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襲撃、そして誘拐
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「そう言えばガヌートさんはブラドさん達と、どういう関係なんですか?」
「あん? そりゃあれだ、なんせブラド・ヴァルフレンといや俺たちの業界じゃガーラ・ビッグゲートと並んで超有名人だからな。俺の憧れだ。それと俺がここに来たときに色々世話になってな、それ以降酒場によく行くようになったって訳だ」
「へぇー」
「そういえばカイン、お前不思議と魔力を感じねえがどうなってんだ? やっぱり英雄ガーラの真似して魔力を外に出さないようにしてるとかか? それなら止めとけよ、ぜってえ身体に悪いから」
カインはそれに対して曖昧な笑いで答えた。
「後ライラさんと何時も横にいてるネイちゃんて子とはどういう関係で?」
「ライラは小さい頃酒場に来る客で俺が一番年が近かったから色々面倒見てたんだよ。色々あって口が悪くなっちまったが良い奴なんだ、どうもお前のことは嫌ってないみたいだし仲良くしてやってくれ」
「なんだかお兄さんみたいですね?」
「まあ小さい頃から見てるからな、あながち間違っちゃいねえ」
ガヌートがその凶悪そうな顔から想像出来ないほど優しい笑みを浮かべる。
「それとネイだが……、あいつはよく分かんねえ」
「よく分からないとは?」
「何て言うかな、こう言っちゃ何だが感情が無いように見えるんだ。あの子は赤ん坊の時くらいから面倒見てるから多少は俺にも声をかけてくれるが、それ以外の奴らに話しかけることは殆どねえ。ブラドさんとライラくらいじゃねえかな、懐いてるの。後は爺どもに少しは懐いてるかな? それ以外は何とも思ってねえ目をたまにしてるんだ」
カインが思ったことをガヌートも思っているようだ。
その後二人が取り留めの無い事を話し酒場まであと少しというところで、ガヌートの身体が急に強ばった。
と同時にカインは鳥肌が立つのを感じた。
酒場の方角から今まで感じたことの無い嫌な魔力を感じる。
見てみればガヌートの剥き出しの腕も鳥肌が立っている。
当然のことだ。今まで他人の魔力に余り接したことの無いカインですら禍々しいと思うような魔力。
カインに比べ遥かに経験豊富なガヌートが感じた不安は如何ばかりか計り知ることは出来ない。
直感的に途轍もない危険を内包するかのような魔力を前に二人の脚は固まったように止まってしまう。
だがカインの脳裏にライラのことが浮かび上がる。
「ガヌートさん、行きましょう! ライラさんに何かあったかもしれない!」
「お、おう!」
その言葉に我を取り戻したガヌートと共にカインは震える脚を無理矢理動かし、二人は酒場まで走り出した。
悲惨な光景にカインは息をのむ。横で同じようにガヌートが喉を鳴らす音が聞こえた。
酒場の一階部分の壁が所々砕け散り砂煙が舞っている。
二人より少し前に来たのだろうか、憲兵達の怒声が辺りに響いていた。
ガヌートが憲兵に迫り、うなり声のような声で尋ねる。
「おい、何があった?」
「うおっ、なんだガヌートか。悪いが俺たちも今来たばかりで何が何だか分からねえんだ」
「ライラは無事か? 中に誰かいたのか?」
「客共は酷い有様だが死んじゃあいない。ライラってのはあの黒髪の娘か? いや見てないな」
ライラを見てないという憲兵の言葉にカインとガヌートの表情が凍り付く。
何か言っている憲兵を放って二人は助けられた客達がいるところに向かった。
店内にいたと思われる客は少し離れたところで横になっていた。
酷い有様だ。人間・亜人関係なく血まみれの人々が、10人近く呻きながら横になっている。
四肢が変な方向に向いていないものは1人もおらず、中には骨が見えている者までいる。治療する者が未だ来ておらず、処置らしき処置もされていない。
