」

 アッシュ様が剣を構える。
 私も黒焱の剣を出す。
 蒼黒い炎は案外馴染む。

「……なら、正しさを教えてあげる。イグニスの吐き出した焔として」

 金色の炎が、足元から立ち上がった。
 まるで彼女の意志が形になったように、柔らかく光り輝いていた。
 神々しくて眩しい。
 横に立てるのが嬉しくて。

「セレスタ。それぞれ先に一本ずつ、いきましょうか」
「わかりました、アッシュ様」

 黒炎が、私を包み込む。
 その焰は猛りながらも、内側に熱を孕んでいた。
 そして、後方から来るのは “炎の鳥”。
 アッシュ様の選別。

 ――それなら。

 私もアッシュ様に私の青い炎――強化の炎を捧げた。
 これで、一緒ではなくとも感じられる。

 ――空へ向かって飛翔した。

「これで……あなたの呪いごと、燃やします――!」

 殿下が言っていた、回復……以前のリリエルやリデルのようなものだろうか。

 少し厄介だけど。
 前みたいに燃やし尽くしてしまおう。
 素早く一対の首の元へと空を駆ける。
 以前よりももっと早く。

 一本の首が紫焰に包まれ、空中で黒の炎となって爆ぜた。

 そして、その後で炎の鳥たちが竜に向かって衝突していく。

 黒く、紅く燃え上がった。
 輪郭さえも見えないまま、それらは元からなかったかのように消滅した。
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