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二
しおりを挟む部屋に入ってから、まゆりは手を擦り合わせ、羽織を着る。
中はフロントとしているカウンター。
目の前に客席がある。
座りながらまゆりの店じまいを眺める男。
街の偉い人の息子。権力を振り翳すことはない。ちょくちょく来てはまゆりの手伝いをしてくれる。
祭りの主催者で昔からずっとこの地域にいる一族。
まゆりがこの街にちょうど来た時と同時期。風の国に査収された時も。白い山脈からの寒波で道が塞がった時も。
一族はこの土地を守っていたらしい。
祭りに行けなかったまゆりのために話してくれていた。
まゆりも仕事をしながら聞いていた。
その間もちょろちょろ動くまゆりを目で追う。
「今年の夏は異常だな。祭りの神も祝ってるってことなのかなあ」
「そうね……」
言いながら、彼は今日の仕事のご褒美のご飯をかっこんでいる。
もごもごと声が聞こえる。
急いで食べなくとも、誰も取らないのにとまゆりは苦笑する。
5人程度しか泊まれない小さな宿。
外から来てそのフロントの見た目は昔ながらの小さな小さな飲食店。
宿泊客のご飯をここでいただいてもらうため。……なのだが近くにギルドがあること。
鉱山で働いている人たち、顔見知りがまゆりちゃんのご飯はおいしいから、と昼ごはんを食べにくる客が多い。多すぎて、まゆりの手に負えない時もあった。
ここまで懇意にしてくれる人が多いのは、小さいながらも創設は百年以上なることと、今は亡き義両親が営んでいたから。
一人だが、こうして地盤を鳴らしてくれていたこと、周りも一人じゃ大変だとたまに手伝ってくれている。
今日もそうだ。
まゆりも寂しくはなかった。
本当に感謝しているのだ。
民宿を営んでいるのも、ある意味恩返し。
「本当寒い」
「うん。まあ僕も陽が落ちる前に退散しようかな。打ち上げもあるし……ギルドも新しい装置来てるんだった! お邪魔したね。ご馳走様」
「お疲れさま」
今日は随分ゆっくりしていた。
……何か待っていたのだろうか。
あっさり帰ったし大したことでもないのだろう。
完全に日が落ちる前に忘れず空調を変えることにした。
カウンター近くの倉庫から真紅の宝石を取り出す。
空調としている機器に元々あった水晶を取り除く。代わりに紅玉《ルビー》を嵌め込む。
途端に暖かくなっていく室内。
温もり感じ、無意識に強張っていた体が弛緩していく。
魔法の力の籠った宝石たち。
赤は炎を、暖かさを。青は水や冷たさを。
多種多様なそれらは、それぞれの属性の恩恵を提供してくれる。
ほっとしてこわばった肩を下ろす。
発掘して開発した先達たちに感謝する。温もりを感じながら、フロント近くのテーブル席に座った。
魔力が込められた宝石は魔物を倒して得られるものだ。最近では宝石生成用の魔物の畜産が行われている。回復をしてくれるという宝石は発見されていない。
便利になったものだと取った水晶を転がす。
この宝石だけは長持ちしている。
唯一のまゆりの私物。拾い物だけれど大切にしているというだけなのだが。
玉が一瞬光ったように見えた。
使えば光るけれど見間違いかとまゆりは思った。
……多分疲れているからだろう。
一度休もうと立ち上がった瞬間。
店の扉がガラリと鳴って開いた。
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