カインはその惨状を前に胃からせり上がってくるものをどうにか堪えた。
「おい、何があった! ライラはどこだ?」
横になっている人の中でまだ顔色の良い青年にガヌートが尋ねる。
「お、おお、ガヌートか。悪い、何が起こったのかさっぱり分からねえ。見たことも無い二人組が来てライラちゃんに近寄っていったと思ったら、こんな事になってやがった……」
そう言って男は苦しげに顔を歪める。
ガヌートがまるで泣きそうな顔をしていると、息も絶え絶えと言った様子の中年の男が口を開く。
「ライラちゃんはその二人組に連れて行かれちまったよ……」
「何だって!」
ガヌートが怒鳴るかのように聞き返す。
「ガヌート、悪いことは言わねえ。ブラドさんが来るまで待ってろ、あれはお前がどうこう出来るような奴じゃあねえ。化けもんだ。それよりあいつらが立ち去る時に何か手紙のような物を置いていったからそれを探してブラドさんに渡せ、頼んだぞ」
そう言って初老の男は最早息をするのも苦しいといった様子で目を閉じた。
ガヌートの強く握られた拳からは爪が食い込んだのか血が流れ、顔は最早獣のように怒りに歪んでいる。
バッとガヌートがカインの方に振り向く。
「聞いたかカイン。とにかくブラドさんが来るまでにそいつ等が置いてったっていうブツを探すぞ、着いてこい!」
「は、はい!」
二人が酒場に入ろうとすると憲兵が止めてきたが、ガヌートの知り合いなのか少し話すとあっさりと中へ入れてくれた。
中も悲惨な有様だ。椅子も机もどれも壊れ、至る所が捲り上がった床は客達の血と酒で酷い匂いを発している。
未だ砂煙が舞っている中二人が探していると、どうにか形を保っているカウンターの上に、手紙が置いてあるのカインがを見つけた。
「ブラドさん、有りました! 多分これです」
「おお! 本当か、でかした!」
「それでガヌートさん、どうします? 僕たちで何か出来そうな事ありますか?」
カインが聞くとガヌートは難しい顔で押し黙る。
そしてゆっくりと話し始めた。
「カイン、幻滅させるかもしれねえが、あのおっさんが言った通りブラドさんを待った方が良いと思う。見てくれよ、この鳥肌」
そう言ってガヌートがカインに腕を見せると未だに鳥肌が立っている。
「さっきお前も感じただろ、あの嫌な魔力を。あれから鳥肌が収まらねえ。正直お前が走り出してなかったら、俺はまだあそこで突っ立ったままだったかもしれねえ。それ程までにあのとき感じた魔力が怖かったんだ……」
そう言うガヌートの身体はよく見れば小刻みに震えている。
「それにあれほど異質な魔力、絶対にブラドさんだって気づいてるはずだ。だから…………ここで待っておこう」
「分かりました」
カインはガヌートの言うことに素直に従うことにした。
なにせブラドがカインの事を任せるほどなのだから信頼はあるのだろう。
英雄と言われた男が信頼する位なのだから、ライラに馬鹿と呼ばれているがそれなりに腕は立つはず。
そんな男が弱気な言葉を出してしまう程なのだから、余程危ない相手なのだろうと考えるとカインは従うほか無かった。
どれほど経ったか。実際の所は数分しか経っていなかったかもしれないが、カインにとっては非常に長い時間が流れたかのように思えた。
突然場の空気が変わる。辺りが火に包まれたかのように熱くなるのをカインは感じた。
先ほどの魔力のような嫌な感じはしない。
だが人間誰しも途方も無く巨大な物や力を感じれば萎縮してしまう。カインも今、まさにその状況であった。
嫌な感じはしない、それは間違いないのだ。
だがゆっくりと近づいてくる魔力を前にカインは凄まじい圧迫感を感じていた。
横にいるガヌートも酒場の周りにいる憲兵達も、何より先ほどまで死にそうだった怪我人達も顔を引きつらせて一点を見ていた。
