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五十五話、炎、夢を焼く
しおりを挟む灰色と金の雲が絡まって、地に降るはずの光が、逆巻く炎と雷に焼かれていく。
その空を割って、私たちは降り立った。
胸を打つ音。
悲鳴のような雄たけびが聞こえた。
「……やっときたか」
「兄上――!」
地に膝をついた殿下。
アッシュ様が駆け寄った。
その妹の姿に顔を歪ませる。
恐らく救出できたことに感涙しそうなのだろう。
私は後方で頷いた。
彼は薄っすらと笑った。
半ば焼け焦げた肩の鎧が剥がれ、所々朱が混じっていた。
それでも雷の槍は手放さず、四散した首の残骸を見下ろしていた。
ヴァルセリアス様でもここまでなんて……。
あの首――ラザリさんか。
時折雷を落とし、向こうの部隊へ攻撃がいかないようにしていた。
……あれは。
「帝国軍だ。支援しに来てくれて、助かったのだよ。帝王もまだまだ折れておらぬな」
叔父様が呼んだのかな?
どちらにしろ心強い。
置き土産が多すぎる。
でも、もうありがとうも伝えられない。
そう思っていると、アッシュ様が現状を聞いていた。
「兄上、ヤツは……?」
「七つの竜は三つまで減らしたが、その後は意識を取り戻してな。しかも回復するようでな……一人では中々歯が立たぬ」
「あとは任せて」
そう伝えて、アッシュ様は私を見た。
言葉は交わさずとも、視線だけで通じた。
私と彼女の炎が、世界の色を塗り替えていく。
地鳴りがした。
三本の首が、再び空を睨んでいた。
八岐の巨蛇――ラザリ。
元は人であった者が、力を貪り、愛を語り、歪みを積み上げた“竜の成れの果て”。
「……君たちの“正義”で、私の夢を終わらせるつもりか?」
「正義なんて、数多く存在するというのに」
「私の夢もまた正義だ」
虚しく声が響き渡った。
「夢? それがこの惨状か」
「違う。“完全な支配”。君たちには分からない。愛し方も、信じ方も、加護も。間違っていたのは世界の方だ」
アッシュ様が剣を構える。
私も黒焱の剣を出す。
蒼黒い炎は案外馴染む。
「……なら、正しさを教えてあげる。イグニスの吐き出した焔として」
金色の炎が、足元から立ち上がった。
まるで彼女の意志が形になったように、柔らかく光り輝いていた。
神々しくて眩しい。
横に立てるのが嬉しくて。
「セレスタ。それぞれ先に一本ずつ、いきましょうか」
「わかりました、アッシュ様」
黒炎が、私を包み込む。
その焰は猛りながらも、内側に熱を孕んでいた。
そして、後方から来るのは “炎の鳥”。
アッシュ様の選別。
――それなら。
私もアッシュ様に私の青い炎――強化の炎を捧げた。
これで、一緒ではなくとも感じられる。
――空へ向かって飛翔した。
「これで……あなたの呪いごと、燃やします――!」
殿下が言っていた、回復……以前のリリエルやリデルのようなものだろうか。
少し厄介だけど。
前みたいに燃やし尽くしてしまおう。
素早く一対の首の元へと空を駆ける。
以前よりももっと早く。
一本の首が紫焰に包まれ、空中で黒の炎となって爆ぜた。
そして、その後で炎の鳥たちが竜に向かって衝突していく。
黒く、紅く燃え上がった。
輪郭さえも見えないまま、それらは元からなかったかのように消滅した。
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