そして現れる、英雄と呼ばれた男が。
燃えるような真っ赤な魔力を滾らせ、炎を纏うかの様に。
「あん? そりゃあれだ、なんせブラド・ヴァルフレンといや俺たちの業界じゃガーラ・ビッグゲートと並んで超有名人だからな。俺の憧れだ。それと俺がここに来たときに色々世話になってな、それ以降酒場によく行くようになったって訳だ」
「へぇー」
「そういえばカイン、お前不思議と魔力を感じねえがどうなってんだ? やっぱり英雄ガーラの真似して魔力を外に出さないようにしてるとかか? それなら止めとけよ、ぜってえ身体に悪いから」
カインはそれに対して曖昧な笑いで答えた。
「後ライラさんと何時も横にいてるネイちゃんて子とはどういう関係で?」
「ライラは小さい頃酒場に来る客で俺が一番年が近かったから色々面倒見てたんだよ。色々あって口が悪くなっちまったが良い奴なんだ、どうもお前のことは嫌ってないみたいだし仲良くしてやってくれ」
「なんだかお兄さんみたいですね?」
「まあ小さい頃から見てるからな、あながち間違っちゃいねえ」
ガヌートがその凶悪そうな顔から想像出来ないほど優しい笑みを浮かべる。
「それとネイだが……、あいつはよく分かんねえ」
「よく分からないとは?」
「何て言うかな、こう言っちゃ何だが感情が無いように見えるんだ。あの子は赤ん坊の時くらいから面倒見てるから多少は俺にも声をかけてくれるが、それ以外の奴らに話しかけることは殆どねえ。ブラドさんとライラくらいじゃねえかな、懐いてるの。後は爺どもに少しは懐いてるかな? それ以外は何とも思ってねえ目をたまにしてるんだ」
カインが思ったことをガヌートも思っているようだ。
その後二人が取り留めの無い事を話し酒場まであと少しというところで、ガヌートの身体が急に強ばった。
と同時にカインは鳥肌が立つのを感じた。
酒場の方角から今まで感じたことの無い嫌な魔力を感じる。
見てみればガヌートの剥き出しの腕も鳥肌が立っている。
当然のことだ。今まで他人の魔力に余り接したことの無いカインですら禍々しいと思うような魔力。
カインに比べ遥かに経験豊富なガヌートが感じた不安は如何ばかりか計り知ることは出来ない。
直感的に途轍もない危険を内包するかのような魔力を前に二人の脚は固まったように止まってしまう。
だがカインの脳裏にライラのことが浮かび上がる。
「ガヌートさん、行きましょう! ライラさんに何かあったかもしれない!」
「お、おう!」
その言葉に我を取り戻したガヌートと共にカインは震える脚を無理矢理動かし、二人は酒場まで走り出した。
悲惨な光景にカインは息をのむ。横で同じようにガヌートが喉を鳴らす音が聞こえた。
酒場の一階部分の壁が所々砕け散り砂煙が舞っている。
二人より少し前に来たのだろうか、憲兵達の怒声が辺りに響いていた。
ガヌートが憲兵に迫り、うなり声のような声で尋ねる。
「おい、何があった?」
「うおっ、なんだガヌートか。悪いが俺たちも今来たばかりで何が何だか分からねえんだ」
「ライラは無事か? 中に誰かいたのか?」
「客共は酷い有様だが死んじゃあいない。ライラってのはあの黒髪の娘か? いや見てないな」
ライラを見てないという憲兵の言葉にカインとガヌートの表情が凍り付く。
何か言っている憲兵を放って二人は助けられた客達がいるところに向かった。
店内にいたと思われる客は少し離れたところで横になっていた。
酷い有様だ。人間・亜人関係なく血まみれの人々が、10人近く呻きながら横になっている。
四肢が変な方向に向いていないものは1人もおらず、中には骨が見えている者までいる。治療する者が未だ来ておらず、処置らしき処置もされていない。
カインはその惨状を前に胃からせり上がってくるものをどうにか堪えた。
「おい、何があった! ライラはどこだ?」
横になっている人の中でまだ顔色の良い青年にガヌートが尋ねる。
「お、おお、ガヌートか。悪い、何が起こったのかさっぱり分からねえ。見たことも無い二人組が来てライラちゃんに近寄っていったと思ったら、こんな事になってやがった……」
そう言って男は苦しげに顔を歪める。
ガヌートがまるで泣きそうな顔をしていると、息も絶え絶えと言った様子の中年の男が口を開く。
「ライラちゃんはその二人組に連れて行かれちまったよ……」
「何だって!」
ガヌートが怒鳴るかのように聞き返す。
「ガヌート、悪いことは言わねえ。ブラドさんが来るまで待ってろ、あれはお前がどうこう出来るような奴じゃあねえ。化けもんだ。それよりあいつらが立ち去る時に何か手紙のような物を置いていったからそれを探してブラドさんに渡せ、頼んだぞ」
そう言って初老の男は最早息をするのも苦しいといった様子で目を閉じた。
ガヌートの強く握られた拳からは爪が食い込んだのか血が流れ、顔は最早獣のように怒りに歪んでいる。
バッとガヌートがカインの方に振り向く。
「聞いたかカイン。とにかくブラドさんが来るまでにそいつ等が置いてったっていうブツを探すぞ、着いてこい!」
「は、はい!」
二人が酒場に入ろうとすると憲兵が止めてきたが、ガヌートの知り合いなのか少し話すとあっさりと中へ入れてくれた。
中も悲惨な有様だ。椅子も机もどれも壊れ、至る所が捲り上がった床は客達の血と酒で酷い匂いを発している。
未だ砂煙が舞っている中二人が探していると、どうにか形を保っているカウンターの上に、手紙が置いてあるのカインがを見つけた。
「ブラドさん、有りました! 多分これです」
「おお! 本当か、でかした!」
「それでガヌートさん、どうします? 僕たちで何か出来そうな事ありますか?」
カインが聞くとガヌートは難しい顔で押し黙る。
そしてゆっくりと話し始めた。
「カイン、幻滅させるかもしれねえが、あのおっさんが言った通りブラドさんを待った方が良いと思う。見てくれよ、この鳥肌」
そう言ってガヌートがカインに腕を見せると未だに鳥肌が立っている。
「さっきお前も感じただろ、あの嫌な魔力を。あれから鳥肌が収まらねえ。正直お前が走り出してなかったら、俺はまだあそこで突っ立ったままだったかもしれねえ。それ程までにあのとき感じた魔力が怖かったんだ……」
そう言うガヌートの身体はよく見れば小刻みに震えている。
「それにあれほど異質な魔力、絶対にブラドさんだって気づいてるはずだ。だから…………ここで待っておこう」
「分かりました」
カインはガヌートの言うことに素直に従うことにした。
なにせブラドがカインの事を任せるほどなのだから信頼はあるのだろう。
英雄と言われた男が信頼する位なのだから、ライラに馬鹿と呼ばれているがそれなりに腕は立つはず。
そんな男が弱気な言葉を出してしまう程なのだから、余程危ない相手なのだろうと考えるとカインは従うほか無かった。
どれほど経ったか。実際の所は数分しか経っていなかったかもしれないが、カインにとっては非常に長い時間が流れたかのように思えた。
突然場の空気が変わる。辺りが火に包まれたかのように熱くなるのをカインは感じた。
先ほどの魔力のような嫌な感じはしない。
だが人間誰しも途方も無く巨大な物や力を感じれば萎縮してしまう。カインも今、まさにその状況であった。
嫌な感じはしない、それは間違いないのだ。
だがゆっくりと近づいてくる魔力を前にカインは凄まじい圧迫感を感じていた。
横にいるガヌートも酒場の周りにいる憲兵達も、何より先ほどまで死にそうだった怪我人達も顔を引きつらせて一点を見ていた。
そして現れる、英雄と呼ばれた男が。
燃えるような真っ赤な魔力を滾らせ、炎を纏うかの様に。
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